四季の歌
区のセンターで妻も歌う合唱祭が催される日、撮影しようと出かけた。6回しか練習してないので「来なくてもいい」と言われてはいたのだが、せっかくだから記録しようと思った。出演順が1番の妻が家を出たあとすぐ追うように50ccバイクを走らせた。
天気のよい日で気分もよく、人々が次々にセンターに吸い込まれていく。センターの駐輪場はいっぱいだったがすでに駐まっていた妻の50ccバイクの横に、少し狭かったが駐める。入り口を入ると案内の係の女性が二階への階段を手で示してくれそのまま二階へ。
ドア前で言われるままに記帳し、会場に入ると中は思ったより広く、舞台近くの席は出演する人たちでかなりいっぱいで純粋な観客は少なく、後ろ寄りの椅子に僕も案内される。あらかじめ記帳台近くの人に訊ねておいた撮影の可否は、席に座ってしばらくして条件つきでOKされ、携帯を横に構えて開始を僕は待つ。
センター長なのだろう、初老の男性の簡単な挨拶のあと40人はいるだろうか、妻の属するグループの大勢(おおぜい)が舞台いっぱいに並び、「シュラーフェ、シュラーフェ」とシューベルトの子守歌がドイツ語で始まった。
その曲は3番目だった。家で何回か練習しているのを耳にしてはいたが、男声も交えた合唱で「四季の歌」を初めて聞いた僕は撮影しながら図らずも涙ぐんでしまった。とくに4番の「冬を愛する人」のところで根雪にたとえられた《母》の部分でこみ上げてきた。撮影に集中して無心になっていた。それもよかった。
無心になることが少ない。無心になった時素直になれる。素直な自分が僕は好きだ。
2025/3/28