夜中の風
月明かりに、一枚の葉が待っています。
月はそれを見つけて言いました。
「ここまでおいで」
「うん」
葉っぱは笑顔で答えました。
「いいよ」
「ゆっくりね」
「風に乗ってね」
森は月に照らされています。
「コーン、コーン」
キツネが鳴いています。
「コーンコーン」
ノックしました。
「おや、おはよう」
「おはようございます」
空は薄くなっていました。
「おばさん」
「ああ」
「ここはどこ」
「とっても甘いの」
「食べるの」
「そうだよ」
「いいの」
「ああ」
おばさんの口はとんがっていて舌がベロと口を舐めていました。目は細くてお尻からしっぽが生えていました。
「食べるよ」
「甘いの」
「そうだよ」
「早くおいで」
部屋の真ん中で鍋がぐつぐつ煮えていました。
「早くおいで」
月が言いました。
「夜が消えないうちにおいでよ」
「うん」
「風に乗っておいでよ」
「狐さんはお腹がすいているんだよ、鍋に落ちないようにね」
東の山から太陽がさしてきました。
「あー夜が消える」
鶏が鳴き始めました。
「コケコッコ」
「ニワトリさん」
「コッコ」
「朝ですか」
「はい」
「狐さん」
「何だ」
「鍋が煮えていますよ」
「自分で落っこちろ、ニワトリさん」
「コッコー」
「チクショー飛べないんだよ」
「面倒だな」
森から水蒸気がわいてきました。
キツネはちらっとフクロウを見ました。
フクロウのやつ、下を向いたな、エイッ、キツネは、飛び上がって草むらを一気に飛び越えました。
「いて、チュー」
キツネはネズミを咥えました。
フクロウは
「またやったな」
と思って一気に降りてキツネの頭をつかんで飛び上がりました。
キツネはあわててネズミを放してしまいました。
「あー鍋だ」
キツネは
「やめろー」
と声を出しました。
「うるさい、落とすぞ」
「ヒェー」
キツネは鍋に向かって急降下しています。
ヒュー、バシー、
キツネは急に空に向かって飛んでいきました。
人間が気が付いて、
「こいつ騙したな」
と言って狐を思いっきり蹴り上げたのです。女性のハイヒールの先がもろにお腹に当たって、ものすごい血がビチャーと飛んでいきました。
バタ、キツネは床に落ちてせんべいのようになりました。
ネズミは、
ウッヒャーと喜びました。
バシ。
ネズミのお腹にすごいパンチが飛んできました。
「ホーホー」
フクロウは、
「今度はミケのやつか、しかたない」
と笑いました。
ネズミは慌てて木の葉の山に逃げ込みました。
ミケは、「にゃー」
と言ってネズミを咥えました。
「あらミケちゃん」
「はー」
「お姉さんがこっちを見ています」
ミケは慌ててネズミを放してしましました。
キツネはすかさず狙いましたが、
「キツネめ、ろくな奴じゃアないな、しっぽを切ってしまおう」
人間は怖いな、木の葉は思わずのけぞってしまいました。
「毛皮がやってきた」
「皮をはいで」
人間の女性は冷徹でした。
「やるか」
男はキツネの首を切ろうと包丁を持ち出しました。
「ちょっと待って」
女性はアルコール消毒を思いっきりシャーとキツネの全身に吹きかけました。
そしてアルコール液のたっぷり入った洗面桶をそばに置きました。
「アルコールに漬けて。口と鼻をふさいでみて」
「ああ」
男はキツネの首を縄で絞めて桶に狐の、顔をぶち込みました。
「完成」
「しっぽは八つあるはずだ」
「八つしっぽをださなければ殺される」
「そうだ一本では化かし狐にならんぞ」
「ひどーい」
木の葉は青くなってしまいました。
まだ月明かりですが東の空が明るくなってきました。
「起きよう」
「うん」
「キツネは」
「しっぽが小さいよ」
「しかたない」
「洗ってやっただけだ」
「キツネは切らないで捨てよう」
「捨てるんか」
「しゃべったな」
「化かすぞ」
「あっちへ行け」
バッコーン。
男は思いっきりキツネの尻をけり上げました。
キツネはヒューッと西の空に飛んでいきました。
「シャワーにする」
沙耶香はするっと服を脱いでシャワーに向かいました。
健司は寝たまま、沙耶香の白い肌を眺めていました。しまった白いお尻に細い脚、ちょっと膨らんだ胸の形がとてもきれいです。
健司は、少し眠ってしまいました。
お湯を沸かしておこう。
スープを温めておくよ。
健司は朝食の支度をしました。
沙耶香はバスルームから出てきて体をバスタオルで包んで髪を拭きました。
「おはよう」
「月がきれいだ」
「晴れるのね」
「うん」
「スープ」
「うん」
「コーンとミルク」
「違う、ニンジンとミルクとポテト」
「はい」
「できたの」
「うん」
「起きなよ」
「うん」
健司はベッドから立ち上がりました。
森から、静かな風の音が聞こえてきます。
木の葉は、しばらく風に乗って飛んでいることにしました。
「私出ていくわ」
「え」
「これからすぐ」
「うん」
「そう」
「退屈でしょ」
「そうかな」
「もう飽きたのよ、出ていくよ」
「そうか」
沙耶香はトーストを片手でかじって、身支度を整えて、スープを飲んで言いました。
「何さぼっているの、枯葉がたくさん玄関にたまってるのよ」
健司は、しょうがないけど、と思いながら伯耆をもって玄関に向かいました。健司は玄関にたまった枯葉を丁寧に集めて放棄で履いて、風に飛ばされないように、落ち葉を拾い集めました。
沙耶香は素足にハイヒールを履いて洗面で歯を磨いて顔を洗っていました。
「出ていくんだ、とうとう」
健司は、ほっとしながら寂しくなりました。
それを見ていた木の葉は健司に、
「早く、摑まって」
と言いました。
健司は
「うん」
と言って木の葉につかまりました。
ビューン、
つむじ風が、突然やってきて、木の葉は、急上昇していきました。
健司は森の向こうの街を見つめました。
「沙耶香さんは」
「出ていくらしいので、いいよ」
「違うよ、わかってないな」
「え」
「これから出かけるから誘ってごらん」
「沙耶香、おいでよ」
「出ていくのよ」
「そうか」
「やっぱり一人で出ていくよ」
「違う、食事に誘って」
「さっき食べたばかりで怒られちゃうよ」
「お昼まで、時間はあるよ」
「ああ」
「沙耶香、お昼まで公園で遊んで、ショッピングに出かけよう」
「悪くないね」
「ほら」
木の葉は下りて沙耶香さんの前に行って、
「摑まって」
と言いました。
「かわいい、木の葉さん、ありがとう」
木の葉は、森から来た南風に乗って。飛び上がりました。
二人は森の向こうのグランドのベンチを見つけて、
「あそこ」
「はい」
木の葉はグランドのベンチに向かって降りていきました。
二人はグランドのベンチに座って、東の空を眺めて、
健司は言いました。
「この道一周しよう、ジョギングで」
「馬鹿、ハイヒールよ、私を背負って走って」
「えー」
「早く」
健司は沙耶香を背負って、走り始めました。
沙耶香は木の葉を手で、掴んで、髪にヘアピンで留めました。
健司は、沙耶香を背負って次のベンチまで走っていきました。
「お腹すいた」
「えー」
「揺れすぎてダメよ」
沙耶香は、目が吊り上がって怒っていました。
まずい、と思った瞬間、沙耶香の平手打ちが健司の顔面に飛んできました。
「落とすなよ」
沙耶香は怒鳴りました。
「わかったよ、何か食べよう」
「うん、喫茶バラ」
「ああ」
「もう腹が減ったか」
「腹はあるぞ」
聞こえてしまった。
「何か言ったか」
「いいえ、まいります」
「イケー、車に抜かれるとは許せん、バシ」
ヒールのかかとが健司のわき腹に突き刺さってしまいました。
壁に沿って、弦のように咲いている黄色いバラが見えてきました。
ご主人がホースで庭に水をまいています。おおきな芭蕉の葉がゆらり、ゆらりとゆれています
ブドウの実のレリーフが、彫られたドアの前に着きました。
白い壁の中央に、ちょうど健司の背の高さほどの引き戸になっています。
「ちょっと待て」
沙耶香が言いました。
扉の引手に手をかけた健司は一瞬固まってしまいました。
「降ろせ」
健司は腹に刺さったハイヒールを外して沙耶香の足に履かせました。
「よし」
健司はゆっくり沙耶香を下ろしました。
「よろしいでしょうか」
「馬鹿、店の中で敬語を使うな」
「私がお前をいじめてると思われては、格好がつかん、なれなれしくするなよ」
「はい」
「よし」
沙耶香は扉を開けました。
暗くなった店の中央には、観葉植物の庭がありました。北側には大きなガラス窓があって。庭が明るく見えています。
健司は中に入ると、奥のカウンターに向かいました。
「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」
ご主人はカウンターの中央の少し右の席に案内してくれました。
「こちらです」
「ばか、言い直せ」
「え」
「わかるまで呼ぶな」
「あのー」
「なんだ」
「こっち」
「うん」
二人は席に座りました。
「どうぞ」
ご主人は水を置いてくれました。
沙耶香はぎゅっと握ってグラスを取ってグイっと飲みました。
「うまいな」
「ありがとうございます」
「ホットサンドのモーニングセットで、ピーナッツは別の皿にして」
「はい、少しお待ちを」
「あのー早めに」
健司は小声で言いました。
「余計なことは言いうな」
「すぐお待ちしますから、とりあえずこれを食べてください」
「ご主人は、ゆで卵二つと別皿にピーナッツと、ビスケットを載せて沙耶香の前に置きました。
沙耶香はそれを、ほおばって食べ始めました。
健司は、おそるおそる
「落ち着いた」
と聞きました。
「まだ足りん黙れ」
「あーあ」
健司はうつむいて涙を流していました。
「怖い」
つぶやきました。
「お待たせしました」
ご主人がコーヒーを置いてくれました。バラの図柄のカップです。
「砂糖と、ミルクは、無しで」
「はい」
二人はゆっくりモーニングをいただきました。
「うっぷ」
沙耶香はお腹をこすっています。
「お前、生き返ったか夕べ青くなって凍っていたぞ」
「はい、怖かったので」
「だからお化けは出ないといったのに」
「出ますよ、ほら」
ご主人が芭蕉の葉を指さしました。
「ギョエー」
健司は叫びました。
長い髪の白い着物を着た美人がこちらをにらんでいます。
「大丈夫ですよ、心配してきたみたいですから」
「ああそうだよ」
「お母さん、いいよ」
沙耶香が言いました。
「なんだ」
「そろそろ行くぞ」
「うん」
「よし」
二人は、代金をご主人に渡して、席を立ちました。
「ありがとうございます、またどうぞ」
「ええ、ランチにまた」
と言って沙耶香は入り口に出ていきました。
「健司早く。とろとろするな」
「はい承知しました」
健司は口をもぐもぐしながら小走りで出口に向かいました。
「町でショッピングですね」
「ええ、どこかいいところに」
「はい」
「はあはあ」
健司がたどり着きました。
「つむじ風です。早く摑まって」
健司と沙耶香は木の葉につかまりました。
見下ろすと暮らしの動きが見えてきます。
学生やサラリーマンはバス停で、並んで静かに待っています。その横を猫がみゃーと言って歩いています。
眠そうにあくびをした主婦がごみ袋を両手に抱えて、ゴミ捨て場に向かっています。
「チュー」
ネズミが袋に目を付けたようです。
マグロの刺身を残したな、しかもかなりの上物だ。
わきでカラスが耳を立てて聞きました。
しめしめ、鼠は思いました。あいつ袋を嘴でやぶるぞ。
「ア、ホー」
バリ。
カラスは一撃で袋を破って、嘴でつつきましたが刺身は出てきませんでした。代わりに光るものを持ち出したら中に、ポテトサラダがへばりついていたので食べ始めました。コロ、袋からカキの実が落ちてきたので、カラスは飛びついて食べました。
「へへーん」
カラスは鼻高々です。
「チュー」
ネズミは素早くカラスのあけた穴から袋に入って、マグロの刺身を咥えて出てきました。
「このー」
ごみを持ってきた叔母さんが、カラスの頭を伯耆でぶん殴りました。
カラスは、気絶して夕方まで道で寝ていました。
バスが来ると列の人はみんな順番にバスに吸い込まれて、バスは駅に向かって出発しました。
「キツネは来ないね」
「ええ」
健司はやっと、世界の中で生きているんだなと思いました。
「さあ、いくよ」
木の葉は追い風に乗って急ぎました。
「ここだ、降りるよ」
街路樹が、風に揺れています。
立ち食いソバの汁が匂ってきました。
大きなガラスの引き戸を開くといきなり大きな本棚が、天井に刺さるように並んで、入るなと拒んでいました。
「ここだよ」
木の葉が言いました。
「ここ?」
「うん、探してたでしょ、一日中、どっぷりいってみたいって」
「健司そんなことを言ったの」
「夢の中で何度か書店で迷子になったんだ。探している本があるはずの棚が消えていたんだ」
「ふーん、これかな」
沙耶香が棚から一冊の本を抜き取りました。
厚い表紙の本でした。
表紙には、象の頭の骨を描いた絵が金のエンボスで装丁されていました。赤い紙の表紙です。
健司は、
「これって、」とつぶやきました。
「見れば」
沙耶香は健司に本を渡しました。
健司はドキドキして本を開きました。
「良かった、日本語だ。翻訳されていたんだ」
「何言ってるの」
沙耶香は不思議なことばかり言うなと心配になりました。
「これ、15世紀のフランスで出版された百科事典の日本語版だよ」
「へー」
健司は裏表紙をめくって、調べてみました。
1912年金印堂。
「へー、そんな昔にこんな印刷がされてたんだ。
「あれ、そうか」
よく見てみるとその下に、1950年復刻の文字がありました。
それでも80年近く前の本だ。ページの上のほうに値段が鉛筆で書かれていました。
「これだと買えそうだよ」
「良かった。久しぶりに笑ったね」
沙耶香の髪の上で木の葉もにっこりと笑っていました。
「これは、私もいいと思うよ」
「え、付いてきてたの、詐欺師でペテン師の神様」
「呼んだろ、お化けがいたんだろ助けてって言ったよな」
「ここで呼んだんじゃあないよ」
「すまんな私も本を探していたんだ」
「悪魔の本」
「いやダンテの神曲だ」
「これ」
沙耶香が棚から一冊の本を抜き取りました。
ペテン師はそれを受け取ってみました。
表紙に神曲と書かれていました。
「違う私の探している表紙の本ではない」
「なんだ、わかんないわ」
ペテン師は、本棚の上のほうに飛んでいきました。
「なんだあいつ」
「どうするの」
「買うよ」
「そう」
健司は、本をもって奥のカウンターに向かいました。
「あのー」
カウンターの机に肘を立てて眼鏡を鼻までずらして、時代遅れの油で固めたオールバックの髪をした男の人は、気持ちよさそうに寝息を立てていました。
「お、あー」
「これ買います」
「これな」
と言いながら男の人は本を受け取りました。
「これ、よく見つけたね、この本は僕も探していた好きな本なんだ、先週仲間が売りに出したんで、すぐに買ったんだよ、10年待っていたんだ」
「へー、それを僕に売ってくれますか」
「君なら大切に読んでくれそうだからいいよ」
「へー」
健司はポケットから支払いのお金を出して渡しました。
「あーありがとう。ちょっと待ってくれ」
男は本にカバーの紙を丁寧に折ってつけてくれました。
そして、木の葉の形をしたカードを机の引き出しから出して、万年筆で「和顔愛語」と書いてページにさしてくれました。
「へー」
「大事にしてくれよ」
「はい、和顔愛語は亡くなった父が一番大切にしていた言葉です」
「私も一番好きな言葉だ君に捧げるよ」
「ありがとうございます」
と健司は言って本を受け取りました。
「あー、無いな、教養のない主人だ」
本棚の上のほうで男の声が響いています。ペテン師でした。
「これお願いします」
沙耶香が一冊の本をもってきて出しました。
「ホ~、今日は珍しく忙しいな」
と男は言って本を受け取りました。
「あれ、御嬢さんこの本、」
「ロマネスク美術の画集ですよね」
「研究していますか」
「いいえ、好きなだけです」
「へー、最近はやらない時代なんで、50年持ってないとこの本が売れないかなと思っていたんです」
「沙耶香いい本見つけたね」
「ありがとう」
「お二人お知合いなんですね」
「ええ、少し」
沙耶香は答えました。
「今日はいいご縁で本を嫁に出すことができました」
と言いながら男は本を受け取って、表紙に、きれいな紙を折って、カバーにしてくれました。
そして、机の引き出しから木の葉の形をした、カードを出して、万年筆で、感謝、幸せにと書いて本にさしてくれました。
「これは栞です、使ってください」
「ご主人素敵」
「これ、見て」
と言って沙耶香は髪に止めた木の葉を掌に載せて差し出しました。
「ご主人」
健司は驚いて言いました。
「ええ」
「すみませんでした、留守番をしてる人かと思いました」
「ええ、そんなものです」
「かわいい木の葉ですね。お二人これからまだ買い物をされるなら、重いでしょう、お送りしますが」
「いえ、持ち帰ります」
「そうですか、大事にしてやってください」
と言って本を沙耶香に渡してくれました。
二人は手をつないで、店の外に出ました。
通りにはもう、シャツとブラウスを着た、会社員の人たちが片手に財布をもって、昼の店に急いでいました。
「お腹すいた」
「え、ヤバイ」
「帰りましょう」
「何か食べよう」
「うん、蹴りたい」
健司は急いで沙耶香を、カレー屋さんに連れていきました。
「早く頼んで」
「カレー大盛りと小盛り」
「はーい、急いで」
「このー」
沙耶香はテーブルの下で健司のすねを思いっきり蹴り上げました。
健司は顔をゆがめましたが、「サラダと、コーヒーホットをつけてください」
「珍しく気が利くなお前の払いだ」
店の奥から
「はい喜んで」
という声が聞こえてきました。
「お前払えよ」
「はい」
「どうぞ」
カウンターの上にカレーとサラダとコップの水とスプーンが並びました。
沙耶香は一気にカレーとサラダをすすって飲み込みました。
「えー」
健司は驚いてカレーをスプーンですくって食べました。5スプーンまで行って、一口残っていました。
「トロイ、またシャツを汚した、殴るぞ」
健司は腫れた頬を触って、まだ歯は生きてるなと確認しました。
健司は、
「すみません、やっと食べました」
「おい、急げ、腹が減った」
「え、もうですか」
「ああ、たった一皿じゃ、ナン3枚」
「まだ食べるんですね」
「おまえがくいおわるまで食うわ」
「助かった、ゆっくり召し上がってください」
「お前が早く食わないと喫茶バラのランチに間に合わん」
バシ。
顔面にハイヒールキックが命中しました。
健司は必死にスプーンでカレーを掬いました。
「なんだその目は」
「はい、食べます、すみません」
道にあふれていた会社員は、そぞろに買い物をしているようです。
道の向こうの坂道が、穏やかに広がっています。
「ボケッとするな食べろ、私は、終わったぞ」
「健司は急いでカレーを掻き込みました」
「よし、行こう」
「ご馳走様」
「健司、支払え」
「はい」
「健司はカウンターに代金を置いて急いで店を出ました。
「逃げるな」
「はい」
「二人摑まっていい風が来てる」
二人は木の葉につかまりました。
健司が見上げると、雲一つない青空でした。
「お前の脳みそのように空っぽな空だな」
「はい、見通しがいいので事故は起きません」
「ボケるな」
バゴーン。
ハイヒールキックが健司の胸に突き刺さりました。
ビューン。つむじ風がきて一気に森の向こうの喫茶バラに向かっています。
森の西側に流れる川で魚が跳ねています。カワセミは静かに川面を見ています。猫が必死に川にジャンプして魚を咥えました。勢いあまって対岸の岩にぶつかってしまって、気絶して川に落ちました。猫は猫カキで泳いで何とか助かりました。カワセミは魚を嘴で捕まえて飛びあがっていきます。
「着きますよ」
「見えた」
沙耶香が
「本箱作るよ」
「うん」
健司は今日の昼には本箱作りで過ごせるなと思いました。
二人は喫茶バラの扉の前に着きました。
「いらっしゃいませ、お帰りなさい」
主人が迎えてくれました。
「本は」
紗耶香が、聞きました。
「二冊持っております」
「何」
「いえ、持ってます」
「うん」
「どうぞ」
主人は二人をカウンターに招きました。
二人は席について、カウンターの後ろの棚にあるカップを眺めていました、
「ランチ二つですね」
「ええ、アジフライサンドのランチと健司あなたは」
「ハンバーグとキャベツのランチ」
「はい、お待ちください」
ご主人は調理を始めました。
健司は、本をカウンターに置いて、百科事典を開きました。
「綺麗な本ですね」
「ええ」
「16世紀の」
「フランスの百科事典ですね」
「ええ」
「昆虫のことが豊富になった時代です、植物も」
「はい」
「このカップフランスですね」
「ええ、この時代にようやく磁器の生産がマイセンで確立したんです」
「マイセンのブルーの記念プレートは」
「私はそれでなく、タイルの風合いが好きで」
「では、カップはマイセンですか」
「ええ」
「僕もマイセンが大好きです」
「そうでしたか失礼しました」
とご主人は言って、棚から白い磁器のカップを取り出してコーヒーを入れてくれました。
「美味しい」
沙耶香は言いました。
窓から空を見ると白く厚い空が出てきました。
フェルメール。
「え」
「あの空」
「御嬢さんの肌のように美しい白い空ですね、あれ、画集ですか」
「ええ、ロマネスク」
「ほう、あれその栞」
「はい、この子のようにかわいい」
と沙耶香は髪から木の葉を外して、マスターに見てもらいました。
「町の古本屋ですね」
「はい、ご存じですか」
健司は聞きました。
「ええよく」
「この本も大切にされていました」
「ええ、私たち二人で若い頃、読みあっていた百科事典です」
「へー、お二人の若い時って」
「高校生でした、ローカル線の電車通学で毎日、眠っていました。そして辞典の暗記を競争してたんです」
「ところでこのデルフトは」
「最近のものです」
「実は数年前に骨董商に、17世紀のデルフトの大皿を見せていただきました」
「すごいですね、私はロマネスクの木製のさじを一本持っているだけですよ」
「ロマネスクはいいわ」
「ええ」
二人はゆっくりとお昼を過ごしました。
カラン、入り口のカウベルが鳴りました。
叔母さんが一人やってきました。
ご主人は、カウンターに呼んで、沙耶香の席の左向こうに案内しました。
そしておもむろにコーヒーを入れて叔母さんいだしました。
「いやあね、またボヤが、あったみたい」
「今日ですか」
「今朝早くよ」
「若い男女が怪しいのよ」
「ち」
沙耶香は舌をうちました。
「聞こえた」
「うん」
「いいのよ、気にしてね」
「いいよ」
叔母さんはおもむろに、編み物を始めました。
糸が太いので、毛糸の編み物でした。
「御嬢さんこれ」
と叔母さんは言って沙耶香に編み物を渡しました。
沙耶香の髪に止めた木の葉がそのまま編み物になっていました。
「へー」
沙耶香は手に取って眺めました。
「そろそろ帰って本箱を作ろう」
沙耶香は言いました。
「いいですね」
「ええ、ご主人また明日」
「ディナーもありますので」
「ええ」
二人は支払いを済ませて帰りました。
健司は家に着いてすぐにあらかじめとってあった板をサイズを合わせて溝と矛を作って、箱の枠を作りました。
そして板の大きさを箱に合わせて切り落として箱の背に釘で打ち付けました。
「やればできるのね」
「うんまあ」
「夕飯は、カップラーメンでいいよ」
「箱の色は」
「ダークブラウンにして」
「うん」
健司は床に新聞をひいて、
水性のペイントを刷毛で塗っていきました。
「これ、庭で干しておくよ」
健司はそう言って庭に箱を持っていきました。
「ねえ、カップラーメンを食べて出かけようよ」
「うん」
空はもう暗くなって金星と満月が輝いてきました。
二人はダイニングテーブルに座って、カップラーメンをすすりました。
そして二人は木の葉に乗って出かけることにしました。
「いいかい」
「いいよ」
「西の国に行きたいんだけど」
「いいよ」
二人は、木の葉につかまりました。
夜の森につむじ風が吹きました。
木の葉は
「えい」
と飛び上がりました。
「わー富士山が小さくなっていく。」
「海が黒く光っているよ」
大きな山脈の下に砂漠が広がってるよ。
ところどころに街のひかりがみえるよ、背の高いビルが突っ立てるよ」
大きくて長い川が幾本も流れてます。
深いジャングルの島が、いくつも浮かんでは消えました。
大きな半島も見えています。
そして大きな川に、人間の死体が流れていきます。
不思議なことに川の両側では人々は水浴びをして死体が流れていくのを平気で見ています。
川の中ほどに大きな白い宮殿があります。
その前にはマーケットが開かれているみたいです。
木の葉は
「この辺で休憩」
といいました。
沙耶香は
「お腹がすいた、イラつく」
と言いました。
まただ。
健司は
「降りて何か食べよう」
「カレー」
沙耶香は間髪を入れず言いました。
「カレーは昼に食べたろ」
「足りん」
「そうか」
「ではおりましょう」
「うん」
木の葉はマーケットの壁の裏に目立たないように降りていきました。
「あ、やばい」
象が急に森から出てきました。
市場の広場にリンゴがコロコロ出てきました。キャッキャッキャ。
サルが群れて市場の広場におりてきて長い手足を上げたり下げたりして踊っています。
象は、のっしのっしと歩いてきてリンゴを鼻でつかんで、口に入れて食べていきます。
猿は慌てて象の背中や耳につかまって、象からリンゴをもらって食べてしまいました。
壁の裏に立っていた健司と沙耶香は、マーケットの中央に、レストランがあるのを見つけて、
「あそこに行こう」
と言って壁を抜けたとたん、二人のおしりを触る手があったので思わず回転キックを不届きな輩に浴びせました。
猿でした。猿は気持ちいいほど高く飛んでマーケットの広場の真ん中にドタンと落ちました。
仲間の猿はそれを見てきゃきゃきゃきゃと騒ぎ始めました。
「なんてこった」
「神の怒りがでるぞ」
とマーケットの人たちが騒ぎ始めました。
二人はレストランに向かっていきました。
すると白いひげの老人がやってきて、
「悪魔の使いめ、退散」
といったようです。
「なんてことを言うんの」
「サルをけってはいかん、神の使いじゃ」
「キツネとおなじね」
「神の使いは図々しいんだ、いたずらをやっても叱られないから、不道徳極まりないんだ」
健司は言いました。
「えーっと」
白人の中年の男性がやってきました。
「この国はサルに危害を与えると天災が来るとみんな思ってるんだ、でも猿には、困っていて社会問題になっているんだ」
「困ってるなら駆除すればいいんだ、殺生は許されるはずだ」
「私たちの信仰では無理です」と老人が言いました。
「僕には信仰はないから、やってあげるよ」
「聞かなかったことにするから、どうぞ」
「いいみたいです」
と白人は言いました。
健司はサルに向かって
「もういたずらはよせ、天罰がくだるぞ」
と怒鳴りつけました」
「おー」
広場の民衆は一斉に拍手と歓喜の声を上げました。
沙耶香はレストランにまっすぐ向かいました。
ハイヒールの音がこつんこつんと心地よく広場に響きます。
沙耶香はおもむろにテラス席に座って足を組んで、
「うーん、カレーね」
と言いました。
健司も隣の席で
「カレー」
と頼みました。
広場の猿たちは一斉に森に戻っていきました。
マーケットのざわつきが、落ち着いてにぎやかです。
「いらっしゃいませ」
「チキンですか」
「チキンとほうれん草」
「はい」
「キーマで」
「はい」
給仕は一礼してキッチンに向かいました。
「食べてから西に向かうよ」
「うん」
沙耶香は一枚シャツを脱ぎました。
困ったな。
健司は思いましたが
「しかたない」とつぶやきました。
「おまたせです」
給仕はカレーを運んできました。
「コーヒーブラック、二つサービスです」
「ありがとう」
「私たちも助かります。サル、困っていました」
「象、かわいいわ」
「乗りますか」
「後でね」
「はいごゆっくり」
二人はゆっくりカレーを食べました。
「乗るの」
「またでね」
「股で」
「また今度、来てから」
「はい」
「行きますよ、菩提樹の葉っぱに代わってもらいます。
「よろしく」
菩提樹の葉がやってきました。
二人は、カレーの代金を払って、
二人は菩提樹の葉っぱにつかまりました。
「南無阿弥陀仏」
葉っぱっが唱えると急上昇して西に飛んでいきました。
ヒマラヤの壁が後ろにそびえたっています。
地中海の海とカスピ海にいろいろな湖が青く輝いています。
「もうすぐ着きますよ」
「え」
「せっかくですから降りてみていってください、ゴルゴダの丘とその次はローマの次はアテネです」
「はい」
「一メーターに着き、銀小粒一つですよ」
「はい」
「ケチね」
「ものすごく安上がりだよ」
「健司払うの」
「うん手持ちで大丈夫」
「帰って、昼夜関係なく働くよ」
「またうそをついた」
バッゴーン。
沙耶香のパンチが、健司の左の顔に命中しました。
健司はインド洋に向けて真っ逆さまに落ちていきました。
バシャーン、ガブ。
「サメだー」
「寝ぼけるな、アホ」
沙耶香は健司の右の頬を平手打ちしました。
「あ」
健司は、鷲につかまって飛んでいました。
「こっちよ、バカ」
「すみません」
健司は菩提樹の葉につかまりました。
「ウォー」
鷲も
「馬鹿」
と吠えました。
ゆらゆらと飛んでいきます。
白い壁の家がたくさん建っている半島が見えてきました。
もうインド洋を抜けて、地中海まで来ていたようです。
「あそこ」
群衆が集まった丘が見えてきました。
「いけー」
沙耶香は、指示を出しました。バッゴーン。
バタ。
「こいつが生贄だ」
「決まったな、自分で飛んできたんだ」
「ギロチン、貼り付け獄門でいい」
群衆は、健司の体をギロチンまで運びました。
「こいつじゃあだめだ、ギロチンに失礼だろう」
ペテン師の声です。
「いいのよ早く処刑して」
沙耶香は叫びました。
「10で執行だ」
「10.9.8.7.6.5.4.3.2....1.執行」
コロン
健司の首が石畳の道に転がりました。
「急いでギロチン台を洗え」
「人々はぞうきんを、カスピ海で洗って、健司の首の上で絞りました。
「痛テー」
「潮が染みる」
「おいまだ大丈夫だからだにつないで十字架にはりつけだ」
「太い釘で張り付けて」
沙耶香は、麺球を赤くして叫びました。
ゴン、バン、ブス。
「今の何」
「ブース」
健司は言いました。
沙耶香は思い切りハイヒールキックをぶちかましました。
ポキ、
ハイヒールのかかとが健司の脳天にスポット刺さって折れました。
「弁償しろ高いんだぞ」
「すみません。働いて返します」
「遅い、今だ、今でないと許さん」
健司は、刺さったヒールを抜いて、
「くっつけ」
と言って沙耶香の靴底に投げました。
「直してお上げ」
ペテン師の神の声です。
カチ。ヒールは沙耶香のパンプスにしっかりとくっつきました。新品同様になりました。
沙耶香は、
「このー」
ガシ。
右手のパンチを健司の顔にぶち込みました。
十字架を立てろ。
丘の上に健司は突き刺されました。
暗い雲の切れ間から稲妻が五本落ちてきました。
「ヤッホー」
沙耶香が言うと、
ゴルゴダに集まった人々は、
「やったぞー、神に祈ろう」
と言って跪きました。
沙耶香は、手を腰に当てて、
勝利のポーズで丘の岩の上に立ちました。
「オー、神様」
丘はどよめきました。
健司は、天を見上げました。
「お前死にたいか、生きて苦しめ」
ペテン師は、言いました。
健司の胸にやりの切っ先がささりました。
「ヤッホー血のシャワーだ」
沙耶香は万歳をしました。
健司は、胸が蚊に刺された、
「ドッヒャー」と思いました。
西を見たらオランダ船が浮かぶ運河が眼に入りました。
そうだデルフトに行ってみよう。
「健司は思いました。
「おーい、オリーブ」
「違うよアテネの神殿を見ておいてからにして」
「あいつ蘇ったぞ」
「民衆は奇跡にどよめきました。
「くっそー生き返った」
沙耶香は地団駄を踏んでハイヒールで何度も石畳をけりました。
「二人とも早くつかんで」
オリーブの葉が言いました。
二人は手を伸ばしてオリーブの葉をつかみました。
ビューン、白い箱型の神殿が見えてきました。
オリーブの葉はゆっくり降りました。
「やばい、脱ぐわ」
沙耶香はとうとう下着も全部取りました」
「彫刻のような白い肌です、柱にそのまま立って神々の世界に行きました。
「えい」
沙耶香は、杖を一振りしました。
健司は、白熊になってしまいました。
健司はそのままアクアポリスの大通りを四つん這いで歩いていきました。
市場でオリーブの実を売っていました。
健司はそれをもらって食べました。
白熊で舌からタダで餌をもらえたようです。
沙耶香はしばらくここにいるいから勝手にデルフトに行ってと健司に指令を出しました。
「銀三つに金貨一枚ですよ」
「赤い帽子をかぶった丸顔で鼻とほっぺが赤い男が言いました。
「はい」
健司は銀を出しました。
「おや、これは」と男が言って急にナイフを健司の胸に突き刺そうとしました。
「偽物の銀三個はお前の胸肉一枚でいいぞ」
「すみませんでした、どうぞ肉をはいでください」
広場に人が集まってきました。
青い耳飾りの美少女がこちらを見つめています。
健司は凍ってしまいました。
「これで」
青い耳飾りの少女が商人に銀貨を出しました。
広場の人たちは健司に石を投げつけました。
「デルフトのコーヒーカップ」
「カップが欲しいのか、嘘つき野郎」
「はい」
「こっちにこい」
健司は立って歩きました。
「これか」
素晴らしいカップでした。
「これで、健司は金貨五枚出しました」
「オーこれは東方の幻の金だ」
「丹精込めて焼いたカップだ、もっていけ」
「ありがとうございます」
男は、カップを丁寧に紙に包んでくれて健司に渡してくれました。
「胸の肉をいただくぞ。
男は、鬼の表情で健司に短刀を突きつけました。
「刺されてしまいなさい」
「はい」
「どうぞ」
バシ
ビシャー。
「ヒャホー」
沙耶香は大喜びです。
健司は大事に包みを受け取ってしゃがみました。
デルフトに来たんだ。
「つかんで、二人とも」
オリーブの葉がやってきました。
健司はカップをズボンのポケットの奥に突っ込んで摑まりました。
「お腹すいたよ」
「何か食べよう、やばい」
「向こうのレストラン」
「はい」
「オリーブの葉はレストランの前におりました」
「サンドイッチとコーヒー」
「はい承りました」
二人は食事を済ませて、オリーブの葉につかまりました。
「しっかりつかんでください」
つむじ風です。
「西に向かいます、菩提樹の葉と変わります」
アルプス山脈が下に見えます。氷河が動いています。
青い湖は静かに青空を映していました。
向こうにヒマラヤがそびえたっています。
オリーブの葉は言いました。
「空でけんかはやめてください。
「こいつが素直ならやらないよ」
沙耶香は下着になったまま笑っています。
「寒くないの」
「寒いよ。よこせ」
と沙耶香は言って健司のジャケットをはぎと取りました。
「安物のくせに。ちゃんと臭いぞ」
健司は、寒さで震えました。
向こうに大きな川が見えてきました。
宮殿です。
「もうすぐですよ」
オリーブの葉は言いました。
しまった、もう一度ゴルゴダに向かいます」
「そこで菩提樹の葉に乗り換えてください。
「早く行って、おなかすいたの」
「ヒェー」
健司は本当に怖くて震えてしまいました。
「着きますよ」
「マーケットの広場にね」
「はいレストランに」
とん。
二人はゴルゴダの丘のカフェに着きました・
「ベーコン、レタス、チーズのサンドイッチとホットミルク二つ」
「はい、お待ちください」
「オー、奇跡の男だ」
広場はざわつきました。
十字架を用意しろ。
「広場の真ん中で火をたけ、悪書を燃やせ」
「悪魔狩りだ」
健司が食べ終わると、男たちに引きずり出されて十字架にはりつけにされました」
「やれー」
沙耶香は歓喜の表情で大はしゃぎです。
広場の日は建物の高さまで高く燃えています。
「さあやるぞ」
十字架は日の中央に立てられました、
健司は、丸焼きです。
「どうする、楽になるか」
「本棚を作ります」
「仕方ない、もう少し焼いて落ちたらいいぞ」
すると十字架は焼け落ちて、健司は広場にドスンと落ちました。
「おい生きてるぞ」
「悪魔か奇跡の男か、試す日が来たぞ」
「おー」
群衆は興奮して手を上げて喜びました。
「火に勝つものはなんだ」
「油です」
「では水に勝つものは」
「雪の塊です」
「氷柱にかけるのは」
「コンデンスミルクがおいしいです」
「こいつやっぱり悪魔だ」
「鉛の棺に封印しよう」
と男たちは鉛の棺を用意しました。
健司はいつの間にか悪魔に魂を奪われていました。
百科事典も燃やしたのか。
健司はさみしくなりました。
棺の中でとても大きな涙を流したので棺が重くなりました。
「おい、重くなったぞ」
「一度降ろせ」
「湖に沈めて封印するんだ」
人々は悪魔退治を遂行しました。
「健司、もう本箱はいいからちゃんと死んでください」
沙耶香はつぶやきました。
「おいていくわ、オリーブ」
「二人連れの契約ですから男の人も連れて帰らないと私が処刑されてしまうので、男の人も起こしてください」
「一人じゃあだめなの」
「ええ」
「仕方ない」
沙耶香は、民衆に、
「わたしが責任をもってこいつを処分しますので。そのダメ男を返してもらいます」
「民衆は驚いて悪魔に石をたっぷり飲み込ませて返しました。
「よし」
バッゴーン
沙耶香のヒールキックが健司のおへそを突き破りました。
「あー天国ですか」
「地獄行だ」
「閻魔様お助けを」
「ボケるな馬鹿たれ」
バシ。
沙耶香の平手が健司の顔面に飛びました。
「もう行くよ」
二人は慌ててオリーブの葉をつかみました。
つむじ風が東の国に一気に飛ばしてくれました。
「象」
「サルもまだ出てきた」
「降りて、象に乗るの」
「はい」
オリーブの葉は二人を宮殿の壁の裏に降ろしました。
「おい、早く像を連れてこい」
「ここにですか」
「ああ、像使いに頼んだら来るぞ」
「はい」
健司は市場の広場に向かって、
「像使いさーん」
と叫びました。
ラーラリララーリララ
変な笛を二本使って蛇を躍らせて、
白いひげを生やしてターバンをつけて黄色いつなぎを着た爺がやってきました。
「呼んだか」
「いえ」
「まぎらわしい人だ、像使いさんを探しているんです」
「なら私だ」
「蛇使いさんじゃあありません」
「あの象のことだろ」
「ええ」
「あれはわしが使っている象じゃ」
「象に乗せたい人がいるんです」
「跨いでか」
「はいいい股をしています」
「なるほど、それを調べててからじゃの」
「スケベ爺」
ピーホ~
空で鷲が笑っています。
「こっちです」
「この娘か、美人じゃの、脱いでおる」
「象よ座れ」
パオー、
象は足を折って地面に這いつくばりました。
沙耶香は股を大きく開いて
「よいっしょ」
と言って象の背中に乗りました。
「いいぞ、仏が見えた」
「スケベ爺」
沙耶香はホホホホホと大笑いしました。
象は乗ったことが分かるとのそりと立ち上がりました。
「わー高い、腹減ったぞー」
と沙耶香は空に向かって叫びました。
「あれ、もう帰ったか」
喫茶バラの主人は店の芭蕉を見ました。
象に乗った、御嬢さんが笑っていました。
「なんだ、まだだな」
「森を探検するぞ」
沙耶香は叫びました。
パヲー。
象はジャングルの水飲み場に向かいました。
ひげを射はやした痩せた爺が片足立ちで浮いています。
「ヨーガじゃ、やってみい」
「間に合っています」
「な、なんと」
「ヒマラヤ史上最悪の瞬間じゃ、わしに逆らった」
ド~。
轟音が響きました。
氷河が腰を抜かしたな。
象は慌てて陸の奥に走っていきました。
静かな川は一気に濁流の川になりました。
「すごーい」
沙耶香は大喜びです。
健司は、広場にぶっ倒れてしまいました。
そのまま大きな川に流されていきました。
隣に女性の死体が流れています。
このままインド洋に行くのか。
健司はもう帰れないと覚悟を決めました。
「丸太をやるぞ」
またペテン師の声だ。
丸太につかまると勢いよく健司は流れていきました。
パヲー。
象の鼻が丸太を捕まえて、牙に載せました。
「二人そろったね」
菩提樹の葉は言いました。
「東の国の木の葉は、まだ休むのかな、東の砂漠の国を超えた、港町まで運んでやるよ」
健司と沙耶香は菩提樹の葉につかまりました。
ビューンヒマラヤから突風が吹いてきました。
「広い砂漠が向こうまであるよ」
「うるさい、腹が減ったままだ」
大都会が見えてきました。
「僕はあそこまでだよ、金一枚ね」
「取菩提樹が言ってビルの間の大通りに降りようとしました。
「まってもうすこしさきにレストランが見えるからあそこまで」
沙耶香が叫びました。
「頼むよー」
健司は情けない気持ちでつぶやきました。
「はい到着」
菩提樹の葉はにらみました。
「金貨一枚」
健司は支払いました。
「いい旅にしろよ」
と言って菩提樹の葉は飛び上がりました。
ビルの中央に、巨大なエスカレーターが動いています。
人影はありません。
「行くよ」
沙耶香は、ハイヒールの音を立ててエスカレーターに向かいました。
見ると雲の上までつながっています。
二人はエスカレーターに乗りました。
誰もいません。
「大丈夫か」
「逆走するかも」
「信じていいのかなこの建物」
「大丈夫よ」
「ほら真っ逆さまに行ってるよ」
「臆病者」
二人は雲の中に入っていきました。
「着いたよ」
「いきなり、広いラウンジでした」
沙耶香は歩いて、真ん中の席に座って外を眺めています」
「うーんここもいいね」
健司はテーブルに向かいました」
「北京ダック。、二人前に、エビ料理に鯉の料理、チャーハン」
「はい、承りました。美味しいよ」
給仕はにこやかに笑って、
「お酒はいる。紹興酒だよ」
「少し」
沙耶香は足を組んでいましたが大股開きでくみ変えました。
「ちょっと、着替えるよ」
と言って沙耶香は服を脱いで、ぴったりとしたチャイニーズドレスを着ました。
健司は少し安心しました。
「待ってるよ」
給仕はにっこりとして、厨房に向かいました。
「待ってたね」
給仕は料理とお酒をテーブルに運んできてきれいに置きました。
「食べてね」
にっこり笑って帰っていきました。
琴と二胡の音楽が流れてきました。
沙耶香は、外を眺めています。
「ねえ後で買い物、お土産のカップ」
「ああ、景徳鎮」
「ね」
二人は、ゆっくり食事をして紹興酒をゆっくり味わいました。
「食べたね、デザート、杏仁豆腐、特製バニラ、上級ケーキあるね。食べるか」
「ケーキとバニラとブラックコーヒー二つよ」
沙耶香は目を輝かせて言いました。
食事を済ませた二人は、街に出て、骨董品店を探して、コーヒーカップを探しました。
綺麗だったので5件は回って、いろいろ見ましたが、赤絵の、梅のカップにしました。
二人は木の葉に、
「帰るよ」
と言いました。
「もう少し休むよ」
「じゃあ本屋に行ってみるから」
「うん」
通りを挟んだ向かいに大きな書店がありました。
清朝絵画の美しい画集があったので、店員に
「これいくら」
「ただではないよ高いよ、銀一つ」
「ではこれで」
と健司は支払いました。
「これ高級なんだよ、貴族だよ」
「うんまあ」
店員は袋に包んでくれました。
「美味しかった」
沙耶香が落ちついているので健司は焦って、木の葉を呼びました。
「行くよ、摑まって」
二人は木の葉につかまりました。
ビューン、ビル風がすさまじく上昇していきました。木の葉は一気に空に向かいました。
「富士が見えた」
「もうすぐですよ」
トン。
二人は喫茶バラの入り口にいました。
「ありがとう」
と沙耶香は言って、木の葉を神に止めました。
そしてブラウスを脱いだので、健司は慌てて沙耶香に口づけをしました。
気が付いたら夕焼け色でした。
2025/1/28