青と白
みんな同じ空を見上げている。朝はどこにでも来ている。
私はその同じ空を見ている、幸福な時間。
「おじさん、なにをみてるの」
「いい未来が来るといいね。君たちが自由に遊べるみらいがあるといいな」
「なんかわかんないけど、走っていい」
「気をつけて走るんだよ」
「なあ、なんて気持ちのいい空なんだ」
木々の枝も喜んでいる。
「おじさん自転車で走るよ」
「おっと危ない、すぐ端によるよ、転ぶな」
「超スピード」
道も大変だ。冬は霜柱にやられるし、犬の糞まみれになったらいけないけれど。
私は今日も空をゆっくり見上げる。そこには幸せが書いてある。
「おはようございます」
私は道にも挨拶した。
私は今日も道をスケッチで描いた。天をゆっくり見上げたらやっぱり、穏やかな日常が映っていた。雪の空もやはり、静かな世界の中にある。つらい寒さも人が来ると暖かい。見上げた空は白くても小鳥は元気に羽ばたいて歌っている。雨の日も小鳥は羽ばたいて歌っている。同じ空の下に私はいる。
私は今日も家族と少しいざこざをしたが、後悔しない一日を送りたいと思っている。きになるのは、知人の女性がうまくしごとをすすめているかである。私はこうなってから自宅の窓から世間を見ているだけなので、それでも、ものがたりはつむいでいくことにする。
「おじさん、何をしているの、絵を描いているんだ」
「そうだよ、こう君も描いてごらん、いろんな世界が生まれるよ」
「おじさん、どこにかこうか」
「こうしたら描けるよ」
私は杖で地面にとりを描いた。
「こうやって、こうやって」一人の男の子が、木の枝を拾って描き始めた。素敵な自動車だった。
「上手ね」
妻が珍しく、子供に話しかけていた。
私は、もうあまり声をかけないまま静かに見守ることにした。
今日は雨で傘をさしている人を見つめている。雨の雫が、窓の向こうに見えている。まどのむこうのグランドはさみしくみずたまりをつくっている。みんなもみるにちがいない。普通に生活できているのだから。今夜も道を歩く人がいるのだろう。私も同じ道を歩くのだろう。方向は違っても。歩くと空が見える。みんな見ている。木々も喜んで青い空を見ている。
春の声
私は空を見上げたら遠くの森から、鶯が、春の歌を歌い始めたのを聞いた。この街をあるくひとたちもこころなごんだことだろう。
「おーい、気が早いじゃないか、まだ桜の美保さんも花を咲かせていないのに、梅の香りもまだだよ」
「おじさん、しらないの、風から春の香りが、ちゃんとしているんだ。今日はみんな笑顔が素敵な朝だよ」
「鶯の君の名前はなんていうの」
「沙織」
「男の子じゃなかったのか」
「そうだよ」
「そうか、失礼しました」
「おじさん、美保さんってだれ」
「君が枝に止まろうとしている桜の木だよ」
「美保さんの枝は大好きさ」
のどかな空は今日もみんなのうえにある。
今日もこれから空を見上げてみる。どこでもある空があるのが当たり前な奇跡。
「沙織くん、君の歌は、いつも聞いているよ」「おじさんは僕の声がわかるの」
私は今日もこれから君の声を聴くよ。
「沙織くん、みんな君の声を待っているんだ」
「おじさん、今日は子供たちと遊ぶよ」
「元気な声がうれしいよ」
「沙織君、今日はおじさんが集まる日になるよ。」
「つまんないな」
「元気を出せよ、夕方子どもたちが集まるかもしれないよ」
「わかった、僕はそれまで空を飛んでいるよ」
「沙織君、今日も空は青いかな」
「おじさん、すっきりして気持ちいいよ」
あー今日もみんな同じ空の下で暮らしている。
「沙織君、今朝も気持ちのいい歌をうたってくれたね」
「おじさん聞いていたの」
「もちろん、君は天才だよ」
「おじさん、今度うちの前で歌うよ」
「ありがとう」
「沙織くん。今度グランド太郎の枝で歌って」
「グランド太郎って誰」
「何時も君の下に立っている大きな枝の木のことだよ」
「分かった、簡単なことさ」
「ありがとう」
「沙織くん。今日も元気に飛んでいるね。雪になってもみんな元気だよ」
「沙織くん。今歌ってくれたね。よく空に響いているよ」
「おじさんおはよう」
「おはよう、風に気を付けてね」
「沙織君、美保さんにも挨拶してね」
穏やかな夕暮れになってきました。東京では核シェルターを作るそうです。なぜ、同じ空の下で生きていけないのでしょうか。私は今日もゆっくり道を歩きます。
今夜は風が吹いています。元気でいることがこんなにも、はかないものか、風に聞いてみます。
「おじさん月がきれいだよ」
沙織くんがうたをうたってくれました。
「いろいろ、見てみな、わかるかもしれないよ」
風が言ったみたいです。
「沙織くん今日の空は凍っていないかい」
「みんな集まってまってスープを飲んでいるよ」
風が答えてくれました。
そうか、沙織くんたちも寒いんだ。
子ども達は、グランドで走り始めているけど。
今日の空も青く透き通っている。この空は地球の裏に通じている。そう思うと朝食がおいしく食べることができた。グランドの少年たちの声は、澄んだ空に高く響いている。
「沙織くん、聞こえているか」
「おじさん、楽しいよ」
やはり夕陽の空は明日が近い証です。
「この昼の時間食事ができる軌跡を待っている」
きょうになっても、少年野球を懸命にやっているよ。
空は限りなく透明で凍っているよ。
「この昼の時間食事ができる軌跡を待っている」
昼の時間も休まず野球をする少年たちは夕ご飯がおいしいだろう。
沙織くんも、食事を済ましてるのか、歌が聞こえないよ。
今夜も月夜が凍った空になっているよ。でも夜明けは間近だよ。
「沙織くん、今日も元気に歌っているね。空を見上げるときもいい青だね、みんな見てるね」
山茶花の低木にも小鳥たちが集まって鳴いているよ。みんなあつまってけんかしないでいるよ。風が収まったね。沙織君の歌が聞きたいよ、おじさんがまた僕を呼んだみたいだけど。これからいくのは、遠くてむりだよ。お腹もすいているから、何か食べていくよ。
「沙織くん、悪かった今度ビスケットを用意しておくよ」
「おじさん、水もね、ミネラルでね」
「沙織君が言うなら仕方ないな」
「君が来ると、子供たちも元気になるんだ、春が来るとみんなうれしいんだよ」
「おじさん、まだ」
「沙織くん、ごめん、今日はご飯と、お茶ですよ」
「おじさん、もう歌わないよ」
「明日の朝、用意するよ」
「嘘つき、遠かったんだよ」
「ごめんたっぷりご飯を食べて、君が歌わないと、空が悲しんで雨になるから」
「あら、そうなの」
「美保さん、そうしてもらえば」
「うるさい、グランド太郎」
「沙織くん」
「今日も歌ってね、みんな聞いているから、パンとミルクを用意するよ、砂糖なしでね」
「沙織くん、ごめん、ケーキと紅茶になったよ」
グランド太郎は、コンビニに行こうとしましたが、動けないことに気づいてしまいました。筋肉粒々の足が、土の中でしっかり支えていました。
グランド太郎は今日も、グランドを見守っています。
「美保さん、春が近いよ、沙織くんが歌ってくれているよ」
「グランド太郎、今朝もおじさんたちがゲートボールをたたいてうるさいのよ、何とかして」
「美保さん、落ち着いて」
「昼を過ぎたら、今度はバッドを振る音よ、おじさんは近所迷惑っていうことを知らないのですか」
「美保さん、ここはグランドです。少しぐらいの大きな音は大丈夫ということになっています。私はグランド太郎です。私はグランドの使命を守ります」
「あら、グランド太郎さん、少しはまともなことを言えるのね」
「美保さん,やっと分かってもらえましたね。ずっと隣にいたのに」
「分かったから、もうろくなことで話しかけないで、私はうるさいのが嫌なの」
グランド太郎は静かに立っていました夕陽に筋肉が輝きました。
「美保さん、夕日がきれいだよ、つぼみも増えたね」
「うるさい、もっと気の利いたことを言え」
「美保さん、枝がすっきりとして肌が輝いていますね」
「グランド太郎、筋肉が盛り上がって気持ち悪いの」
「筋肉、いいことです、美保さんを支えますよ」
冬の月
「遅かったね」
「寝坊」
「夕べ飲みすぎたの、犬は約束通り散歩に来たよ」
「ありがとう、私、おなかすいた」
「じゃあ、今日はうちで、チャーハンを作るよ」
「野菜もね」
「わかった、僕の方につかまりな、足元がふらついてるよ」
「うん」
「大丈夫かな、ゆっくり歩こう」
「今日も、わたし、仕事はするよ」
「分かったから、昼を食べてからにしよう」
「ありがとう、私コーヒーを入れるわ」
「ブラックで」
「ブラックで」
「僕は今日は在宅勤務の日だけど、君は出かけるの」
「わたしも今日は自宅で締め切りの原稿を書いて送るのよ」
「分かった、夕方犬を散歩してグランド太郎の下のベンチで、コーヒーとサンドイッチを食べよう」
「うん、ブラックコーヒーね」
「風が冷たいから一枚羽織って出よう」
「うん、月が白く光っているよ」
「ゆっくり歩くよ、犬も連れて行くから」
二人の歩く様子を見守るのはグランドの桜の木の美保さんと、樫の木の、グランド太郎です。
「おい、美保さん、この二人よく来るけど、私たちもあれかな」
「あれって」
「いや、あれ」
「何、じれったい感じ」
「いや二人のように同じ空を見ているなと思っただけさ」
「なんだ、それだけ」
四人の会話を鳥の沙織くんが、聞いていました。
「ねえ君」
「何」
「僕は、ここが好きなんだ」
「ここ」
「うん、今ここのこの時間がいいと思う」
「そうね、とりあえず、おなかは幸せになったわ」
「まあそういうこと」
「美保さん」
「グランド太郎、何」
「ここってどこだと思う」
「そっちじゃないってことよ」
「美保さん、そういうことかな」
「グランド太郎さん、さっきから面倒くさいよ」
鳥の沙織くん思わず
「風の歌」と歌い始めました。
「ねえ君、もう少し歩こうか」
「うん」
「僕たちもう少しここで暮らしていけるよね」
「あなた次第よ」
「まあ、そういうことか。ここでいいよね」
「ここよ」
「やっぱりここだよね」
「ブラックのコーヒーが冷めないうちに、あなたやることがあるでしょ」
「そうだ明日ショッピングに出かけるか」
「またごまかすの」
「美保さん、この二人、大丈夫かな」
「あなたも大丈夫なの。最近ボディービルにはまりすぎているよ。無駄な筋肉が見え始めて痩せすぎているよ」
「美保さんに見てもらえてうれしいよ」
「気持ち悪い」
「ヒューヒュー」
沙織君が歌い始めました。
「ところで、ワンちゃん、いつもワンとしかよんでないけど、美紀と呼んだらどう」
「美紀、わたしのおねえさんとおなじになるわ」
「美香、ごめん、紗季はどう」
「裕二くん、いいわ」
「美香、行くよ」
「美紀、走るぞ」
「裕二君、待って」
沙織君が空高くで歌っていました。
「裕二、しっかり、持ってね」
「こっちだよ」
「どっち」
「美香、転ぶなよ」
「美保さん、僕が支えるよ」
「グランド太郎のバカ、あなたはボディービルで痩せて気持ち悪いの」
「裕二、お昼は」
「ゆっくりカレーを食べに行こう」
「ブラックコーヒー付き、サラダもね」
「美保さん僕たちもお昼の時間だよ」
「まあそうね、少し地面を湿らしてくれる」
犬の美紀ちゃんが、おしっこをひっかけた。
「美保さんグッドタイミング」
「馬鹿、どうしてくれるの、グランド太郎、あっち行け、私の昼を返して」
「裕二君、今夜もスープにしようね、あったまるようにコーヒーはブラックで」
「美香、倒れるなよ」
「うん」
「裕二君、面倒くさいわ」
「何が」
「仕事」
「どうするの」
「いい加減なこと言わないで」
「ちょっとゆっくり歩こうか」
「蟹くらいは食べたいわ」
「シャインマスカットにしようよ」
「コーヒーはブラックね」
「豆を挽いてドリップしたのがいい」
「じゃあ、コンビニで飲んで」
「ついでにピザも買うけど」
「勝手にして」
「美保さん、この二人どうなんだろう」
「いい加減な感じでいいわ、グランド太郎には、向いてないよ、気持ち悪いもの」
「裕二さん、食べ過ぎないでね」
「美香、仕事は楽しんでやろうよ」
「裕二さん、明日も朝、コーヒーね」
「ブラックで。おいしい豆を挽いておくよ」
「うん、ありがとう。裕二君、今度はマロンケーキにしよう」
「美香さん分かったよ、見ろよ、美香さん、あのおじさんが歩いてきたよ」
「笑う」
「美香さん、もう笑っているよ」
「おい、君たちまた笑ったな。ありがとう」
「ハハハハハ」
「裕二、いいのかな、おかしいよ、おじさんありがとう」
「美香さん、笑っていいみたいだよ」
「おじさん、朝のコーヒーは飲んだの」
「ブラック、コンビニの」
「あれ私たちは裕二君が挽いた豆でブラックよ」
「私は貧民なので」
「もちろん僕たちブルジョアですよ」
「裕二、私たちも貧民のはずよ」
「おじさんも同じってこと」
「そうよ、裕二」
「美香さん、昨夜の月は見ましたか、明るく輝いていましたよ凍った暗い空に、貧民も見上げる空は、ブルジョアが見る空と同じ、あれは私たちのものでもあるのです」
「裕二さん、私たちも、幸せになれるのかな」
「美香さん、努力するよ、ということは」
「何」
「がんばります」
「今何か勘違いしたでしょ」
「勘違いじゃなくって、本当のことなんだ」
「いいわ、コンビニのブラックコーヒーにしよう」
「おや、君たち幸せになれるよ」
「おじさんおかしい」
「美香さん、僕はずっと一緒にいたいんだよ」
「裕二さん今ここで言わなくてもいいことじゃない」
「でも本当のことなんだ」
「君たち、もっと森の奥のベンチで座ったらどうだ」
「おじさん、聞いてたの」
「君たちまた笑ったろ。ありがとう」
「おじさん歩いてよ」
「裕二、笑う」
「いう前におかしいよ」
「また笑ったな、それでいい、幸せに」
「おじさん、ほんとうにわらっていいの、奥さんがわらっていいおかしいでしょといったからわらったのよ」
「ありがとう、君たちがいるから街が、潤っているよ」
2024/2/3