季節の反対側へ
季節の反対側へ
豊島重之
ふと逆立ち ざわめき橋
淋しい目よ 道化よ そこから何が視える
トマトと腐敗と人いきれ
地図と記憶と夕まぐれ
振り向きざま ゆらめき坂
長い影よ 道化よ そこでは何が聴える
寝息と蛇口と立ち話し
拍手と握手と飛行場
風の対流の中で 僕達は独りだ
夢の逆流の中で 僕は僕達だ
僕達は時代の向こう岸へ
季節の反対側へ駆けおりてゆこう
いつも僕の前を往く
僕の道化よ どけよ
今 岬から身を投げた
この世の道化よ 夜よ
間に合ったか おまえの溺死体に
海の色よりも深い微笑みは
哀しみは記憶だ 記憶の舟底に
ひとつの命の行き倒れがある
この夏を この夜を越えてゆけそうにない
拾いあげた言葉が
土くれとなって飛び散り
放りなげた小石が
たちまち街を往き交う
振りかざした手も行き場を失なって
遠い町の窓のそばに落ちている
ああ 食卓も終りに近く
ああ 行先も決められぬまま
僕達は時代の向こう岸へ
季節の反対側へ駆けおりてゆこう
ああ 食卓も終わりに近く
ああ 行先も決められぬまま
採録者註:
この「季節の反対側へ」は、1970年代末に豊島重之氏が作詞・作曲して、 LPにも収録された作品。1980年5月の「続々・恋迷路変」による「海抜へのへのもへじ=砂漠のフーガ」の中では、パンキッシュに歌われた。
(初出「TATA」Vol.3/1983)