5.哲学うらない

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哲学うらない

1.サイズ(タテ×ヨコ)215×140㎜

2.ページ

 総数:104

 広告: 4

 序言: 4

 目録:〔1〕

 本文: 95

3.刊行年月日

 底本:初版 明治34年12月29日

4.句読点 あり

(巻頭)

5.その他『妖怪叢書』第1編として発行。

6.発行所

 哲学館

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序  言

 余は、今日民間に行わるる種々の卜筮、方位等は、古人の妄想より起こりたる上に、後人が愚民を誑惑するために、往々不稽の妄語を付会したるものなれば、明治の世界にかかる筮法、相術を用うるは、実に昭代の汚点、国民の恥辱なりと信じ、これを一撃の下に退治し尽くさんと努めたるも、いまだその功を奏するに至らず。しかして退きて考うるに、余が退治のその功を奏せざるは、文明の進歩、人知の程度なお低きによるを知る。ここにおいて、余は今日の人知に相応せる筮法、相術を案出して、もって従来の卜筮、方位に代用せんと欲し、論理学の方式より換骨奪胎して、一種の新筮法を構成せり。これを名づけて「哲学うらない」、あるいは「改良筮法」または「卜筮新法」と名づく。

 およそ、人の事に当たりて疑いを起こし惑いを生じ、自ら決心断行することあたわざるは、思想のいまだまったからず、論理のいまだ明らかならざるによる。かくのごとき場合には、運を天に決する方法を取るよりほかなきも、これを従来のごとく易筮、亀卜、五行、干支等に考うるは、愚の至りというべし。むしろ論理の方式に考えて、運命の向背を定むるは、学術世界に相当せる筮法と称すべきなり。なんとなれば、論理の不明より生じたる疑惑は、必ず論理の形式によりて天に訴うべき道理なるによる。これ、余が論理学の論式にもとづきて、筮法を案出したるゆえんなり。

 人、もしこの「新筮法」を通覧するときには、自然に論理学の骨子を知了するを得べし。ゆえに、これを論理学入門と称するも可なり。すでにこれによりて論理学の一斑を知れば、進んでその学の全豹を知らんと欲し、さらに進んで哲学の全体を知らんと欲するに至るべし。諺に、

  牛に引かれて善光寺参り

とあるがごとく、この論法に引かれて、自然に哲学の都城に進入するものなしというべからず。されば、人をして他日必ず、

  筮に引かれて哲学参り

と唱えしむるに至ることあるべし。果たしてここに至らば、余が本望を達したるものなり。ゆえに、世の識者がこれを見ていかなる笑評を加うるも、余があえて辞せざるところなり。

 この「筮法」を読みて論理学を知らんと欲するものは、必ず論理書につきて講究すべし。その書の、現今民間に行わるるもの数種あり。いずれにつきて講究するも可なり。よろしく書林の目録につきて検すべし。もし、初学にして本書の解し難き場合には、哲学館発行の『通俗哲学講義録』を一覧するも可なり。この『講義録』中には、塚原〔政次〕学士の「論理学講義」を通俗に和解して、初学の自修に備えたるものあり。

 余はさきに『妖怪学講義』を講述し、後に『妖怪学雑誌』を編集し、ともにすでに世に行われしが、これよりさらに『妖怪叢書』を著して、以上両書の補闕となさんとす。今、この「筮法」をもって叢書第一編と定む。その第二編は『天狗論』と題し、近日脱稿をまちて上梓すべし。ここに一言を添えて、そのことを予告するものなり。

  明治三十四年十二月 著 者 誌  

哲学うらない

第一段 筮 論

 余が先年妖怪学を講述し、その中に、「今日世間に伝わる卜筮、人相、家相等は、みな古人の妄想より出でて、今日の学理に合せず、陳腐を極め、考うるに足らず、これに代うるに哲学的占法、学術的相法をもってせざるべからず」と公言したれば、その後諸方より、哲学的占法につき余の考案を聞きたしとて、書簡を寄せらるる向きあり。余もひとたび己の愚見を発表したき心得なりしも、なにぶん多用に取り紛れ、今日までそのままに打ち捨て置きしが、近ごろひまを得てその腹案を編述し、もって広く世間に告白することとなれり。

 人相、家相は別問題として、ここにこれを除き、易筮、亀卜、御鬮のごとき種々の占法を見るに、その魁たるものは易筮なり。ゆえに、易筮にして陳腐なるを知らば、ほかの諸術の考うるに足らざるはむろんのことなるべし。それ、易はシナ哲学の本源にして、その宇宙の玄理、万化の妙用を説くに当たりては、西洋哲学も三舎を避くるほどの勢いなり。されど、これを卜筮に応用して人事の吉凶禍福を予定するに至りては、古代の妄想と断ずるよりほかなし。ゆえに余は、易理を賛すると同時に卜筮を排するものなり。

 古来、和漢の学者が易を崇拝するのあまり、神人感通を信じ、一般に卜筮を許すに至りたれども、今日なおかかる迷信に恋々たるは、識者の笑いを免れず。されどまた、卜筮の人生に必要なる場合なきにあらざれば、これを全廃するも不可ならんか。その必要とはなんぞや。曰く、「人が事を処し理を判ずるに当たりては、疑懼こもごもに至り、猶予自ら決するあたわざることあり。いかなる豪傑にても往々判断に苦しみ、なにほどの学者にてもときどき疑惑を起こす場合すくなからず。かくのごとき場合には、運を天に決する必要あり。これ、世に卜筮の起こるゆえんにして、またその用あるゆえんなり」と。

 易の書たるや、もと天運の理を明らかにし、人事の変を示したるものなれば、人の判断に迷い取捨に苦しむ場合には、自然に易卦の上に可否を考うるに至り、聖賢もこれをもって天下を治むる要具となせしに相違なかるべし。これまた、易筮の今日に伝わるゆえんなり。ゆえに易筮の用は、人の疑いを解き、惑いを決するにほかならず。換言すれば、運を天に決するものなり。しかして、これによりて未来の吉凶禍福を談ずるがごときは、けだし、易の本意にあらざるべし。

 運を天に決する法は、必ずしも易筮に限るにあらず、亀卜にても可なり、御鬮にても可なり。もっと簡便なるものにては、銅貨を投げて表裏の出ずるを見、あるいは箸を立てて、その倒るる方を見て卜するも可なり。されど、あまり簡易なる法もしくは由来の正しからざるものにては、信仰の念起こらず、したがって決心を定むること難きの不便あり。ゆえに、易のごときシナ哲学の玄妙を極め、かつ聖賢の称賛せるものにつきて、運命を判ずるに至りたるなり。

 易はシナ哲学としては上乗に位し、その中に説くところ、実に宇宙の秘訣を開示せる点すくなからずといえども、今日、西洋学のかくまで隆んなるに当たりては、疑いを解き理を判ずるに、易筮よりはなお一層勝りたるものなきにあらず。そは、すなわち西洋哲学の中において求めざるべからず。これ、余が先年より哲学的占法を工夫せるゆえんなり。かくして数月を経る間に、一つの新案を考出するに至れり。これを名づけて「哲学的筮法」または「哲学うらない」という。これに比するに、易筮のごときは陳腐にして、かつ、今日に適せざること自ら知るべし。

 哲学は易と異なりて、もっぱら精神思想の原理および作用を研究する学なり。ゆえに、古来これを解して思想の学という。そのうち主として思想論理の作用を指示するもの、これを論理学という。すなわち、人の思想および論理は、すべて論理学にて指定せる規則によらざるはなし。しかして、人の理に迷い、事に惑うは、全く論理に暗く思想の定まらざるによる。ゆえに、疑いを解き惑いを弁ずるには、論理学の規則に考うるをもって最も適当なる方法となす。

 およそ世の開明文化は、知識の進歩に出でざるはなし。しかして、知識の進歩は論理の発達なり。論理いよいよ明らかなれば、理として知れざるはなく、事として弁ぜざるなきのみならず、器械の工夫、工芸の発達に至るまで、みなその応用の結果ならざるはなし。学問、教育の目的も、要するに人の論理力を開発、養成するに帰す。ゆえに、文明世界を名づけて論理世界と称するも可なり。古人は論理に暗きがゆえに種々の妄想をえがき、疑惑を起こし、今人は論理に明らかなるをもって、妄想、疑惑の度を減ずるに至れり。されど、なお多少の疑惑を有するは、今日の進歩上やむをえざることなれば、論理の方式をかりてその可否を判定するは、実に今日の学術世界に相応せる一大方便なりと信ず。

 論理の方式に論式と名づくるものあり。論式とは推論の方式を義とし、論理作用の規則をいう。この論式に正あり不正ありて、その正を可とし、その不正を否とす。これ、なお易筮の吉凶におけるがごとし。ゆえに余は、この正不正によりて、事の可否、利害を判ぜんと欲す。もし、論式の本意よりいえば、かくのごとき筮法に当てはむべきものにあらざるも、己の力にて到底惑いを解き疑いを決することあたわざる場合には、これを易筮に考うるよりも、論式に考うる方、大いに道理あることと信ず。ゆえに余は、この筮法をもって論理の本意といわずして方便というなり。

 人、あるいはこれを難じていわん、「論理のいわゆる論式は形式のみ。既定の論理をこの形式に当てはめ、その是非正邪を判ずるもののみ。しかるに、これを筮法に用うるは、ただに論理の本意にあらざるのみならず、全く方角違いの沙汰なり」と。余、これに答えていわん、「易は天地万物の変化するゆえんを説きたるもののみ。しかるに、これを筮法に用いて未来の吉凶を判ずるは、易の本意にあらざるのみならず、全く方角違いの沙汰なり」と。かかる方角違いのもの、なお世にいれられ人に信ぜらるるはなんぞや。けだし、今日の進歩、人知いまだまったからず、論理いまだ明らかざるをもって、人、往々疑惑を抱き、取捨に苦しむことあればなり。かかる場合には、運を天に決するの必要より筮法の世に行わるるものとせば、これを易法に訴うるよりも論式に考えて決する方、比較上、正当ならんと信ずるなり。ゆえにその要は、ただ運を天に決するの一方便とするのみ。

 運を天に決するは、今日の進歩上、および人生の状態上、万やむをえざることなれども、一時の筮法によりて一国、一家、一身の、未然における吉凶禍福を予定するがごときは、大いにいわれなきことなり。世間、これによりてきたすところの弊害、また必ず多からん。これ、易筮の世に害あるゆえんなり。ゆえに、その害を除かんと欲し、哲学的筮法を案出し、その用はただ人の百方工夫の末、到底、己の力にて決断取捨しあたわざる場合に備うるもののみ。余、かつてこれを聞く。盲人は道の両岐に分かるるに会し、その右すべきか左すべきか明らかならざる場合には、己の所持せる杖を投げ、その向かうところに行路を定むという。杖の用はもと道を指示するためにあらざるも、万やむをえざる場合には、これによりて行路を判ずるもまた一方便なり。ゆえに、余が論式を筮法に用うるは、盲人の杖におけるがごときのみ。決して、これによりて一国、一家、一身の、未然における天幸、天災を予知するがごとき妄用をなすの意にあらざるなり。

 論理学は諸学の根底となれる学問なれば、人文、人知の進歩に伴いて最も急要なる学科なり。古来、東洋の学術の進まざりしは、この学に暗きがゆえなりと断言しても不可なからん。これに反して西洋の駸々たるは、論理応用の結果と解して可なり。ゆえに、わが国もその人の業務のいかんを問わず、いやしくも中等以上の教育を受くるものは、論理の講究をゆるがせにすべからず。しかるに、論理は学び難くしてかつ記憶し難きは、学生の通患とするところなり。ゆえに、もし論理の一端を筮法に応用し、平常疑いを決し惑いを解くごとに、いちいち論式を考定するに至らば、論理講究の一助となるは必然なり。これを易筮のなんらの実用なきに比すれば、そのまさること万々なりと知るべし。

 されば、論式を筮法に用うるは一挙両得の策にして、古来凡百の占法に比するに、利ありて害なきものなること明瞭なり。ゆえに余は、この筮法をもって文明世界に相当せる改良筮法といわんとす。しかれども、人これを濫用するの恐れあれば、あらかじめ、その筮法に関する注意と心得とを挙げて示すべし。

一、事を処し物を断ずるに当たり、疑惑内に生じ猶予外に起こり、己の力にて取捨決行することあたわざる場合に限り、この法につきて可否を考定すべし。

一、この法は、運を天に決する代わりに論式に訴うるものなれば、天に対する心得にて誠心誠意をもって考定するを要す。

一、この法は、一時目前の疑いを解き惑いを決し、取捨を定め去就を判ずるにとどめ、決してこれによりて未来永遠の吉凶禍福を予言するがごとき、妄想、迷信の具となすべからず。

一、この法は、一事に対し一回考定すれば足れりとす。再三考定するは、かえって疑惑を増すの恐れあれば戒むべし。

 この筮法によりて可否を考定せんと欲するものは、必ず右の心得を守るべし。

 

第二段 筮 目

 論理学のいわゆる論式は三個の命題より成り、命題は二個の名辞より成る。余はこれを筮法に応用するに当たり、その名称を改めて名辞を筮根と呼び、命題を筮案と呼び、論式を筮式と呼ぶ。

 筮根二個相合して筮案を成すに、上位にある筮根を上根と名づけ、下位にある筮根を下根と名づく。これを論理学にては主辞、賓辞と名づくるなり。

 筮案三個相合して筮式を成すに、第一位にあるものを初案と称し、第二位にあるものを中案と称し、第三位にあるものを終案と称す。あるいはまた、第一位、第二位を提案と称し、第三位を断案と称す。しかして、第一位の提案を前提(大提案)といい、第二位の提案を後提(小提案)という。すなわち、前提は初案に同じく、後提は中案に同じく、断案は終案に同じきなり。しかして、この提案、断案の名称は、論理学にて用うるところによる。

 前提、後提の二案は、必ずその間に連絡するところなかるべからず。ゆえに、両案の筮根のうち、一個は必ず前後に通ずるを要す。すなわち、前提の上根と後提の上根もしくは下根と同一なるか、または前提の下根と後提の上根もしくは下根と同一なるかを要するなり。かくして、一筮根の前後二案に通ずる必要あるより、両提案の筮根は四個にあらずして、三個にて足ることと知るべし。この二案に通じたる筮根を中根と名づけ、前提に特殊なる筮根を前根と名づけ、後提に特殊なる筮根を後根と名づく。すなわち、前根、中根、後根の三個をもって、両提案を成すを知るべし。この三根を論理学にて、大名辞、中名辞、小名辞と名づくるなり。

 断案は両提案を結合して成るものなれば、その上下両根は提案の前根、後根によりて成る。ゆえに、三個の筮案を分解すれば、三個の筮根より成るを見るべし。

 また、筮根に広狭二種あることを知らざるべからず。広根とは、筮根の意義全体を表顕する場合をいい、狭根とは、その意義の一部分を表顕する場合をいう。その説明は論理学に譲りてこれを略す。

 つぎに、筮案に太量、少量、陽性、陰性の四種あることを知らざるべからず。太量筮案とは、筮案の上根の広根なる場合をいい、少量筮案とは、これに反して狭根なる場合をいう。また陽性筮案とは、上根と下根との連絡を正面より表顕する場合をいい、陰性筮案とは、反面より表顕する場合をいう。その説明も論理学に譲る。

 ここに筮案の種類を挙示すること、左のごとし。

筮案 太量 少量 性 陽性 陰性

 かくして、一筮案の太量にして陽性なるものを太陽筮案と名づけ、太量にして陰性なるものを太陰筮案と名づけ、少量にして陽性なるものを少陽筮案と名づけ、少量にして陰性なるものを少陰筮案と名づく。この四種は、筮式を考定するに最も必要なるものなれば、さらにこれを開示すべし。

筮案四種 一、太陽 二、太陰 三、少陽 四、少陰

 もし、数字をもって表するときは、一数を太陽の符号とし、二数を太陰の符号とし、三数を少陽の符号とし、四数を少陰の符号とすることを記すべし。

 この四種の各筮案につき筮根の広狭を異にすることは、後に参照を要する場合あるべきをもって、ここに表出すること、左のごとし。

筮 根 筮 案 上   根 下   根

一、太 陽 広狭 二、太 陰 広広

三、少 陽 狭狭

四、少 陰 狭広

 すなわち、太陽筮案にありては、上位は広根にして下位は狭根なり。太陰筮案にありては、上下両位とも広根なり。少陰筮案にありては、上下両位とも狭根なり。少陰筮根にありては、上位は狭根にして下位は広根なり。ゆえに、上下両根の広狭いかんによりて、筮案の何種たるを判知すべし。これ、論理学の定むるところに従うなり。

 

第三段 筮 則

 筮式は初、中、終三筮案、すなわち前後両提案と断案との三案より成ることは、前すでに述べたるがごとし。この両提案と断案との関係を考定して、可否の判断を下すを「哲学うらない」と名づくるなり。これを考定するに当たり、筮因、筮縁、筮果、筮変、筮通等の名目あれども、その説明は後に譲り、ここに「哲学うらない」に要するところの規則を挙示すべし。これを筮則という。

 筮則は論理学の規則にもとづきて定めたるものにして、その諸則を列挙すれば左のごとし。これを論理学にては論式の規則と名づく。

第一条 各筮式は必ず三筮根(前中後)を有すべく、また三筮根に限るべし。

第二条 各筮式は必ず三筮案(初中終)を有すべく、また三筮案に限るべし。

第三条 中根は少なくとも一度は広根なるを要す。

第四条 提案において狭根なるものを、断案において広根ならしむるは不可なり。

第五条 両提案ともに陰性筮案なる場合には、なんらの断案をも案出することあたわず。

第六条 一提案陰性たらば、断案は必ず陰性たるを要す。

第七条 両提案ともに陽性たらば、断案は必ず陽性たるを要す。

第八条 両提案ともに少量なる場合には、なんらの断案をも案出することあたわず。

第九条 一提案少量ならば、断案は必ず少量なるを要す。

 筮式の可否は、必ずこの規則に考えて決するものとす。もし、その各条の説明は論理学に譲りてこれを略す。

 この筮則のほかに心得べき要目は、筮式の上に筮形と筮体との二種あることなり。筮形とは論理学のいわゆる図式と名づくるものにして、両提案中の中根の位置を定むる方式をいう。この形に四様あり。これを第一形、第二形、第三形、第四形と名づく。第一形は、中根が前提の上位と後提の下位とにある場合をいい、第二形は、中根が前提の下位と後提の下位とにある場合をいい、第三形は、中根が前提の上位と後提の上位とにある場合をいい、第四形は、中根が前提の下位と後提の上位とにある場合をいう。今、これを左に表示すべし。ただし、その表中、前は前根を表し、後は後根を表し、中は中根を表するなり。しかして、筮式は前根、中根、後根の三筮根より成り、前提は前根、中根の二者より成り、後提は後根、中根の二者より成り、断案は前根、後根の二者より成ることは、前に述ぶるところに照らして知るべし。

   一、中根が前提の上位と後提の下位とにある場合。

第一形 中 前(前提) 後 中(後提) 後 前(断案)

   二、中根が両提案の下位にある場合。

第二形 前 中(前提) 後 中(後提) 後 前(断案)

   三、中根が両提案の上位にある場合。

第三形 中 前(前提) 中 後(後提) 後 前(断案)

   四、中根が前提の下位と後提の上位とにある場合。

第四形 前 中(前提) 中 後(後提) 後 前(断案)

 かくして、筮式を考定するには必ず筮形を定めて、中根の位置いずれにある〔か〕を明らかにするを要するなり。つぎに筮体とは、筮式を構成せる各筮案の性と量とを定むるをいう。性に陰陽の二種あり、量に太少の二種あることは、前に述ぶるところによりて知るべし。

 筮形に筮体を当てはむる場合に、中根および前後両根の、あるいは広根となり、あるいは狭根となることあり。例えば、第一形の前提に太陽筮案を当てはむれば、中根は広根となり、前根は狭根となる。もし、これに少陽筮案を当てはむれば、前根、中根とも狭根となる。しかるに論理学にありては、筮形の何種たるを問わず、一筮式において二個の中根のうち、少なくも一個は広根なるを要する規則あり。また提案において、前根なり後根なり、いずれにても狭根なりしものを、断案にきたりて広根ならしむるは、論理学の禁ずるところなり。これによりて、筮則第三条、第四条の生ずるゆえんを知るべし。

 かくして筮式を考定するには、第一に筮形を定め、第二に筮体を定め、第三に九条の筮則に考えて可否を定むるなり。しかして、これを筮法に応用するに当たりては、さらにその筮式の上につきて、筮因、筮縁、筮果の関係および変通を考定するを要す。そのつまびらかなるは、後に筮式、筮変、筮用を説明するときに譲る。

 

第四段 筮 法

 筮法に本、略二種を分かち、本筮法はいちいち筮根を考えて筮案を作り、もって筮式を定むる方法をいい、略筮法は筮根を見ずして、ただちに筮案を作り、もって筮式を定むる方法をいう。

 筮根、筮案を作るには、碁石を用うるを便なりとす(筮竹または碁石に類したるものを用うるも可なり)。これを仮に筮石と名づく。その数およそ七、八十個の筮石を、片手をもって無意偶然に握り取り、その数を算して、前に述ぶるところの筮形および筮体を定むるなり。

 まず、筮形を定むる法は、筮石を一握して、これを四個ずつにかぞえ、その残数一個なるときは第一形と定め、二個なるときは第二形と定め、三個なるときは第三形と定め、残数全くなきときは第四形と定むるなり。この法は、本、略両筮法に通ず。

 つぎに、筮体を定むる法は、本筮法と略筮法と同じからず。まず本筮法においては、筮石をもって筮根を作り、筮根に考えて筮案を定むるなり。その法は筮石を一握し、これを二個ずつにかぞえ、その残数をもって筮根の数と定む。かくのごとくすること、第一回より四回に及ぶ。第一回の残数は前提の上根の数とし、第二回の残数はその下根の数とし、第三回の残数は後提の上根の数とし、第四回の残数はその下根の数とするなり。今、仮にその残数を、順次に二と一と、一と二とに定むれば、左のごとくなるべし。

  二―一(前提)

  一―二(後提)

 ここにおいて、各提案の筮根の数を、筮案の量と性とに配合せざるべからず。すなわち、両提案の上根の数をもって量を定め、下根の数をもって性を定むるなり。しかして、量の方は少量を一とし、太量を二とし、性の方は陽性を一とし、陰性を二とす。ゆえに、前表の前提(二―一)は太陽筮案に当たり、後提(一―二)は少陰筮案に当たるを知るべし。左にその配合表を掲ぐ。

二・・一 太陽筮案    二・・二 太陰筮案

一・・一 少陽筮案    一・・二・・少陰筮案

 この表に照らして筮案の種類を定むべし。かくして両提案すでに定むれば、これを筮形に考えて断案を作ることを得るなり。

 つぎに、略筮法において筮体を定むるには、まず筮石を一握し、これを四個ずつにかぞえ、残数一ならば太陽筮案とし、二ならば太陰筮案とし、三ならば少陽筮案とし、もし残数全くなきときは、その数を四と見て、これを少陰筮案とするなり。

 かくして、はじめに前提を定め、つぎに後提を定め、すでに両提案を考定したる後に断案を案出し、初めて筮式を成すなり。しかるに、両提案の状態により、断案を結成し得ざることあり。かくのごとき場合には、不完なる筮式を成す。ゆえに、これを不正式と名づく。これに対して、完全なる筮式を正式と名づく。この正式、不正式の組織法および断案案出法は、後に筮式を詳述するときに説明すべし。また、正式に筮通式あり、不正式に筮変式あることも、後に筮変、筮用を挙示するときに譲る。

 前述の本筮法は事の重大なるときに用い、略筮法は重大ならざるときに用うるを常法とす。ゆえに、普通の場合には略筮法にて足るものと心得べし。

 

第五段 筮 器

 およそ筮法を行うに要するところの器具あり。これを筮器と名づく。その器に三種あり。筮机、筮石、筮木なり。筮机は筮石、筮木をその上に置き、かつ、これに対して筮法を行うものなり。これ、別に一定せる机を用うるに及ばず、よろしく普通の机を用うべし。筮石は前に指示せるごとく、碁石もしくはこれに類するものを用い、その数五十個以上百個までをよしとす。筮木のことは前にいまだ述べざるところなれば、ここにその用法を説明せざるべからず。

 前段の筮法につきて断案を案出し、筮式を構成するには、筮木をもって筮根、筮案の数を表記する必要あり。筮木には大、中、小の三種を分かち、大五個、中三個、小四個、都合十二個あるを要す。その形は柱形にして、易筮に用うる算木のごとし。大、中、小三柱ともに、その幅八分角にして、大柱の方は長さ三寸二分、中柱の方は長さ二寸四分、小柱の方は長さ一寸六分とす。

 大柱は筮案を表記するために用うるものにして、総計五個あるを要し、そのうちの四個は各前面に、

   ㊀一太陽筮案

 背面に

   ㊁二太陰筮案

 右面に

   ㊂三少陽筮案

 左面に

   ㊃四少陰筮案

と記入し、はじめに前提を考定して太陰筮案㊁を得れば、一個の筮木を取りて、その背面を示しおくべし。つぎに、後提を考定して少陽筮案㊂を得れば、さらに一個の筮木を取りて、その右面を示しおくべし。つぎに、前後両提案より断案を案出して少陰筮案㊃を得れば、さらに一個の筮木を取りて、その左面を示しおくべし。なお、余りたる一個は筮変、筮通の場合にその用あり。また、別に残りたる一個は四面ともに文字を記入せずして、不正式の断案を欠きたる場合に用うるなり。中柱はその数三個あるを要す。その第一は筮形の数を表記するために用うるものなれば、その各面へ横に第一形、第二形、第三形、第四形と記入し、筮形を算定して例えば二の数を得れば、第二形の面を出しおくべし。

 筮形は最初に定むるものなれば、その筮木を首位に置き、その下に順次に筮案を表示せる筮木を置き、もって筮式の形体を完成するものとす。余、前掲の例を筮形に加えて示すこと、左のごとし。

 中柱の第二は筮変を表記するために用うるものなれば、その各面へ横に陽変陰、陰変陽、少変太、太変少と記入し、筮変ある場合にはこの柱を大柱の下に置き、その筮変に相当せる面を示すべし。

 中柱の第三は筮通を表記するために用うるものなれば、その各面へ横に陽通陰、陰通陽、少通太、太通少と記入し、筮通ある場合にはこの柱を大柱の下に置き、その筮通に相当せる面を示すべし。

 前図の筮式は量の変通によりて筮通を有するものなれば、少通太の面をもって表示せざるべからず。その図、

右のごとし。

 小柱は本案法を行うに当たり、前後両提案の筮根の数を表記するために用うるものなれば、総数四個あるを要し、その各個の各面に、

と記入しおくべし。例えば、本筮法において提案を定むるに、筮石を算して第一回に残数二を得れば、一個の小柱を取りて 二、太の面を出しおき、第二回にまた残数二を得れば、さらに一個の小柱を取りて 二、陰の面を出しおくべし。これを合して前提とす。すなわち、その式の前提は太陰筮案と定むるなり。第三回には残数一を得れば、別に一個の小柱を取りて 一、少の面を出しおき、第四回にまた残数一を得れば、さらに一個の小柱を取りて 一、陽の面を出しおくべし。これを合して後提とす。すなわち、その式の後提は少陽筮案と定むるなり。かくして前後両提案を考定すれば、小柱を除き去り、その代わりに大柱を取りて、これに相当せる面を出しおくべし。その図、左のごとし。

 しかして、各提案の筮根を定むるに、はじめに太少の量を定め、後に陰陽の性を定むることは、前にすでに指示せるところなり。

 この小柱は本筮法を行うに用ありて、略筮法を行うに用なきも、筮変式および筮通式に本変両式を対照して表記せんとするときには、小柱を用いざるべからず。その用法を前掲の筮通式に配合して示すこと、左のごとし。

 もし、筮変式の場合における一例を示さば、例えば、第一形の下にて前提は太陽筮案、後提は少陰筮案にして、断案を欠きたるものが、筮変によりて後提は少陽筮案となり、断案もまた少陽筮案となりたる場合には、筮木の配置、左表のごとくなるべし。

 すべて筮法を行うには、以上のごとき筮木を備うるを要するも、もし筮木なき場合には、紙筆をもっていちいちその上に記入するも可なり。かくして、筮法を行わんとするものは必ず筮机に向かい、その上の右方に筮石を置き、左方に筮木を置き、右手にて無意偶然に筮石を一握し、その手を額にあて、閉眼黙思して、天に対し神に向かうがごとく、身心ともに恭敬の儀容を示し、慎重の態度を取り、誠心誠意をもって行わざるべからず。筮形を定むるにも、筮体を定むるにも、本筮法を行うにも、略筮法を行うにも、筮石を握るごとに、必ず右のごとき閉眼黙思、恭敬慎重を要するなり。

 左に筮石、筮木を机上に配置する図を示すべし。

 かくして、一握したる筮石をかぞうるときには、これを机の下位に置きてなすべし。また、筮形および筮体を定めたるときは、順次にこれに相当せる筮木を左方より取りて、これを上位に置くべし。

 

第六段 筮 式

 筮式を組成せる各筮案に、太陽、太陰、少陽、少陰の四種あれば、前後両提案を合するときは、十六様の提案式を生ずる理なり。今、符号をもって太陽を一とし、太陰を二とし、少陽を三とし、少陰を四とし、十六様の形を表示すること、左のごとし。(以下、筮案の性と量とは、みな数の符号をもって表示するものと知るべし)

第一列  一―一  一―二  一―三  一―四

第二列  二―一  二―二  二―三  二―四

第三列  三―一  三―二  三―三  三―四

第四列  四―一  四―二  四―三  四―四

 第一列は太陽を前提としたる場合、第二列は太陰を前提としたる場合、第三列は少陽、第四列は少陰を前提としたる場合をいう。表中一―一は、上位の一は前提を表し、下位の一は後提を表するものと知るべし。余はみなこれに準ず。

 この十六様の形式につき、これを筮則に照らすに、断案を案出すべからざるもの七種あり。すなわち、二―二、二―四、四―二、四―四の四種は、筮則第五条によりて、筮式を成すあたわず。また、三―三、三―四、四―三の三種は、筮則第八条によりて、筮式を成すあたわず。ゆえに、この七種を除去すれば、断案を考定して筮式を完成し得べきもの、左の九種あるのみ。

一―一  一―二  一―三  一―四  二―一  二―三  三―一  三―二  四―一

 つぎに、この九種を筮形に考えて、正式を成すやいなやを判定せざるべからず。

    第一形(中根が前提の上位と後提の下位とにある場合)

 まず、これを第一形に考うるに、一―一の提案よりは、一または三の断案を案出するを得るも、二または四の断案は、筮則第七条によりて不成立となる。つぎに一―二の提案よりは、筮則第六条および第四条により、なんらの断案をも案出するを得ず。つぎに一―三の提案よりは、筮則第七条および第九条により、三の断案を得べし。つぎに一―四の提案よりは、筮則第六条、第九条および第四条により、なんらの断案をも案出することあたわず。つぎに二―一の提案より、二または四の断案を得べし。一または三の断案は、筮則第六条の許さざるところなり。つぎに二―三の提案より、四の断案を得、その他の断案は筮則第六条、第九条の禁ずるところなり。つぎに三―一の提案よりは、筮則第七条、第九条および第四条により、なんらの断案をも得ることあたわず。つぎに三―二も、第六、第九両条によりて不成立なり。つぎに四―一よりも、筮則第三条により、断案を考定するあたわず。

 ゆえに、第一形の下に成立し得る筮式は左の四式なり。

  一―一―一  一―三―三  二―一―二  二―三―四

 そのほか、一―一―三および二―一―四の二式も成立し得るも、右表の第一式と第三式との中に含蓄せらるるものとす。

    第二形(中根が両提案の下位にある場合)

 つぎに、第二形の上に考うるに、まず一―一の提案よりは、第三条の筮則により、なんらの断案を見るあたわず。一―二の提案よりは、第六則により、二または四の断案を作ることを得。一―三よりは、第三則により、断案を引くあたわず。一―四の提案よりは、第六則および第九則により、四の断案を得べし。二―一の提案よりは、第六則により、二または四の断案を得るなり。つぎに二―三よりは、第六則および第九則により、四の断案を得べし。三―一の提案よりは、第三則により、なんらの断案を結ぶあたわず。三―二および四―一よりは、第六則、第九則および第四則により、いかなる断案をも案出すべからず。ゆえに、第二形より得るところは、左の四式のみ。

  一―二―二  一―四―四  二―一―二  二―三―四

 そのほか、一―二―四および二―一―四の二式あれども、右表の第一式と第三式の中に含蓄せらるるものとす。

    第三形(中根が両提案の上位にある場合)

 つぎに、第三形の上に考うるに、まず一―一の提案よりは、第七則および第四則により、三の断案を結ぶを得。一―二の提案よりは、第六則および第四則により、なんらの断案を見るあたわず。一―三の提案よりは、第七則および第九則により、三の断案を得べし。一―四よりは、第六、第四両則により、なんらの断案を結ぶあたわず。二―一よりは、第六、第四両則により、四の断案を案出するを得。二―三よりは、第六、第九両則により、四の断案を構成するを得。三―一よりは、第七、第九両則により、三の断案を考定するを得。三―二よりは、第六、第九、第四の三則により、なんらの断案をも作るあたわず。四―一よりは、第六、第九両則により、四の断案を成すを得るなり。ゆえに、第三形の下にて成立する筮式は、左の六種なりとす。

  一―一―三  一―三―三  二―一―四  二―三―四  三―一―三  四―一―四

    第四形(中根が前提の下位と後提の上位とにある場合)

 つぎに、第四形の上に考うるに、まず一―一の提案よりは、第七則および第四則により、三の断案を案出するを得。一―二よりは、第六則により、二または四の断案を得べし。一―三および一―四よりは、第三則により、なんらの断案を見るあたわず。二―一よりは、第六、第四両則により、四の断案を得。二―三よりは、第六、第九両則により、同じく四の断案を得。三―一よりは、第七、第九両則により、三の断案を得べし。三―二および四―一よりは、第六、第四両則により、なんらの断案をも考定するあたわず。ゆえに、第四形における正確なる筮式は、左の五種なりとす。

  一―一―三  一―二―二  二―一―四  二―三―四  三―一―三

 そのほか正式の中に算すべきものは、一―二―四の一式なるも、こは右表の第二式中に含蓄せらるるものとす。

 以上四種の筮形に照らして断案を構成し得たる正確なる筮式は、第一形の下に四式、第二形の下に四式、第三形の下に六式、第四形の下に五式ありて、総計十九式なり。今、さらに一覧の便を計り、全表を作りて挙示すること、左のごとし。

第一形四種一―一―一、一―三―三、二―一―二、二―三―四

第二形四種一―二―二、一―四―四、二―一―二、二―三―四

第三形六種一―一―三、一―三―三、二―一―四、二―三―四、三―一―三、四―一―四

第四形五種一―一―三、一―二―二、二―一―四、二―三―四、三―一―三

 この正式をいちいち筮則に考えて、その正確なるゆえんを証明するは、論理学の書に譲る。

 

第七段 筮 変

 提案の種類は、各提案に太陽、太陰、少陽、少陰の四様ありて、両提案を合する場合には都合十六様あることは、前段のはじめに述べたるがごとし。もし、これを四種の筮形に当てはむれば、総計六十四種ある割合なり。しかるに、そのうち正確なる筮式すなわち正式はわずかに十九種とすれば、他の四十五種はみな不正確、不完全なるものたるを知るべし。この四十五種中、四種の筮形に通して不正確なるもの七種あり。その他は、各種の筮形に限りて特別に不正確なるものなり。これを総じて不正式と名づく。今左に、通別を分かちたる全表を挙示すべし。

  第一形の下にある不正式十二種

(通) 二―二、二―四、三―三、三―四、四―二、四―三、四―四

(別) 一―二、一―四、三―一、三―二、四―一

  第二形の下にある不正式十二種

(通) 二―二、二―四、三―三、三―四、四―二、四―三、四―四

(別) 一―一、一―三、三―一、三―二、四―一

  第三形の下にある不正式十種

(通) 二―二、二―四、三―三、三―四、四―二、四―三、四―四

(別) 一―二、一―四、三―二

  第四形の下にある不正式十一種

(通) 二―二、二―四、三―三、三―四、四―二、四―三、四―四

(別) 一―三、一―四、三―二、四―一

 すなわち、総計四十五種なり。この四十五種は、論理学の方にありては、全く不正確のものとして除去すれども、これを筮法に応用するに当たりては、その間に変通を考定して、これを正式に転換する法あり。これを筮変と名づく。この筮変を知るには、筮因、筮縁、筮果の三種あることを知らざるべからず。(論理学にて古来用うる一定の転換法あれども、その法を筮式に応用するときは、筮形に変動を与うるをもって、筮法の場合に適せず。よって余は、別に一種の転換法を案出せり。ただし、論理学の転換法も全くその用なきにあらざれば、後に筮転を説明するときにその用法を示すべし)

 筮式を筮法に応用するときは、各筮案に因、縁、果の名目を付し、もって筮の用を明らかにする必要あり。すなわち、前提を筮因と名づけ、後提を筮縁と名づけ、断案を筮果と名づく。けだし筮法の目的は、運を天に決するゆえんを指示するにあれば、論理の形式の上に天運の向背変通を見て、事の可否、吉凶を判知するものなり。ゆえに、論理の方にて正不正は、筮法の方にて可不可(吉凶)となることを知るべし。かつ、天運は人力、人意をもって動かすべからざるものなるも、なおそのいくぶんかは、人力、人意をもって左右し得るものなることを知らざるべからず。かくして、その左右し得る点につきて、なるべく不可なるものも可に変じ、不吉なるものも吉に変ずるは、すなわち筮変の目的とするところなり。

 一筮式につき、筮因(前提)は天運既定の位にして、動かすべからざるものと定む。筮縁(後提)は天運の今すでに定まらんとする場合にして、多少左右し得るものとなす。筮果は天運のいまだ定まらざる場合にして、因と縁との事情によりて定まるものとなす。

 ゆえに、前掲の四十五種の不正式は、筮因、筮縁ともに定まれりと見て、その果の不可、不吉を予定したるものなれども、もし、筮縁の上にいくぶんの変通を考えて、天運の上に多少の変動を見る場合には、筮果の上に成功を示すことなきにあらず。ゆえに、これより筮縁の性もしくは量を変じて、筮果の上にいかなる変動あるかを見んと欲す。

 筮変を考定するには、あらかじめ左の規則を心得おかざるべからず。

(一) 筮因すなわち前提は、天運既定の位なれば、その性もその量も、決して変換すべからず。

(二) 筮縁すなわち後提は、天運既定と未定との間にある場合なれば、筮果において不可、不吉を得たるときに限り、その性もしくは量を変換して、筮果の可否を見ることを得。ただし、性と量とを同時に変換すべからず。

 この規則によりて、四十五種の不正式の可否を考定すべし。

    第一形

(通) 第一の二―二は、その性を変じて二―一とすれば、二の断案を引くことを得。第二の二―四は、その性を変じて二―三とすれば、四の断案を結ぶことを得。第三の三―三、第四の三―四、ないし第七の四―四は、性を変ずるも、または量を変ずるも、断案を考定するあたわず。

(別) 第一の一―二は、その性を変じて一―一とすれば、一の断案を得べし。第二の一―四は、その性を変じて一―三とすれば、三の断案を得べし。その他、三―一、三―二、四―一はとうてい不可能なり。

  第二形

(通) 二―二および二―四は、その性を変じて二―一および二―三とすれば、前者は二の断案、後者は四の断案を結ぶことを得べし。三―三、三―四、四―二、四―三、四―四はみな不可能なり。

(別) 一―一および一―三は、その性を変じて一―二および一―四とすれば、前者は二の断案、後者は四の断案を結ぶことを得。その他はみな不可能なり。

  第三形

(通) 第一の二―二、第二の二―四は、その性を変じて二―一および二―三とすれば、二者ともに四の断案を得、第三の三―三は、その量を変じて三―一とすれば、三の断案を得べし。第四の三―四は不可能なり。第五の四―二は、その性を変じて四―一となし、第六の四―三は、その量を変じて四―一となさば、ともに四の断案を得べし。第五の四―四は不可能なり。

(別) 一―二、一―四、三―二は、その性を変じて一―一、一―三、三―一とすれば、おのおの三の断案を見るに至るべし。

  第四形

(通) 第一の二―二および第二の二―四は、その性を変じて二―一および二―三とすれば、二者ともに四の断案を結ぶことを得べし。第三の三―三は、その量を変じて三―一とすれば、三の断案を得べし。その他の四種は不可能なり。

(別) 第一の一―三および第二の一―四は、その量を変じて一―一および一―二とすれば、前者は三、後者は二の断案を得べし。第三の三―二は、その性を変じて三―一とすれば、三の断案を得べし。第四の四―一は不可能なり。

 以上、四種の筮形につき、筮変の状態を考定したる結果を、表を作りて示さば、左のごとし。

第一形 可変四種 二―二、変性二―一―二 二―四、変性二―三―四 一―二、変性一―一―一 一―四、変性一―三―三

不可変八種 三―三、三―四、四―二、四―三、四―四 三―一、三―二、四―一

第二形 可変四種 二―二、変性二―一―二 二―四、変性二―三―四 一―一、変性一―二―二 一―三、変性一―四―四

不可変八種 三―三、三―四、四―二、四―三、四―四 三―一、三―二、四―一

第三形 可変八種

二―二、変性二―一―四 二―四、変性二―三―四

三―三、変量三―一―三 四―二、変性四―一―四

四―三、変量四―一―四 一―二、変性一―一―三

一―四、変性一―三―三 三―二、変性三―一―三

不可変二種 三―四、四―四

第四形 可変六種

二―二、変性二―一―四 二―四、変性二―三―四

三―三、変量三―一―三 一―三、変量一―一―三

一―四、変量一―二―二 三―二、変性三―一―三

不可変五種 三―四、四―二、四―三、四―四 四―一

 これを要するに、筮式総計六十四種のうち、正式十九種、変式二十二種、不変式二十三種となる。その表、左のごとし。

筮案 正式十九種 不正式四十五種 変 式二十二種 不変式二十三種

 

第八段 筮 用

 これより、まさしく筮法を実際に応用して、可否、吉凶を判定せんとするに当たり、第一に提案、断案の名目を改めて、筮因、筮縁、筮果の語を用うべし。

筮因すなわち前提(初案) 筮縁すなわち後提(中案) 筮果すなわち断案(終案) 筮式

 そのうち、筮因は天運の既定せる位にして、人力のいかんともすべからざるものとし、筮果は天運のいまだ定まらざる位にして、今よりそのいかように定まるかを見るものとし、筮縁は天運の既定、未定の間にありて、多少人力をもって左右し得るものとす。その理は、前段においてすでに一言せしところなり。

 筮式中の正式は筮果を見ることを得るものなれば、天運の命ずるところにより、成功あるものと断定し、これを可とし、利とし、吉とするなり。不正式はこれに反して成功なきものと断定し、これを不可、不利、不吉とするなり。

 そのうち、変式は人力の作用、筮縁の変更によりて、不可を変じて可とし、不利、不吉を変じて利とし、吉とすることを得るものとし、不変式はその結果動かすべからざるものにして、不可、不利、不吉の必定せるものとするなり。

 筮式の上に可否、利害、吉凶を判ずるには、正式は筮果の上においてし、不正式は筮果を見ることあたわざるものなれば、筮因の上においてす。そのゆえは、不正式の筮果を結ぶことあたわざるは、畢竟するに、筮因の中に既定せる不可、不利、不吉の原因ありてしかるものと断定するによる。

 しかれども、筮縁もこれと全く関係なきにあらざれば、筮因の不可、不利、不吉なるものが、筮縁のいかんによりて、軽重加減することありと知るべし。もし、変式の場合においては、ただちに筮果の上に成功のいかんを判知するを得るなり。

 かくして判断を下すに当たり、多少の語弊を免れざるも、従来の慣例に従い、可なる方はすべて吉と呼び、不可なる方はすべて凶と称すべし。かく余が可否の代わりに吉凶の語を用うるも、ただ疑を定め事を決するに当たり、その一事のなすべきか、なすべからざるかにつきて可否を示すまでにて、決して世間の卜筮のごとく、これによりて一身、一家、一国の万般の上につき、将来における天幸天災を予言するの意にあらざることを記せざるべからず。

 また、筮因および筮果に性と量との別あれば、吉凶の方にもこの別を示す必要あり。よって、太量、少量は大吉、小吉、大凶、小凶をもって示し、陽性、陰性は上吉、下吉、上凶、下凶をもって示さんと欲す。しかしてその大小は、吉凶につきて、分量の多寡、事柄の大小、軽重等を意味し、上下は吉凶につきて、性質の良不良、品位の高下等を意味するものと知るべし。

 正式および変式にありては、筮果の上にて吉の大小、上下を判じ、不正式にありては、筮因の上に凶の大小、上下を判ずるに、筮案の種類に応じて、左のごとき判語を用うるなり。

太陽筮案 吉 上大吉 凶 上大凶

太陰筮案 吉 下大吉 凶 下大凶

少陽筮案 吉 上小吉 凶 上小凶

少陰筮案 吉 下小吉 凶 下小凶

 この判語は、不正式の場合には筮因の性と量とを見て定むるも、なお、筮縁のこれに加わりて多少の変動を現ずる理なれば、筮縁の量に軽重を分かち、性に明暗を分かちて、筮因の上に加減するところあるを知らしめんと欲す。

 すなわち、

筮縁 太陽 重明 太陰 重暗 少陽 軽明 少陰 軽暗

 かくして、後に筮表の下に至り、この四種の判語を筮因の凶の大小、上下に添えて、筮縁の影響いかんを示さんとす。ただし、このことは不正式の場合に限るものと知るべし。

 上述のごとく、筮因および筮果の上に性の陰陽、量の太小を考定する必要あるのみならず、筮変の場合には筮縁の性と量とを考察して、これを変換する必要あれば、左にさらに性と量との比較表を掲げて、その別を詳記明示するを要するなり。

性 陽 天、男、南、春、昼、明、動、剛、表、白、火、昇、進、語、等

陰 地、女、北、秋、夜、暗、静、柔、裏、黒、水、降、退、黙、等

量 太 大、多、全、増、広、太、長、遅、高、遠、強、重、得、合、等

少 小、少、半、減、狭、細、短、速、下、近、弱、軽、失、離、等

 この表に考えて、筮変の場合に、あるいは陽性を変じて陰性となし、陰性を変じて陽性となし、あるいは太量を変じて少量となし、少量を変じて太量となすには、いかなる方針を取るべきやを判知すべし。例えば、筮縁の上に陽性を変じて陰性となさんとするときは、もし、方位につきていわば、最初南せんと欲するものは、北に方向を変ぜざるべからず(あるいは、最初北せんと欲するものは、南に方向を変ずるも可なり)。もしまた、年月につきていわば、春夏の間になすべきことは、秋冬の間に移さざるべからず(あるいは、最初秋冬の間になさんと定めたる場合には、これを変じて春夏の間に移すも可なり)。もしまた、事業につきていわば、進取せんとすることは、退守するようにせざるべからず。その他は前表に照らして考定すべし。これに反して、筮縁の上に陰性を変じて陽性となさんとするときは、正しく前例の反対を取るべし。つぎに、筮縁の上に少量を変じて太量となさんとするときは、もし、方位につきていわば、近きに行かんとするものは、遠きに行かざるべからず(あるいは、最初遠きに行かんとしたる場合には、これを変じて近きに行くも可なり)。もし、年月につきていわば、急速になさんとすることは、時日を延遷するようにすべし(あるいは、最初延遷せんと思いたる場合には、急速に行うも可なり)。もしまた、事業につきていわば、小事を捨てて大事を取らざるべからず。その他は前表に考えて推知すべし。

 右は、変式につきて筮縁を変換せしむる事例を示したるものなり。しかるに、正式の上にも筮果の陰性を変じて陽性となし、少量を変じて太量となさんと欲するときは、筮縁の変通を考定することを得べし。すなわち、筮縁の上の性もしくは量を動かして、他の正式に合することと合せざることとあり。その合する場合を筮通と名づく。

 もし、筮通を行わんと欲するときは、筮変と同一の方法を取らざるべからず。しかして、筮変と筮通との二者を混同せざるを要す。すなわち、筮変は変式の上に限り、筮通は正式の上に限るものなり。また、筮変によりて得たる筮式を、さらに筮通によりて変換せんとするは、筮法の許さざるところなり。

 

第九段 筮 表

 これより四形六十四式の全表を掲げて、いちいちその変通、吉凶を指示すべし。左の表中、第一列は一をもって始まりたる筮式を列挙し、第二列は二をもって始まりたるもの、第三列は三、第四列は四をもって始まりたる筮式を列挙するなり。

 左表中、筮変を示すときに、陽変陰、あるいは少変太とあるは、筮縁の陽性を変じて陰性となし、少量を変じて太量となすの意なり。また、筮通を示すときに、陰通陽、あるいは少通太とあるは、筮縁の陰性をして陽性に通ぜしめ、少量をして太量に通ぜしむるの意なり。余はみなこれに準知すべし。左に筮変、筮通の全表を掲ぐ。

筮変 変性 陽変陰 陰変陽 変量 少変太 太変少 筮通 性通 陽通陰 陰通陽 量通 少通太 太通少

 筮表の上に正式中の筮通を有するものは、特にそのことを指示する必要あれども、筮果の陰性なるものを陽性とし、少量なるものを太量とする場合をもって足れりとす。これに反して、筮果の陽性を陰性とし、太量を少量とするは、実際上、人の望むところにあらざれば、筮表中にこれを略するを知るべし。

 

       第一形諸式

第一列 一―一、その果一(太陽)上大吉

一―二、上大凶 筮変(陰変陽)一―一、

その果一(太陽)上大吉

一―三、その果三(少陽)上小吉 筮通(少通太)一―一、

その果一(太陽)上大吉

一―四、上大凶 筮変(陰変陽)一―三、

その果三(少陽)上小吉

第二列 二―一、その果二(太陰)下大吉

二―二、下大凶 筮変(陰変陽)二―一、

その果二(太陰)下大吉

二―三、その果四(少陰)下小吉 筮通(少通太)二―一、

その果二(太陰)下大吉

二―四、下大凶 筮変(陰変陽)二―三、

その果四(少陰)下小吉

第三列 三―一、上小凶(重明)

三―二、上小凶(重暗)三―三、上小凶(軽明)三―四、上小凶(軽暗)

第四列

四―一、下小凶(重明)四―二、下小凶(重暗)四―三、下小凶(軽明)四―四、下小凶(軽暗)

 

第二形諸式

第一列 一―一、上大凶 筮変(陽変陰)一―二、

その果二(太陰)下大吉

一―二、その果二(太陰)下大吉

一―三、上大凶 筮変(陽変陰)一―四、

その果四(少陰)下小吉

一―四、その果四(少陰)下小吉

 

第二列 二―一、その果二(太陰)下大吉

二―二、下大凶 筮変(陰変陽)二―一、

その果二(太陰)下大吉

二―三、その果四(少陰)下小吉 筮通(少通太)二―一、

その果二(太陰)下大吉

二―四、下大凶 筮変(陰変陽)二―三、

その果四(少陰)下小吉

第三列

三―一、上小凶(重明)三―二、上小凶(重暗)三―三、上小凶(軽明)三―四、上小凶(軽暗)

第四列

四―一、下小凶(重明)四―二、下小凶(重暗)四―三、下小凶(軽明)四―四、下小凶(軽暗)

 

 

第三形諸式 第一列 一―一、その果三(少陽)上小吉

一―二、上大凶 筮変(陰変陽)一―一、

その果三(少陽)上小吉

一―三、その果三(少陽)上小吉

一―四、上大凶 筮変(陰変陽)一―三、

その果三(少陽)上小吉

第二列 二―一、その果四(少陰)下小吉

二―二、下大凶 筮変(陰変陽)二―一、

その果四(少陰)下小吉

二―三、その果四(少陰)下小吉

二―四、下大凶 筮変(陰変陽)二―三、

その果四(少陰)下小吉

 

 

第三列 三―一、その果三(少陽)上小吉

三―二、上小凶 筮変(陰変陽)三―一、

その果三(少陽)上小吉

三―三、上小凶 筮変(少変太)三―一、

その果三(少陽)上小吉

三―四、上小凶(軽暗)

第四列 四―一、その果四(少陰)下小吉

四―二、下小凶 筮変(陰変陽)四―一、

その果四(少陰)下小吉

四―三、下小凶 筮変(少変太)四―一、

その果四(少陰)下小吉

四―四、下小凶(軽暗)

 

第四形諸式 第一列

一―一、その果三(少陽)上小吉 筮通(陽通陰)一―二、

その果二(太陰)下大吉

一―二、その果二(太陰)下大吉

一―三、上大凶 筮変(少変太)一―一、

その果三(少陽)上小吉

一―四、上大凶 筮変(少変太)一―二、

その果二(太陰)下大吉

第二列 二―一、その果四(少陰)下小吉

二―二、下大凶 筮変(陰変陽)二―一、

その果四(少陰)下小吉

二―三、その果四(少陰)下小吉

二―四、下大凶 筮変(陰変陽)二―三、

その果四(少陰)下小吉

第三列 三―一、その果三(少陽)上小吉

三―二、上小凶 筮変(陰変陽)三―一、

その果三(少陽)上小吉

三―三、上小凶 筮変(少変太)三―一、

その果三(少陽)上小吉

三―四、上小凶(軽暗)

第四列

四―一、下小凶(重明)四―二、下小凶(重暗)四―三、下小凶(軽明)四―四、下小凶(軽暗)

 

第一〇段 筮 転

 すでに筮式、筮用、筮表を挙示したれば、筮法を行い可否を判ずるに、なんらの不都合なかるべし。ゆえに、筮法の説明はここに終結を告ぐることとなす。しかるに、また一事をなすに当たり、己の代わりに他人をしてそのことをなさしむる場合あり、かかる場合の可否も考定せざるべからず。例えば、前述の筮法につき、己自ら一事をなさんとするに当たり、これを考定して不可、不利、不吉なる結果を得たる場合に、他人をして己に代わりて同一事をなさしめてはいかんを考定せんと欲することあり。そのときには、別に筮式を作りて結果を案出するに及ばず、一の筮形を他の筮形に変転して、可否を判断することを得。ここにこれを筮転と名づけて、筮変、筮通に区別するなり。すなわち、筮変、筮通は一定の筮形の下に変通あるものをいい、筮転は二種の筮形の間に変通あるものをいうの別あり。

 筮形は筮体を定むる基趾なれば、決して動かすべからざるものなれども、提案の性質を失わずして転換し得る場合には、筮形の上に変動を与うるも論理学の許すところにして、筮則の禁ぜざるところなり。しかれども、一人の身にして筮形を変ずるは筮法の許さざるところなれば、他人をして代理せしむる場合に限り、筮転の上に可否を考定するも差し支えなかるべし。筮案の転換法は論理学の規定せるところなるも、その規則によらば、筮形の上に変動を与うるをもって、さきに筮変、筮通を見る場合には、別に筮縁の上に性と量とを転換する法を案出し、これによりて考定したるも、筮転の場合には、論理学の転換法を応用するを最も適当なりと信ずるなり。ただ、その法を天運既定の筮因の上に施すは、正しく判定せんとする事件の変更せざる限りは、筮法の許さざるところなり。ゆえに、これを筮縁の上に応用せんと欲するなり。

 論理学の転換法は、四種の筮案につき、毫もその性質を変ぜずして、上根、下根を転置する方法をいう。これに二様あり。その一を制限転換法と名づけ、その二を単純転換法と名づく。制限転換法とは、筮根の上にある制限を与えて、従来広根なる上根を狭根に変ずるがごとき場合をいい、単純転換法とは、なんらの制限を付せずして、ただちに下根を上根に転置する場合をいう。その転換の規則二条あり。すなわち左のごとし。その条中、可転筮案とは、まさに転換を行わんとする筮案をいい、被転筮案とは、すでに転換せられたるものをいう。

一、可転筮案において狭根なる筮根を、被転筮案において広根ならしむべからざること。

二、筮案の性を変じて陽性を陰性とし、あるいは陰性を陽性とすべからざること。

 この規則にもとづきて転換法を行うに、太陽筮案は、さきに筮目の下に表示せる広狭二根表に考うるに、下位の狭根なるものを上位に転ずるものなれば、少陽筮案に変形せざるを得ず。しからざれば、転換法第一則を犯すに至る。よって、太陽の量を制限して少陰となす。これ、すなわち制限転換法なり。つぎに、太陰筮案は上下両根ともに広根なれば、その位置を転換するも、なんらの規則を犯すことなければ、制限を加えずして直接に転換するを得べし。また、少陽筮案は上下両根ともに狭根なれば、太陰と同じく直接に転換するを得。この二者はすなわち単純転換法なり。少陰筮案は上位に狭根を有し、下位に広根を有するものなれば、制限法にても単純法にても、規則第一条もしくは第二条を犯すをもって、とうてい転換すべからざるものとす。これを要するに、

太陽筮案は制限転換法によりて少陽筮案となる。

太陰筮案は単純転換法によりてやはり太陰筮案となる。

少陽筮案は単純転換法によりてやはり少陽筮案となる。

少陰筮案は不可転なり。

 これを筮式の上に考えて筮縁の転換を行わば、必ず中根の位置に変動を与え、したがって筮形の変転を見るに至るべし。例えば第一形につきて考うるに、第三段の筮則の下に出だせる表に照らすに、中根の位置は前提の上位と後提の下位にあり。しかるに、筮案(後提)の上下両根を転置するときは、中根の位置を両提案の上位に見るに至るべし。かくのごときは第三形の場合なれば、筮転によりて第一形は第三形に変ずるを知るべし。また、第二形は中根の位置が両提案の下位にあれば、筮縁の転換によりて、後提の中根は上位に移るべし。かくのごときは第四形の場合なれば、筮転によりて第二形は第四形に変ずるを知るべし。また、第三形は筮転によりて第一形に変じ、第四形は筮転によりて第二形に変ずる理は、中根の位置の転換を考定しきたらば、ただちに知ることを得べし。ゆえに余は、左に六十四式のいちいちにつきて、この筮転の結果を挙示すべし。その表中、可転式とはまさに筮縁を転換せんとする原式を示し、被転式とはすでに筮縁を転換したる結果を示すものなり。

第一形(可転式)       第三形(被転式)

第一列 一―一、…一―三、一―二、…一―二、一―三、…一―三、一―四、…(不可転)

第二列 二―一、…二―三、二―二、…二―二、二―三、…二―三、二―四、…(不可転)

第三列 三―一、…三―三、三―二、…三―二、三―三、…三―三、三―四、…(不可転)

第四列 四―一、…四―三、四―二、…四―二、四―三、…四―三、四―四、…(不可転)

第二形(可転式)       第四形(被転式)

第一列 一―一、…一―三、一―二、…一―二、一―三、…一―三、一―四、…(不可転)

第二列 二―一、…二―三、二―二、…二―二、二―三、…二―三、二―四、…(不可転)

第三列 三―一、…三―三、三―二、…三―二、三―三、…三―三、三―四、…(不可転)

第四列 四―一、…四―三、四―二、…四―二、四―三、…四―三、四―四、…(不可転)

       第三形(可転式)       第一形(被転式)

第一列 一―一、…一―三、一―二、…一―二、一―三、…一―三、一―四、…(不可転)

第二列 二―一、…二―三、二―二、…二―二、二―三、…二―三、二―四、…(不可転)

第三列 三―一、…三―三、三―二、…三―二、三―三、…三―三、三―四、…(不可転)

第四列 四―一、…四―三、四―二、…四―二、四―三、…四―三、四―四、…(不可転)

       第四形(可転式)       第二形(被転式)

第一列 一―一、…一―三、一―二、…一―二、一―三、…一―三、一―四、…(不可転)

第二列 二―一、…二―三、二―二、…二―二、二―三、…二―三、二―四、…(不可転)

第三列 三―一、…三―三、三―二、…三―二、三―三、…三―三、三―四、…(不可転)

第四列 四―一、…四―三、四―二、…四―二、四―三、…四―三、四―四、…(不可転)

 ここに人あり。最初一事を決行せんと欲して、筮式の上にその可否を考定し、すでに吉凶の判然したる後、さらにその同一事を、他人をして己に代わりてなさしめんとする場合には、最初考定したる筮因、筮縁(前後両提案)をこの表の可転式に照らし、これに相応せる被転式を見、これをさらに筮表の下に示せる筮式に考えて、可否、吉凶を判定するなり。例えば、最初一事を考定して、第一形の三―一を得たる場合には、上小凶(重明)なるも、もしそのことを他人をして代理せしむるの可否を見んと欲し、筮転表によりて第一形の三―一は、第三形の三―三に相当せるをもって、これを筮表に照合するに、上小凶なるを知るべし。ただし、その上小凶には筮変ありて、上小吉となることを得。ゆえに、かくのごとき場合には、己自らそのことを行うより、他人をして己に代わらしむるを利ありと判定するなり。その他はこれに準じて知るべし。ただし、不可転の場合には、他人をして代理せしむべからざるものと心得べし。

 

第一一段 筮 例

 この筮法は人の一事をなすに当たり、疑懼、猶予して自ら決することあたわず、これを人にたずぬるも、甲はこれを可とし、乙はこれを否とし、可否相半ばして、これまた決することあたわず。かくのごとき場合に論理の形式をかりて、運を天に訴うるものなれば、「至誠よく大疑を決する」の訓戒あるがごとく、誠心誠意をもってこれを行わざるべからず。しかしてその結果、吉を得れば進みてそのことをなし、凶を得れば見合わすようにすべし。ただし筮通、筮変、筮転ある場合には、あるいはその方向を変じ、あるいはその場所を転じ、あるいはその人をかうるがごときことあるも、これを濫用して余事に及ぼし、無用の利害に心を労せざるように注意せざるべからず。

 今日、民間にて卜筮を行うものは、一事を卜して他事に及ぼし、一生中の剣難、火難、風災、震災、発病等に至るまで、いちいちその時日までを指定するがごときは、いわゆる卜筮の濫用というべきものなり。かかる濫用の弊を避け、筮法の用は一事の吉凶を見て、去就を定むるにとどめざるべからず。かつ、人にこの世にある以上は、他人に対し、社会に対し、国家に対し、人間の本務として尽くさざるを得ざることあり。また、世間一般が目して、道徳上の美徳、善行と称することあり。かくのごときは、筮法の可否を問うに及ばず、一時の利害を顧みず、自ら進みてなさざるべからず。あるいはまた、不正、不徳の行為に筮法を用うるは、大いにその用法を誤るものなれば、深く戒めざるべからず。

 筮例は、その時に臨み、その事に応じて異なるものなれば、一、二の類例を挙げて律すること難し。ただ、筮用の参考に備うるまでに過ぎざるべし。例えば、ここに遠行をなさんと企つるものありて、その可否いかんは自ら決することあたわず、これを筮法に考えて、第四形一―二の提案式を得たり。これを筮表に照らすに、その果二にして下大吉なれば、遠行をなすことに決すべし。

 その筮式、左のごとし。

 つぎに、居宅を転ずるにつき、その可否自ら決するあたわず、これを筮法に考えて、第一形二―四の提案式を得たり。これを筮表に照らすに、下大凶なれば、転宅を見合わさざるべからず。ただし、この式には筮変ありて、陰を陽に変ずれば、二―三、その果四を得て下小吉なり。ゆえに、最初西北の方に転宅せんとしたる場合には、東南にその方位を変ずるか、あるいは最初秋冬の間に移転せんとしたる場合には、春夏の間に延期するか、そのときの事情に応じて、陰を陽に変ずれば吉なりと判定するなり。

 その筮式、左のごとし。

 また一例に、土地を買わんとしてその利害自ら決するあたわず、これを筮法に考えて第一形一―三の提案式を得たり。これを筮表に照らすに、その果三にして上小吉なれば、購入するを可とす。しかして、この式には筮通ありて、少をして太に通ぜしむるを得。そのときは一―一、その果一にして上大吉なり。ゆえにこの場合には、購入すべき地面を減縮するより増加するを、一層吉なりと判定するなり。

 その筮式、左のごとし。

 また一例に、人と契約を結ばんとするに、その可否自ら決するあたわず、これを筮法に考えて第二形三―二の提案式を得たり。これを筮表に照らすに、上小凶(重暗)なれば不吉なり。もしこの場合に、他人をして己に代わらしめたるときはいかんを知らんと欲せば、筮転の表を対照すべし。しかるときは、第二形三―二の可転式は、第四形三―二の被転式に転換するを得。さらにこの式を筮表に照合するに、上小凶にして同様に不吉なれども、これには筮変ありて三―一、その果三、上小吉なるを得。ゆえに、他人をして代わらしむれば可なりと判定するなり。

 今左に、第四形三―二の被転式を示すべし。

 以上は、民間通俗の事例につきて一、二を挙げたるのみ。ただ、筮法を行うもののもっぱら注意すべきは、瑣々たる小事にこれをもてあそぶべからず、また、私欲より起こりたることに用うべからず。なにごとを考定するにも、終始道徳を離れざるように心掛くるにあり。

 

第一二段 筮 相

 今日民間に行わるる諸術中に、干支、五行の配合を見て吉凶を判ずる法あり。これ、卜筮とややその性質を異にし、運を天に決するものにあらざるなり。けだしその法たるや、五行を事物に配当し、時日、方位、人体、気質に至るまで、ことごとく五行をもってその性を定め、木火土金水の配合上、相生を吉とし、相剋を凶として、可否の判断を下すものなり。その法、種々ありといえども、五行の応用を異にせるものにほかならず。かくのごときは古代の迷信より起こり、妄誕を極めたるものなること、亀卜、易筮よりもはなはだし。ゆえに、今日の急務として、これを民間より除去せざるべからず。その第一着手として暦表を改め、干支を年月に配することを廃し、つぎに五行の占法を禁ぜざるべからず。しかるに今日の人知にては、干支を廃し、五行を禁ずるも、なお小事に迷い、妄想を起こすは、勢いの免れざるところなり。ゆえに、幸いに一迷信を除き去るも、たちまち他の迷信のこれに代わるに至るは必然なり。されば、迷信病に投ずるには迷信薬をもってし、漸次に内部より治療する方法を取るよりほかなし。ここにおいて、余は五行、干支の陳腐説の代わりに、論理学にて指定せる推演法を利用し、もって事物の吉凶を判定せんと欲す。そのことたる、もとより一時臨機の方便に過ぎざるも、五行配合の方便に比するに、そのまさること、識者をまたずして知るべし。これを、ここに筮相と名づく。その法たるや、論理学の推演法にもとづき、事物の配合を見て、吉相、凶相を判知するものなり。ゆえに、ここにまた論理学の一端を開示するを要す。

 論理学にて事物の道理を推演するに、直接、間接の二種あり。さきに挙示せる論式は、すなわち間接推演なり。これに反して、ただ二個の命題(筮案)のみにて推演し、三個を要せざるもの、これを直接推演という。その中に、二命題を対立せしめ、相互の関係を見て真偽を判知する法あり。これを対立推演と名づく。これ、余が五行の代わりに適用せんと欲するものなり。

 論理学の命題は、筮法にて筮案と名づく。この筮案に太陽、太陰、少陽、少陰の四種あることは、前に幾回となく挙示せしところなり。この各筮案が他の筮案に対立対向する場合に、排拒するときと応合するときあり。ここにおいて、可否、吉凶の判断を下すことを得るなり。

 第一に、太陽筮案を取りて、これを論理学上真実なりとして、他の三種の筮案を考うるに、太陰は虚偽となり、少陽は真実となり、少陰は虚偽となるは、論理学の規定せるところなり。

 第二に、太陰筮案を真実なりと定めて他を考うるに、太陽も少陽もともに虚偽となり、少陰は真実となる。これまた、論理学の規定なり。

 第三に、少陽を真実と定めて他を考うるに、太陽および少陰は真偽不明にして、太陰は虚偽となる。

 第四に、少陰を真実と定めて他を考うるに、太陽は虚偽となり、太陰および少陽は真偽不明となる。

 以上の四例を表に作りて示すこと、左のごとし。

第一例 第二例 第三例 第四例

太  陽 ○真 偽 不 明 偽

太  陰 偽 ○真 偽 不 明

少  陽 真 偽 ○真 不 明

少  陰 偽 真 不 明 ○真

 その真は筮案の性質互いに応合するにより、その偽は互いに排拒するにより、その真偽不明は応合と排拒と相半ばするによる。これをいちいち証明するは論理学に譲る。今、これを筮相に応用するに当たりては、その応合は五行の相生に同じく、その排拒は相剋に同じ。ゆえに、論理学の真実は吉となり、虚偽は凶となる理なり。しかして、真偽不明は吉凶相半ばするものと定め、吉にもあらず凶にもあらざる場合とす。

 左に、前表を筮相に変じて示すべし。

第一式 第二式 第三式 第四式

一、太陽 ○吉  凶 吉  凶

相半ば 凶

筮相表

二、太陰 凶 ○吉  凶 吉  凶

相半ば

三、少陽 吉 凶 ○吉  吉  凶

相半ば

四、少陰 凶 吉 吉  凶

相半ば ○吉 

 この表中、「○吉」の符号は、筮相の本位を示したるものなり。すなわち、第一式の場合は太陽を本位とし、第二式の場合は太陰を本位とし、第三は少陽、第四は少陰を本位としたるものと知るべし。

 筮相の吉凶を判知するには、第一に本位を定むる必要あり。その本位は、己の吉凶を知らんと欲する当人の上に定むべし。しかして、当人の状態を定むるは、その年齢の上につきて性質を考定するを筮相の規則とす。しかして、年齢の定め方は旧暦のかぞえ方を用うべし。

 その表、左のごとし。

太 陽 一 五 九 十三 十七 二十一 二十五 二十九 三十三 三十七

太 陰 二 六 十 十四 十八 二十二 二十六 三 十 三十四 三十八

少 陽 三 七 十一 十五 十九 二十三 二十七 三十一 三十五 三十九

少 陰 四 八 十二 十六 二十 二十四 二十八 三十二 三十六 四 十

 今、ここに一人あり。その年齢、旧暦にて二十五歳とすれば、右の表にたずぬるに、その性質、太陽なるを知るべし。これをその人における筮相の本位とす。また三十八歳の人あらば、これを右表に照らすに、その性質、太陰なるを知る。また六十三歳の人あらば、表中にその数なきがゆえに、別に四をもってその年を除し、残数三を得。これを右表を照らして、小陽なるを知るべし。すべて、表中に見えざる数は四をもって除し、その残数を見て性質を定む。これをその人における筮相の本位とす。かく年齢をもって性質を定むるときは、年々その状態の変換するものと心得ざるべからず。しかるに、世間の干支をもって人の性を定むる法は、その生まれたる年を本位とするがゆえに、その性質一定するも、余は生まれたる年よりは、年齢をもって人の性質を定むる方、適当ならんと考うるなり。その年々変換するがごときは、かえって事実に合するものなり。なんとなれば、人も山川草木と同じく、年々変遷するを常とすればなり。(もし生年をもって人の性を定めんと欲せば、別にその法あり。すなわち、紀元の年数を用うる法なり。西洋に生まれたるものは、西洋の紀元を用い、日本に生まれたるものは、日本の紀元を用うべし。例えば、ここに明治十年に生まれたる人あらんに、明治十年はわが神武紀元二千五百三十七年に当たる。この年数を四をもって除するときは、残数一にして太陽なるを知るべし。よって、その人の性質を太陽と定むるなり。しかれども、余はこの法によらざるをよしとす)

 かく本位を定めたる上には、さらにその人の相手となり、対象となるものの性質を求めざるべからず。

太陽 一 夏 南 赤 一月、五月、九 月 一日、五日等

太陰 二 冬 北 黒 二月、六月、十 月 二日、六日等

対象表

少陽 三 春 東 青 三月、七月、十一月 三日、七日等

少陰 四 秋 西 白 四月、八月、十二月 四日、八日等

 この対象の性質と本位の性質とを照合して、吉凶を判ずるなり。例えば、ここに本年二十六歳の一人ありと定むるに、その本位は太陰なること、先掲の数字表につきて知るべし。しかるときは、これを四時に対向するに、春夏は吉にして秋冬は凶なること、対象表と筮相表とを参照して知るべし。もし方位に対向するに、東南は吉にして西北は凶なるを知り、もし月に対向すれば、一月、五月、九月および三月、七月、十一月は吉にして、その他は凶なるを知り、もし日に対向すれば、一日、三日等の奇数の日は吉にして、二日、四日等の偶数の日は凶なるを知るべし。もし、この人、来年に至り二十七歳となれば、その本位は少陽にして、四時の上においては、春は吉、夏と秋は吉凶相半ば、冬は凶なるを知る。さらに、その翌年に至らば、本位は少陰となり、その対象の吉凶も、これに従って変ずべし。

 また、人と人との配合につきても、一人の年齢本年二十歳ならば、その本位少陰にして、その対象たる人の年齢十八歳ならば、その性質太陰なり。少陰の本位より太陰を見るときは、筮相表の第四式に照らし、吉凶相半ばするものと判ぜざるべからず。すべて人と人との対向する場合には、男女の別を問わず、本位の定め方は、年齢の多き方に立つるを筮相の規則とす。もし、双方の年齢同じきときは、生まれたる月日につきて、その先なる方に本位を定むるなり。けだし、かかる同年齢の場合には、その人の年数をもって双方の性質を定むることあたわず。ゆえに、この場合に限り、生まれたる季節、もしくは月、もしくは日につきて双方の性質を定め、その配合の吉凶を判ずるなり。例えば、甲乙両人ありて同年齢なりと仮定するに、甲の方は春時に生まれ、乙の方は秋時に生まれたり。そのときは、甲は少陽にして、乙は少陰なりとし、本位を甲に定めて吉凶を判ずるなり。もし、両人ともに春時に生まれたる場合には、さらに月の上に考え、甲は一月に生まれ、乙は二月に生まれたりとすれば、甲を太陽とし、乙を太陰とし、本位を甲の方に定めて吉凶を判ずべし。もしまた、同年、同季節、同月に生まれたる場合には、日の上につきて、性質および吉凶を考定するなり。かくのごとく、生まれたる季節、月日の上にて双方の性質および配合の吉凶を判ずるは、同年齢の場合に限ると知るべし。

 あるいはまた、一家全体の他に対する吉凶を見んとするときは、その主人の年齢を数字表に照らしてその性質を定め、これを本位として筮相表の上に吉凶を考うべし。もし、両家相対するときには、双方の主人の年齢を比較して本位を定め、もって配合の吉凶を判ずべし。また、会社全体の吉凶を見んと欲せば、社長の年齢につきて考定すべし。もし、甲乙両会社の間に本位を定めんと欲するときは、両社長の年齢を比較すること、前述の例に倣うべし。その他は、みなこれに準知すべし。

 かくのごとき吉凶鑑定法は、人知、人文の進歩と両立すべからざるものなれば、人知いよいよ進むに従い、自滅の運命に会するは自然の勢いなりといえども、今日の程度いまだここに至らずとすれば、余は五行、干支の妄説を退け、論理学の推演法をしてこれに代用せしめんと欲するなり。これ、人文の過渡期に架する一時の仮橋と思うべし。たとい仮橋なるも、朽ちたる老橋を渡るよりもはるかに安全なることは、余が保証するところなり。