ICANOF沖縄展リポート

ICANOF沖縄展リポート

高沢利栄

雨のチビチリガマ(沖縄県読谷村の洞穴)は静かだった。ガマの入り口では写真家比嘉豊光氏が一言も発することなく、こちらを見おろしている。十五日間の沖縄滞在中、見えない緊張の膜は少し距離をおいて、体の周囲三十センチをぐるりと取り巻いていた。

八戸を拠点にしたアートボランティアICANOF(イカノフ)が始動して六年目の昨年、私たちは一年にわたる連続写真展を企画した。

まずは二〇〇五年十二月に始まった「絵はがき計画」。おおよそ週に一度、国内外の個人に向けて八戸から写真絵はがきが届けられる。それも、「料金別納」スタンプではなく、切手つき消印つきで。この絵はがき作戦は、一年以上を経た〇七年一月現在も継続中である。いつまで続くのか、いつになったらやめられるのか、既に五十枚目が配信された。つまりは、有名無名の写真家や市民による「写真」が五十枚以上集積したのである。

そして同時に、昨年四月と五月に新宿、七月に八戸、そして沖縄(十一月二十三日—十二月三日)で、計四回にわたって「TELOMERIC(テロメリック)展」を開催した。ここでは沖縄展について紹介したい。

那覇の中心部に位置する前島アートセンター(MAC)は、すさまじい仕事ぶりを発揮しているアートNPOである。そのギャラリーとビルの屋上で、写真展は開催された。

岩田雅一の三百枚以上に及ぶ「六ヶ所」のドキュメントは、沖縄の人々に、沖縄以外にある「オキナワ」を突きつけた。そのことは青森県に住む私たち自身が実は何も知らずに暮らしていることをも突きつける。佐々木遊による「テロメとリア」の紙芝居には、特にMACを学童保育所のようにして集まってくる子どもたちが反応した。

半田晴子の黒い写真。花田悟美の触る写真。米内安芸の奇妙なモノクロの、不安げな宙づりの写真。佐々木邦吉の踊る身体を鋭くとらえた写真など。沖縄展の主調テーマは「写真と身体」であった。モレキュラーシアターの苫米地真弓・田島千征らによるダンス、映像作家佐藤英和によるICANOFドキュメンテーション、そして四回のトーク。

なぜ八戸から沖縄なのか。

観光と戦争と基地によって「見られる沖縄」。果たしてそうなのか。沖縄の地にたった数日足を運び、八戸に戻ると、気づかずにいたいくつものことが浮かび上がる。

写真もダンスもトークも、見えざるをことをどうやってか、微(かす)かにでも見ようとする試みなのではないか。八戸と沖縄を行き来する道、そこにはいくつもの通路があり、見えない膜が取り巻いている。辿(たど)り着くべきは、その道の途上にいつも在ることなのだろう。(ICANOF事務局長、モレキュラーシアター代表)

(初出:「東奥日報」/2007年1月31日)