緑の木陰
緑の木陰に雨の雫が落ちると、フルートの風がそよぐ。
やがて森の中からオーケストラの音が響いてきた。
ふりかえるとだれもいなかったが、女性の声がした気がした。
森の向こうからが打楽器と弦楽器の美しい音が響いている。
雨の香りがしてくる。緑が喜んでいる。
森の頭には白い雲が遠く浮かんで笑っている。
雨の雫はにこやかにはっぱをゆらしてすずをならしていた。ふとみたら子猫がいた。
「いい音ね」
「うん」
「遠い空から天使がラッパを吹いているんだ」
朝の静かな空の向こうから雷の轟音がひびいてとりもおどろいてとびあがっている。
空の果ては宇宙だけれどどんな音が響いてるのだろうか。
緑の小枝はしずかにそよいでチェロの音をかなでていた。
「静かね」
「今日も朝だ」
「ゆっくりでいいね」
「カラスもにこやかだよ」
「自転車でみんな学校に行くんだね」
「そうさ」
雲は白く広がっていた。
「浴衣が恋しい季節」
「えっ、君は猫ちゃん」
「そう私の季節よ」
「きみはよくここを歩いてるね」
「うん、毎日きらきら」
「そうだね、緑の梢も喜んでいるね」
「明日は七夕、君は織姫なのかな」
「うん」
「明日彦星が遅れないといいな。天の川は優しく流れているよ、きっと」
「わたし大丈夫かな」
「君はきっと君の方法で切り抜けるよ」
「うん」
「きっと河童が助けてくれるよ
君の手をみせて」
「きれいな手だから大丈夫」
「少し歩いてみようよ」
「うん」
「ほら木の幹の樹液が香ってるよ。こうやってみんな生きてるんだね。君もいつも自分のやりかたで楽しんでいるものね」
樹液のにおいと土の色はすでに初夏になっていた。この道にも太古の記憶があるみたいだ。ぼくは自然の中にいることにおどろいてそしてぼくはそのいちぶなんだ。
僕が話していたのはやっぱり猫。でも君だったんだね。
空の上には白い雲
君は飛行機になったように走ってごらん。
空の上は空気が薄いからのどが渇くよ。
ゆっくり自分の翼を広げてみよう。
夜は明けたみたいだよ。
子供たちも元気にお出かけさ。
2023/7/12