空っぽ
朝
「そろそろ散歩しようか」
「コーヒーでも飲もうよ」
「もうちょっとでね」
「ゆっくり歩いていこう」
猫のサファイアはリビングで大きなあくびをしました。
まだ寝てるの。
眠い。おおきなあくびで
「そろそろ出かけるわ、寒い」
「ゆっくりでいいよ」
「そんなことを言って、わたしをおいつめるのよ」
「わかった、でかけるよ」
リビングには明るい冬の日差しがさしていました。
「きょうはゆっくりおきてください、昨日無理に起こしたようだから、体操はします」
サファイアがソファーに座って、こちらをにらんで。
「馬鹿、駄目オヤジ」
とあくびをしました。
「出かけるか、ゆっくりにしよう」
私は、できるだけゆっくりと歩こうとしましたが、走れと言われて急いで大股で歩きました。喉が渇いていました。また明日も、ゆっくり歩くことができるでしょう。
「死ぬ―。疲れた」
家内は仕事から戻って言いました。
「お疲れ様、明日もゆっくり朝歩こう」
「うるさい、いうな」
「駄目オヤジ、またもめたな」
サファイアはあくびをしてこちらを見ていました。
「おはよう、今日もゆっくり歩こう」
「面倒くさい」
「コーヒーを飲んでからでいいよ」
「今日は歯医者よ」
「今日だったのか、虫歯の治療になったらまずい奴」
「ちゃんと直ぐ磨かないからよ」
「分かった」
「なんかいいってもちゃんとしないとこれだから、知らない」
ようやくわたしはめがさめてあるきはじめました。
「きょうもゆっくりでいいよ」
「いいからでかけるよ。早くしろ時間がない」
「さああるこうか」
「時間がない、走れ」
「今日お昼は、中華にしないか」
「お前稼げ、高くつくぞ」
「またもめたな」
サファイアは、リビングの窓辺であくびをしました。
「中華はやめて、できるもので食べよう」
「働かんのか、いつまでたっても、楽にならない、私の老後を返せ」
「わかった、ゆっくり一日を過ごそう」
「何考えているの、ちゃんと返事がない」
ご主人、今日はもめ方がすごいな、サファイアはあきれて、ベランダに逃げました。
「寒い」
「分かったから、今日もゆっくり起きて、パンとミルクを飲もう、そしてゆっくり散歩しよう」
「うるさい、時間がない、時間で動いているの」
「ごめんなさい」
サファイアは
「あーまたやった」
おおきなあくびをしました。
「ゆっくり歩くよ」
「走れ、時間がない」
「帰って、コーヒー飲もう」
「うるさい、顔が汚いんだよ」
サファイアはおいしそうにミルクを飲んでいました。
「うまそうな小鳥の声がするな、今日はわしを外に出せ、狩りをするぞ」
「あいつは私の友達だから駄目だ」
「鳥のおいしいのを昼に食べさせろ」
「家内に、お願いしておくよ」
「嘘をついたな、泥棒になるなよ」
グランドの道から甘い香りがしてきました。
「夕飯は、野菜のキッシュにしようか」
「もう夕飯のことを言うの、めんどうくさい。そこらへんの残り物を食べろ」
「分かった、ゆっくりしようよ、今度コーヒーを飲みに喫茶店に行こう」
「いいけど、時間がないよ」
「今日の風は目によくないから眼鏡をはずしちゃだめだよ」
サファイアは夕方ぐずったので
「夕飯まで待てよ、ドアを開けるから外に出て、ネズミを捕まえてくれたらうれしいよ。夕飯の時、いいのがあったら分けてやるから」
「わしは残り物か」
サファイアは玄関のドアから出ていきました。
「魚のフライになったが食べるだろう、ところでネズミはどうだった」
「最近の団地はごみの扱いがきちんとできているせいか、カラスもネズミも出てこんわ」
「残念でしたね、家内がのこしたあじのフライならたべるだろ」
「おまえまたもめんだろうな」
「十分です。間食をしたみたいだから、食べてくれ」
「今日はゆるしてやる」
「そうか、静かにしててくれ」
「うるさい、許したからといって、図に乗るな」
サファイアは、リビングでフライをしゃぶっていた。
「ごめん、きょうもおこってしまった」
「自分の好き勝手をやって、都合が悪いとわたしに無言のプレッシャーをかける。黙っとけ」
家内がそう言った時、
「お前、わかってない、わしも限界なんだ」
息子が突然起きてきて、怒り始めました。
私は、息子が私の手を離した時のことを思い出しました。
「明日は静かに歩こう、コーヒーと、ミルクを飲んで」
「明日はもちろん」
「ゆっくり歩こう」
「もう少しゆっくりして、夕方には散歩しよう」
「スースー」
また2時間は寝るな。
やっぱり今日も散歩できなかったね、明日は歩こう。
「ゆっくり起きてコーヒーとミルクを飲んでね」
「うるさい時間がない、走れ」
歩き終わってベンチで休んで言いました。
「左手開いて、パーにできないの。皮がむけて黴菌が入るよ」
「いたい」
わたしは今日はゆっくりできたとあんしんしました。
ベンチに座って、話したのも久しぶりでした。
ずいぶん春になった広場でした。
そのあとわたしはゆっくりあるきました。
梅の香りがバス通りにも香っていました。
「あー面倒くさい」
「ファイルを収納するボックスがったら使いたいのだけど」
「今度見ておく」
ベッドのわきの机の花瓶の、菜の花が黄色く咲いています。梅の枝の蕾もふくらんできました。一度グランドに雨が降ったようだけど、止んで小鳥の美織たちがコーラスを始めました。
「明日リハビリ、和樹に頼んであるから」
明日の午前は大丈夫だろうと思う。雨はまだ降っていないだろう。
「出来ないのか」
「今日に限って又そんな馬鹿なことを言う」
サファイアは居間の隅で、寝ぼけて
「またもめたな、駄目オヤジ」
わたしはへやにもどりました。
私は一日を無事に過ごせた、夕方の光はまぶしくレース越しに光っていた。
「ゆっくり起きて、歩こうよ、今日は、言わないよ」
「オヤジ、返せ、私の老後はこうじゃなかったんだぞ」
「うん、わかった」
「いうだけ」
「駄目オヤジ、またもめているな」
サファイアは、おおきなあくびをしました。
「今日は雨なので休みにしよう」
「うるさい走れ」
「わかったよ」
「いちいち、めんどうくさい、やらせとかないとめんどうだから、その汚い顔なんとかしろ」
「わかった、ごめん」
「今日はあまりしゃべらないよ」
「よけいなことばかりしゃべる人」
「またもめてるな」
サファイアはこちらをむいてにらんでいます。
「爺、頭は大丈夫か」
「パーです」
てれびで、テレビ体操が始まったので私が体操を始めたら、掃除の手を休めて、家内も楽しそうに体操を最後までやった。
「今日は踊り場が濡れているから、無しね」
わたしは、あーそうかと思って、
静かにスケッチを続けました。
「あれはどうなっているの顔が汚い」
「うん、わかった」
「いっているだけ面倒くさい早くしろ」
「ゆっくり歩くよ」
エントランスの壁の向こうに見えたのは霙交じりの雨の雫でした。
「階段だけ、さっさとやれ、やっとかないとうるさい」
階段昇降はリハビリで誰もが苦労すること。
「ゆっくりやるよ、ありがとう」
「走れ、どこを見ているんだ」
「おはようございます」
「おはよう」
美保さんが、笑顔で挨拶してくれました。
道は泥で汚れていました。
「あー面倒くさい、いってもしかたない」
「またゆっくり夕飯を食べに行こう」
「稼げ、私をいつまで働かせるの」
「またゆっくり歩こう、体操も」
「小雨、今日は部屋で歩くから、うるさいって言わないでね」
「うるさいまたかったろ、いい加減にして」
「でも、いいっていったよ」
「うるさい、私の老後を返せ」
「えーその紙は何」
「おねがいします」
「えー」
「すみませんよろしくおねがいします」
「今朝はゆっくりお願いします」
「えー面倒くさい」
「ちゃんと足を出せ」
靴の泥は大丈夫、杖が滑って焦ったが堪えました。
「帰ったら、コーヒーにしよう」
「めんどうくさい。いくよ」
「いってらっしゃい」
私はゆっくり昼にコーヒーを飲みました。ブラックで。
夜、ラインで「早く寝ろ」
「はい、風呂は」
「なし」
「了解」
コーヒーはゆっくり飲んだのですが、がっかりしました。
「おはよう、気を付けて出かけて、風に飛ばされるのはマフラー」
「うるさい、走れ」
「ちょっと、じゃま」
「はい」
「あっちにいとけ」
「あの、帳面は」
「昨日渡したろ、ボケたか」
「そうだった」
「おい、またもめてるな」
「サファイアは窓に飛び上がって、外を眺めました。
「ゴキブリ」
「アー」
「捕ってつぶさないで」
「たたくよ」
「走れうちの中はできてるでしょ」
「いきたくない、あー」
「ごめん」
「走れ時間がない。いつもやってるのにまったく」
「もうちょっとやるよ」
「杖は道につけ」
私は、茂みに、3回ついた
「厳しいの」
「黙って歩け」
しだれ桜の枝が伸びていました。
音の無い雪のグランド
「おーい。みんな帰るのか、暗くなって見えないよ」
「なげるぞ」
「まって、石は入れちゃあだめよ」
男の子と女の子の声が聞こえます。
「犬の太郎は走って逃げてるよ、みんなおいかけるろ。滑って転ぶなよ」
地面が白いのは見えるけど、もっといい目をつけてくれればよかったのに」
「雪ダルマ、うるさい。投げるぞ」
「太郎頼むよ」
「ワン」
「雪ダルマ」
「わしか、わしの名前は、ひげオヤジじゃ」
「ひげオヤジ、笑う。ハハハハハ」
霙の雨が冷たく降って暗くなっていきました。
翌日雪だるまは解けて消えてしまいました。
「わしは、ここじゃ、みんな元気で遊べよ」
雪だるまは空を見上げて、穏やかな笑顔になりました。
「雪だるまの声がしたよ」
「聞こえた」
子ども達は自転車で集まってきました。
「野球をやる」
「サッカーにしよう」
「いいよ」
雪だるまおじさんはにっこりと笑いました。美織も楽しそうに歌っています。
グランドには、春の風が吹いています。
雪だるまオヤジは、つちのなかでわらっていました。
今日のグランドも静かです。
風の音が、勢い良く聞こえています。
ようやく子供たちが集まってくる時間になってきました。
街灯もようやくつきました。
グランドは土埃でかすんでいました。
風が収まったグランドでは少年たちが楽しそうに野球の練習を始めました。お母さんたちは、真剣に見学しています。
「俺の出番は完全に終わったな」
雪だるまオヤジは静かに眠りました。
桜の美保さんの枝についた芽もずいぶんふくらんでいます。
「みんな楽しそうに野球を始めたな。わしはここで見ているぞ」
グランドは広く、温かい風が吹いています。
こどもたちはぐらんどで「やー」といいながらかけています。うめのかおりがやってきました。
「春だ」
「やったー」
おねえさんのこえがひびきました。
おとこのこたちはびっくりしてふりかえりました。
「おーい、パス」
「お姉さん、どっちのチームに入るの」
「あっちのゴールに向かっていくの」
「じゃあこっちだ、蹴るぞ」
「やった―のお姉ちゃん。ゴール」
「えい」
「やったー。」
子ども達は歓声を上げました。
肌寒いグランドではおじさんたちのゲートボールが始まりました。
小鳥の美織は空高くで歌っています。
お昼前に少し雨が降って、グランドは落ち着いています。
グランドはまた静かになりました。カラスの小次郎はグランド太郎にとまって鳴いています。
「アホウ」
グランドのゲートボールはすでに、始まっておじさんたちが元気に集まっています。
美織も元気に歌っています。
朝一番で見た雪はもう解けて、ぐらんどにしみこんでいました。
新芽輝く季節
グランドの森の木は。ようやく笑顔になってきました。
グランドの風は優しく歌っています。
今日の雨も優しくグランドを湿らせています。静かなグランドです。美織君は歌っています。
静かにとうめいな雨の雫が、グランドの土を凍らせています。
グランドの横の道を時々鮮やかな傘が道の上を横切っていきました。
グランドの緑もようやく色ずいています。
グランドは昼を過ぎても、静かです。遠くで、鳥は鳴いているようです。
グランドの入り口の木立で鳩たちが集まってにぎやかに話をしていました。
今日のグランドも凍っているようです。
霙交じりの雨の雫が今日もグランドを癒しています。
すっかりグランドのあちらこちらには水たまりができて、白い空を映しています。
道のわきの木々から、あさのひかりがさしていました。
水溜まりが、乾いたグランドでは、子供たちが野球の試合をしています。
グランドの森も芽生えています。
今日のグランドには小雨が降って、美織君が、一人で歌っています。
冷たい雨の雫は、グランドの森に、静かに落ちています。
みおりくんはうたっていました。
グランドはようやく乾いてきました。
おじさんたちのゲートボールの音がグランドで、乾いた音を鳴らしています。
「カチン、コツン」
「オー、オー、ワッ」
明るいグランドで子供たちが遊んでいます。
夕方になっても風が強くグランドをはしっていました。
「おいビニールが」
「ボールは」
こどもたちはげんきにはしっていました。
グランドの木立の枝はユラリユラリ揺れています。
グランドは静かです。
グランドには冬の香りがかすかに残っていました。雪ダルマおじさんはきっとわらっているでしょう。
「おーいどうした」
「とんでいっちゃった」
子ども達はグランドで風のようにかけっています。
グランドの土は乾いています。道に落ちた木の葉は緑になっていました。
今朝はおじさんたちがすでに、ゲートボールを始めていました。
風と森と広場
タタタタ、トトトト。
「意地悪、ズルはだめ」
「挟みうちはなし」
「一人狙いもダメ」
「粉―雪」
「ねえ君たち小学3年生」
「あたり」
私はスケッチを静かにしました。
女の子たちは、時間を忘れて追いかけっこを楽しんでいました。
トトトト、ダダダダ。
「おーい」
「なんだ」
「ひきょうだよ、にげてばっかり」
「つかまるよ」
私は静かにスケッチを続けました。
女の子たちは広場いっぱいにかけっこを続けています。
サファイアは気持ちよさそうに日向ぼっこをしていました。
「君たち寒くないのか」
「寒い」
「かけっこをもっとするとあったまるよ」
私はかじかんだ手をポケットに入れました。
「おじさん、寒いの、一緒に走る」
「おじさん杖で歩くから、ゆっくり行くよ」
「やったー。粉―雪―」
「駄目オヤジ、調子に乗るな、またもめるぞ」
猫のサファイアが広場の端に寝そべって、私をにらんであくびをしました。
私はその後、森の道を歩いた。
「おじさん、またね」
「転んでも大丈夫、美織君が助けてくれるよ、歌が好きだから、歌ってあげて」
「粉ー雪」
「君たち向こうの広場に行ったほうが広いよ、粉-雪」
「あ、鳥がしゃべって歌った」
「そいつは俺が狙っている奴だ」
サファイアは気持ちよさそうに芝生に横になってあくびを書きました。
私はゆっくり森の道を歩いて、あーあの木、姿がいいので、書いてみようと思って、ベンチに座って、鉛筆と紙を取り出しました。
「おじさん、木を描いてるの」
「君も描いてみる」
「クレヨンがないよ、紙もない」
「地面にかけるよ」
「あっそうか」
女の子は落ちていた枝で、乗り物を書きました」
「何しているの」
「追いかけっこは、タイム」
「私も描く」
女の子たちは両手で枝をもって、体ごと地面に大きく思い思いの絵を描き始めました。
「なんだ、静かになったな」
サファイアは、寝ぼけてあくびをしました。いい日向ぼっこみたいです。
「粉ー雪、気持ちいいぞ」
小鳥の美織は、高い声を伸ばして歌っていました。
「みんな風のように走っています。
「粉ー雪」
道の向こうに広場が見えました。桜の美保さんも元気で、沙織は歌っていました。そしてサファイアもあくびをして目が覚めたようです。グランドでは、サッカーボールをけって楽しんでいる、若い人が汗を流しています。
広場は今、月明かりに照らされています。サファイアはまだ気持ちよく眠っています。おなかがすいたらけるでしょう。
「駄目オヤジ、わかっていないな、これから、ネズミが出てくるんだ。わしはまだ目が見えるからちゃんと捕まえる」
サファイア今日の帰りは深夜になるんだな。風邪、ひくな。
女の子たちは、もう夕飯を食べて、宿題をやっています。
「何これ、先生、これはもうとっくにやったやつよ、もう終わったわ、粉―雪」
女の子は気持ちよく歌いました。美織君は窓の外から見ています。
広場から女の子たちの声が聞こえています。美織君も気持ちよく歌っています。サファイアもようやく目を覚ましました。
女の子たちの描いた地面の絵が、踊っています。
サファイアはようやく目を覚まして帰ってくる頃です。
みちのむこうに広場がみえます。女あの子たちはすこしずつおおきくなります。美織くんは歌を歌っています。サファイアはねぼけて、
「おやじまたもめたな」とおおきなくびをしました。
今日も広場は明るい日差しがさしていました。
「早くおいで」
「お姉さん待って」
「いいよ。粉―雪」
「また、歌った」
小鳥の美織も気持ちよさそうに歌っています。
「お姉さん、かけっこ早いね」
「学年一番よ」
「すごーい」
「さあ走ろう」
美織は気持ちよさそうに空に向かっていきました。
広場ではきょうもかけっこが始まります。美織君も嬉しそうに歌っています。
「お姉さん、逃げて行かないで」
「追いかけておいで」
「転んじゃう」
「手をつなぐよ」
「嬉しい、粉ー雪」
「粉ー雪」
美織君たちは、喜んでコーラスしています。
曽於時年の離れた姉妹が歩いてきました。
「チョコ食べる」
「お姉ちゃんダイエットは」
「食べないの」
「オレンジジュースを飲む」
「じゃあ、コンビニで買ってベンチに座って飲もうね」
「お姉ちゃん、チョコ食べた後かけっこしたらいいよ」
「わしは、飲めんのか」
サファイアがぼやいたので、
「おまえジュースがほしいのか」
「ジュースは飲まないチョコだ」
「家内が持っているからもらってくれ」
「またそれか」
窓を見ると、夕陽がグランドを照らして、姉妹がベンチでならんですわって、ジュースを飲んでいました。
「お姉ちゃん、かけっこ」
「いくよ、転ばないでね」
「追いかけるよ」
「いくよ、粉ー雪」
風が吹いて、木の葉が舞い上がっています。
ふたりは、手をつないであるいていきました。
「お姉ちゃん、おいしい」
「ゆっくり飲んでね」
「チョコ食べて走ろう」
「ゆっくり飲んでね、チョコはたくさんあるからゆっくりでね」
「お姉ちゃん走るときは早すぎるよ」
「御免ゆっくり走ろう、ダイエットにはゆっくり長くね」
「ゆっくり食べる」
「チョコいいな」
サファイヤがつぶやきました。
「今日は風が見たいけどベランダに出るか」
「チョコを食べる。昨日もらったのを取っておいたんだ」
「お前、利口だな、すぐに全部食べなかったんだ」
「お前のような馬鹿じゃない。今朝ももめたろ」
「お姉ちゃん、学校楽しいの、彼氏いるの」
「おませちゃん、学校は楽しいよ、女子同士で仲良しだよ、先生美人で優しくてかっこいいし頭が切れるの、滑らないジョークがうまいの」
「じゃあ、楽しいね」
「手をつないでゆっくり走るよ、チョコはもう大丈夫、まだ食べる」
「いい、かけっこ」
姉妹はゆっくり森の道を走り始めました。
森の道に二人の笑い声が響いています。
「明日もお出かけよ、ジョンをつれて」
「嬉しい、犬のジョンも一緒。粉ー雪」
「まねっこ」
「歌って」
小鳥の美織も倒しそうに歌っています。
「お姉ちゃんリード貸して」
「気を付けるのよ」
ジョンは嬉しそうに振り向きました。
「ねえ、お腹すかない、お昼の時間よ」
「かけっこしたらお腹すいた。ダイエットできた、お姉ちゃん」
「お昼にする。もう一度コンビニでおにぎりかサンドイッチを買ってベンチで食べましょう」
「ミルクも欲しい」
「私はコーヒーにするわ、ブラックで」
「私もミルクブラックで」
「まあ、新商品ね」
「ジョンのも」
「そうね」
「ワン」
二人と、ジョンはベンチでお昼にしました。
ジョンはうれしそうにしっぽをふりました。
「お姉ちゃん、食べたらかけっこ。粉―雪」
「こら、またまねっこ」
小鳥の美織も嬉しそうに歌っています。
二人の姉妹は手をつないでゆっくりと、歩き始めました。
「走るよ」
「よーい、どん」
「ジョンついておいで」
「粉ー雪」
二人は楽しそうに歌っています。美織も元気に飛び立ちました。
カラスの小次郎が
「アホウ」とひとこえあげました。
「蹴ってやれ、ジョンかかれ」
「お前馬鹿か、俺は爆弾うんちがあるぞ」
「小次郎さん、ごめん」
お姉さんはあやまりました。
「お前、俺の名前知っているのか」
「小次郎さん危険動物で手配されているよ」
「そうだったのか、退散」
「アホウ」
小次郎はそういって飛び上がりました。
小鳥の美織も楽しそうに歌っています。
広場委は子供たちが集まって飛び跳ねてかけっこをしています。
「今日は本当にゆっくりかけっこよ、手をつないでね」
「おーい、蹴るぞ」
小次郎はびっくりしました。男の子はサッカーボールをけって遊び始めました。みんなひたいにあせをかいています。
子供たちの歓声が。遠くの空まで響いています。小鳥の美織君は、たかいこえでうたっています。
広場は子供たちが飛ぶように走っていきます。
「お姉ちゃん、ベンチでジュースを飲もう」
「バス通りのコンビニで、ミルクを買って飲みましょう」
「やったー」
「お姉ちゃん、いい香り」
「梅が咲いたね」
「やったー。粉ー雪」
「歩いていくよ、ジョンを連れてきて」
「ジョンおいで」
「あ、傘を一本買っておきましょう」
「雨降るかな、降ったらベンチは使えないよ」
「じゃあ、おうちに帰ってから、遊ぼうか」
「でも、かけっこはしたい」
「もう少し大丈夫だから、手をつないで」
二人はコンビニに向かいました。
「お姉ちゃん、食べよう、これなら体重大丈夫だね」
「食べようね」
二人はベンチに並んでお昼を食べました。
「お姉ちゃん、みんなかけっこ」
「かけっこするの」
「うん、ジョンを連れてかけっこ」
「じゃあ、手をつないで」
「うん」
「行くよ」
「ジョン、行って」
「駄目よ、リードは離さないで」
「お姉ちゃん、ジョンは利口よ、帰っておいで」
「ワン」
「ほら帰ってきたよ」
「駄目よ、おじさんたちが怖いって」
「わかった、ごめんなさーい、おじさん」
女の子は大きな声で謝りました。
「お姉さんの言うことを素直に聞いたね、お姉さんにありがとうって言って」
「お姉さん、ありがとー」
「いい子だ」
「おじさん、ありがとう、まだ絵は描いているよ」
「ありがとう、気を付けて走ってね」グランドの風は優しいよ」
「雨になるから今日はおうちでね」
「はーい」
とうめいな雨の雫が静かに広場に沈んでいきます。
「おじさん、またスケッチ見せてね」
「雨が止んだらね」
「バイバイ、またね」
「またね」
「ジョン、おじさんに、バイバイまたね、は、」
「ワンワーン」
「そうか君もまた会おうね」
「お姉ちゃん、お絵かきおうちでもしようね」
「そうね」
お姉さんはグレーのスカートをつまんでゆっくり歩き始めました。
女の子は三つ編みのおさげをつかんで、
「バイバイ」と手を振ってくれました。
お姉さんは丁寧にこちらに顔を向きなおしてお辞儀してくれました。
その顔は、豊かな白で、少女から女性になったことを教えてくれるものでした。私は杖を振って、
「また、願いします」とあいさつした。
姉のほうははもうすでに高校生になっているようだった。
「おじさん、またよろしく」
妹はちょこんと頭を下げました。
広場の向こうの森は明るく輝いていました。
「また、あいましょう」
私は心の中で、声をかけた。
霙の降る広場には、地面に描いた絵が、遊び始めているでしょう。
「きみたちおうちでそんでいるね」
「あそんでいるよー」
「おじさんありがとうございます」
お姉さんは、几帳面にお辞儀してくれました。
「ありがとう、またあいましょう」
私は、霙が降る窓の向こうに広場を眺めて、姉妹のことを思っていました。
「おはよう」
姉妹の姉が、私の横を駆け抜けました。
「あ、おはようございます」
振り向いて、しっかりお辞儀をしてくれました。細くてふくよかで端正な顔立ちでショートヘアーが健康的な、じょせいがたっていました。
私は慌てて、杖を滑らしました。
「この道、まだ濡れているから、気を付けてね、とめてごめん」
「いえ、また、絵のことを話してください」
「妹さんとゆっくりね、家内が後ろで笑ってるよ」
「おじさん、面白い」
私はそばの桜の木を指さして、
「この美保さんも、笑っているよ」
「美保さんって、もう一人そこに誰かいるの」
「美保さん、この桜の木ですよ」
「おじさん、やっぱり変」
「笑うか」
「へへへへ」
「この美保さんよく描いているんだ」
「え、聞いていない、ちゃんと言ってからにして」
「ほら美保さんい怒られた、今度ちゃんと見てもらうよ」
「ちゃんとしてないと、殴るよ」
「おじさん、なんだかお話が弾んでいますね、また、私はもう一周します。今度マラシオン大会に出場するんです」
「がんばってね、怪我しないように」
「おじさん、ありがとうございます」
「私はうちに帰ってゆっくりコーヒーを飲みます。」
「砂糖は」
「なし」
「ミルクは」
「なし」
「じゃあ、ブラック」
「そう」
がく。
「ハハハハハ」
「やっと笑顔をみせてくれましたね」
「妹さんやんちゃで、いいですね、がんばってください」
「ありがとうございます」
冷たい小雨の日足元に気を付けて私は歩き始めた。
私は、自宅の窓を眺めて、グランドの森の木々が静かに佇むのを見ていた。
姉妹は、カラフルな傘を持って手をつないで歩いていた。
気が付いたのか、おさげの妹が手を振ってくれた。
「濡れるといけないから前をみてね、犬のジョンも心配そして振り返ったよ」
「ありがとうございます」
暖かな肌の色で、姉は丁寧にお辞儀してくれました。
「また雨が止んだら会いましょう」
「おじさん、よろしく」
お姉さんが丁寧にお辞儀してくれました。
今朝は曇っていて寒そうだから、ゆっくり走っておいで。
「私は体操をしていきます」
「おはよう」
「おはようございます」
今日はゆっくり歩いて、姉があいさつしてくれました。
美織君も歌っています。
頭のうえで桜の美保さんが笑いました。
「お姉ちゃん、話したの」
「おじさんがまたねって」
「またねー」
赤いスカートにボーダーの白いセーターを着た三つ編みお妹が、こちらに向かって手を振っています。
「またね」
「おじさん、風が気持ちいいよ」
「枝が飛んで来たら危ないよ」
「お姉ちゃんが、守ってくれる」
「お利口にしてね」
「おじちゃんバイバイ」
「さようなら」
一年前はなかった道と広場です。今ではたくさんの人たちがゆっくりと歩いて、生活を続けています。
「おーい、まだかよ」
「いっちゃたよ」
男の子たちの声が聞こえてきます。
「おはようございます」
「おねえちゃん」
「おじさんいご挨拶は」
「おはようございます」
道の向こうに、アサヒが当たっています。
「いってきまーす」
姉妹は階段を手をつないでかけておりました。
「いってらっしゃい」
朝の支度をみんな忙しくしています。
お姉さんは、今日もマラソンの練習でグランドを走るみたいです。
「おはよう」
「おはようございます」
「汗を流しているね、マラソン応援するよ」
「ありがとうございます」
かみをなびかせてお姉さんはおじぎしてくれました。
2024/2/29