緑の中の少女
ようやく目覚めたはずなのに私はまだ夢を見ているのか。いつもの少女が私の歩く横を通り過ぎていく。話しかけることもできないままに今朝も誰も歩いていない道をスッと通り過ぎ、私は姿を追ったのだがいつの間にか彼女は消えていた。近くの茂みで秋の虫が鳴いている。水面を漕ぐように歩くその女性は、謎の微笑みを浮かべていた。
───私は目覚めているのだろうか? 確かにベッドからは離れているのに夢を見ているみたいだ。
かつて私が出会った女性たちが知らん顔して私の横を通り過ぎているのだろうか。朝の光は幻を運んでくるらしい。そういえばこの季節はいろんな人が私を呼んでくれるみたいだ。
さっきテレビでシューベルトの歌曲が流れたが、ゲーテもそうだったようで、ゲーテにはとても及ばない私だが、でも、どうしても、表現のことと物事がそこに在るということを考えてしまう。今日も堂々巡りな1日を過ごそうとしている。そして自宅に戻ってゆっくりあったかいコーヒーを飲んでいた時...。
「私思うんだけど」
「何」
「どうして私の髪の毛が無いの?」
「書いているのだけど」
「そうか束ねているからか」
───しまった悟られるとまずい。
「違う子は、ちゃんとしているね」
「でもちゃんと書いた時、君は喜んでいたよ」僕はそう答えた。いきなり電話でこんな会話をするとは私はまだ目が覚めていない。きっとそうだ。すると急に雰囲気が変わり、電話の声が変わる。
「大丈夫なんだけど、ちょっとだるい日で飲みにも行ってないよ」彼女と下北で一緒に歩いたのを思い出した。どうしたことか紹介したい子がいるから会ってくれと言われて私はその日久し振りに後輩の彼女と会っていたことを思い出した。下北で知人が開いたカフェでゆっくり彼女たちと過ごそうと私は考えていた。紹介された女性は自分の将来に悩んでいたが、私は無責任に「自分が感じたところで少なくとも3年居座ってしまいなよ」とスコッチを飲み、彼女にもすすめながら話していた。すでに夜に近い時間で人の姿がまばらな通りにある静かな店だった。なぜ、今朝そのことだったんだろうか。私はやはり歩きながら夢でも見ていたようだ───。
2022/10/7