蟻
いつも妻の押す車椅子で行く団地の自治会の集会所の前の広場。左半身の不自由な私はそこでリハビリのため歩行の練習をしている。
「今日はこの壁に沿って歩こう」
と妻が言った。
広場にオブジェのように作られた緩やかなカーブになった腰の高さほどのコンクリートでできた夏の青空のような色をした塀。
私は車椅子を立ちその塀の角に右手を置いて視線を前方に向けた。
すると、一本の黒い線が流れていくように動いていた。一筋になった体長1センチに満たない蟻の列だ
夏の終わり、蟻は食物を巣に賢明に運ぶ。その隊列に私は気を使い右手を塀の角に添えて歩き始めた。
私は、歩き続け、ブロッック塀の片方の端の先まで歩き終える。
そこまで約五分。
命をつなぐ蟻の列。
私の日常をつなぐ足跡。
お互い頑張ろうな。
私は心の中でつぶやいた。
2020/9/25