これから
拓也は連絡を待っていた。
待っていると思っている。
きっと連絡があるはずだと思っている。天上の高いところから蜘蛛の糸がまっすぐ伸びている。なぜか、饐えたにおいが、拓也の脳髄をだるくする。
拓也は空を見上げたら雨の雫が口に入ってゴクンと飲み込んだ。えっとおもってめのまえをみた。
「やあ」通りかかった女性に声を掛けたら
「おはよう」と、にこっとした笑顔が返ってきた。
拓也は
「毎日、走るの」
ときくと「そう、走るの好きだから」
「でも今日は雨になるよ」
「大丈夫、よ」
「でも僕は、雨男だから」
「お願い、その能力だけは使わないでね」
困ったな、へんなやつ。
この人なんで私に声をかけたの。何か私を救ってくれる気なの。真由はその男をを睨みかえした。
「じゃあ、少し僕も走るか」
「うん」
「いくぞ」
拓也は駆け出した。
「やったーいくぞ」
真由も、笑って駆け出した。
二人は、グランド周辺の小道を走り出した。するとすぐに、太鼓のような轟が響いてきた。
「やばい、暗くなる前に木陰に行くよ」拓也は女性に声をかけた。
「お兄ちゃん怖い」
樹の幹のうらから女の子の声がした。
「危ないよ、すごい雨が降るから早くおうちへお帰り」拓也は女の子に声をかけた。
今朝、僕はまだ頭が回っていない。朝食を食べたのに。
「ねえ、君どう思うの」
「やばいのが来るよきっと」
「だから、どうするのって聞いてるの」
「とりあえずここより高い所に行こう、君はこの子を連れて」
とたんに強い雨が降り始めて、足元がびしゃびしゃになった。
「靴が濡れると、体が冷えてくるから出来るだけ水たまりにはまらないように歩こう」
「お兄ちゃん怖い」
「大丈夫お姉ちゃんについておいで」
「何よあんた、君が変な力を使ったんでしょ。いい加減にやめて」
「僕じゃない、雨が自分で決めたんだから、とにかく、この子を助けよう」
「わかったわ。これで完全に仕事に遅刻ね」
「向こうを見て、ほら、低い背の木の根元が渇いているよ。あそこなら安全だから、雨が止むまであそこでまとう。やまない雨ははないよ。」
「君、意外と冷静ね。あっ私真由、看護の仕事をしてるの」
「俺、拓也、工学部の学生」
「そう、わかったわ、この子を安全に連れ返して見せるわ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
真由はかがんで、女の子を抱きしめて
「大丈夫よ」
「拓也君、住所を聞いたら連れていけるかな」
「スマホはあるから大丈夫」
「私、遅刻だから、あとでスマホを貸して、職場に連絡するわ、そうだなにかたすけをもらえるかも」
「君、いや真由さん看護の仕事なの」
「そうよ」
「じゃあ僕も少しはわかる。体力いるね」
「そうよ、私、絶対にこの子を助けるわ。あなたの名前は、お姉ちゃんは真由姉ちゃんよ」
「マユネエチャン、ワタシサトミ」
「サトミちゃんおうちわかるの、おかあさんはいまどこにいるかわかるの、お電話もってるの」
「真由さんさすがだね」
「拓也くん。早く何とかしようよ向こうは真っ暗よ」
「でも、ほら西の空が明るくなってきた、もう大丈夫だから少し向こうで休んで、ぬかるみにはまらないように道を歩こう」
「サトミちゃん、ちゃんとお家わかる」
真由は眉をゆがめてサトミちゃんの頭をなでて、かおをしっかりみていた。
拓也はほんとうに今朝はへんすぎるとおもった。
やばいい俺も一限に間に合わん。
落ち着いたらコンビニで牛乳だな。
サトミちゃんのケータイが鳴っていた。
「サトミちゃん、電話よ早く出て」
「ママ」
「どこにいるの」
「公園の近く、真由姉ちゃんと一緒」
真由は電話を貸してと言って電話に出た。
「もしもし、お母さんですか、私サトミちゃんといます、泣きべそで声をかけてきたのでこれからお届けします。団地のそばの公園の小径にいます。近くのローソンで待ち合わせできますか。」
「ありがとうございます、すぐ向かいます。お世話になります」
「いえ、大丈夫です。私、一応看護師ですから、サトミちゃんねつはなさそうですが、怖くて少し顔色が悪いみたいですが、お母さんの顔を見たら落ち着いてもとにもどると思います。サトミちゃん。大丈夫です」
「よかった。助かりました」
拓也は、この様子を見て、やっとなんとかなったと、むねをなでおろした。
「看護師さん、ありがとうございます。私、これからサトミを保育園にに連れようと一度家に戻ったらもう姿がなくて慌てていたところです。本当に助かりました。ローソンですね。すぐにむかいます。私は、本田佳子です」
拓也は、今日の予感はこれかと思った。
「ローソンにいくんだね。きをつけてあるこう。みちにはこえだがあるから」
「拓也君、ちからがありそうだからさとみちゃんをだっだっこしてあるいてよ。ふたりできをつけていこうよ」
雨はようやく止んできた。
2023/8/23