燦
雪解け水が、川を下ってきています。
村を囲んだ山々の頂上は、真白です。
冷たい水で、太郎は顔を洗いました。
石の影で黒い影が泳いで隠れました。
魚だ。
起きたね。
「お早う」
「お早う」
「まだ冬だよ」
「そうだね、ネコヤナギが白い帽子をかぶっているよ」
「冷たいだろう」
「手が凍ってしまった」
「すぐ水で温めろ」
「ああ」
「冬将軍が来るかな」
「もうすぐだ」
「くるか」
「北の大陸から、大軍で来るよ」
「100万か」
「1000万だ」
「最強力のパチンコ兵器で戦うよ」
「負けるな」
「ああ」
「泳ぐよ」
「すいすいだね」
「凍ったか」
「十分」
「砂利はまだ冷たいよ」
「それは最強の兵器だ」
「1000年ぶりの村の戦いだ」
「ああ」
「えいえいオー」
「えいえいオー」
「気球を飛ばせ」
「紙漉きだ」
「楮を拾ってこい」
「雪の中」
「蕗を取って食べて」
「体力をつける」
「おー」
「おー」
行け――」
気球をつくって、いけー。
大量の神だ、紙で上っていけ。
ぼた雪が来た。もっと積もるぞ、
坂で滑ろう。スキーでやれるよ。
魚は凍らないの、
うん凍らないよ、泳いでる。
雲が切れた。
将軍。
鬼だ。
オロチだ。
大国主御尊が来るぞ。
助かる。
バサッ。一本杉から雪が落ちた。
雪崩だ。
逃げろ。
土手に急いで駆け上りました。
頭の先から足先まで雪がくっついています。
やったー。
また怒られる。
帰るの止めた。
うん。
あそぼう
戦争ごっこ、
おかけっこ
うん
行きまーす。
逃げまーす。
転んだー。
僕たちはずぶぬれです。
雪だらけになりました。
雪あふぶいてきます。
掌に雪を乗せてみました。
雲が割れてきました。
青い空です。
山の杉が寒そうに立っています。
あっちだー。
うん。競争だ。よーいドン。
行け―。
がんばれ、石を入れたら、反則。
うん
でっかーい。
えい。
背中に
バシ。
キター。
がは。
雪を櫂て、反撃だ。
くそー。
雪だるまにする。
面白い。
作ろう。
バケツを取ってきてマフラーを探して。
冬将軍は、来たな。
気球を作る。
ああ
雪だるまはもっと積もってからで、紙漉きできるか、
楮を山でとってこよう。
うん、握り飯を持っていこう。
いいね。
漬物は、
入れる。
広島菜が二枚くらい残ってるよちゃぶ台に
よし、
そうしよう。
二人は競争して家に帰って
「ただいま」
シーン。
誰もいません。
出かけたんだ。
夕方まで帰ってこなんだ。
ラジオはつけていいって言ったろ
まあな。
タンスの秘密が探れる。
やるなよ。怒られるぞ。
つららができてる。
まだみじかくてちっちゃいよ。
食べなくていいよ。
ご飯は、かってに出来ないよ。
どうする。
とりあえず、山
だな。
お前誰だ。
お前こそ誰だ。
太郎。
三郎。二人は指をさしあって大笑いしました。
二人は向かいの山に走って行きました。
道の雪は誰も踏みしめてないので走っても大丈夫でした。
「あそこからだ」
太郎は指さしました。
鎮守の杜に向かう石段でした。
雪灯りでとても明るいので怖くありませんでした。
「よし」
「二段飛びだ」
「三郎ついてこい」
「おう」
二人は階段を一気に駆けあがりました。
烏天狗が、朴の葉のうちわを振って。
「これは驚いた。風の子がきたぞ」
「とうとう来た」
「どうする」
「とにかく守るんだ」
「闇の小人にさらわれないように」
「何処まで行くんだ」
カラス天は杉の枝を飛び移って、二人を追いかけました。
杉葉が、雪から顔を出して二人の足跡を消していきます。
「楮の林は向こうの奥だ」
太郎は西を指さしました。
「楮か」
「勉学の紙でも漉くのか」
「気球」
三郎が言いました。
「気球」
「飛ぶ気だ」
「冬将軍と戦うつもりか」
「どうする」
「しょうがない松明を下でたこう」
「杉葉と松尾枝を集めろ」
カラス天狗は林に散っていきました。
闇の小人は北林の木陰で息をひそめてみていました。
冬将軍との戦いだ。
「とうとうその時が来たな」
「川の、葉や武士が,蜂起したか」
「川が騒々しいぞ」
「闇を守れ」
「おう」
「太郎」
「あったぞー」
バサッ、バサッ、バサッ、
突然、楮の樹の先が雪の上の落ちていきました。
「わー」
太郎は驚きました。
「拾おう」
三郎は膝の上まで雪に埋もれて、林の中を歩いて楮を拾っていきました。
太郎は立ち止まって林のほうをじっと見ていました。
「あ」
「気づいた」
「もらっていいの」
「ああ、拾っていけ、立っている樹には触るな」
「三郎、落ちている楮だ拾え、立っている樹に絶対触るな」
「はい」
「だけで大丈夫か」
「大きな紙を3枚漉きたいんだ」
「お前たち二人でか」
「うん」
「出来るんだな」
「うん」
「ではもっとたくさん必要だ、持って帰るんだぞ」
「はい」
鴉天狗たちは、さっと楮を切って、かごを用意しました。
「ありがとう」
二人は大声でお礼をいって楮の樹を拾っていきました。
屋の小人たちは、二人をじっと見ていました。
そして、神社の石段に向かって、雪かきを始めました。
二人は楮をかごに詰めて、背中にしょいました。
ズシリ。
思わずのけぞりそうになりました。
カラス天狗は
「よし」
「大丈夫です」
「丈夫な紙をすくんだよ」
「はい」
「お地蔵さんに聞いてごらん
「おばあが教えてくれるって、おばあが教えてくれるよ」
「うん、ありがとう」
二人は、
よいこらしょっと,籠を背負って、歩き始めました。
「行くぞ」
二人は階段を一歩ずつおりました。
太郎は三郎の籠をささえてやりました。
「ありがとう、大丈夫だよ」
「無理をするな、階段を転ぶと痛いし怪我、大けがをするぞ」
「大丈夫、新しい藁草履を履いたから」」
「うん、がんばれ」
二人は村のお地蔵さまに聞きました。
「紙漉きが、できるところ何処」
「この道を上ったところにあるかやぶき屋根に住んでいる、おばあさんにきいてみな」
「ありがとう」
二人は、
「よいしょ」
「よいしょ」
と声をかけて上りました。
村の音は雪の中に消えて大人の姿もありません。
「冬将軍は今どのあたりかな」
「山向こうの村あたりかな」
「もう一つ山向こうのむらだよ、きっと」
「近いな」
「ああ」
「急げ」
「早く、漉いておかないと」
「間に合わないと村が危ない」
二人は速足で、おばあさんの家に向かいました。
はあ、
大きな白い息を吸ってははいていました。
雪道が遠く感じましたが、
二人は籠を背負って歩きました。
闇の小人がこっそりと二人を見ていました。
「夜になってにしよう」
「明るすぎる」
「ああ」
「重くないか」
太郎は三郎の籠から2本樹を抜きました。
「嫌だ、採らないで、僕の」
「お腹空いてないか」
「うん」
「そうか、じゃあ頼む」
太郎は2本の木を元に戻しました。
三郎は笑って、
「大丈夫」
と言いました。
二人は、自慢そうにどっかりどっかりと歩きました。
藁ぶきの家が見えました。屋根はすっぽり雪をかぶっていました。
「あそこだ」
「とうとう、着いたぞ」
家の中から、灯りが見えました。
山姥じゃあないよな。
食われないと思うよ、地蔵が教えてくれたんだ。
闇の小人は
「大丈夫だ、わしらを助けてくれるばあさんだ、紙を漉くんだな」
「うん」
「手が凍るぞ」
「うん」
「わしらは職人じゃ」
「えー」
「夜になったら手伝ってやるよ」
「僕らでやるよ」
「泣くなよ」
「うん」
「叔母さん」
「来たね」
「えー」
「こんにちわー」
「はい、こんばんは、よく来たね」
「お願いします。」
「釜の湯は炊けてるよ」
「やっぱり、食べられるのかな」
「大丈夫だよ」
「お腹空いてるのかい」
「いいえ」
「家の人は知ってるのかい」
「雪が降って大人は全部消えました」
「じゃあ、お腹空いてるね」
「いいえ」
グー、ぐー
「可愛い音だね」
「ペコペコです」
「お腹がすいてたら、紙は漉けないよ」
「へー、面白い」
「おにぎりがあるから、ああって、ゆっくり食べなさい」
「はい」
二人は縁側から、家にあがりました。
「畳においで」
「はい」
「囲炉裏においで」
「はい」
「あー,暖かい」
「これ、食べな」
「おにぎりー」
「塩おにぎりだよ」
「はい」
「これ」
「はい」
「今年の広島菜だよ」
「はい」
「箸は」
「手でいいです」
「ゆっくり食べな、喉に詰まらせないようにね」
「はい」
「元気そうで、活きがいいな、後でゆっくり食べるか」
「えー」
「何だ」
「山姥」
「そうだよ」
「えい」
闇の小人が、山姥を石で殴りました。
「何をする」
「おばあさんはどうした」
「縄で縛って押し入れに入れたよ」
「大丈夫だ」
闇の小人たちは急いで押入れを開けておばあさんを助けました。
「あー助かった」
「山姥は気絶しています」
「おや」
「こんばんは」
「おにぎり、お腹空いてるね、村の大人はみんなで戦いの準備をしてるから、大丈夫だよ」
「はい」
「はい、お茶」
「はい」
「山姥、起きなさい」
「うー」
「いい加減悪さはおやめ、嫌われものでいいわけないだろう、みんなと、戦うんだよ」
「将軍とか、殺されるよ」
「一度死んでみな」
「えー」
「あたしはこれでも4回、生き直してるよ」
「あんた、幾つだ」
「350歳だ」
「そうかしょうがない」
「いただきまーす」
太郎と三郎はおにぎりを働いて汚れた手でつかんで、
口にほうばりました。
「うまいかい」
山姥は聞きました。
「うん」
「そうかその手は働いた手だな」
そうかそれなら仕方ない、闇の小人も許そう。
「そうですそのほうがいいですよ、私もあなたを恨みません」
「もう少しいてもいいかね」
「ええ、雪が止むまで暖炉であったまっていきな、これから鍋にするから大根と味噌を取ってくるから、お茶でも飲んでいなさいよ」
山姥は、思わず、涙を流しました。
夜になって、雪は深々と積もっていきました。
御婆さんは、畑に行って雪を掻いて、大根を一本抜いて、蔵に行って、味噌を椀に入れて取ってきました。
御婆さんは囲炉裏に鍋をかけて囲炉裏に火をつけて、大根を切りました。
太郎と三郎は鬼入りを食べて、
「ごちそうさま」
と言ってお茶をゆっくり飲みました。
「御婆さん、紙漉きを教えてください」
「ああ、鍋を食べて温まってね」
「はい」
「紙漉きか」
山姥はつぶやきました。
御婆さんは切った大根と味噌を鍋に入れました。
山姥は、
「川で魚を取ってきて食べよう」
と言いました。
太郎と三郎は、
大きな声で、
「だめー。」
と叫びました。
山姥はひっくり返って囲炉裏に落ちそう委なりました。
「わしが丸焼けじゃ」
山姥は慌てて部屋の隅に逃げました。
御婆さんは、そういえばと言って、お勝手に向かってごぼうとニンジンを切ってきました。
「これを入れておけば、魚はいらないよ、ねえ、山姥」
「ああ、魚はいらねえ」
「良かった、ありがとう、お婆さん」
お婆さんが人参と牛蒡を入れると鍋はぐずぐずと煮立っていきました。
「そろそろだねえ」
「ああ山姥」
お婆さんは、鍋を取り分けて、三郎から渡していきました。
お椀を受け取った山姥は、
「これはうまそうな匂いがする」
と言って、にやついています。
「いただきまーす」
三郎が大きな声で言ってお椀を、口に運びました。
「熱いよ、ふーって言ってからだよ」
「はい」
「ふー」
三郎はお椀に息をかけて、冷ましました。
山姥は
「いいねえ」
と言って、一気にお椀の汁を飲もうとしました。
「熱いー」
山姥は気絶しそうになりましたがお椀だけは離さないでこぼしませんでした。
「いただきます」
太郎はゆっくりお椀の汁を吸いました。
「どうかね」
お婆さんが聞きました。
「おいいしい」
「そうかね、よかった、わたしもいただくわ」
とおばあさんは行ってお椀をいただきました。
太郎と三郎が食べ終わると、
お婆さんが、
「紙漉きは、離れの作業場だから、そろそろいきましょう」と言いました。
山姥がぎょっとしてお代わりでついだ汁を一気に飲みました。目の玉が飛び出していました。
外はもうすっかり真っ暗です。
雪が、縁側の上まで積もっていました。
「おや、こまったね」
とおばあさんが言うと、
「いみんな」
と闇の小人が言って、離れに向かう道の雪かきを始めました。
「あー助かった」
叔母さんは言いました。
「こんな寒い中行くのかね」
山姥はぶつぶつと言いました。
お婆さんは、
「ついたら釜で湯を沸かすから、楮の籠を開けて雪を集めてね」
と山姥の様子を知らん顔して言いました。
「はーい」
太郎と三郎は元気な声で返事をしました。
離れについいた、太郎と三郎は、かおから楮をおろして、外に出でて雪を籠いっぱいに集めました。
お婆さんは、かまどに雪をいっぱい入れて火を焚いて、湯をわかしました。
「やっと温まるわ」
山姥は竈の前に来ました。
「危ないよ」
お婆さんは言いました。
山姥は竈にぶつかって鍋を倒してしまいました、
ジワー、お湯が湯気をあげて、床に落ちました。
山姥はあわゆく大やけどを負うところでした。
太郎は雪を山姥にあげて
「これで、冷まして」
と言いました。
山姥は、
「チクショー」
と言って、鍋を持ち上げました。
「熱い―」
太郎は慌てて雪を山姥の手に置きました。
「チクショー、腕が溶けるよ」
「がんばって」
太郎必勝懸命に雪をあげました。
「大丈夫だよ」
お婆さんは言いました。
「山姥、ソロソロ腕を出しなよ」
「チ、クショー」
山姥は大きな腕を生やしてきました。
そして鍋を全部御かまどに戻して雪を入れました。
「ありがとう、山姥」
「チクショー、くそガキども」
「おや」
お婆さんは楮の木を一本取って、皮をはごうとしたら、
切り先に
「願」の文字が書いてあるのを見つけました。
「カラス天狗ね」
楮を無駄にしたくなかったのね。
分かったよ。
ちゃんと丈夫な紙を漉くよ。
「お婆さん」
「はい」
「どうしたらいい」
「こうやって、小さな鉈で、楮の幹を細かく削ってくれ」
「はい」
「全部できるかい」
「うん」
「わしもやるか、えー」
山姥は長い爪で楮の幹をはいでいきました。
しろいいきが,口から出ています。
「おやまあ」
叔母朝は紙漉き台の準備を始めました。
闇の小人たちも、竈の火の準備を始めました。
雪は深々と降っています。
あさになるまでにこうぞをにつくしてしみましょう。
「はい」
太郎と次郎は、一生懸命斧を動かしました。
二人が楮を裂いている間、
村の大人たちは、お城にこもって、戦いの準備をしていました。
カラス天狗は、そこに向かって、むらの子供二人を助けておばあさんおうちにいることを知らせました。
「山姥がいるぞ」
「山姥はくたばっているよ」
闇の小人たちが、夜の空でささやいています。
村の大人たちは。槍と弓をこさえていました。
女房達は、おむすびを握っています。
三郎と太郎は、必死い楮を裂いています。
「おやまあ」
御婆さんは驚きました。
「今夜のうちに全部裂いちゃうね」
闇の小人たちも黙って手を動かしています。
山姥は
「もうだめだ」
と言って、口から泡を出して床にバタンと、くたばっています。
御婆さんはソロソロ集めましょう。
と言って白い風呂敷を広げて、楮を拾っていきました。
もう少しね。
御婆さんは、口元が緩んで笑っています。
「いいね」
「はい」
太郎と三郎は、
「はい、これ」
集めた楮を,お婆さんに、渡しました。
「ありがとう」
「うん」
「がんばろうね」
「うん」
「おとうさんたち、」
「大丈夫、お城でがんばっているよ」
「ちゃんと僕らのことは伝えたよ」
闇の小人たちは夜空の上でにっこり笑いました。
「うん」
「もうすこしだねえ」
「はい」
「あわわわわ」
山姥は泡をはいたままです」
「おや、食べ過ぎたね」
お婆さんは、白湯を汲んでやりました。
「そろそろ起きな」
「あーよく寝た」
「鍋の食いすぎですよ」
「おかわりは」
「食うなら母屋に戻って食べておいで」
「ここは閻魔さんがくれた天国じゃあないのか」
「閻魔さんのところに行ってたのね、冬将軍に挨拶は」
「あー奴は寒いのに飽きた、と言っていたよ」
土間は氷のように冷たくなっています。
太郎と三郎は、闇の小人と竈に,杉葉をくめました。
竈は赤い日を上げていき良いようく燃えています。
「オーあったまる」
山姥袴殿前に寝転んだんぽですが長い白髪に火がついて。
「ぎゃー」
と
叫びました。
城の中の村人は驚いて振り返りました。
「なんだ」
「お婆さんの離れだ」
「ちょっと行ってみるか」
「もうすぐ夜明けだから、松明の日を用意して向かおう」
「ああ」
「村人は白の外に出て松明を拾って、布に、油をつけて、出発の準備をして寝ました。
この時冬将軍の一団は、村の上空高国に到着しようとしていました。東の山の稜線がうっすらと、明るくなってきました。村人たちは、火を焚いて、雑魚寝をしています。
静かな白の陣内に、ほら貝の音が高く響きました。
村人たちは、すかさず起きて、弓を射る態勢に入りました。
すると白の門が騒がしくなりました。
「頼もう」
「頼もう、冬将軍からの書状をお届けに上がりました」
村人の長は、
「みんな、隠れて控えろ」
と指令を出しました。
「やっと来たな、100年待ったわ」
長は一人門に向かい、書状を受け取りました。
「首を出せ」
「はい」
「入って、酒を飲んで、腹ごしらい、しておけ」
「うぬ」
使いは一人静に城内に入りました。
雪は深々と降っています。
「そうか」
長はつぶやきました。
そして、神と筆を用意して、
「西の山が茜色に輝く頃」
と書いて使いに渡しました。
「うー、寒い」
山姥は、また大声で叫びました。
太郎と三郎は川に向かおうとしました。
「おや、もう少しお待ち、夜が明けるから、魚たちは、川底で静かに寝ているよ、元気だから大丈夫だ」
「うん」
太郎と三郎は外を見つめました。
「集まったね」
「うん」
「楮を鍋に入れて」
「雪を入れるよ」
「そうだね、熱い湯を沸かしてね」
「うん」
「湯か」
山姥はむくっと起きて、鍋に頭を突っ込んでしまいました。
「湯がない」
「これからだよ」
「ぎょえー」
山姥はまた大声で悲鳴を上げました。
村人たちは、また驚いて振り返りました。
雪は深々と降っています。
風はやみました。
冬将軍の大軍は、とどまったままです。
雪は村を覆いつくして、
道も家も川も、すっかり雪の中です。
山姥、どうしたんだ。
またへまをしているな。
大丈夫だ。太郎と三郎がいるはずだ。
もうすぐ夜明けです。
東の空はもうすっかり明るくなっていました。
松明は十分です。
「さあ火をつけよう」
「おう」
村人は、深い雪を体で押し書きながら、ゆっくり更新を始めました。
「南に、向かへ」
「地蔵様を探すんだ」
「おう」
村人たちはゆっくりと、歩いていきました。
村の長は夕方を待っています。
村人たちは深い雪の暮らしになっていきました。
「冬将棋軍、おにぎりはどうですか」
「ゆきのおかげでいいみずになってことしもたくさんおいしいこめがとれましたよー」
山姥はそれを聞いてまたむっくりと起きました。
「おにぎりはわしもくうてもいいじゃろ」
太郎と三郎は、
「いいよ、もらってくるよ」
と言って雪の中に飛び出しました」
「ツララだ」
「太いぞ」
「もいでなめよう」
二人は手を伸ばして、一本太いツララを雪が落ちないように気を付けて、とって、氷をなめました」
闇の小人は
「お城の砦の森に帰って休もう、日が昇ってしまった」
「気を付けて歩けよ、太郎、三郎」
「はーい」
二人は道ができているのを見て、
「ありがとう」
大声で言いました。
闇の小人たちは手を大きく振って、
「がんばれよ」
と二人を送りました。
村人は節減の向こうに、黒い点が二つ歩いているのを見て、
「おーい」
と叫びました。
冬の将軍はそれをにらんで見下ろしていました。
「おーい」
太郎と三郎は、大声で、答えました。
「戦いだ」
「おー」
「やばい、まだ紙が漉けていない」
「大丈夫だよ、楮を煮て、繊維を取り出したら、夜になる前に漉けるよ」
とお婆さんが言いました。
「山姥、森の生き物を食うな」
「懲らしめるぞ」
カラス天狗たちが離れに来て山姥を縄で縛り上げました。
「窯の熱湯地獄だ」
「うるさい」
と、カラス天狗はいって、
山姥の首をおもいっきりマッサージしました。
「うー気持ちいい」
「黙れ、締め上げるぞ」
「気持ちいい」
「気持ちの和江宇いい婆だ」
カラス天狗は山姥を冬将軍に、貢物として差し出すことにしました。
「そうかい」
「ああ」
「冬将軍になった孫に合わせてくれるんだな」
「ああ」
「かわいそうに、孫に氷漬けにされて、また1000年さらしものになっていきなければいけなくなったな」
「1000年か、短いもんだ」
「餌がなくても凍って生きてられるんだ」
「妖怪の中の鏡だな」
山姥は、得意になって、
「天下一だ」
「なにー」
ヤマトタケルノミコトは、
「いい加減にしとかんと闇の底で、血の池地獄と針山で一生生きろ」
冬将軍は
「すみません私の祖母なので,勘弁してください」
と涙を流しました。
闇の小人たちは、
「ヤマトタケルっこ底の世界の敵だ、何か守ってくれるのか」
「創造主は守りません、作っては壊すだけです」
お婆さんは言いました。
「そうだね、みんないていいね、みんなでおにぎりが食べれるといいね」
太郎と三郎は言いました。
冬将軍は占めたと思いました。
山姥を取り込めば兵をなくすことはない。
和平はなしだ。
「山姥」
「はいー」
「聞こえるか」
「はいー」
「一度地面を張ってくれ」
「はいー」
山姥は布施の姿勢で、前に貼って進みました。
「見えたぞ、では、これからわしのいうことをやってくれ」
「はいー」
「村の砦に行って、まず村の長に和平は消えた」と言って、策を徹底的に壊せ」
「ああ、やっと暴れて見せることができる」
「えー」
太郎と三郎は、石を拾って山姥に投げて、山姥を窯に追いこんでいきました。
山姥は、窯に顔を突っ込んで、
言おうとしました。
その時太郎と三郎は、
「バーカ」
と言って山姥の足を引っ張って助けてやりました。
山姥は、
「あーびっくりした」
と言って、目を白黒にしていました。
「何やってるんだ山姥」
冬将軍は、驚いて、山姥を窯の中に、入れてしまいました。
「危なーい」
太郎と三郎はまた山姥を引っ張って、助けてやりました。
冬将軍は
「くそー役立たず」と言って山姥を雪の中に放り投げました。
そこに村人がやってきて、
山姥を雪の中から引っ張り出してやりました。
山姥はちょうどいい、と言って、
「和平は、無くなったよ」
と言いました。
「馬鹿、その格好で言うな、わしのメンツが丸つぶれじゃ」
村人は長に向かって叫びました。
「無くなったそうですよー」
「うむ、ケツの穴のない奴じゃ」
冬将軍は、
「全軍、退散、ジンを仕切りなおすぞ」
と、大声で指令を出しました。
冬の兵隊は、がっかりしました。
袋いっぱいにためた吹雪は、今夜でなくなった。
山姥をとらえよう、恥をかかしてくれた。
太郎と三郎は、
「今ならふぶいてください、村は安全です」
と叫びました。
「吹雪か、逃げろ」
「山姥はまた雪の野原にかけて行ってまた頭から雪に埋もれてしまいました。
村人は、ちょうどいい、生贄だ、
「早く助けろ」
村人はまた山姥を雪の中から引っ張り出しました。
これじゃあ、戦にならん。
村の長は大笑いしました。
村人たちは、
「冬将軍、戦いだ」
「おう」
節減の上で松明を掲げて、
「えいえいおー」と
思いっきり雄たけびを上げました。
月明かりの雪原は、もうすぐ夜明けです。
「将軍はタイを立て直して、
「いけー」
と指令を出しました。
兵隊たちは、吹雪の袋を思いっきり膨らませて、
「えい」
と吹雪を出しました。
太郎と三郎は、山の神にむかって、お祈りしました。
「朝になったら紙で飛んでいきます」
「ありがとうございます。
今年も豊作になりますように、たっぷり雪をためてください」
村人たちも、東の山に向かって、お祈りしました。
川の魚たちは川底で静かに眠っています。
カラス天狗も扇を仰いで大笑いです。
闇の小人たちは鎮守の森に隠れて笑っています。もりに隠れて笑っています。
「さあ、紙を漉きましょう」
「はーい」
太郎と三郎は、お婆さんのところに行きました。
「楮を鍋に入れてね」。
とお婆さんは言いながら、
楮を鍋に入れていきました、
太郎と三郎は、
「いれていい」
と聞いて楮を握っていました。
「いいよ、鍋は暑いから、触らないでね」
「うん」
二人は、しっかりした樹の切り株を持ってきて、
台にして楮を鍋に入れていきました。
「いいね」
「はーい」
「しっかり湯がくのよ」
「時々鍋を棒で櫂てね。
「うん」
二人は鍋に立って、
「飛ぶぞー」
と笑いました。
太郎と三郎は、台に乗って鍋をゆっくりかき混ぜていきました。
「ゆっくりね」
「うん」
「お昼にするまでゆっくりやってね」
「はい」
お婆さんはご飯を炊き始めました。
山姥はむくっと起き上がって、
「めしじゃ」
「馬鹿」
お婆さんはしゃもじで山姥を殴りました。
バシ。
「いてー」
山姥はまた気絶しました」
冬将軍は、そろそろ休むか、
と言いました。
「だめだ、まだ雪がないと川が枯れてしまう」
「腹が減ったんだよ」
「そうか、それならわしらの村のコメをくってくれ」
村人たちは、大きなお盆いっぱいにおにぎりを用意しました。
そこに山姥が飛んできておにぎりをつかんでばったりと倒れました。
「ちょうどいいい、生贄も付いた」
雪は深々と積もってゆきます。
東の空も笑っています。
村人たちは、冬将軍に、お盆いっぱいのおにぎりと山姥を、山に向かって捧げましした。
「うむ、またこいつか、恥知らずめ」
「どうぞご自由に」
「こいつのために手を動かすのは、面倒じゃ」
「はーい」
「では河原につるししておきます」
「そこで干からびても仕方ない」
「はい、では」
「いいから、カラスに食わすよ」
「いえ、食べませんが、いい酒の肴になりますの」
カラス天狗は大笑いしました。
「冬将軍」
「おう」
「この谷あいの村は、創造主の丘にいたします」
「なるほど」
「ここから、清らかな水を穏やかに広げてまいりたいと思います」
「では山姥は消えてもらうか」
「ええ」
「冬将軍は山姥を氷図家にしました。
100年たちました。
「一つ積んで、いきましょう」
若い娘が、白い花を摘んでいきました。
「ようやく目が覚めた」
川の底で眠っていた魚は、勢いよく、上流に泳いでいきました。
「山姥は死んだよ」
「眠って死んだよ」
「娘が起きたよ」
「美しい姫が出てきたよ」
「山姥」
「お婆さん、まだですか」
「ええもう少し、煮込んでね」
「はい」
お日様が高く空の真ん中につきました。空は真っ青です。
「そろそろ紙を漉きましょう」
「紙漉き場に冷たい水を張るの」
「鍋の湯を雪で冷まして入れます。
太郎と三郎は雪をかき集めました。
「冷たいよ」
「はい」
お婆さんは、鋤板を水の上で滑らかに動かして、一枚漉き上げました。
「できるー」
太郎と三郎は大喜びです。
「まあ、大きく漉けたね」
「うん」
「飛ぶよ」
「鳥さんになるんだ」
カラス天狗は空の上で笑っていました。
冬将軍は、こっちに来るか。
よくやったな、雲の上に乗せてやるよ。
「うん」
「はい、おにぎり」
「おおー」
「はい」
「ゆっくり食べてね」
「おお」
「お味噌汁も」
「ありがたい」
「お婆さんが握ったんだ」
「ああ」
山姥は土間で泡を吹いていました。
「このくそ婆目、恥知らず、食いたいか」
「腹減ったよー」
「意地汚い奴目」
「たべるよ」
やまんばはどまでころがっててあしをばたばたさせて、あわをふいていました。
「お婆さん、いちどわかがえったんだから、少し静かにしててよ」
「いーやーだー」
「冬将軍もう一度凍結を」
「こいつは何をやっても同じだ、やるもんか」
雪原は、まあるい雪で、うつくしいひかりのおおわれていました。
太郎と三郎は両手を広げて空を向いて雪を受け取っていました。
掌に一粒、綿雪がのっかって、決勝が透明に輝いていました。
川も静かに流れています。
魚も黒い影で意思を出たり入ったりしています。
「おーい」
「うん」
「空に行ってみなよ」
「うん」
「戦いはやらなくていいよ」
「うん」
「冬将軍はいい奴だ」
「うん」
「飛ぶよ」
「ああ」
「空が帰ったね」
「うん」
「拾った」
「うん」
「すぐ溶けた」
「うん」
「おひさまとどっち」
「お日様だよ」
さっきまで真っ白でした。
ようやく青空になりました。
ゆっくり上ったよ、
いい紙になったね。
うん、
「おにぎり食べた」
「うん」
「大きいの」
「うん」
「まだ飛べるね」
「うん」
川は静かに流れています。
朝の光で黄金色に輝いています。
なめらかでぬるっとした流れです。
村人は、天に向かって、
「冬将軍、おてやわらかに、もう少し降らしてくれ、杉の木のてっぺんまで」
「山を崩さないでくれ」
「都合がいいの、コメができたらまたたっぷりおにぎりだぞ」
「祭りで捧げます。冬まつりをやります正月が過ぎて」
それで始まったお祭りです。
太鼓が鳴ってきました。
太郎と三郎は踊り始めました。
「一緒に合わすんだ」
「上、下,上、上、右、右、」
二人はかかとを上げて踊っています。
狐が出てきて
コン」
と鳴きました。
雪の中をジャンプして鼠を捕まえました。
もぐらは「ひぇー」と言ってネズミをつかみ増しいた。
「お前も食うぞ」
「ヒェー」
モグラは手を放して
「またね」
と言ってお別れをしました。
太郎と三郎は踊っています。
カラスは思いっきり上に飛んでいこうとしましたが。嘴が折れてしまいました。
しもうた、歯医者の付けがたまっているのに。
「ギョエー、折れた」
山姥が叫んでおにぎりを持った手を上にあげて叫びびました。
カラスはすかさず見ておにぎりを見逃しませんでした。
カラスは、山姥の持っていたおにぎりを、足の爪でつかんで、上空に飛び上がっていきました。
「ギョエー、飯が消えた」
「うまいな」
カラスは「アホー」と一声上げて飛び去りました。
太郎と三郎は、かわいそうな山姥を、窯のお風呂に入れてあげました。
「ギョエー、何をする、水風呂じゃ」
「ごめんなさい」
太郎と、三郎は窯の火を焚きました。
「ゆっくり使って疲れをとってください」
「ああ土間の床は冷たくて疲れたわ」
「山姥、いいことがある」
冬将軍が言いました。
「吹雪の袋に入って飛んで行ったら全身のアロマになるぞ」
「やります」
冬将軍は、山姥をつかんで袋に突っ込みました。
冬将軍は、モノすごい勢いで、風を出しました。
山姥は
「ヒェー」
と言って
西の山向こうに飛んでいきました。
「寒いー」
山姥は、茶色い葉っぱに紛れて、西の果てに飛んで行ったのです。
冬将軍は、
「役立たず目、4000年後に帰ってこい」
山姥は、
「おにぎりー」
土地の底から叫んでいます。
「おーい山姥」
「お前が一番臭かったんだ、肥えツボに落ちたな」
太郎と三郎は一枚の大きな紙を作業台で漉きました。
手は凍ってしまいそうでしたが二人で協力して水を板にすくっていきました。
畳2畳の大きさの板です。方が抜けそうでしたが、浅瀬を流しながら漉きました。
「もう少し丁寧なほうがいいね」
お婆さんが板をもって動かしたら白い表面がなめらかに出てきました。太郎と三郎はもう一度初めからやり直していきました。
太郎と三郎は、何度もやり直しました。
水があるのも忘れるほどです。
「ソロソロ出てくるね」
「慌てないでやるんだよ」
と言って、お婆さんは囲炉裏に向かいました。
「味噌汁にお餅を用意しますよ」
「餅、餅屋でいいよ」
山姥はカット目を見開いて、うわごとを言いました。
太郎と三郎は何度も丁寧に紙を漉いています。
まだまだ出てきません。
三郎は、
「くそー」
と言って目に涙を浮かべました。
「もう一度だ」
太郎はそう言って、ゆっくり板を動かしました。
「出てきてる」
三郎は、笑顔で言いました。
「いいね」
お婆さんは笑顔で言いました。
「板をゆっくり挙げて。
太郎はゆっくりと水槽から板を持ち上げて
「重い」
と言いました。
三郎は
「僕も持つよ」
と言って駆け寄りました。
太郎は
「気をつけろ」
と言って、
板を下ろしました。
「ゆっくり寝、転ばないで」
とお婆さんは言いました。
太郎と三郎は板を作業場から持ち出して、
干場に板を置きました。
「ようやく、一枚だ」
二人は、向き合って、
満足げにうなずきました。
外はまあるい雪の節減になっていました。
東の山の頂上は銀色に輝いていました。
「よくやったね、こっちへおいで」
お婆さんはおにぎりと、みそ汁を用意しました。
「わしも」
山姥は起き上がりました。
山姥は、土間をはって、外に向かいました。
「ヒェー寒い」
「味噌汁ー」
「おにぎりー」
山姥の声は谷間の村に響きました。
「こっち」
太郎と三郎は言いました。
「そっち」
「こっち」
「こっちってどっちのこっち」
山姥は目を丸くして手を伸ばしていました。
「死ぬー」
「えー」
「これ、一粒、桑の実」
山姥は手を伸ばして食べました。
山姥は冷たい雪の上にあおむけで倒れていました。
「後で起こそう、死なないよ」
「うん」
太郎と三郎は板を立てて、
おばあさんのほうにむかいました。
「よくやったね」
「まだもうちょっと漉いていくよ」
「たくさん漉いて、おくれ、紙は宝物だよ」
「た・か・ら、わしのじゃ」
「あっちでなんか言っているよ」
「ほら、死んでないよ」
「ほっとけ」
「うん」
お婆さんは、
「お腹すいたろう、お握りとみそ汁を食べてから、また紙を漉いておくれ」
「はい」
村人はお地蔵におそなえものをしておばあさんのいえのはなれにむかっていました。
「おい」
「あれ」
「山姥が転がってるぞ」
村人は、山姥を起こして担いで、森に運んでいきました。
太陽は、村を照らしていました、木の上の雪がどさっと落ちてきます。
「森の祠に寝せておけば死なないだろう」
村人は遠回りですが、森の祠に向かいました。
村の祠の陰には、闇の小人が住んでいました。
「来るな、山姥、タヌキを食うたら殺すぞ」
「おい、なんか言ったか」
「いや」
「そうか」
カラス天狗は、山姥がおにぎりを握っているのをすかさず見つけました。
カラス天狗は嘴でおにぎりを加えて飛んでいきました。
「うまくとっていったの」
「山姥、おなかすいとるんか」
「ああ、焼き魚が食いたい」
「それは、サンマの干物があったかの祠に」
「祭りのときおいていった露、鯛じゃ」
「腐っても鯛じゃ」
「そうじゃの、焼いて食うか」
「食う」
「山姥食うのか、もったいないが皮をやろう一番うまいところじゅあ」
「ああ、早くくれ」
「餓鬼じゃの」
「山姥しばらく医師の台座に座っとれ」
「食わせろ」
「徳を積んだら何も言わんでも食えるものじゃ」
「わしに、徳はいらん」
「あったら得するのにの」
「損にならんならもらうわ」
「やれん」
「徳は自分で身に着けるものじゃ」
「ややこしいの」
「ああ」
「わからんなら死ぬまで食えんよ」
「死んだら食えるんか」
「ああ」
「なら殺せ」
「そんな無駄なことは冬将軍もやらんよ」
「食わせろ」
「うるさいの」
「あの台座に座らせろ」
村人たちは山姥を台座に乗せて、鯛を焼いて食べました。
東の山から、うろこ雲が、流れてきています。
青い空が、割れました。
冬将軍が、山姥に手を伸ばして摘まみ上げました。
太郎と三郎は、漉いた紙が少し乾いたので、一枚とって、広げました。するとふわっと浮いたので二人は、紙と一緒に飛びました。
「冬将軍、雪がきれいでした。山姥がかわいそうだから許してください」
「山姥は、約束を破るし、仕事もしないんだよ、そんな人は、懲らしめないといけないんだよ」
「じゃあ、あとでおにぎりあげていい」
「いいよ、海の魚の干物がお父さんたちが持ってるのでそれも焼いて食べさせてあげなさい」
山姥は、目を見開いてニヤッと笑いました。
カラス天狗は、
「わかっいぇないな」
と怒って、如意棒で山姥の、口を殴りました。
「あわわ、わわ、葉が折れたわ、治療費を払え」
山姥は、大声で怒鳴りました。
「うるさーい」
太郎と三郎は、叫びました。
冬将軍は、しょうがないな、と言って北の山に山姥を思いっきり投げてしまいました。
「ギヤー」
山姥は北の山の岩に張り付いてしまいました。
「お・に・ぎり、チクショー、偽将軍」
「偽山姥目、雪山のぼろ屋は、鶴姫に取られてしもうたろ」
「親切にしてやったら軒下をとられたんじゃ」
「オーそうか、それで山姥の仕事はなんじゃったかの」
「わしに仕事なぞ無い、来たやつを食うだけだ」
「法、それで食ったか」
「カラス天狗にとられたわ、見事じゃ、ハハハハハ」
「カラス天狗にとられたんじゃあなくてお前がしくじったんじゃ」
「よー見えていいわ、ここで暮らすわ」
「夜は凍るぞ」
「もう1000回凍ってしもうたわ」
「う、トカゲ」
山姥は岩を張ってきたトカゲをつまんで食べました。
そして、口を開けて上を向いたら、大きな雪の塊が落ちてきました。
「これで水もようやく飲めた」
「冬将軍、夜にまたふぶくか」
村人は聞きました。
「ああ、まだまだ仕事をするよ」
「わかった、村の建物に、柱を足しておくわ、わしらも一仕事じゃ」
「仕事はいいの」
「へ、皮肉か、わしは仕事いらん」
山姥は岩に張り付いたまま凍っていきました。
「ねえ太郎、また飛ぶ」
「また明日の朝にね」
「うん」
「ほらまた空が真っ暗になってるよ」
「でもお月さんに星がたくさん笑っているよ」
「ああ、よく見てごらん、白い虹の橋が架かっているよ」
「見えたー」
「だろ」
「おまえたち、おにぎりを握ったから、虹の橋を渡って食べておいで」
「うん」
二人は川に向かって橋を渡っていきました」
橋の真ん中たりでおにぎりを食べていると、向こうの雲の上で、村人と、冬将軍と兵隊に、カラス天狗と闇の小人たちが集まって、穏座釣りみたいにみんなでご飯を食べていました。
「お婆さんを読んであげなきゃあ」二人は戻ってお婆さんを読んできました。
山姥はどうしよう。二人は困りました
「太郎、三郎、山姥はあの岩山の崖にいたいらしいよ、呼んだら怒られるから、今夜はみんなでご飯にしよう」
村の長は言いました。
「うん」
二人は向こうの雲に行って、
「おばあさんも」
と手を振りました。
二人は、ようやくたどり着いて、
「おう、ぼんぼん、ようやったな」
「うん」
「しっかり食べなさい」
「うん」
「でも山姥が」
「いいんだよ」
「いやだー」
「呼んでご覧」
「うん」
「山姥ー」
「あー」
山姥は寝ていました」
「おいでよー」
「行かないよ」
「どうして」
「ここが楽でいいんじゃ」
「来ないの」
「ああ」
「じゃあ持っていく」
「来るな、カラス天狗にやられるぞ」
「いやだ」
「みんなで仲良く暮らせ」
「うん」
「雪山に来るなよ」
「嫌だー」
「食っちゃうぞ」
「おにぎりあげるよ」
「来るなよ」
「ほら」
「嫌だー」
「二人とも、仲良くしなさい」
冬将軍が言いました。
「うん」
村人たちは、みんなで、お祈りしているのです。
「よーヨーヨー」
「ヘイヘイヘイ」
村人たちは、大国主命に
「今年も豊作で、頑張ります」
お祈りです。
太郎と三郎は
「山姥、遊んでよ」
「食べないよ」
「山姥、お前の仕事はまだ終わってないぞ、終わらんと生きれもせんし死ぬこともできん、くうこともできんぞ」
「大国主様、山姥は悪い人ですか」
「困った人を食う悪い人だ」
「困らないといいんですね」
「ああ、でも人は誰でも困るんだよ」
「僕たち困ったけどお婆さんに助けてもらって、頑張って紙を漉きました」
「助けてもらうとうれしいだろ」
「うん」
「山姥は、どうやって助けよう」
「優しくしてあげて」
「そうか、では、たくさんの優しいを兵隊に運ばせよう」
冬の将軍は、
「かかれ」
と塀に命令しました。
兵隊は沢山のごちそうを山姥にはこびました。
「オー来たか」
「冬将軍の兵だな」
「山姥、村人がお前を許せというが、どうする」
「何を許すんだ、わしは何も、責められるようなことは、これまでの人生の中にはないわ」
「罪はないというか」
「あー夢の先ほどもないわ」
「お前の仕事はやったか」
「わしに仕事などない、食うだけだ」
「食うたか」
「いや、カラス天狗に全部取られた」
「それでは、トカゲはどうだ」
「そいつはわしの手に乗っかったので食うたわ」
「食うたか」
「ああ」
「残念だな、食うたか」
「ああ、悪いか」
「残念じゃ、そいつは、西の守り神じゃ」
「知るか、名乗らなかったぞ」
「残念じゃ1億年生きたままそこで凍っていろ。
「ああ」
山姥は悔し涙を流しました。
あれあれ山姥は、生娘になりました。
「なんという美人じゃ、そこに張り付いていろ」
冬将軍の兵は岩の下に、食物を捧げものとして置いて帰りました。
「おいそこに置くと、みんなキツネやタヌキにモグラに食われてしまうじゃあないか」
「ああ、彼らへの捧げものだ」
「わしのは」
「たった一つもないわ」
「ないのか」
「そうじゃ」
「仕方ないの」
山姥は、タヌキに狐に、モグラが食えるなと思いました。
すると久万がやってきて、キツネに狸に、モグラと食物をあっという間に、平らげました。
村人たちはのちにこの岩の谷を
「食い倒れの谷」と呼ぶようになりました。
谷底の雪はもう10メートルも積もっていました。
山姥はしめたとおもいました。
すでにタヌキやキツネにモグラにネズミが食い物をあさっていました。
山姥は、岩からはがれて手をまっすぐに合わせてダイビングしました。
山姥は白い髪を羽のように動かして、地面ぎりぎりでホバーリングして、手をのばしてまず、ねずみをつかんでくちにいれてかみました。次にモグラをつかんでがぶっとか見ました。タヌキは慌てて,しっぽをのっばして、屁をこきました。
「こいつやったな」
「うまそうな匂いだ」
狐は慌てて、
「コンコン」と歌いました。
山姥はもう満腹になったので、キツネとタヌキをけって、雪に埋めようとしましたが、足をがぶっとかまれて、
「ぎゃー」と大声を出しました。
冬将軍は、山姥をつまんでもう一度岩山に思いっきり投げつけました。
「ぎぇー」
山姥は岩に張り付いて凍ってしまいました。
すると急に若返って若い美人の生娘になりました。
「そのままにして露、食いしんぼう、め」
山姥はそれから1000年岩に張り付いていました。
村の長になった太郎は、
「山姥、お握りだ、食べろ」
「オー太郎」
「村は繁盛しているか」
「ああうまい米で日本一の谷になったよ」
「今度囲炉裏においで海の魚の干物があるよ」
今では囲炉裏に河童や、ぬりかべに海外からのお客でにぎわっています。
谷間の村は、雪の中です。
雪解け水が川に銀の流れのように滑らかに輝いてかわのながれになっています。黒い影が元気よく泳いでいます。いしのかげをいったりきたりしています。
「もうすぐ春だ。」
「今年も精いっぱい働こう」
「うん」
「田んぼの稲の緑で谷を輝かすんだ」
「今年も冬将軍に感謝だ。
冬、春、夏秋正月のお祈りの祭りだ。
虹の向こうの雲に座って祝おう」
太郎と三郎たちは、孫に囲まれて握り飯を、食べました。
よるの.虹に乗って歩くと、足腰が丈夫になります。
村人たちは、たくさんのお客様をもてなしています。
「おいやおいや」
「はーいはーい」
村の田はにぎやかです。
「がんばろう」
「おう」
谷の村は冬。お正月、春夏、秋のお祭りが1000年続いています。
太郎と三郎とお婆さんとついでに山姥にカラス天狗に闇の小人たちが、石造になって村の地蔵の隣に立っています。
「あれ、これ、婆さんたちだよ」
「変」
「お地蔵さんは笑っているのに」
「一番左の仁王様がにらんで緊張してるよ」
「ソフトクリームうまいな」
「コメのアイスにコメのコーン」
「コメこのクレープもあったよ」
「ソロソロお昼ね」
「食べよう」
「アイスだけじゃあ腹が減った」
「蕎麦屋だ」
「うん」
「そばにしよう」
「朝からなにも食ってない」
「アイスは」
「飲んだ」
若い女性の3人グループが歩いていきました。
太郎と三郎は、村が静かになるのを待っています。
蕎麦屋に入った3人は、季節の山菜天ぷらそばを頼みました。
「いらっしゃいませ」
「お願いします」
「はい」
「山姥伝説について知りたくて来たんですけど」
「山姥ですか、話せば長くなるのでそばが延びてしまいます」
「えー、でも知りたい卒論にしたいんです」
「4年生」
「家2年です」
「でしたらまず向こうの道の端にある地蔵を見てきてください」
「この村、智頭煮ないですね」
「はい、私の祖父たちが守った谷です」
「え、どなた」
「私の祖父が村の長を継いだんです」
「えー、すいません、家系図や記録のノートがありますか」
「ないことになっているんです」
「ないんですか」
「ええ」
「では教えていただけますか」
「毎月一度お話しする会があってもいいかと思っていました」
「お願いします」
「長くなりますが」
「ええ」
「ところでこの谷はどこの国のものですか」
「いえ、私たちに城主はいません、冬将軍と我々が築いててきたものです」
「冬将軍、いつの時代の将軍ですか、私たちの知る資料に出てこない将軍です」
「それは祖父の時代にあったことです」
「ということは、100年前ぐらいですね」
「いえいえそのくらい前は私はもう生まれています」
「100歳を超えていらっしゃるんですか」
「ええまだまだ若造です」
「私たちからかわれてるの」
「いいえ、この方は私たちの村の長ですから、決していい加減なことは言いません」
蕎麦屋の女将は言いました。
「この村の一年は何日ですか」
「私たちの一年八冬将軍が来た時に始まって春が来て次に冬将軍が来て、一年がたちます」
「では冬将軍はどこから来るんですか」
「北の山の頂上の向こうの天高くから来ます」
では、冬将軍はこの国の主ではないんですね」
「ええ」
「不思議―」
「はいどうぞ」
女将がそばを運んできました。
「女将お世話になっています」
「いえ」
「私の祖父が女将の祖母に、紙すきを習って空を飛んでこの谷が、できてきたようです」
「えー、さりげなさすぎます。貴重なお話しいただきました」
「いただきます」
娘たちは蕎麦をすすりました。
「美味しい」
「ねえ」
「うん」
「メモした」
「うん」
「あの虹の橋のことはいいでしょうか」
「ええ」
「まだゆっくりと」
「はい」
「一年かけて聞きます」
「では、お話の会をやってみます」
「ええ」
「そばを食べて」
「はい」
「この村の水でできたのよ」
「はい」
「よくここに来たね」
「山姥を調べていたら、この村のことが有名になっていたので」
「そうですか」
「山姥、私の村の仲間です」
「はい」
そろそろ冬将軍が,来そうです。
川の流れも静かになっています。
「ソロソロだよ、北の山には来てるよ」
「え」
「うん」
「おにぎりの準備だ」
「祭りだ」
「お嬢さんたち、しばらく止まっていきませんか、もうすぐ冬将軍が来て一年が始まります」
「ええ」
「ごゆっくりと」
「はあ」
「二階に泊まれますよ」
「はい」
「闇の小人が夜いたずらしたら、ごめんね、いい人たちだから聞いてみて」
女将は笑顔で言いました。
「はい」
娘たちは、洗面で歯を磨いて、村を散策することにしました。
「ゆっくり歩いてね」
「はい」
「団子がおいしいよ」
「アイス食べました」
「水がおいしいからね、川に、近づかないでね、魚が水しぶきを上げて河童を呼ぶよ」
「面白そう」
「水を汚したら駄目よ」
「はーい」
娘たちは、土間に向かって、
「そこの草鞋を履いて」
女将は言いました。
「初めて」
「村の中はそれで歩いて」
「はい」
「外人さんも脚絆をしてたわ」
「ね」
「ええでも、どこを検索そしてこの谷の村の名前がないの」
「地図もないけど、山行きの電車の終点から、谷行のバスで突くことだけが出ているの」
「本当にあったんだ」
「みんな幻の村って言ってるの」
「村人のことも載ってない、外国の人たちはただ歩いて帰っているみたい」
「ええそうよ、私たち、隠れているの」
「困った人にだけ、案内をするんだ、私たちは、いないんだよ」
「はい、でも、お蕎麦に,天婦羅は、凄く美味しい」
「決して話してはいけません、この村に蕎麦屋はありません」
「ここは」
「お嬢さんたち夢を見ていますね」
「え」
参院ははっとして、目が覚めました。
「あれ、研究室」
「見たよね」
「うん、食べた」
「行けるはずよ」
「村の長と女将に会いに行くの」
「そうね」
三人は、さっそく出発のためのノートを作り始めました。
「まずは川ね」
「うん」
「景色覚えてる」
「うん」
「でもしゃべっちゃあいけないのよ」
「うん」
「卒論を添削してもらってからよ」
「うん」
「じゃあ、東京駅にいこう」
「謎の列車の情報があるかも」
「うん」
参院はまだ夢の中です。
「コーヒー飲もうか」
「うん、あたまをさまそう」
「行くか」
「うん巡喫茶バラに」
「うん」
三人は研究室を飛び出しました。
「スニーカーよ」
「うん」
「草鞋覚えてる」
「うん」
「いくよ」
三人は駆け出しました。
キャンパスのわきの桜の木には硬い白いつぼみがついていました。
梅の花の香りがしています。
三人は梅の木の下の祠に手を合わせました。
もうっ直ぐ3年。
「やっぱり谷の村の名前を探ろう」
「きっとあるよ」
「おいいしいものがたくさんだもの」
「うん」
「コーヒーの香りがいいな」
「うん」
「行くよ」
「うん」
「走ろう」
「今日は暖かいね、一枚脱ごうよ」
「うん」
三人は喫茶バラの思いドアを開けて入りました。
「あそこ」
「うん」
「ピザトーストも」
「いいね」
ホットコーヒーブラック」
「でも私レモンスカッシュ」
「覚えてる」
「コメソフトとコメコーン」
「美味しかったなー」
「グルメの谷ね」
「そうじゃ、わしらの村は食い倒れ村じゃ」
「え、聞いた」
「うん」
「太郎の長」
「うん」
「美味しいよね」
「うん、お蕎麦に天婦羅」
「はいピザトーストにお蕎麦に天婦羅ですね」
「ええ」
「天婦羅は今日、大正エビにアワビですよ」
「はい大盛りで」
「ワオー」
「お待ちください」
「あ、ブラックコーヒーあと二つ」
「はい」
「お願いします」
「ねえ聞いた」
「うん」
「ひょっとしてまだ寝てる」
「寝てください私はここにいますよ」
「怪しい喫茶店だと思ってたのよ」
「また聞こえたよ」
ランプの明かりが揺れてきました。
「冬将軍は帰ったんでしたっけ」
「一度帰っていきそうだったよ」
「川の水がぬるくなってきたみたいだけど決して地数いてはいけないの」
「柳田邦夫の世界、いや、折口信夫、宮本常一」
「違うよ」
「神話の世界よ」
「コーヒー飲もう」
「ええ」
「お待たせしました」
ピザトーストに蕎麦に天婦羅も来ました。
「食べよう」
冬将軍は、山のはるか向こうの天空に帰っていきました。
おにぎりをたっぷり手に入れたので軍の兵は歩調が明るいままはるかかなたの空の向こうに行軍していきました。
冬将軍は、いい働きだったなと大満足でした。
谷の川の縁に太郎と三郎は立っていました。黒い影が勢いよく泳いでいます。
「どうする、楮をとるか、そろそろ紙を漉いておかないと水が暖かくなりすぎるとふかふかな、紙になるな」
二人は山を見上げました。
「そろそろ若い芽も出てきてそうだな」
二人は鎮守の森に向かう階段を見ました。
「カラス天狗たち、修行をしてるな」
「ああ静かだ」
「もう木の実はたべているだろうか」
「そうだな」
「鎌とお握りを用意していこう」
「何、おにぎり」
「山姥もうおきちゃったよ」
「とにかくお婆さんを訪ねよう」
二人はゆっくり皮を見て、
「また来るね」
「ああ」
と魚は答えました
「ではまた」
「また」
二人はゆっくりと歩き始めました。
空でしじゅうからが「ヒュー、ヒュー」
と歌っています。
土筆が頭を出し始めていました。猫柳の房が、きらきらと輝いていました。
河原の石が、ころりと動きました。
「おにぎり、塩だけか」
「いや、大根の漬物、を用意していこう」
「じゃあ家の納屋によってだな」
「ああ」
「ここでよかった」
二人は道を右に曲がって歩きはじめました。
後ろで、お地蔵さまがにこやかに笑っていました。
「さあ行こう」
二人は家の土蔵に向かいました。
「味噌も持っていくか」
「叔母さん余らしてないかな」
「持っていこう、天狗が食べるかも、闇の小人達も食べるよ、山姥には口に投げ込んでやれ」
「嫌ちゃんとお握りに乗せて渡そう」
「まあそうだな」
二人は蔵で,沢庵と、奈良漬けと、大根の塩の浅漬けを選んで、ざるに入れて出て、土間で鎌の刃を研いで、叔母さんの家に向かいました。
道の両脇にはもうすでにナズナや、ヨモギが、緑の刃を勢いよく、茂っていました。
「ちょっと待って」
三郎が言いました。
「赤い布をお地蔵さんにかけなおしてあげなきゃあ」
「そうだな、だんごも」
「うん」
「味噌付きのおにぎりか」
山姥は目を覚まして、にやっと笑って舌なめずりをしました。
山姥は考えました。先にカラス天狗たちに何か食わしておこう。
やっとコメが食えるからな。
太郎と三郎は、お地蔵さんのある分かれ道で、
「しまった」
「え」
「仁王様の」
「団子を分けるしかない」
「帰りにおにぎりを持っておこう」
二人はお地蔵さんに新しい赤い布をかけて叔母さんの家に向かいました。
「おはようございます」
「おはようございます」
「よろしくお願いいたします」
お婆さんはにこやかに笑ってくれました。
母屋の天井は高くて囲炉裏の火で温まっていました。
「この冬は長かったね」
「はい」
「ソロソロ飛ぼうかと思いまして」
「承知しました」
「コメは大丈夫ですか」
「あそこに100俵積んであります新米です。
「いいですか」
「漬物に、みそは持ってきました」
「はい」
「炊きますから待ていて下さい」
「お願いします」
「はい」
お婆さんはふっくらとしたご飯を炊いてjくれました。
竈に赤江瑠偉アサヒがさしています。
土間に沢蟹がやってきました。
「切るぞ」
「切るぞ」
「チョッキンチョッキン」
科には目玉を上に向けて泡を吹いていました。
「おい」
「なんだ」
「川にきたろ」
「ああ」
「冬将軍は、喜んでたぞ」
「そうか」
土間は凍っていますが沢蟹は横歩きで行ったり来たりしています。
「おやおや、ここにコメ粒億予」
お婆さんは炊いたご飯から米粒をとって地面に置きました。
沢蟹は器用に右の爪で拾って食べました。
「うまいな」
「そうか」
「飛ぶんだな」
「ああ」
「その前に紙を漉くんだ」
「これから祠に向かっていくよ」
「あそこか、あそこは俺も行くよ」
「なんで」
「あそこには、苔の匂いの石がある」
「苔を食うのか」
「ああ近頃川のコケも取りずらくなったからな」
「おにぎり、よこせ」
山姥が壁からにょきっと首を出して太郎をにらみました。
太郎はみそ握りを山姥の口の中に押し込みました。
「山姥ー」
沢蟹は顔を真っ赤にして起こりました。
「お前が川で水浴びしてから苔が枯れたんだ、鼻を挟むぞ」
と言ってぴょんと飛びました。
「ギョエー」
沢蟹は一発で山姥の花の根元を爪で挟みました。
山姥は慌てて、沢蟹をとろうとしましたが、沢蟹のはさみが鼻に食い込んで、
「ギョエー、鼻がちぎれる」
と言って大きな鼻水を土間に垂らしました。
「臭いー」
三郎は悲鳴を上げました。
沢蟹は、
「えい」
と鼻毛を抜いておりました。
「ヒェー」
山姥は叫びました。
すかさず太郎はその口にみそおにぎりを突っ込みました。
太郎と三郎はようやく祠に向かって歩き始めました。
「気を付けて行っておいで」
「はい」
祠に上る階段の両脇の木はすっかり乾いていました。
てっぺんの雪も解けていきました。
「おーきたか」
カラス天狗たちは楮の枝を一気にきりおとしていきました。
「少し残して。今日は僕たちも一本切るよ」
「そうか、殺さないように丁寧にやってくれ、しくじったら殺すぞ」
「はい、村の宝です」
「そうじゃ、わしらが守っておる」
すると闇の小人たちが、
「もっとはやしていこうよ」
とみんなで言いました。
「うん」
太郎と三郎は笑顔でうなずきました。
太郎と三郎は、しょってきた籠に、楮の枝を集めて入れていきました。
「カラス天狗、闇の小人、ここにおにぎりをたっぷり置いておくよ、山姥のはとらないでね」
と言いました。
「そうか」
カラス天狗はちょっとつまらなそうでした。
「山姥を懲らしめないのか」
「ええ、もうすでに冬将軍が、死ぬまで岩に張り付けの刑にしたからいいんだ」
「わしらの仲間が食われた恨みは晴れん」
「山姥が夜になっていびきを核と闇の世界が臭くて困っているんだ」
闇の小人たちも不満顔です。
「川のコケも台無しにしたんだ」
沢蟹は
「もう一度飛び上がって鼻をはさみで切るぞ」
と言いました。
太郎と三郎は、
「山姥も村の住人なので何とか岩に張り付いて穏やかな一生を送らせてあげられるようにしたいんだ」
「そうか、もう一度冬将軍に、山姥を冷凍漬けにしてもらえ」
「あー分かった」
「若い生娘に戻るぞ」
カラス天狗は大笑いしました。
太郎と三郎は楮をたっぷり拾って、
林の真ん中に立っている立派な楮の枝を一本、慎重に丁寧に枝を落としていただきました。
「カラス天狗、いつもありがとう」
「ああ」
「今年も田んぼに、緑豊かな、コメが、秋に黄金色に実るよ」
「ああ、いい水を大切にしような」
「冬将軍がくれた雪がまだ根雪で山の頂上で銀色に輝いているよ」
「太郎、三郎、ソロソロ孫でも連れてこい」
「ああ」
「カラス天狗、君たちの孫は」
「ああ今年は柿がたくさん実ったから、大きく育ったよ」
「山姥とよく話してよ、恨みもあるだろうけど、山姥は反省するよ」
「本当にそんなに簡単にいくか、あのひねくれもの」
「私からもしっかり言っておきますよ」
「叔母さん、ありがとう」
太郎と三郎は、楮を籠いっぱいに詰めて背中にしょって、村に戻っていきました。
「これから紙漉きだ」
「あの娘たちまたソロソロ来るかな」
「ああ、そば粉を打っておこう」
「あのお嬢さんたち、この風景を見たら驚くかな、もうすぐ春」
「三郎」
「はい」
「どうする、村の歴史」
「いや、ここは冬将軍が残した村だけでいいよ」
「ああ」
「春祭りは」
「やっぱり、舞を納めて、コメ50俵、奉納するか」
村の木々の新芽は膨らんできています。
夜明けの月は明るく笑っています。
鳥も、安心して南の空を飛んでいます。
「おう」
「カラス天狗」
「話してきたぞ」
「はい」
「味噌付きおにぎりを毎日3個あれば、村の生き物は食べないそうだ」
「それで許すか」
「仲間の無念は消えん」
「では、カラス天狗の仲間が安らかに眠れるよう舞を奉納しよう」
「やってくれるか」
「はい」
太郎と三郎は、山姥の岩の上にここらを立てて、烏天狗の平安を願って、
お祈りの舞の祭りを毎年春に行うことにしました。
太郎と三郎は崖の上に立ちました。
北風が、まだまだ吹いています。
太郎と三郎は、
西の空を見上げました。
希望の風に乗って、空をはばたく
聞こえる、聞こえていい、
誰もが、豊かに暮らせる
一つつまんで、また一つ
田んぼに広がったオレンジの花が、朝霧の下で、桃色の畑になっています。
もうすぐ、ぬるくなった水をひいて田を耕す季節です。
土壌が遊び始めました。
さあ田植えの始まりです。
腰を折ってまた一つ、苗が、他に広がって、稲が緑の広場になっていきました。
そこでもう一つつまんで、草取りの始まりです。
夏祭りの神楽です。夕立が、土の上をはねていきます。
神楽の太鼓の音が谷に響き渡ります。
夕焼け空に赤とんぼが飛んできました。
黄金色に輝く稲の穂が神戸を垂れて喜んでいます。
稲刈りの始まりです。
村は今年も豊作です。
秋祭りです。
柿の実も豊作です。
烏はゆっくり夕日に向かって飛んでいきます。
村の娘がコメを炊いてお握りを握りました。
娘は頬を桃色にして幸せそうに食べました。
祠の裏の陰で闇の小人たちが舞を始めました。
とことんとことんとことんトン。
闇の小人たちは、
ようやくぐっすり眠れそうです。
眠りました。
スースースー。
「大変じゃの」
「これから春祭りの支度じゃ」
「紙を漉くんじゃ」
「そうじゃ」
「紙がないと始まらん、新しいのでないと」
「このままでいいか」
「よかろう」
「じゃあ、帰るか」
「お婆さんの作業場に」
「その前に炭を焼こう」
「炭焼きは、弥右衛門爺さんの炭焼き場に行かないとできん」
「おにぎりをもっていこう」
「卵焼き、はどうする」
「鳥に悪いからやるな」
「じゃあ沢庵付きで」
「ああ」
「おにぎりはどうする」
「コメを炊くか」
「ああ」
「握って持っていこう」
二人は一度家に帰ってお握りを握ることにしました。
家の竈で使う松葉を拾って帰っていきました。
二人は家に着くと、お勝手に向かって、
竈の焚口に杉葉を詰め込んで、木の屑に、火打石で火をつけて、投げ込みました。よく乾いていたと見えて、焚口はすぐに赤い帆脳でいっぱいになりました。
「おい、はじめ、チョロチョロ、中パッパだろ」
「いや、焦げないようにすれば、窯は大丈夫だよ」
しばらくすると、コメが炊けてる香りがしてきました。
「土鍋もいいみたいだが」
「ああ」
「いい土鍋をこさえてみよう」
「二人は手拭いで汗を拭きました。
しばらくすると、音が静かになって、ご飯が炊けたようなので、火に砂をかけて消しました。
一度二人は庭に出てご飯を蒸らしました。
「しゃもじ」
「あったはずだ。囲炉裏に置いたままだ」
「ちゃんと洗って、いつ使ったか忘れた、100年前じゃあないよな」
「いや、200年前だ」
「そうか」
二人は囲炉裏でしゃもじをとってきて、川の洗い場で洗って、勝手に向かいました。
「いい米が炊けた、握ろう」
二人はおにぎり10個作って、竹の皮にくるんで、弥右衛門爺さんの炭焼き場に向かいました。
弥右衛門の炭焼き場は一山超えていきます。
竹林がざわざわとささやいています。
もう山菜がたくさん目を出しています。
東の山の頂上から、一筋がまっすぐ村に光を差し込んでいます。
二人は、ゆっくりと弥右衛門さんの炭焼き場に向かいました。
「帰ったら風呂だな」
「うん」
「おにぎり重いな」
「うん」
「うまいよな」
「うん」
「もっと握って配ろう」
「うん」
「紙漉きも」
「やるよ」
「山菜も」
「採ろう」
「ああ」
二人は弥右衛門産の炭焼き場に向かいました。
籠に乗せたおにぎりを落とさないように一歩ずつ歩きました。
「おはようございます」
「おう」
「炭を焼かせてください」
「紙を漉くのか」
「はい、おにぎり」
弥右衛門おじさんは黙ってお握りを一戸採って口にほおばって、うまいのう」
とわらってくれました。
「炭」
「ああ」
「薪を切って、上等な、ヒノキだ」
「はい」
二人はおじさんが切り倒した樹をのこぎりで、二の腕ぐらいの大きさに切っていきました。そして薪割をひたすら続けました。
ピーヒョロロ、
空高く鳶が飛んでいます。
猫がギャーと鳴きました。
鳶八急降下して、ネズミを捕まえて咥えました。
「くっそー」
猫はグーの手を振って地団駄踏んでいます。
「まだまだだな」
「もう一本切ってくれ」
弥右衛門さんは楽しそうに言ってくれました。
太郎と三郎は、緑の香りのする空気を思いっきり深呼吸をして吸って、
「これがわしらのにおいじゃ」
「もうちょおっと土の匂いもしていいんじゃがの」
「ああ」
「まだまだ切っていこう」
「ああ」
二人は黙々とのこぎりで樹鵜を切っていきました。4本ぐらい切れたところで、三郎は、切れた木材を、丸太の木の切り株において、なたで、割っていきました。
弥右衛門さんは、
「わしは、戻って白湯で一服しておこう、あれじゃあ夕方になるな」
と言って母屋の囲炉裏に向かいました。
太郎と三郎は、ただ黙々と、木材の丸太と戦っていました。
西の山の空でカラスが
「アホー」
と、大きな声で鳴きました。
「樹鵜を切れば烏無くなり西の夕焼け」
「ソロソロ積もう」
「ああ」
「やっと小屋一軒分積めた」
「やっとできたの、いい時間じゃ、夕餉を食べて一晩かけて焼いていけそうじゃ」
「にしのそらにつきあかりがともって、綿雪がゆっくりひらひら降ってきました。
「おい、お二人さん、腹ごしらえじゃ」
「はい」
「こっちへおいで」
「はい」
太郎と三郎は、籠のおにぎりをもって母屋の囲炉裏に向かいました。
月明かりで星のように輝く綿雪は地面についてすっと消えていきました。
「雪の香りだ」
「冬将軍はもう着いたかな」
「向こうの高原で次の深淵までゆっくり休んでるんだ」
「ああ」
「ついたの」
弥右衛門産は囲炉裏に鍋をかけて味噌をと説いて、白菜を入れました。
「あ、これ」
三郎は籠に積んでいた、山菜を鍋にどさっと入れました。
「豪華になるの」
太郎は積んできた、シイタケを2歩本鍋に入れました。
「うまくなりそうじゃ」
弥右衛門産は穏やかな笑顔で囲炉裏に腰かけていました。
三人はおにぎりをほおばって鍋の料理をゆっくり食べつくしました。
「これじゃ」
弥右衛門産は土間からツボをもってきて、
「椀を出してくれ」
「はい」
二人は鍋を食べてからにしたお椀を弥右衛門産に差し出しました。
弥右衛門産はツボの中を丁寧に箸で様子を探って、
「このあたりじゃ」
と言って、
二人の椀に箸で大きめの柔らかい梅干を三つ、づつお椀に入れました。そして、囲炉裏に鉄瓶をかけてお湯を沸かしました。
囲炉裏の中の炭は、黒く太いものが置かれて、肺は丁寧に周辺に盛られていました。炭には、強い紅色の火がゆっくりと燃えています。
ほどなくして、鉄瓶の重い蓋がコトコトとしゃべり始めました。
「そうか、そろそろか」
「コトコト」
「そうか」
と、弥右衛門さんは言って、鉄瓶を下ろして、囲炉裏の縁に、わらの敷物を置いて、鉄瓶をその上に載せました。
太郎と三郎は、じっとそれを見つめていました。
「うん、いいじゃろう、お椀をだしなさい」
「はい」
二人は持っていたお椀を差し出すと、
「横に置きなさい、熱いぞ」
と弥右衛門さんは言っておかれたお椀に、澄んだ美しいお湯を注いでいきました。
「梅はほぐすなよ、飲んだ後に食べ残した種で、お変わりの白湯を楽しもう」
「はい」
太郎と三郎は、
お椀をもってゆっくりと口に運んで、少しづつ、お湯を飲みました。
「え」
「お吸い物」
「白湯じゃ」
弥右衛門さんもお椀に梅を一粒入れてお湯を注いでゆっくり飲みました。
「生き返った」
「うん」
「本当に今まで死んでいたみたいだ」
「あれだけ体を動かしたのに、凍って死んでいた」
「ああ」
「蘇ったのですね」
「ええ、魔法の薬に出会ったようです」
「これは、烏天狗たちが修行明けに必ず飲む白湯じゃ」
すると闇の小人たちが囲炉裏に来てお椀を並べました。
「おーおまえたちもか」
弥右衛門さんはにっこりと笑ってツボのふたを開けて、梅干をお椀に入れて、お湯を注いでいきました。
闇の小人たちはゆっくりとそれを飲んで、
頭を下げて、闇に帰っていきました。
弥右衛門さんはゆっくり天井の煤を見つめました。
「うん、風も収まったようじゃ」
「はい」
「いい星が出ておるじゃろ」
「はい」
弥右衛門さんは、神棚に水を一杯お供えして、手を合わせて、
「今夜も、闇を騒がしますが、精いっぱい心を込めて焼きます、おまもりください」と心で唱えました。
太郎と三郎も神棚に深くお辞儀しました。
「これに着替えなさい」
弥右衛門さんは、洗い立ての白い作務衣を二人に渡しました。
「はい」
太郎と三郎は、それを受け取って、来ていたものを脱いでたたんで、白い作務衣を着ました。
弥右衛門さんも来ていたものをとって新しい作務衣に着替えました。
「いい夜じゃ」
「はい」
静かに綿雪が、降りてきています。
「さあ、やろうか」
弥右衛門さんは、白い出っ歯を出して言いました。
顔は煤だらけで真っ黒です。
「よっこらしょ」
弥右衛門さんは積んだ薪を抱えて、にこやかに、炭焼き小屋に入っていきました。
弥右衛門さんは窯の奥から一本筒、丁寧に立てて奈良弁ました。
太郎と三郎は、
「やろう」
「うん」
「氷柱が長いな」
「太さが足らんよ」
「朝になったら、食べよう」
「うん」
「炭焼きだ」
薪をとって、
二人は薪を持てるだけとって抱きかかえて炭焼き小屋に入っていきました。
「細いのから丁寧に並べて、行くんだよ」
「はい」
二人は小屋の窯に入って、丁寧に奥の壁に沿って薪を立てて並べていきました。
「あまり隙間を作らないようにしているんだ」
「はい」
「いろんな流儀があるがわしはできるだけ隙間を作らずにゆっくり蒸し焼きにするんだ。やってくれるかね」
「はい」
みんなの白かった作務衣はもうすでに上から下まで黒く汚れてしまっています。
コト、コト、コト、カ、カ、薪を置くたびに窯の中で薪がぶつかり合う固い音がしました。
太郎と三郎は、窯がいっぱいになるまで積み上げた薪を運びました。
「流れ星だ」
「見えたか」
「うん」
「東の空に夜の白い虹だ」
耳を澄ますと、滝の音がゴーっと響いてきます。
村人たちは静かに眠っているようです。
「ピシャ」
「今魚が跳ねたな」
「うん」
「私たちの村が静かに休んでいる」
「ああ」
太郎と三郎たちは、両手いっぱいに薪を抱えて、窯に運んで、丁寧に立てていきました。
「悪いが夜明け前に焼きたいので急いでくれるか」
「はい」
二人は作業を急ぎました。
「心を込めて、丁寧に」
二人はそう言いあって何度も往復しました。
山のようだった薪も、丘ぐらいに見えてきました。
「あともう少し」
「まだまだ」
「窯の中こんなに広いとは」
「いつも、弥右衛門さん一人で焼いてるんだ」
「とてもできることじゃあないな」
「ああ太郎」
「ガタガタ」
「あ」
「しまった」
「崩れたか」
「大丈夫です、手前を組みなおします」
「焦るな、丁寧に早くな、焦ると時間を無駄にする」
「はい」
太郎と三郎は、落ち着いて薪を並べていきました。
「おい、わしらも手伝うぞ」
闇の小人たちも慌てて出てきて薪を一本ずつ取ってきて丁寧に窯に立てて並べていきました。
「ありがとう」
太郎と三郎は
お礼を言いながら手を休めることなく薪を運んで窯に立てて、並べました。
「おじさん」
「あー」
「よく乾いた薪ですね」
「ああ、冬場に木こりをして、ゆっくり広場において乾かしたんじゃ」
「炭になるのが楽しみです」
「のう小人たち、いつも隠れとらんで、好きな時に出て来いよ」
「いや、僕らは闇の一族ですから」
「バサ」
「カラス天狗」
「おう」
「山姥も生娘になって落ち着いたぞ」
「そうか、美人になったか」
「まあそこそこの」
「やっぱり残念な感じか」
「でも山姥からは想像もつかんほっぺたがまあるくて赤いんだ」
「赤い」
「頬っぺただ、鼻じゃあない」
「一滴も酒は飲まんじゃろ」
「ああ」
「今のうちしかないぞ」
「ああ」
「おにぎりをやればいいんだろ」
「毎朝晩にしないと奴はまた、殺人者になるぞ」
「ああ」
「もうすぐ明日の朝だが、大丈夫か」
「ああ、急いでやるから手伝えよ」
「切り株を運ぶんだな」
「ああ」
烏天狗の一族は一斉に飛び立って、切り株の丘の薪を加えて、小屋の前に置きました。あっという間に薪の丘が目の前にできました。
「並べ」
闇の小人たちは一列に並んで、薪の丘から窯の仲間で手渡しで一本ずつ入れて、丁寧に立てて並べていきました。
「えーこれは」
太郎と三郎は驚きました。
窯の中に立派な砦ができていたのです。
「おう、積めたか」
弥右衛門さんはにっこりと笑って、
お茶をグイっと飲みました。
「さあみんな離れろ」
弥右衛門さんはにっこりと笑って窯に火をつけました。
帆脳の様子を見て、
「これで閉じるか、と言って、窯の入り口をしっかり閉じました。
弥右衛門さんは一晩中窯の様子を見て空気を入れたり閉じたりして過ごしました。
太郎と三郎は隣ののぞき窓を見て火の下限と弥右衛門産の動きを帳面に書き記しました。
「ゴー」
窯は、赤くなって一晩を過ごしました。
太郎と三郎は、ぐったりでしたが、疲れは感じませんでした。
見回すとカラス天狗も闇の小人も消えています。
二人は天に向かって、
「この音は忘れません」
遠越で言いました。
東の山の稜線に立つ杉が緑色になってきました。
弥右衛門さんは、火を止めるぞと言って、窯の穴を閉じました。
「何とか夜明け前に終わった」
「わしは寝る、窯が火事にならんように見守ってくれ、火が付いたら砂をかけろ、絶対に水は使うな」
弥右衛門さんはそう言い残して、母屋に向かいました。
太郎と三郎はそのまま小屋の前で窯をにらんでいました。
村のほうから鶏の鳴き声が聞こえてきました。
窯の火はすっかり消えたようですが煙が出ているので二人はまだまだにらんでいます。
草むらからバッタが出てきました。
土の香りです。
「まだまだだろう」
「うん」
「弥右衛門さんまだ寝てるだろ」
「起きるまで見てよう」
「うん」
「明るくなったな」
「村の朝が始まった。
ふたりは東を向いて手をあわせました。
「オー起きてたな」
弥右衛門さんが起きてきました。
「はい」
「窯が覚めるまで、時間がかかるから朝飯にしよう。
「はい」
「持ってきますコメとみそと漬物を」
「わしのを使えよ」
「いいえ、そういうわけにはいきません。
「そうか」
「はい」
「採ってこい」
「はい」
二人は自宅の蔵に行ってコメを一票もって、おしんことみそを持って、弥右衛門さんの家に戻りました。
弥右衛門さんは、
「これを使いなさい」
と言って土鍋を出しました。
二人は土鍋で変え浮くコメを研いで、弥右衛門さんの作った隅に火を入れて囲炉裏でご飯を炊きました。
「これはうまいぞ」
弥右衛門さんはにっこりと笑いました。
二人はしばらく囲炉裏に座っていました。
「これで一服を」
「はい」
弥右衛門さんは白湯を二人に渡しました。
二人がゆっくりと飲み終わると、
土鍋が
「シュー」と歌い始めました。
「これはいい」
弥右衛門さんはにっこりとしました。
二人は一度土鍋を下ろしました。
「土鍋のうたが終わったころ囲炉裏の炭の火を消して度鍋を置きました。
「そろそろかな」
「ぼちぼちじゃ」
「ぼちぼちじゃの」
「ああ」
「それじゃあ、しゃもじと塩の皿」
「お前その手、煤だらけ、黒いお握りにする気か」
「太郎も黒いよ」
「わしはこれからちゃんと手を洗う」
「僕も洗うよ」
弥右衛門さんは、くすくっすと笑っていました。
「黒いお握りか、黒米に乗りをまくとはくよくじゃの」
太郎と三郎は、ちゃんと手を握って塩おにぎりを20個握りました。
お腹が
「ぐー」
と笑いました。
「太郎でっかいっ声」
「三郎の声は天まで届いたぞ」
「ワッハッハッハッハ」
弥右衛門さんの笑い声が谷を突き破りました。
「握ろう」
「うん」
二人はおにぎりを心を込めて握りました。
大根の塩漬けと、菜っ葉の塩漬け、とみそを具にしました。
「おいおい、ちょっと待て」
と言って弥右衛門さんは土間に向かって、飴色の、砧のようなツボを持ってきました。
「どれどれ」
弥右衛門さんは箸で中を探りました。
「おおこれじゃ」
と言って、
赤いしわしわで、色艶がいい、親指を一回り大きくしたぐらいの梅干を3つ、囲炉裏の縁に置いた皿に載せました。
太郎と三郎はあっけにとられて手を止めました。
「これだよ」
弥右衛門さんは思わず口元の涎をぬぐいました。
「はい」
太郎と三郎は土鍋の中央のふっくらとしたコメをしゃもじですくって、手に置いて二酸化い軽く握って、小皿の梅を崩れないように丁寧にとって、ひょいひょいひょいと軽く、握って、ご飯を割って、軽く皿からとった梅を載せて、ご飯を閉じました。
「はい」
弥右衛門さんに差し上げました。
「自分も食べるんだよ」
と、弥右衛門さんは言いながら、
ほくほくのおにぎりをほおばりました。
「これはうまい」
弥右衛門さんは、囲炉裏に、鉄瓶をかけて炭に火をつけました。
そして、後ろのタンスの扉を開いて、茶壷を取り出しました。
そして神のふたを開けて、茶匙で一搔きして、紙に移して、
鉄瓶が、
「コトコト」と歌っているのを聞いて、
お湯を、茶杓で、3杯取り出して、急須に入れました。
そして紙を丁寧に持って、急須に茶葉を
コソコソと入れました。
そして、さっと湯飲みに、急須のお茶を入れて、さっと飲みました。
「うん、いい出汁じゃ」
「え」
太郎と三郎は驚きました。
「白湯じゃあないんだ」
「ああ、貴重な茶じゃ、飲みなさい」
と言って二人のお椀に入れていきました。
「さあ自分も食べて」
「はい」
二人は梅のおにぎりをいただいて、
お椀に継がれたお茶を飲みました。
「わー」
「静かに」
「はい」
「これおにぎり」
「うまいね」
「土鍋」
「うん」
「白湯じゃあないんだ」
「お茶だよ」
「お茶」
「そうだよ」
「それは」
お茶の木を栽培しましょう」
「えー」
「はい、ここはいいところなんです」
「お茶畑」
「ああ」
「はい」
「やりましょう」
「ええ」
「雪はもう降らないかな」
「ええ」
「止んだら」
「お茶」
「紙漉きは」
太郎
「ああ」
「お祭りやるだろう」
「ああ」
「紙漉きは」
「のぼりをこさえるためだ」
「村の子たちに空を見てもらおう」
「そのころいねのみどりとお茶の緑がが、あるといい」
「それをやるの」
「ああ」
弥右衛門さんはにっこりとしました。
太郎と三郎は、
「どうする」
「後で、川の水を汲んで水浴びをするか」
「ああ」
「では、おにぎりは」
「神棚に」
「ああ」
太郎と三郎は手を合わせて、
「紙が、ちゃんとできますように頑張ります」
とお祈りしました。
「あ」
「これ」
図書館は、静かに時間が流れていました。
「うん、これ」
「物語よ」
「でもこれ、雪の村、谷と岩山のある」
「古事記よ、これ」
「うん」
「でも私たち昨日言ったのよ」
「うん」
「三代目よ」
「ありえる」
「ないよ」
「どうする」
「誰も信じないよ」
「行くしかないね」
「いいよおいで、この船に乗って」
机の上に笹船が、突然現れました。
「長の声よ」
「うん」
「ノートと、サンドイッチと、コーヒーを用意して乗ろう」
「6人、沈まないよね」
「いいよ、早くおいで、これから空に飛ばすよ」
「行こう、ここから記録して残さないと」
「うん」
「コンビニでいいね」
「うん」
「行こう」
三人は、校門を出て、道を渡って、コンビニに向かいました。
ちょうどランチの時間で財布を片手に持ったサラリーマンやお姉さんたちが楽しそうに歩いていました。
街路樹の桜の木には小さな緑の芽が、沢山つき始めていました。
「おねえちゃん」
「はい」
「これ」
小さな男の子が、拾ったはっぱをくれました。
「わー、ありがとう」
「はい」
女学生の一人がポケットから飴を出して、男の子のかわいい手に載せました。
「ありがとう」
男の子は走ってお母さんのもとに行きました。
「おねえちゃん、いいことあるよ、その葉っぱ風の谷から北やつだよ、バイバイ」
女学生たちは顔を見合わせました。
「村の長」
「うん」
「コンビニに行こう」
「うん」
「笹船に乗るの」
「うん」
「コーヒーをたっぶり入れてね」
「うん」
三人は、コンビニの駐車場を横切って、いつもの音を聞いて、奥の総菜の棚で、サンドイッチを探しました。
「レタスサンド、チースハム、卵ポテト、ハムカツレタスサンド、カツサンド」
「野菜にして」
「うん」
「レタスとキャベツとポテトのサンドイッチをまとめてヵいました。
そしてレジに向かってポットを買ってコーヒーをたっぷり入れて、紙コップを買いました。
「ごみは出せないのよ」
「うん」
「リュックにちゃんと入れて帰ろう」
女学生たちは、コンビニで買い物を済ませて、図書館にもどっていきました。
「ねえ」
「うん」
「葉っぱにおまじない予きっと」
「これも、ケータイに」
「うん」
「ティンクルティンクルルルル」
「それ今でしょ」
「あーまーてーらーす」
ひょん
三人の女学生は笹船に乗りました。
船はふわっと飛び上がって光の道をすごい速さで、とんでいきました。
「行けるよ」
「うん」
「つかまって」
「うん」
「落ちないよ」
「面白い」
「ちゃんと記録して」
「うん」
「オー」
「雲が下に見えるよ」
「月が近づいてくる」
「月を一周よ」
「うん」
「急降下」
「オー」
「富士山」
「阿蘇山」
「筑波山」
「噴火」
「バフォーン」
「火が昇る」
「あそこ」
「炭焼き小屋」
「汚い」
「ばっちい」
「落ちるよ」
「つかまって」
「雪」
「結晶が見えた」
あろうと三郎は、
「弥右衛門さん、ぼちぼち、火は収まったようです」
と休んでいる弥右衛門さんに声を掛けました。
「おおそうか」
弥右衛門さんはむっくりと起きました。
「もそっと蒸らしてからじゃ、窯の火が落ち着いたか」
と言って弥右衛門さんは窯を触りました。
「もうよかろうか時にはならん」
太郎と三郎は、一安心しました。
「紙を漉くんじゃろ」
「ええ」
「薪は裂いたか」
「いえ」
「ゆっくり三日かけて用意しておけ」
「はい」
太郎と三郎は、おにぎりを
「さめましたがたべてください」
と言って笹の葉に並べました。
「六つか」
「ああ」
「弥右衛門さん食べてください」
「おお、うれしいのう、ごちそうじゃ」
「では三日後にきます」
「ああ」
太郎と三郎は、弥右衛門さんおいえっから、家まで、ゆっくり歩いて帰りました。
帰り道、川の流れが、心地よく聞こえてきました。
「おい、祭りの囃子や、そろそろ新しいので奉納しよう」
雪の神
雪の紙をいのってささげよう
神の紙は雪より白い、
わしらの顔は煤で真っ黒じゃ、
災いは、逃がしてやれ、
村の皆の笑い顔が、いつまでも続く、
谷の川
大体、これに節をつけてみるか。
「歌えるよ」
「あれもう来たか」
「うん」
そこの地蔵の前で待っていってくれ。
疲れたろ。
「うん、コーヒーとサンドイッチを食べて待っている」
「そうか、握り飯と白湯になるがしばらく」
「はい」
「土鍋、まだないが、どうする」
「窯で炊いても変わらんが、土鍋のほうが数段うまい」
「しょうがない」
「もう来てしもうた」
「笹船に乗れたみたいだ」
「ここがどこかは知られんですむ」
「蕎麦は」
「打つ」
「よっしゃ」
「その前に、湯につかって、煤を落とそう」
「いやとりあえず湯とご飯を炊こう、手を洗って」
「そうするか」
「すぐに帰るじゃろ」
「追い返すしかない」
「でも読んだんじゃが」
「まずいの」
「ひとばんはとめてもいいか」
「六人、にぎやかじゃの」
「お婆さんも呼ぶか」
「賑やかすぎるぞ」
「まあしょうがない」
「何か食うて待ってるらしいから、またそう」
「湯を沸かす」
「ああ」
「もう雪は消えたから待たせていいか」
「ああ」
「あきてかえるというかもな」
「でもいじめるなよ」
「いいおもいででかえしてやろう」
「ああ」
「松葉をふろの焚口にやって」
太郎はお風呂を沸かしました。
三郎は
ご飯を炊き始めました。
「いいな」
「うん」
外はもうお昼近くになっています・
働いていたんだ。
しかたない。
「節をつけてくれるらしい」
「ああ」
「聞いてみよう」
太郎と三郎は、湯に入って、
いい気分になって
「いい湯だな」
「いいゆだな」
「ハハハハ」
といい気分になって、
湯から上がって、
ご飯の窯を下ろして、
「梅はどうする」
「蔵に残ってるのがあるよ」
「採ってきていれるか」
「ああ」
太郎と三郎は蔵で、茶色い津房を探して持ってきました。
太郎と三郎はおにぎりを12個握りました。
「お茶は」
「もっていこう」
「鉄瓶にお湯問急須に湯飲み」
「にもつになるな」
「まあいい気持で帰ってもらおう」
太郎と三郎は、お地蔵さんのところへ荷物をまとめて、行きました。
「あ、長」
「やあ、よく来たね」
「うん」
「歌ってくれる」
「うん」
ジャラン
「新型琵琶か」
「ギターよ」
「え、北―か」
「ギターよ」
「ぶったまげた」
「太鼓よりでかいびわにの音じゃ」
「だからギターという楽器」
「ギター化、娘たち歌ってくれるか」
「うん」
雪の神
雪の紙をいのってささげよう
紙の紙は雪より白い、
わしらの顔は煤で真っ黒じゃ、
災いは、逃がしてやれ、
村の皆の笑い顔が、いつまでも続く、
谷の川
ラー、ラララ。
なんと、三重唱じゃ。
おぼえられるか、
まあの、
雪の神
雪の紙をいのってささげよう
神の紙は雪より白い、
わしらの顔は煤で真っ黒じゃ、
災いは、逃がしてやれ、
村の皆の笑い顔が、いつまでも続く、
谷の川
これでいいかの、
祭りに歌うんじゃが、
ギターなるものをこさえるか、
「お嬢さんたち、ギターなるものを拝見できるか」
「うん、壊さないでね」
「不思議な糸が貼ってあるの、
あと箱と竿じゃ、
三味線と一緒じじゃの、
こさえるか。
ああこさえよう
紙漉きもやらんと、
「お嬢さん、紙漉きなるをやってみるか」
「えー、やばい」
「何がやばいんじゃ、紙漉きだぞ、神聖な作業じゃ」
「まあ、皆さん落ち着いて」
「叔母さん、炭が焼けたので取ってきます」
「お願いね」
「はい」
「お嬢さんたち、叔母さんに聞いて作業をやっていてください」
「はい」
太郎と三郎は弥兵衛さんの炭小屋に向かいました。
「あらおにぎりを置いていったのね、お茶の葉もあるから用意するので、食べてからにしましょうよ」
「はい」
「あのね、楮の木の繊維が神様が使う紙になるのよ」
「うっそー」
「本当よ、神様は正直者じゃあないといけないの」
「うんうん」
「その紙を漉くんですよ」
「えー」
「だめ、」
「紙は神様よ」
「ウッソー紙はごみになるの」
「あなたちおにぎりは」
「さっきサンドイッチたべたばっか」
「食べないの」
「後で」
「紙漉きは、やらなくていいわ」
「うん、やりたくないもん」
「そうですか、もう来なくていいですよ」
「えー、困る」
「何で困るの」
「卒論のテーマをもう一度出しなおすと原点なの」
「しょうがないね」
「うん」
「泣いても駄目よ」
「あなたたちどうするの、帰れないよ」
「えー」
「もう夜になるよ」
「泊めて」
「じゃあ、一枚ぐらい、紙を漉くのね」
「強制はいけません」
「仕方ない、村鵜を壊さないでね、この二枝和から外に出ないであとは自由よ」
「はーい」
叔母さんはあきれてしまいました。
「どれわしがいただくか」
様子を見ていた山姥が手を伸ばしておにぎりを全部食べました。
「えー」
「鬼」
「やっぱり伝説の村」
「ケー遺体にとって」
「やばい」
「充電できない」
「電機はないみたいね」
「うん」
「記録しておいて」
「うん」
「コラー」
「起こった、笑えるー」
「笑ってはおらん食うぞ」
「山姥、ちょうどいい」
「ここまできたかすまん」
「ほれ」
「さっきこの娘のを食うたわ」
「そうか、いらんか」
「汁はくれ」
「それは決まりに入ってないぞ」
「くれよ」
「笑うー」
「まだ、裂いてないのか」
「何」
「紙を漉くんじゃあないのか」
「やんない」
「面倒」
「それじゃあ、仕方ないの、
船を用意したからすぐに帰ってくれ」
「うん」
「うんか」
「もう呼ばんぞ」
「困るー」
「なら紙を漉いていけ」
「変なの」
「やっていかんなら村の記憶も全部消すぞ」
「空っぽ」
「蓮根ね」
「わからんことを言う」
「本当に村のことを知りたいのか」
「別に」
「ではすぐ帰れ」
「夜よ怖い、若い娘にすることじゃあないよ」
「いうことは言うな、確かにそうじゃ」
「それではそばを打ってやるから食べて、客っ人の館に泊まっていけ」
「やったー」
娘たちは叔母さんにアッカンべーをしました。
叔母さんは目を丸くして立っていました。
「汁は」
「ついでじゃ、きょうだけだぞ」
と三郎は下げてきた鍋からお椀に汁を継いで山姥に渡しました。
山姥は手をににょきっと出して、
お椀をとってお握りを食べました。
すると若い生娘になってそっと立っています。
「山姥」
「ええ」
「大丈夫か」
「ええ」
「しっかりしろよ」
「お嬢さんがた」
「はい」
「山姥は、でんせつではありません」
村に感謝したら美人になりますよ」
「受けるー」
「何を」
「追試」
「お嬢さんがた、紙は漉くの」
「嫌」
「そう、やめたほうがいいよ」
「うん」
「手が凍るよ」
「山姥になれるよ」
「えー」
「いいだろう」
「お嬢さんたち、おにぎりを食べてください、紙漉きは私たちの仕事です」
「だって、叔母さん」
「ええ」
「ではゆっくり食べてね」
「お腹いっぱい」
「では持って帰って」
「うん、いける」
太郎と三郎は、持ってきた炭で窯に火をつけて炭を入れました。
「始めましょう」
「お嬢さんがた見学ですか」
「うん」
「でもここのことは忘れてください」
「論文は、谷の水について」
「私たちの命の源です」
「それが私たちの歴史です」
「はい、村の長」
娘たちはじっと立ってみています。
太郎と三郎は、持ってきた炭を窯に入れました。
「薪を割いてないな」
「楮の繊維から作るんだ」
太郎と三郎は乾かした楮の薪をとってきて窯の前に積ん見ました、
そして大きな薪を立てて大にして、一本ずつ、楮の薪を鉈で裂いていきました。
この山分を割いていくんだ。
「なんかいい」
「やる」
「うん」
「長、やっていい」
「裂くのは大変だ」
「ちょっと待ってろ用意をする」
太郎は大きな薪をとってきて、しっかり立てて大を用意しました。
三つか」
庭に三つの台が並ぶのにしばらく時間がかかりました。
「叔母さん蕎麦打ちをやったから、あとはお願いできますか」
「三郎は言いました。
「ええ、美味しいのをね」
「すみません」
太郎は楮の薪を大のそばに持ってきて、
鉈をそろえて刃を研ぎました。
「これで、楮の薪を割くんだよ、気を付けて使えよ」
「はい」
「あちきもやりますわ」
山姥も可、もう一つだな、
太郎と次郎はもう一つ台と鉈を用意しました。
「さあこれで」
「はい」
太郎と三郎はようやく自分の薪を割いていきました。
「見てていいか」
「ああ」
闇の小人たちと烏天狗は、天井の柱から静かに見守っていました、
「沢の水でお湯を沸かして来ましょう、
叔母さんは蔵から茶壷をとってきました。
「ふとお勝手を見たら蕎麦が売ってありました。
お蕎麦の用意も、忙しいね。
叔母さんは
みんなを見て
にっこりと笑いました。
「一つ裂いて、よっこいしょ」
「もう一つ裂いてよっこいしょ」
「紙漉きじゃ」
「わー」
「帰れるよー」
「そうじゃの、蕎麦ができるから食うて帰れ」
「また食べるの」
「ダイエット中なのに」
「台、えっといるんか」
「ダイエット」
「なんじゃそれ」
「痩せること」
「痩せたら病気になるで、肥えて、帰れ」
「苦しいよ」
「便所はあっちじゃ」
「いやよ、またぐやつでしょ」
「それ以外のはないじゃろ」
「水で流すのよ」
「知らんの」
「こっちへ来れば」
「そのうちにな、紙漉きが何とかなったらな」
「そういうの馬鹿の一つ覚えって言うでしょ」
「ああ、飯はしお握りじゃ」
太郎と三郎は裂いた楮をぐつぐつ沸いた鍋に入れていきました。
「へー」
娘たちはもう船に乗ろうとしてます。
「いいからこれ持って行って」
叔母さんはおにぎりとそばを持たせてあげました」
「達者で」
「元気でね」
娘たちは船に乗りました。
「夜の空でいいんか」
「いいえ、宿泊所へ」
「ああ、泊って行け、明日の朝早く帰るんだな」
「はい」
娘たちは、安心した顔で飛んでいきました。
太郎と三郎は、鍋の様子を見て棒でゆっくりかき混ぜていきました。
今晩はこれで一晩過ごすんじゃの。
すっかり暗くなってしまいました。
流れ星がにぎやかに飛んでいきました。
「いのろう」
「そうじゃの」
二人は手を止めて、
「冬将軍様、またいい雪をお願いいします」
「今年は励んでまたうまい米にしていきます」
太郎と三郎は
ぐつぐつの窯に楮を入れていきました。
「お嬢さんがた、気を付けて、流星が輝いていますよ」
「はーい」
「飛んでるー」
「やめて」
「危なーい」
「やけどするよ」
「やめてー」
「おもしろーい」
「おちるよー」
なきながらさけんでいます。
船はふわっと静かに浮かんでいます。
「つづけよう」
「ああ」
二人は裂いた楮を籠で集めて窯に入れていきました。
冷たい夜です。
梅の香りがしてきました。
雪はもう降らないな。
山の根雪もたっぷりだ。
二人は作業を続けました。
作業場は蒸気で、真っ白です。
そとをみるともうやまのみどりがみえています。
空は抜けるような青空です。
冬将軍はゆっくりと美女を横に据えて昼寝を始めたようです。
「金持ちー」
「いい男」
娘たちが騒ぎ始めました。
「なんだー」
「紙漉きはどうしたんじゃ」
闇の小人が寝ぼけて出てきました。
太郎と三郎は、気を取り直して楮を鍋に入れていきました。
「柿食うか」
「隣の客じゃ」
「柿食う客か」
「娘六人じゃ」
「村にはおらんやつじゃ」
「異国のものか」
「ご法度、近世破りじゃ」
「絵師に書かせろ」
「ふあーい」
「描くんですか、ぬぎますかー」
太郎と三郎は前に漉いた紙をあげました。
「脱ぐよー」
「ヒェー」
「描きますよ」
「おい、手配似顔絵には、裸はイラン、ぎんごもんじゃ」
「ヒェーありがとうごぜえます」
「でも脱ぐなら見ておこう」
「助べえ」
烏天狗ハニヤついていました。
闇の小人は聞いていて、目を白黒させていました。
「太郎と三郎は
「家宝にするから、金一文で頼む」
「ヒェー、裸ですか」
「もちろん」
「長も助べえ」
するするする、娘たちは着ていたものを脱ぎました。
「おい、白い肌だ」
「もういいから着ろよ」
「いいえ、まだ描けてないもの」
「夜は長いぞ」
「夜明けにちゃんと帰れよ」
「うん」
太郎と三郎は、窯の楮を煮だして、一晩を明かしました。
「また真っ黒じゃの」
「っどうする」
「湯はここに熱いのがあるが」
「それはそうじゃが、繊維を丁寧に救わんと紙にならんじゃ老が」
「三郎、そうじゃの」
漉き場で、漉いてか板を立ててからじゃ」
「うん」
「みてみい」
「アサヒがさす方向に、笹の船が浮かんでいました。
「帰っていったの」
「ええ」
「絵師はできたんかの」
「一回見てみるか」
「ああ」
「どこへ行ったんじゃ」
「わからん」
「金子を私とらんから来るじゃろう」
「カラス天狗の銀子をもらいに行ったかの」
「カラス天狗に金子で譲ってもらうのも悔しいの」
「やめとこう」
「美人は、みあたらんかったの」
「しょうがない、紙を漉くか」
太郎と三郎は紙を漉いて、庭に板を立てて乾かしました。
鳥の鳴き声がするので猫を読んで粉を落とさないように見張ってもらいました。
「ふう」
「どこ」
「図書館よ」
「どうする、卒論のテーマを出しなおすの」
「うん」
「どうする」
「笹船の、地方における変容、とか」
「資料はあるかな」
「検索」
「検索」
「笹船の研究なんてないみたい」
「いいじゃん、古事記あたりから記述を調べてるうちに何とかなるよ」
「それにする」
「そうしようか」
「とりあえずね」
「研究室に行ってみる」
「うん、でも烏天狗よ」
「スケベー」
娘は図書館で大声を出して笑いました。
太郎と三郎は、紙漉きを続けました。
村の山には、もうあさのひかりがさしていました。
天狗は、空高くまいあがっています。
「あの子たちお蕎麦食べたかね」
「そうだといいですね」
「喜んで帰ったから」
「絵師は」
「これ」
闇の小人が一枚の紙をくれました。
「これか」
「いいね」
「金子一枚」
「うん」
「絵師にね」
「うん」
「どうする」
「もちろん軸層にして床の間に置こう」
「うん」
「裏打ちから」
「うん、のりを作ってから」
「コメ、大切にしなければ」
谷の川のせせらぎが聞こえてきます。
魚の陰が泳いでいる。
土壌取りに行こう。
仕事は。
やるよ。
魚は、つらないで仲間だから。
「ア、 ホー」
烏天狗が空高くからカキの実を狙っている」
「小鳥がみんな逃げた」
「ニャオー」
「チューチュー」
「猫はネズミ捕りだ」
「ウンチ漏らすなよ。カラス」
「ア、 ホ~」
「やったなー」
「背中についた」
「紙に落とすな」
「アホ~」
柿はもうなくなった。
「柚子はまずいぞ」
「アホ~」
烏天狗は、山の崖をにらんでいます。
「許せんか」
「あー、煮え湯を飲まされたので長い間」
「山姥、生娘になったぞ」
「絵師に描かせても、毒にしかならん」
「きれいだぞきっと」
「あほかー」
「ご飯は、やっているぞ」
「今日はまだだ、ばっかー」
「来たー」
「見る」
「いや」
「いいよ」
山姥は帯をとり始めました。
「やめろ、谷が腐る」
「強力な武器はまだ使うな」
「いいの」
「ああ」
「春画はブルジョアのお土産になるかの」
「しかも、山姥」
「人が着たら困る」
「娘たちは笹船に興味を持ったのかの」
「また気まぐれよ」
「春画はいいか」
「座敷の、床の間にかけておけばいい」
「山姥、おとなしくしてくれ」
「カラス天狗、すまん、一枚持っていけ」
「ああ、雲の上の座敷に使うとするか」
「人体研究にな」
「山姥のは、許さん」
「山姥、もう手を放せ」
「脱がしてくれんのですか」
「湯に入るなら小屋の湯船で入れ」
「湯をくれますか」
「ああ、こさえる」
「今ですよ」
「誰かみたいに言うな」
「今」
「わかった向こうの、杉の木の下にこさえるから待って色、おにぎりはここだ」
「けち」
「少しはおしとやかにならんか」
「私の、書物にはおしとやかはありません」
「しょうがないの」
「それじゃあ、ふろをこさえにいくから、すきにせい」
太郎と三郎はあきれて谷向こうの一本杉のそばの広場にむかって、温泉を掘り始めました。
「おいまた日が暮れるぞ」
「しょうがない沢の水をひいて、窯で湯を沸かして、杉があそこに倒れてるのであれでふろを作って、湯を入れよう」
太郎と三郎は倒れた杉を切っていた材をこさえて、広場に風呂桶をこさえました。
残った杉の木は薪にして、
炭をとってこよう。
太郎と三郎八紙漉き場に戻って、
「山姥こさえたぞ、これからゆをわかすから、いや、窯に残ったのをもっていくから、もうしばらくして風呂に入れるよ」
「いいね」
太郎と三郎は驚きました。
「おい何でここで不着物を脱ぐんだ」
「すきにしろって言ったよ」
「本当に好きにしたんだな」
「うん素肌でいるほうが気持ちいいの」
「崖の岩でずっとそれか」
「うん」
「がきじゃああるまいし」
太郎と三郎は
「うんこらしょと」
と、桶に湯を映して、谷向こうの広場に運び始めました。
「山姥悪いがしばらく谷向こうの広場にいてくれ」
烏天狗は桶でお湯を救って、湯を谷向こうの広場に運び始めました。
「いいふろおけだな」
「ああ杉の木が倒れてたんで」
「残ったのは、薪にしよう」
バッサーン。
烏天狗たちは、お湯を桶に入れ始めました。
瞬く間にふろの湯は満杯になりました。
「残ったのは足湯に使うから置いておいてくれ」
「ああ」
と烏天狗はいって、残った湯を、太郎と三郎が掘った穴に入れていきました。
「アレー、おいいお風呂」
山姥は服をさっと脱いでバッサーンと風呂に飛び込みました。
「いい湯じゃ」
「これでええか」
「うん」
「ゆっくりしろ」
太郎と三郎は紙漉き場に戻っていきました。
「戻ってきたね」
「はい叔母さん」
「今日は染めてみますか」
「染める」
「緑は縁起がいいし黄色や赤は豊作の象徴になるから、旗代わりにしたらどうじゃ」
「城も欲しいけどそれもいいね」
「やってみるかい」
「ええ」
「それじゃあっせん料を煮だすとこからやる会、少し手間じゃが」
「ああやりたい、でもわしら二晩寝とらんのじゃ」
「それは無理をしないことよ、昔取った染料があるからやってみるか」
「ええ」
「一度いつも通り楮の繊維を、板でなめして、こっちに持っておいで」
「はい」
太郎と三郎は初めて色付きの紙を漉きました。
「きれいじゃの」
「ああ」
「祭りに使えるの」
「祭りいうたら、歌の節聞いてないの」
「ああ、三味線の変形琵琶もこさえとらん」
「まずあれを作ってみたらなんか節が出てくるかもな」
「ところで、文句は覚えとるか」
「とっくよ」
「そうじゃ、とっくよ」
「まるっきり忘れとる」
「いいの、とおもったんじゃが」
「せっかく漉いたんじゃ、今度は書き残しておこう」
「ああ、そうしよう」
太郎と三郎は漉いてできた板を、庭に立てて、天日干しにしました。
「いい天気じゃの」
「どこまでも飛んでいけそうな高い空じゃ」
「笹船は、送らんでいい、また脱がれても困る」
「そういえば絵師はどこからきてどこへ行ったんじゃ」
「闇の小人に聞いてみるしかないの」
「何か言ったか」
「聞こえたか」
「ああ」
「絵師はどこへ行った」
「そのことか」
「ああ」
「簡単じゃ」
「どこ」
「わしの祠の裏にすんどる」
「知らなかった」
「絵師に何か,用か」
「ああ、祭りの旗に、景気のいい絵を描いてもらおうかと思って」
「そういうことか」
「毎日暇げに梅の木を眺めとるよ」
「あとでよってみるわ、ありがとう」
「わしはもう寝るから起こすなよ」
「ああ」
闇の小人たちは、並んで西の山に向かっていきました。
「あっちか」
「見てよう」
「西の谷に祠があるようじゃの」
「お前知らんのか」
「知るわけない」
「それは、まずい、わしも、まったく知らん」
「それじゃあ、行かれんじゃあないか」
「付いていこう」
「紙は」
「あーそうじゃ」
「よう見ておこう」
「ああ」
闇の小人たちはキチン地と並んで歩いていきました。
「一二、一二、一二」
手足がきちんとそろっています。
「一二一二」
かわいらしく列は連なっていきます。
太郎と三郎は立ち止まって見ていました。
「まっすぐだな」
「ああ」
もうすぐがけだが、道なりに行くのか」
「見てよう
「ああ」
「見える」
「しっかり歩いてるな」
「ああ」
「行けそうか」
「ああ」
太郎と三郎は紙を漉いて一枚祭りの分、15枚ほど手に抱えて、西の祠に向かいました、
笹の葉を分けて上から落ちた松の小枝を背中の加護に詰めながら、ササササコソコソコソという音を聞きながら歩いていきました。
二人は闇の小人を起こさないように祠の脇をそっと通って、絵師の住む家に向かいました。
足でできた垣根の向こうに藁ぶきの小さな家が一軒見えました。縁側で鼻をほじくって庭の梅を眺めている絵師が見えました。
「だいぶん咲いてきたの、一厘描いたのが、おとといの夜じゃ、娘たちに一枚やりたかったの」
「何一線を交えたかったのか」
「はあ~」
「いや、頼もう」
「はあ。」
「祭りの登りに景気のいい絵を描いてほしいんじゃ」
「景気がいいとはどういうことかの」
「賑やかでぱっとすればいいんじゃ」
「そんなら満開の桜に富士に飛ぶ花火でよかろう」
「華やかなのを頼む」
「ああ、七日八晩、かかるよ」
「ああゆっくりでええ、紙はこれじゃ、金子は二十銭でいいか、また頼むから」
「銭もいいがコメを分けてくれ」
「おおそれなら、用意するわ」
「描くよ」
絵師は紙を受け取りました。
「なんと上品な色の紙じゃ、わしにはもったいない、とは言うってもこの谷には絵師はわし一人じゃ」
「そうじゃのええ商売をしとるの」
「これでも炭と筆を作るのに苦労しとるんじゃ」
「筆も作っとるんか」
「ああ」
「筆を作るなら乾いた紙のほこりを払う専用の刷毛みとうなのも頼めるか」
「ああ、それは一月,日をくれ、それは、夜明けから日が暮れるまでの時間をやることはできん」
「そうか」
「それなら、いつまでに必要じゃ」
「急がん」
「いつじゃ」
「そうじゃの春まつりに合わせてくれ」
「それがいつじゃ」
「桜が咲いてからじゃ」
「早う、言え、わしはそのころ旅に出る」
「じゃあその前までに頼む」
「ああ」
「画題はさっき言ったのでいいか」
「ああ」
「じゃあまってくれ、ところで、どうしてここが分かった」
「嫌の、闇の小人に聞いたんじゃ」
「そうか闇の小人か」
「ああ」
「ずいぶん世話になっておる」
「絵師よ、祭りを助けてくれんか」
「どういうことじゃ」
「神楽の舞台をこさえて、背景に松を描いてほしいんじゃ」
「部隊まで作るんか」
「ああ」
「わしはづ面は核が、大工はやらん」
「誰かおらんかの」
「知らんのか」
「ああ」
「神社の横の道を上って行って一山超える途中にたくさんの山の民がおるから、彼らは頼りになるよ、カラス天狗も世話になっとるよ」
「そうか」
「助かった」
「本当に何にも知らんでやろうとしとるんか」
「ああ」
「画ができたら、叔母さんの作業小屋に行くから撮りに来い、七日八晩だぞ」
「ああ」
絵師は、お茶を一服して、炭の準備を始めました。
祭りといったが、何の祭りじゃ。
春の祭りと言えばやっぱりあれか、春、画、ではあるまい。
花札にしても詰まらんし、
「おーい、春に祭りはやらないことにしたロ500年ぐらい前に」
絵師は小さくつぶやきました。
メジロが庭の石に隠れて、
「ケキョ、ケキョ、ケキョ」
と鳴きました。
「ホ~」
絵師はメジロに向かって鳴きました。
「ホ、ケキョ」
「違うな」
「チ、ガ」
「うん、まあまあだ」
絵師は筆を執って、メジロを描きました。
「うん」
絵師はうなずいて梅の枝を一枝咥えて、梅を5厘とつぼみを3つ、描きました。
「これで一枚目」
絵師は
「ホホホ」
と笑いました。
太郎と三郎は、
川で水の流れを眺めています。
せせらぎに青い空が映っています。
雪よ来い。
早く来い
待ちわびた村人が空を見上げて
ホホホホ
「もっと景気よく」
太鼓トントンすずじゃんじゃ化じゃん
笛ピーヒャララ
「うん」
「開いたな」
「城樹じゃ」
「虹の橋をかけてやれ」
「見えるの」
太郎と三郎は空を見上げました。
「虹か」
「ああ」
「しかも白」
「どうする」
「紙は、もう絵師に渡したし」
「茶の栽培」
「南の丘でいいか」
「弥右衛門さんに教わらんと」
「炭も残っているし、絵師に分けてやろう」
「ああ」
二人は弥右衛門産の炭小屋に向かいました。
「アホー」
「ピー」
カラスと鳶がじゃれあっています。
「いい天気じゃの」
「眠くなるの」
「歩け」
「おっちらおっちら」
「これも歌に入れよう」
「おっちら」
「おっちら」
「どっこいしょ、どっこいしょ」
「祭りの囃子だけで節はいらんじゃろう」
「うなるだけか」
「うるさーい」
子供たちが大笑いしました。
「太郎、笑われたよ」
「笑ったか、石を投げたのは誰じゃ」
「良くないよ、踊りもしないで、腹を抱えて大笑いして
「腹減ったー」
の一言で、もうすでにしょげてしもうた。
「おにぎりが残っとろう」
「一個もない」
「食いすぎじゃ」
「デブになって」
「しょうがない、炊くか」
二人は勝手の竈に向かいました。
「おにぎりー」
「おにぎりはー」
「おーにぎり」
「おにーぎり」
「おにぎーり」
「りんご」
「にはちみつ」
「つくだに」
「だにー」
「にんじん」
「負けー」
子供たちは節をつけて大きな声で歌って踊り始めました。
「踊りのセリフも節もいらんわ」
「自分達で勝手に歌って踊るの」
「今日はもう三回ぐらい炊いたろ」
「ああ、でもわしは一個も食うとらん」
「いるんか」
「蕎麦にする」
「これから、そば粉を打つのか」
「ああ」
「蕎麦の実をとりに行くか」
二人は竈を見て、ご飯が炊けているのを確認して、
畑に行って、
「蕎麦の実を収穫しました」
「お茶の木は向こうの丘に斜面を耕していくか」
「日当たりもいいし水はけもいい」
「弥右衛門さん、どういうかの」
「後で行って聞いてみるか」
「ああ」
二人は弥右衛門さんの炭焼き小屋に向かいました。
「今晩は」
「王莽来たか」
「お茶の木は西の丘の斜面に飢えて育ちますか」
「茶をやるんか」
「はい」
「なら、わしが、行ってみる」
三人はもとのおかのひろばにむかってたにをみおろしました。
家のほうからゆっくり囲炉裏の煙が上がっています。
こどもたちはもうねているでしょう。
「ここを畑にするのか」
「はい」
「鍬を持ってこい」
「はい」
弥兵衛さんは耕し始めました。
「まっすぐ、足幅でまたぐ広さの畝を作るんだ」
「はい」
太郎と三郎は、耕していきました。
夕日が落ちていきます。
茶畑もこれからです。
「弥右衛門さんありがとうございました、お握りです」
「おう」
弥右衛門さんは受け取ってゆっくり食べました。
弥右衛門さんは、頭の先から足のつま先まで煤で真っ黒です。
四角い大きな顔にがっちりと角ばった大きな体に太い大きな腕をしっかり、腕を組んでどっしり立っています。
ごくり、
弥右衛門さんは、特大のおにぎりを一口で食べました。
「うまいのう」
「塩に野沢菜です」
「うん」
「がふ、がふ」
「うん」
弥右衛門さんは、まんぞくげに、
にっこりと笑って、谷あいの村を眺めています。
「お茶の木」
「ここで育てます」
「うん」
「今年の春に飲もう」
「はい」
「春祭りで」
谷底の村は、霧の海の中です。
柿に実の赤が、ポツンと浮かんでいます。
ここから谷の村まで、歩くと日が暮れてしまいそうです。
「あれ食うぞ」
「はい」
いつの間にかカラス天狗が鍬を持っていました。
「山姥には今日のおにぎりは一回目は上げたよ」
「山姥は許せん」
「これ」
「なんじゃ」
「絵師が描いた一流の柄じゃ」
「なんだ、裸の女神か」
「ああ」
「山姥だよな、太郎」
「黙っとけ」
「あげていいのか」
「ああ、知らん娘たちのでいい」
「結局一枚は見るんか」
「ああ」
太郎は鍬を振り上げました。
「祭りの唄は」
「あれはこどもたちにまかせよう」
「太鼓と鈴と笛をやればいい」
「えい」
太郎は鍬を振り下ろしました。
ズボ、バッ、モグラが驚いて飛び出しました。
サ、バサ、トンビが、モグラを鋭い爪で、奪って飛んでいきました。
みみずは、
「助かった」
と言って潜っていきました。
太郎と三郎は手を休めて、腰に手を当てて伸びをしました。
「今日は風呂に入って寝よう」
「うん」
「昼は」
「蕎麦をもらいに叔母さんのところに帰ろう」
「太郎、いいの」
「何か悪いことでもしたか」
「眠いといったのにここに来てしもうた」
「そうじゃの、義理に描いたの」
「どうっする、太郎」
「謝るしかない」
「うん」
「もうひと汗かいてからじゃ」
「まだ空は青いじゃろ」
「冬将軍」
「なんだ」
「山姥が」
「雷でも打っておきか」
「ここに」
と言って二人は鍬を天に向けてさしました。
ドッカーン、びりびり。
「これでシイタケが出てくる」
「君ら何をしてるんじゃ」
弥右衛門さんは驚いて言いました。
「今の落雷で、土が100倍いいものになった、魔法でもかけたか」
「いいえ、ちょっと一休みしたら冬将軍に、にらまれました」
「冬将軍か」
「この畑も雪が肥やしてくれるわ」
「弥右衛門さん」
「この茶畑の収穫は」
「弥生の月じゃ」
「はい」
「そのころにまた祭りじゃ」
「ああ」
弥右衛門さんは右腕で額の汗をぬぐって、
「いいちゃができそうじゃ」
とぼそっと言いました。
「冬将軍―」
「握り飯じゃ、岩壁に置いとくぞ」
「ウオー」
「山姥は張り付いとるか」
「ああ、帯をほどいとる」
「汚いの」
「それが、えらい、別嬪さんじゃ」
「握り飯は、くえるんじゃの」
「嗚呼、山姥に先に食わしておくから」
「では後で食いに行くぞ」
「兵の刃」
「2000個でいい」
「ああ分かった」
「誰と話しとる」
「空と」
「無駄口たたかんで働け」
太郎と三郎はくわをもっておおきくふりかざして、
「エイ、ショット」
と土に振り下ろしました。
谷底の村は、ようやく、目を覚ましてきます。
「おはよう」
「おはよう」
地蔵様の声が、明るく聞こえてきます。
「椀わんわん」
「ニャヲニャヲニャヲ」
「おーい」
「遊ぼう」
「うん」
「行くよー」
「うん」
いろんな声が響いてきます。
大声で泣いています。
おやおや、
「歌おう」
「うん」
「じぞうさんじぞうさん」
「お地蔵さん」
大きな歌声が聞こえてきます。
太郎と三郎は、
「聞こえるな」
「ああ」
「地蔵の唄か」
「ええ弥右衛門さん」
「地蔵の村にはしばらく行ってないが、山姥は、どうしておる。息災か」
「ええ」
「そうか」
「山姥に茶を入れてやりたいの」
「えー、だいじょうぶですよ」
「そうか」
「えらい別嬪さんで驚きますよ」
「そうじゃ、雪の中の一軒家で白い肌で泣いておったわ」
「えーみてたんですか」
「一晩世話になった」
「食べられそうになりませんでしたか」
「いや、茶を飲まして慰めたわ」
「そうですか」
「ああ、もういいだろう、働かんのなら今日はもうおしまいじゃ」
「いいえ」
太郎と三郎は鍬を振り上げました。
「そうか、山姥は息災か」
「ええ、いい絵師がおりまして」
「ふむ」
「三郎もっているか」
「はい、こちらです、家宝でございます」
「うむ」
弥右衛門さんは両手で受け取って、
「おお」
「はい」
「素晴らしいのう、よう、描けておる」
「息災か」
「ええ、大飯ぐらいです」
「変わらんのう」
「ええ」
「雪の山の夜だった、わしは、野犬に追われて谷の奥に迷い込んで、飯も食えんでいたんじゃ。野犬のやつしつこくてわしはもうだめかと思ったんじゃ、寒いし、そろそろ日に当たらんと足が有家けなくなると思ったとき、目の前に明かりが見えたのでそちらに向かうと、雪に鵜森かけた家があって、わしは中に飛び込んだんじゃ、一人の娘が囲炉裏の前に座っておった」
「お腹すいて死にそう」
「泣きそうな声で言うではないか、遠くで野犬の声がするので、わしは持っていたおにぎりを娘に渡したんじゃ」
むすめは飛びついてきて、おにぎりをぱくりじゃ、野犬に食われるよりはましじゃ」
「おじさんたべていい」
娘はまだ泣きそうな声を出す、わしをか」
「ええ」
「お前、山姥か」
「はい」
「仕方ない野犬にやられるなら山姥でいいわとわしは思って。
「食うてみるか」
「うん」
「握り飯もまだあるが、どうするわしが食うか」
「それをください、おじさんは、ゆっくりここに泊まってください」
「その晩は娘と一晩ともにしたんじゃ」
「弥右衛門さん、山姥とか」
「ああ、それでわしは生きておる」
太郎と三郎は驚いて、顔を見合わせました。
「おい日はまだ高いぞ」
「はい」
太郎と三郎は鍬を振り上げて耕していきました。
弥右衛門さんはしばらく髪を眺めていました。
「これは、くれるか」
「ええ、弥右衛門さんが持ったほうがいいものです」
「そうか」
弥右衛門さんはそう言って丁寧にたたんで胸にしまいました。
太郎と三郎は、ようやく、春じゃ、梅の匂いがしとる。
「おい今年狼は見たか」
「みんな刈ったみたいじゃ」
「それは惜しいの」
「どうする」
「どっかで苗を分けてもらうしかない」
「弥右衛門さんに茶の苗と一緒に」
「おい、楮の苗も足していけ」
「それは大事じゃのカラス天狗」
「もうソロソロ倍にしないと次の紙漉きに間に合わんぞ」
「やるよ明日には」
「おい、太郎また明日も汗じゃが、着物を洗わんと黒くて汗臭くてやねこいぞ」
「今晩洗濯じゃ」
「今日は寝ないとバタンキューよ」
「おおよう眠れるわ」
「明日も山姥地と冬将軍の兵の握り飯からじゃ、火が昇る前からやらんと野良仕事はできんぞ」
「それじゃあ寝ずに過ごすようじゃな」
「それは死ぬる」
「おいまたしゃべっとるが、ソロソロわしも帰るぞ」
「ありがとうございました、弥右衛門さん」
太郎と三郎は、ゆっくり谷底の村を眺めました。
村から囲炉裏の煙がゆっくり上がっているのが見えました。
「そろそろ上がるか」
「うん」
「山姥と冬将軍のおにぎり朝一番に作るならかえって用意しなけれな」
「ああ」
「弥右衛門さん」
「ああ」
「雪の中、生き延びているんだな」
「ああ」
「山姥もお腹がすいてさみしいんだ」
「うん」
雪は深々と積もっています。
野犬たちが、牙をむいて吠えました。
ネズミが一匹飛び出しました。
狐がすかさずとびかかって食べました。
狐は足跡を残さないように走って逃げました。
野犬たちは、
狐を負いました。
弥右衛門さんが木こりに来て、雪に埋もれていました。
そして山姥と弥右衛門さんは出会ったのです。
「助けてくれるか」
「お腹減ったよ」
「握り飯じゃ」
「食うぞ」
「わしをか」
「ああ」
「にぎりめしをくうてからにしてくれ」
「ああ食え」
「やっと食える」
弥右衛門さんはおにぎり一個を山姥に渡してもう一個をやっと食べたのです。
「うまい、おや、寝たね」
弥右衛門さんは安心してぐっすり眠りました。
山姥は、お茶を入れて飲みました。
「寝るんだね」
山姥は腰帯をといて、裸になって、弥右衛門さんの傍で寝ました。
「わしを食べるのか」
「話を聞かせて」
「そうか、昔々じゃった」
「谷に冬将軍が来て、わしは待ってたんじゃ」
「冬将軍はあきらめて帰ったが」
「雪が谷を救ってくれた」
「ありがとう、ゆっくり寝て」
山姥はぐっすり眠りました。
弥右衛門さんは、一晩じゅう、昔話です。
「お茶はの、昔、よその民がやってきて、飲ませてくれてわしの焼いた、炭と物々交換で茶の木をくれて茶の飲み方を教えてくれたんじゃ」
「炭はの20年は経った柳の木を切って、薪にして、焼いていくんじゃ、一晩じゅう火の加減を見てできるんじゃ」
「炭焼き小屋にはねずみが出てきての、それを狐が食おうと出てきてそれを見た野犬がキツネを取り囲んで狩りを始めるんじゃ」
「うん、それ昔話」
「ああさっきまでの昔話じゃ」
「うん」
「昔冬将軍がやってきて、万の兵でこの谷を囲んだんじゃ」
「うん奴は知っている私を張り付けにしたやつ」
「そうか」
「うん許せない」
「そうだな」
「冬将軍とわしらは戦おうとしたんじゃ。
冬将軍は腹が減ったと見えて、わしらはおにぎりを上げたんじゃ。
一人伝令が来て和睦しかけたが、冬将軍は雪を降らし始めたのでわしらは大きなうちわであおいで風で飛ばしてやったんじゃ。
その時烏天狗も一緒に飛んでいったわ。
「うん、おやすみ」
弥右衛門さんと山姥は、よあけまでぐっすりねむったそうです。
「お茶は、そのときだったんだ」
弥右衛門さんお話は書面に文字で残さなければ、絶対に、秘仏にするんだ地蔵さんに秘密を守ってもらおう」
「紙を漉くんだな」
「ああ」
「おい、また手が止まっとる」
「もう今日は暗くなるから終わるぞ」
空には星がが輝いています。
「太郎と三郎は、
「やったの」
と言って腕で額の汗をぬぐいました。
「帰ってご飯を炊かなければ:
「今夜も寝ずの夜じゃ」
「死ぬるぞ」
「明日の夜にまとめて寝よう」
「きついの」
「ああ」
太郎と三郎は、
「弥右衛門さん、ありがとう」
と言って鍬を、納屋に収めて、谷の村に帰っていきました。
もうメジロが鳴いています。
「ホ、ケキョ、ケキョケキョ」
「間が練習中です、ケキョ」
「気をつけろ、キツネが来るぞ」
「逃げますケキョ」
「がんばれ」
蛇も出てきました。
「春も近いの」
「ああ」
「山姥に話すか」
「弥右衛門さんに聞いてみよう」
「泣いていたものな」
「併せてあげたいな」
「ああ」
「とにかく握り飯だ」
「ああ」
「帰ったら、また戦いだ」
「眠気との」
「ああ」
太郎と三郎は、家に帰って竈の火を焚きました。
「杉の葉、拾ってくるか忘れていた」
「裏山で一籠集めよう」
「ああ」
太郎と三郎は、籠をしょって、
うらやまにのぼりました。竈の横の坂道は、苔外資にこびりついてイアスが、20っ歩上ると赤い土に代わって岩戸杉の木の林になります。
見下ろすと川がゆっくり流れています。
「ここから拾っていこう」
「足を滑らすな、おちるとまっさかさまだ」
「アホー」
「カラス天狗」
「山姥がまた暴れているぞ、急げ」
「もう日がおぼってしまった」
「急ごう」
二人はすぎっぱをかき集めて竈に火を焚いてご飯を炊きました。
「とりあえず山姥だ」
「やねこい娘じゃの」
「しかたない」
太郎と三郎は坂を下りて川を眺めて。
「おーい魚、地蔵は元気か、わしらはまだねてないぞー」
と大声で泣きました。
太郎と三郎は竈に戻って、焚口に杉の葉をつめて、木のきれっぱしを周りで囲んで、
火打石をたたきました。枯葉に飛んだ火花が枯葉をいぶしたので杉の葉に移しtて燃えるのを確認して焚口に入れました、20合だ、一俵分今朝で使い切るぞ」
「まだ蔵には山ほど俵がある」
「しっかり火が付いた」
「これが毎朝だが」
「おとといのよるからがきついんじゃ」
「娘を呼んだのが間違いじゃった」
「ああ」
「家宝はできたが」
「そうじゃの」
「始めチョロチョロ中パッパ」
「いい火の回りじゃ」
「すぐにご飯が炊けるが、風呂はどうする」
「山姥にやって帰ってからでないとまた臭くなる」
「それはまずいのう」
「帰ってから沸かそう」
「やっと寝れる」
「が今日はすぐに楮の苗の植え付けじゃ」
「あーあ」
「やるべ」
「ああ」
太郎と三郎は、竈の火を見てご飯を炊いています。
「10を100個握るんじゃ、」
「いやそれじじゃあたりん」
「10を10個で山姥のができる」
「あんまり大きく握ってたらタリンの、早くしないとだめじゃ、大根一切れ」
「おい漬物は切ってないぞ」
「葉っぱのをちぎりながらでないと、はくさいのでよかろう」」
「それしかないの」
二人は蔵に急いで、白菜の浅漬けの、樽を大急ぎで運んできました」
「竹田の、むらしたからにぎろう」
「はい」
「太郎、本間にできるか、毎日じゃ」
「山姥と烏天狗に仲直りしてもらわんと」
「冬将軍は冬まで毎日じゃ」
「まあそうじゃの」
「コメのためじゃ」
「炭も紙もそのためじゃ」
「茶は」
「楽しみじゃ」
「ああ」
2025/1/1