緑の影
生きる人
朝起きたら外に出かけて緑の里を見回って稲の様子を見てひと働きして朝餉を食べてもういちどでかけてひるねをして夕陽の頃に水の様子を見てゆっくり夕餉をいただいてたっぷりのんでたっぷり寝てまた日の出とともに目覚める。日の光と月の動きで生きる。
日本の里山は、ゆっくり時間が動く。朝霧に深く沈んだ緑は昼の光で鱗のように輝いて、夕方蛍の明かりにほの暗く映し出される義父の小さな背中はどっしりと生きている。
この風景をゆっくりながめて泥の汗を気持ちよさそうに拭いて、おおらか笑う。
その冬ぼくは雪かきをして汗をかいていた。義理の兄の葬儀のためだった。「だめじゃ、順番が違う」と涙をこらえた義父がたんたんとゆきをはらっていた。
やがて雪解けの季節に山菜のてんぷらをいただき苗床を整えて楽しそうに笑う家族の団欒があった。
この季節の緑の稲田の美しさは忘れられない。
そして僕は子供の頃の蓮華の畑の幻の様な風景が今も目に浮かぶ。
昨日までカラカラの田んぼが、蓮華色にそまっていた。
ぼくはそれをみながら小学校に通っていた。すぐにその田んぼ耕されてもうすっかり田植えの準備の頃になったんだと、子供ながらに思っていた。もうすぐ水がひかれたら、どじょうがでてくるぞと、楽しみな季節だった。
夏になった日
とうとう夏が来た森の向こうから太古の音が響いてくる、蝉が合唱をしている。女性はノースリーブのシャツに日傘をさして日陰を探して歩いている。そして、元気にグランドをランニングする若い女性。ぼくは、おもわず「がんばれ」とこえをかけたら、「やったー」とこぶしをあげてよろこんだ。
僕はさわやかなあせをかんじた。
「お姉ちゃん、いっしょにはしっていい」と小さな女の子が、声をあげている。ぼくは心の中で「いいぞがんばれ」と呟いた。
2023/8/5