ジョンレノンと蜘蛛
油彩に手を入れていたら部屋に住み着いている蜘蛛が画面にはりついてきた。ラジオから、ジョンレノンのスターティングオーバーが流れていた。ジョンレノンの生前最後のレコーディングアルバムで、シングルカットされた曲だ。この年ジョンレノンはニューヨークの自宅の近所を歩いているとき、狂乱的な一人の男のファンの凶弾にたおれた。この年ひとりの女性がニューヨークの空港にむかっていた。
亡くなったご主人の供養にアメリカの地方に住む義理の姉を訪ねて、アメリカの地にお骨を分けてきたのだ。
帰国のためニューヨークの空港に向かう途中、タクシードライバーが、ラジオをつけたら、ジョンレノンの曲が流れた。彼女の頬にしょっぱい水が流れた。あーそういう日だったのね。これで、一つの区切りがついたと思った。
そして空港に着いたカウンターで、ぎりぎりまにあいましたね、この便まで通常です。ジョンレノンが殺されたので規制がかかったんです。
あーそうだったのね、だからジョンレノンの曲だったのね。12月18日。もうすぐクリスマスね。世界の平和はだれがまもろうとするの。
彼女は急にさみしくなった。
クリスマスの夜、店は賑やかだった。
原宿の螺旋階段は、おもむきがあってのぼるたびわきわくする階段だった。
クリスマスのボロンテールは素晴らしかった。
ボロンテールの夜は長く楽しかった。
今日子さんはその日のことを話してくれた。
今日子さんは鹿児島空港でビートルズの来日を同級生と迎えたそうだ。
僕は、その後上京して原宿でジャズの店をひらくまでのことをカウンターではんぶんゆめごこちできいていた。
今日子さんとは深夜にいろいろな話をして素晴らしい人々との出会いがあった。
僕はその日のことを、ジョンレノンとスマイルの楽譜のことをおもいだしていた。
僕はその後赤坂に移転しても通っていた。
赤坂の店は杉の香りとボロンのサウンドが響くすてきなくうかんだった。
僕はそこで初めてワインがおいしいと思った。
ジョンレノンの曲はやっぱり心に響く。
2023/10/4