「死者だけが戦争の終わりを見ている」 プラトン
「戦争は本質的には単純である。しかし戦争では、単純なことが難しいのである」 カール・フォン・クラウゼヴィッツ
はるか昔、オリュンポスの十二の神々は全世界の覇権をかけて、タイタンやギガースと呼ばれる巨人たちと二度に渡る戦争を繰り広げた。ギリシャ神話における「巨人たちの戦争」である。
1950年までの20世紀の前半期は、二度の大戦が世界を席巻した。神話の伝説と奇妙な符合をみせる「戦争の時代」だった。
第一次世界大戦は国体の全てをなげうつという壮絶な様相から、「総力戦」という言葉で表現された。第1次大戦終結後、「総力戦」の後遺症に苦しむドイツにヒトラーは指導者として選ばれた。ヒトラーは国民や軍隊を奮い立たせ、ドイツの復興がなしえた時にこの国が支配するであろう世界を「第三帝国」と名付け、その帝国は千年以上も栄えると説いた。
1939年、未曾有の世界大戦の火蓋は再び切って落とされた。ドイツ軍の「電撃戦」を目の当たりにして、ポーランドからフランスまでもが侵略された。次なる目標として、ヒトラーは「第三帝国」の「生存圏」となるソヴィエト連邦を示した。
ソ連邦の指導者スターリンはヒトラーと似通うところが多くあり、両者の衝突は避けられないことを漠然と感じていた。しかし、スターリンはヒトラーの意図を見誤り、1941年6月に「独ソ戦」は突如として始まった。
戦争終結に至るまでの悲劇は、それを経験しなかった全ての人々の想像に絶するものがある。「独ソ戦」の規模の大きさは、歴史上に残されているあらゆる戦いの規模を超越している。終戦までのドイツ軍全体の損失は1348万8000人を数え、そのうち1075万8000人が「独ソ戦」の舞台となった東部戦線で戦死または捕虜にされた。これはドイツ軍全兵力の75%を占める数字である。対してソ連軍(赤軍)はドイツ軍の2倍以上、2819万9127人が戦死または負傷した。
この作品は独ソ両国が全てをなげうった「総力戦」の実像を両軍の作戦行動、指導者・将軍たちの思惑に焦点を当てて克明に描き出すという試みである。判断や評価を退け、「戦争をして戦争を語らしめることを心がけた」。執筆の方針として、文中に出典の脚注は記載せず、「参考文献一覧」を参照されたい。
イデオロギーによって人間性を失われた非情と恐怖の世界では、人間の本性における最善の面も最悪の面もさらけ出すことがある。約70年前、自らの生命に関わる極限状態にあって、「何をなすべきか」という問いに直面した人間の姿に、現代の私たちに問いかけてくるものがあると、筆者は信じてやまない。