空から響く鳥の歌
「行きますよ」
「子供たちが遊び始めたね」
「空の向こうで、子供たちが歌っているよ」
「森の緑、茂ってきたね、おいしそうな芽が出ているよ」
私は朝食を終えて朝の散歩から帰ってベッドに横になってうとうとして、友人と食事をする店を探していて焦っていた。私はその時鳥たちの声を聴いていた。気が付いたら私は部屋で一人だった。私は夢の中で仕事ができないのを焦っていました。きがつくと夜明けまじかでした。
私は、グランドの道を歩いていました。なつかしいひとのすがたがありました。
わたしはまた、夕方のバス通りのことをおもいました。バス停の近くには喫茶「ひまわり」の看板がありました。一段上がった植え込みには背の高い黄色い花、背高泡立草が生えていました。私は、もうすぐ退院するんだと感じました。そして退院の前日この道を歩いて、店の裏を通って病院に帰ったのでした。私は心の中で「ありがとう」といいました。声に出すとなぜか涙を流しそうでしたので、私は立って歩きました。
「もう一度モデルになってくれますか」
「いいよ」
「時間が許してくれたら来てください」
翌日私は彼女のスケッチをして感謝の言葉をいれてわたしました。
「すごい、ちゃんと全体が書いてある、来た頃は左がなかったのに」
私は、あー左のマヒとはそういうことなのかと知りました。
彼女は、その一枚を持って部屋を出ていきました。
私は後姿を静かに見送りました。
さあこれから病室の後かたずけだ。そう思ったとき折り紙が一枚あるのに気づいて、わたしはひとりでも折れるだろうと思って朝顔の折り紙を折って、看護師さんにメッセージを残してテーブルに置いて写真に撮って眠った。翌日私は退院の時間までに荷物を用意するはずだったので、早めに準備して、家族を待っていたが、ぎりぎりになってやっとついて、家内が急に荷物をまとめなおして、捨てるものは捨てろと、私が途中までやっていたのに、急に、手を出してやり始めて、わたしのおもうようにやってくれないので、ちょっともめて、息子に、わたしのいったことが、なぜ通じないのかと思って息子にきいたら、「しょうがない」と呆れた顔で言った。私はベッドに座って、長かったな、と思って病院の窓から中庭のベランダを眺めた。あーあのベンチで話したんだなと思った。
「帰ろうか」
「ちゃんと座って」
息子が車いすを押してくれた。
そして病院の玄関で、彼女が介助してくれて自動車に乗って、6号線を通って自宅に向かった。知らない風景になっていた。この道をタクシーで通っていた。普通に店が開いていた。1時間、自動車に乗れたことを確認した。息子のナビゲートで、間違いなくいつも見ていた駐車場について、私は自動車を教えてもらったとおりに降りて車椅子に乗り換えた。自宅の玄関に向かう階段で、もう一度おさらいと言って、上り下りをやってくれた。3階について玄関をみたとき、やっと戻ったと思った。私は玄関の入口に椅子がないといけないと心配していた。入り口にはいつも食事に使っていた椅子があって安心した。きょうもグランドの新しい道は乾いていた。私は病院の近所のバス通りの歩道が懐かしかった。道には枯葉が飛んでいた。
「この病院は機能していますか」
わたしは、腕に刺さったチューブのケアをしてくれる看護師さんに思わず聞いた。
「大丈夫ですよ、普通に診療していますよ」
私は野戦病院のベッドで目覚めたと思っていた。
私は目覚めたら朝食が運ばれてきたのでベッドを起きて病室の窓を見て朝になったんだと思った。私は、お粥の朝食を食べてお茶で薬を飲んで、歯ブラシを取り出してそばの洗面台で歯を磨いて、朝を迎えた起きることができたとしみじみと普通に過ごせていると感じた。
「トイレの時はこれで呼んでください。これを右手に握っていてください」
私はトイレのことを忘れていた。そういえば何度も同じことをしていた。私は自宅でトイレを使って安心した。しかし私はベッドの上にいた。起きなければと思った。朝だ。
椅子は今でも使っている。
私はその椅子に座って油絵の白い風景を描き続けて
私は一日を重ねて、生活が続く、夕方のバス通りは忘れないだろう。
後ろから車いすがついてくるので私は安心して歩いて行ける。ベンチで休み休み歩くこともやらなければと思っている。
「すこしまっていてね」
「私は、いつも買い物を店の外で待っている」
「美織」
女の子が後ろで騒いでいる。
頭の上では小鳥が鳴いた。もう春の輝き。
「おはようございます」
私は、横を走ってすぎていった女性に挨拶をした。
彼女はちいさくうなずいて走っていった。
私は椅子の上でうつらうつらとしていたが子供の声で目が覚めた。
「買ってきたよ」
私の目の前にコピー用紙の包装紙がにょきっと出た。
また、私は椅子の上でうとうとしていた。2時間たっていたもう夕暮れになっていた。
私は今日も椅子に座って作業をする。これをつづけるだけだ。
がらんとなったリハビリの部屋で私は今日はここを無事歩くことができた。雨音は強くなっていく。リハビリ病院の雨の日は、暗い階段を上り下りをしていた。
雨の日は仕方ない。でも階段をやると汗をかく。またわたしはベッドでうとうとして病院の暗い、階段をおりていた。
「絶対に離さないよ、安心して歩いて」
私は立って一歩踏み出すたびに思い出してしまう。
「がんばってください」
私はびっくりして振り返ってしまった。
「前を向いて」
「歩道はちゃんと杖の確認をして歩くの」
夕方の薄暗い時間にいつも歩いていた。
あの時間が、今の自分。
階段の先にグランドが見えた。私は元の生活に近づくことができそうだと思った。
そして、椅子とベッドの生活を続ける。
「走れ、右足を軸に、足を出せ」
私はようやく朝の光を外の空気とともに味わった。
「いってきまーす」
子どもがランドセルを背負って階段を駆け下りてくるのが見えました。私は肌寒いのに手に汗をかいていました。
「早く座れ、じかんがない。とろい」
後ろから言われて私は車いすに座りました。私は今日も歩くことができた。
私は今日も椅子に座って過ごすことができた。体操もやっていたので無事夜を迎えた。
私は今朝も階段を下りる。階段の向こうのグランドは水たまり。
階段の水たまりに滑らないで降りることができるまでになった。
「あのー」
ようやく、階段を下りたら、いつもの女性がいて、私の体温を測ってくれた。無事リハビリに向かうことができた。
今日の階段は乾いていて、グランドから風が向かってきました。
「おはようございます」
「おはようございます」
「淹れておきましたよ、砂糖は」
「なしで」
「ミルクは」
「なしで」
「ブラック?」
「ブラックで」
「今日はしっかり走ってきました」
「マラソン大会私出ます」
「膝に気を付けてください」
「はい」
「暗くなる前に仕事を終わって、はやく休んで、食事をとってください」
「はい、また明日」
「また明日」
私は明日違う風景を見ているだろう。
明日か。
明日の朝、私はグランドを見ているのだろうか、川の風景を見て目覚めるのだろうか。病院の階段を昇って、エレベーターに乗っているのだろうか。
私は夢の中で駐車場を見ていた。
梅の花と、紫陽花が美しく見ることができるところだ。私はそこに帰っていける。
「ありがとうございます」
わたしは、階段を下りるたびに思い出している。
美織の歌
静かな階段に、乾いた靴の音がする。私は玄関の扉を閉めた。
「静香さんち」
「佐々木博嗣君」
勢いよく子供たちが階段を駆け上がっているようだ。
私はあの子たちの姿を見ないで済んだとほっとした。
私はベッドにもどって外を見たら自転車に乗った男の子二人が、道を飛行機のように飛びぬけて行った。
今朝も鮮やかな傘が嬉しそうに揺れている。
グランドは雪で白くなっていた。
「知りませんか」
私は、季節に似合わない雪のグランドを眺めていた。
「笑っていいんですよ」
「え、ブラックコーヒーのことですか」
グランドには静かにみぞれ交じりの雨が降っていた。
「ミルクは」
「なしで」
「風が強いですね」
「美織君たち、ミルク飲んだかしら」
「カラスに追われてますよ」
「走れ」
「行きますよ」
「狭い道ですがころばないように」
わたしは心地のいいあせをかきました。
私たちは空を飛ぶ鳥を追いかけて行きました。
「のどはかわいてないですか」
「まだ大丈夫です」
「コーヒーにしましょう、ケーキもあります」
「ええ」
「ブラックにします」
「ええ」
私たちはベンチに腰掛けました。
そして彼女はドングリを一つ拾いました。
「ハーブティーは」
「ミントにしよう」
「ローズは」
「香りを楽しみますか」
「砂糖は抜き」
「レモングラスにブランデーを一滴」
「大丈夫ですか」
「やめておきます」
「淹れてきますね」
「ありがとう」
「ゆっくりしましょう」
「あーいい夜明けだ」
「春の匂い」
「そうだね」
「寒い」
「ゆっくりあったまろう」
東の空からさす光が優しくキッチンに差し込んでいる。
「今日はゆっくりしよう」
2024/3/11