柘榴
柘榴がグランドを眺めていたら子供たちが自転車で集まってきました。
「ねえ、駄菓子屋さんで買う。グミを」
「いいけど」
「よっ、日本一」
男の子の大きな声が響きました」
グランドで男の子が野球をして、バットに当たったボールが遠くに飛んでいきました。
「やきとりたべたい」
「いっぽんたべたい」
「すぐにたべたい」
「ダメでしょ駄菓子よ」
「そうよ、男子は、おなかがすいてダメなの」
わたしは、まどから柘榴がよろこんでいるのがみえた。
「いこう」
みんなかえっていきました。街灯のあかりがつきました。
私は帰って夕飯を食べてゆっくり寝たのです。
よくあさわたしはやはりラジオ体操をひろばまえのベンチのわきでたってすませて、あさのようすをながめていました。カラスが飛んで来て、小鳥がグランドでくちばしをつついて、食べ物をついばんでいました。やがて老人のゲートボールが始まりました。
子供たちが来るとはしっこにあつまって、おじいさんにあたらないように壁キックをはじめました。
「たかはしくんがんばれー」
「男子もう少し静かに」
私はお腹がすいたと思ったらもうお昼の時間になっていた。
「おじいさんたち怒らないからお話ししてあげなよ」私は柘榴越しにそう言いました。
こどもたちはゆうぐれまでかんせいをあげていました。わたしはこれから夕飯を食べようと思います。
柘榴には実がたくさんなっています。
柿の実はもう落ちていました。
今朝起きてグランドの道に行ったらもうすでに少年野球の子供が走っていました。
寒くはないのかな。わたしもいきをはきながらあるいていました。若い女性が肩を揺らして走っています。
柘榴はにっこりと笑いました。道に落ちたドングリもにこやかです。
歓声はまだ響いています。
わたしはそろそろ昼のことを考えてスケッチをしようと思っています。けさわたしがみた柘榴は少年たちをいまもみまもっているのでわたしはぜひ、こちらもえがきたいとおもいます。今日も夕暮れの時間ですがグランドからは少年たち歓声が聞こえてきます。なんておだやかな、いちにちなんでしょう。
いまはまたグランドから家に戻る声がします。自転車で並んでいきます。
次の朝、雨が雫のように降っていて、私は、グランドにいまだいけてないが、朝食はおいしくたべて、グランドの様子を見ているが、今日は社会人野球から始まっているようでこれから子供たちがおひるには来るだろう。
「パパ、野球」
「そうだよ」
「ぼくもやるよ」
「今度グローブを、あっサンタさんがくるかも」
「やっほー」
柘榴はにっこりわらいました。
「パパ、今日、おじさんいないね」
「おじさんって誰。ママなら知っているよ。ここに座って笑っているおじさん」
「そうか、雨にならないうちにパパは野球をするからここにいろよ」
「おじさーん」
「やあ、お父さんですか、私が見ているので頑張ってください。サンタが来るといいね」
「有難うございます。おじさん。何時も見守っていただいているそうですね。妻からきいていますよ」
「あーあのお母さんのご主人でしたか、いつもお子さんに元気をいただいています。今日は、お仕事はお休みですか、お疲れ様です」
「いえ、今日は午後まで在宅ワークですので」
「たいへんですねわたしはのんびりしていますので、おせわになっています」
「そろそろおばさんたちもあつまってきそうです」
今日の夕焼けも美しいでしょう。わたしはゆっくりグランドをながめてふりかえって柘榴に話しかけました。
「君がいるとみんな集まってくるね、君の実は。飲み水みたいだとおもっているんだよ」
「おじさんだれとはなしてるの」
「ほら、あの木についいてる赤い実だよ、がんこなおじさんのあたまみたいだろ」
「パックり、くちをあけておはなししてるみたい。おじさん魔法をかけてるの」
「違うよ、みんなも話しかけると、聞こえてくるよ」
「おじさんへんなことをおしえないでくださいよ」
「えっ、きこえないんですか、静かに耳を澄ませてください」
「ええ、わしにも、子供にはちゃんと食べさせろ、といっていたようです」
「柘榴は,やっぱり食べてほしいんですね、枝についてるのがさみしいんでしょう」」
「みんな、元気に笑っていて楽しいね」
お日様も静かに杜の向こうに沈んでいます。
あしたからもわたしはここにすわってながめているでしょう。
「並んでくださーい」
「いきます」
「帰るよ」
子供たちは一列に自転車で並んで帰るのです」
柘榴はみまもっています。
「飛び出すなよ、明日もまた会おう」
柘榴を私は見上げてにっこりとしました。
そのあともおそくまでこどもたちのこえがきこえていましたが、すっかりくらくなったら「おなかすいたー」というこえでみんなかえっていきました。
わたしはあさおきてきょうもラジオ体操をすませて、おじさんおばさんと別れて、おひるをたべてここで冬のグランドを眺めてスケッチをしている。
「おー」
子供たちの声がバス通りから響いてくる。
「オジサン、またここで描いているんですね」
「あっ、お母さん昨日ご主人に会いましたよ。サンタさん大変ですね」
「おじさんがサンタだったらいいのに」
「私実はノルウェイにすんでいたんです」
「そうですか、じゃあ、今頃忙しかったんですね」
「実は若いころそうでした。カードの返事も描かなくてはいけないのでへとへとでした」
「リアル、サンタさん」
「ええサターンです。実は怖いのです」
「おじさん、話を合わせないででください。笑ってしまいます」
「ばれますよね。私は実は、トナカイでした」
「また。子供にそんな話はなしですよ」
「はい、これクリスマスカードです」
「おじさんの手作りのカード、イラストが、かわいい」
「どうか受け取ってお子さんたちに、一枚しかないので申し訳ないのですが、私はもうこれぐらいが精いっぱいです」
「みんなにみせておきますよ。サンタさんからさっきもらったとつたえます」
「メリークリスマス」そろそろみんな集まりそうですね。
「きょうも夕飯おなかをすかしてかえってくるから」
「わたしもげんきなおこさんたちをみているとおなかがぐーっとなりますよ」
「おじさん、ありがとう」
「ご主人によろしく」
「おい、待ってよ。僕の実も、食べてよ」
柘榴は枝の上から叫びました。
あともう少しでクリスマスです。柘榴も大活躍です。
クリスマスのリースに自分も入ってみたいと柘榴は言っているみたいです。
「おじさん聞こえたよ」
「なんて言った」
「仲間に入れてって」
「そうか、きみどうする」
「遊ぼうよ」
「ありがとう」
柘榴は、真っ赤な笑顔で頭まで赤くして笑いました。
「おじさん、本当に聞こえるの」
「お母さん、子供たちははっきりと聞いていますよ」
「お母さん、聞いて、僕はうれしいんだよ」
シーン。
空で筋雲が笑っていました。
「えっ、今だれかしゃべったの」
「僕です。お母さん」
「だれ、」
空の雲がヒューっとそよ風をふかして、柘榴の頭の枝を揺らしました。
「柘榴ってきれいね」
「気づきましたか、私は、はいつも彼の声を聴いていました」
「あなたたち、かれと話していたの」
「はい、お母さん、おなかすいた」
「もう、朝ごはん食べたばかりでしょ」
「牛乳」
「ジュースがいい」
「朝マックだ」
「おかあさんたいへんですねわたしがみてますから、コンビニでもいってなにかたべさせてください」
「おじさん、余計なことは言わないでください。朝ごはんはしっかり食べたので」
「ごめんなさい。君たちのどは乾いてないか」
「はい」
「柘榴君、よろしく」ひとつぶずつでじゅうぶんだから、たべすぎはだめですよ」
「おじさんまた、でもすこしならいいかもね」
「僕の実は最高だよ」
「柘榴さん、落ちているのを拾って食べていいの」
「はい、喜んで」
「いたただきまーす」
子供たちは柘榴の実を美味しそうに食べて、グランドでかけっこを始めました。
「君が枝を揺らしてくれたんだね、ありがとう」
「おじさん、カッコ悪いよ、サンタ失格」
「アーこれはまいった。雲にも叱られた」
わたしはしばらくそこにすわっていました。
「おじさんよろしく」
「ごゆっくり」
おかあさんはコンビニに走っていきました。わたしはしずかにベンチでグランドをながめていました。
2023/12/6