三倉岳 岩峰尾根の縦走と景観

広島県 

三倉岳(三角点峰702m、夕日岳690m、中ノ岳660m、朝日岳630m)、瓦小屋山664m  2018年11月24日

(三倉岳)中国百名山

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右手を見上げると三倉岳の岩峰がしらみはじめた空にそびえていた。あまたの白い岩峰でできている三倉岳は朝日に薄く染まっており、縦に連なる岩峰が眼下の麓に向かって鋭角の斜面をなし、その岩峰の間を緑の樹木が覆っている。

中ノ岳へは垂直に近いルンゼをロープと岩に打ち込まれた足場を使って登る。ルンゼの上に上がると、まず天狗の遊び場という大きな岩のテラスがある。ちょうどそのとき日の出となり、遠景は全て黒いシルエットと化す。その上に広がる金色の帯。

中ノ岳の頂上手前には鉄棒が何本か打ち込まれていて、それも利用しながら頂上大岩の最高地点に向かうと、ちょうど中ノ岳頂上の向こう側から朝日が射す。頂上大岩の上に立ち四周を見渡せば、左右に朝日岳と夕日岳を従え、東の地平線には日の出の光。夕日岳は神々しく金色に輝き、見下ろせば朝の光に染まりはじめようとしている大地。この中ノ岳頂上は、思い出に残る屈指の山岳景観であった。

夕日岳への縦走路が通行できないため、Aコース分岐まで下ってから夕日岳に登り返す。

夕日岳の頂上は広く、大きな岩がいくつか並び、木々も生えている。派手さはなく、落ち着いた雰囲気の頂上だが、狭い視界から眼下の岩壁や麓の集落が見えており、はるかな高みにいることが実感できる。南には緑に包まれた瓦小屋山、だが、その緑の中には岩峰が隠されていた。北西に見えるレーダードームは羅漢山、その右奥に見えている稜線とピークは寂地山と安芸冠山ではなかろうか。

三角点峰は三倉岳・三峰の背後にあり、麓からは目立たないピークのようだが、標高は一番高い。よって、登山者にも注目されているらしく、その頂上には「三倉岳701m」の頂上標識がいくつか設置されていた。

縦走路に入り、背後に歩いてきた縦走尾根と三倉岳・東面を見る。それは三つ並んだピークで、右から豪快に岩峰をちりばめた夕日岳、穏やかな三角点峰、そして岩峰のあるP6。これもまた素晴らしい景観。だけど中央の三角点峰が一番標高が高いようには見えないなあ。

瓦小屋山頂上は狭く、四等三角点と頂上標識がある。そして南側に広い岩のテラスがあり、周囲に緑に覆われた山腹、その先に穏やかな田園風景と集落が広がっていた。海は見えなかったが、東のかなたに宮島の弥山らしき山、反対側の北西にはレーダードームの羅漢山が見えていた。その間には低いながら、見渡す限り山また山。

「下山路はこの先左」という表示があったが、そのロープは、ほぼ垂直に下る壁に付けられていた。新旧二つのロープを掴み、後ろ向きになって十数メートル下の尾根に下る。こうして、岩登りの好きな人なら楽しくてたまらないルートになってきたが、私はもっと楽な方がよかったな。

ところどころシダが繁茂している道はところどころ崩れていて歩きにくかったが、送電線をくぐった先あたりで点検路に出て、そこからはぐっと歩きやすくなる。最後は民家の中を通過して車道に出る。犬がワンワン吠えたのには恐縮。深緑の厚い葉に大きな赤い寒ツバキ。

瓦小屋山登山口から駐車場に向かって歩いていると、左手(北西)に三つ並んだ見事な岩峰が見えてきて、だいぶ経ってからそれが三倉岳・三峰(夕日岳、中ノ岳、朝日岳)だと気づく。なるほど、これはすごい。麓から見えるこの景観こそが三倉岳の神髄だろう。高さの違う三つのピークが幾何学的正確さで斜めに並び、縦に垂直の白い尾根を平行に走らせ、紅葉の混じる緑の中に決然と聳えている。

 駐車場に向かって歩いていると、三つ並んだ見事な岩峰が見えてきて、だいぶ経ってからそれが三倉岳・三峰(夕日岳、中ノ岳、朝日岳)だと気づく。なるほど、これはすごい。麓から見えるこの景観こそが三倉岳の神髄だろう。(写真は郵便局のあたりから撮影したもの)
 東テラスから右手を見上げると三倉岳の岩峰がしらみはじめた空にそびえていた。あまたの白い岩峰でできている三倉岳は朝日に薄く染まっており、縦に連なる岩峰が眼下の麓に向かって鋭角の斜面をなし、その岩峰の間を緑の樹木が覆っている。
 南には緑に包まれた瓦小屋山。だが、その緑の中には岩峰が隠されていた。
朝日岳テラス
 ちょうど中ノ岳頂上の向こう側から朝日が射す。
夕日岳頂上
 深緑の厚い葉に大きな赤いサザンカ
 道端に木枯し紋次郎スタイルのかっぱの石像
  5:21 自然公園P発(標高210m)  5:28 Bコース登山口  6:32 朝日岳630m  6:37 東テラス600m  6:44 朝日岳  7:01 中ノ岳660m  7:52 Aコース分岐320m  8:58 夕日岳690m  9:16 三角点峰701m・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り3時間55分  9:32 三角点峰発10:45 瓦小屋山664m・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三角点峰から1時間29分10:58 瓦小屋山発12:19 車道12:58 自然公園駐車場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・周回7時間37分
往路5.2㎞、標高差946m、速度1.3㎞/h、242m/h帰路6.2㎞、標高差326m、速度1.8㎞/h、95m/h

  三倉岳頂上部分

MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM

この日は3時起床、4時に宮島SAを出る。高速には大型トラックが多かったが、山に向かうとやがて車はいなくなる。だが、曲がりくねった道で時間がかかる。だいぶ手前から三倉岳の標識が出ていて、キャンプ場の建物に到着。登山口よりだいぶ手前だが、キャンプ場の大きな駐車場に停める。10台弱が駐車していた。ヘッドランプを灯して歩き始める。車両進入禁止の舗装路を歩いて登山口に着くと、そこの案内表示に、Bコースから中ノ岳と朝日岳、Aコースから夕日岳に登れるが、中ノ岳から夕日岳への縦走路は通行できないとある。こいつは困った。一番高い夕日岳だけに登る手もあるが、それではつまらない。しんどいが両方に登ろうと決め、まずBコースに向かう。暗いがよく整備された道なので歩きやすい。しかし急坂をぐんぐん登っていく階段は延々と続き、しんどい。Aコースへの分岐を過ぎ、4合目小屋への分岐を過ぎ、夜が明け始める。周囲がだいぶ明るくなった頃、ようやく中ノ岳と朝日岳の間の東コルに到達。まず朝日岳に向かう。

30mほど先の朝日岳頂上は大岩で、頂上標識は見当たらない。これだけ整備されているのに意外。だいぶ前に入力したGPSルートを見ると、朝日岳頂上から更に東に向かえとあるので行ってみる。太い綱に掴まって大岩を下り、回り込んで下ったところはテラスのように林から抜け出ており、右手を見上げると三倉岳の岩峰がしらみはじめた空にそびえていた。あまたの白い岩峰でできている三倉岳は朝日に薄く染まっており、縦に連なる岩峰が眼下の麓に向かって鋭角の斜面をなし、その岩峰の間を緑の樹木が覆っている。その麓の緑の林の中にぽっかり見える空き地はキャンプ場に違いない。まだ夜明け前で地平線には朝焼け。素晴らしい景観。何度か周囲を撮影し、東コルに戻る。日の出が見えたのは中ノ岳に登っているときだった。中ノ岳へは垂直に近いルンゼをロープと岩に打ち込まれた足場を使って登る。ルンゼの上に上がると、まず天狗の遊び場という大きな岩のテラスがある。そこからは北側の景観。北東方向に大峯山、北西方向に羅漢山が見えていたはずだが、ちょうどそのとき日の出となり、遠景は全て黒いシルエットと化す。その上に広がる金色の帯。

中ノ岳に登る途中に夕日岳への分岐があるが、中ノ岳に向かう。少し登ると、夕日岳への分岐の先が黄色いテープで通行禁止にされているのが見えた。ここまで封鎖しているのでは通れまい。中ノ岳の頂上は巨大な岩で、見上げる夕日岳は朝日を浴びて金色にに輝き、中ノ岳の岩場はモノクロの世界。頂上手前には鉄棒が何本か打ち込まれていて、それも利用しながら頂上大岩の最高地点に向かうと、ちょうど中ノ岳頂上の向こう側から朝日が射す。足元はしっかりしていて不安はないが、ぐるぐる回って四周を撮影しているときにバランスを崩さないように気を付ける。さっき立っていた朝日岳のテラスははるか左下に小さく見えており、更に眼下にはキャンプ場。右手には夕日岳がこちらよりもはるかに高くそびえている。通行禁止になっているあたりは木々に覆われていて見えない。頂上大岩の上に立ち四周を見渡せば、左右に朝日岳と夕日岳を従え、東の地平線には日の出の光。夕日岳は神々しく金色に輝き、見下ろせば朝の光に染まりはじめようとしている大地。この中ノ岳頂上は、思い出に残る屈指の山岳景観であった。

夕日岳への縦走路が通行できないため、いったん東コル分岐から下ると、登っているときには見えなかった周囲の景観を初めて見る。中ノ岳の真下の岩壁にはハーケンが撃ち込まれており、クライミングのゲレンデになっているのだろう。朝日岳の真下も岩壁で、その二つの岩壁の間を細かなつづら折りで登山道の階段が付けられている。途中、登山道から分岐した先の小ピークに東屋があり、そこに寄ってレインウェアを脱ぎ、スティックを出す。ここも登っているときには暗くて気づかなかった。胴乱岩の由来*の説明があったが、どれが胴乱岩なのかよくわからず。スティックを使うと、格段に楽になる。ラチェット式のスティックをポクポクいわせながら快調に下る。途中、四合目小屋分岐があり、そこがAコースへの近道だったのだが、Aコースに繋がっていることは分からなかったので更に下り、Aコース分岐まで下ってから夕日岳に登り返す。このあたりで誰かに会うと思ったが、誰にも会わず。まだ時間が早いのだろうか。

*胴乱岩の由来: むかしお坊さんが三倉の山中で道に迷いずいぶん苦しまれた末に頂近くの隠坊池で水死されたことから三倉大地震が起きたという伝説があり、お坊さんの苦しみは体が張り裂けんばかりだったことから、平な一枚岩であったものが形を変えたといわれております。

四合目小屋というのは片側が開けた東屋風の小屋で、休憩所の感じ。その先にかまどと思われる穴や大岩の下の岩室らしき場所を見る。スティックは登りでも有効で、最短にして、腕で体を持ち上げる支点にし、足への負担をだいぶ少なくできる。そしてようやく西コルに到達し、夕日岳に向かう。大石の窪みを穿って付けられた階段。夕日岳の頂上直下に中ノ岳への分岐があり、ここは分岐に通行止め表示。そのすぐ先の登山道脇にナギがあり、ナギ崩落が通行止めの原因なのだろう。そこから北に見えていた二等辺三角形の優美な山は大峯山だろうか。夕日岳の頂上は広く、大きな岩がいくつか並び、木々も生えている。その中央の一番高い岩の上にある木の枝に「三倉岳」の標識がかかっていた。派手さはなく、落ち着いた雰囲気の頂上だが、狭い視界から眼下の岩壁や麓の集落が見えており、はるかな高みにいることが実感できる。南には緑に包まれた瓦小屋山、だが、その緑の中には岩峰が隠されていた。北西に見えるレーダードームは羅漢山、その右奥に見えている稜線とピークは寂地山と安芸冠山ではなかろうか。落ちていたのは大竹山の会の会員募集の紙。

西コルに戻って三角点峰に向かい、振り返ると夕日岳の鋭鋒。三角点峰は三倉岳・三峰の背後にあり、麓からは目立たないピークのようだが、標高は一番高い。よって、登山者にも注目されているらしく、その頂上には「三倉岳701m」の頂上標識がいくつか設置されていた。ただし、その山容は三峰に比べるとやや平凡で、頂上は林の中。樹間に見える夕日岳よりも高いということも実感しにくい。派手な三峰を背後で見守る地味な長兄というところか。さて、本日のプランはここから瓦小屋山への縦走だが、中ノ岳から夕日岳への尾根道が通行不可で、いったん下って登り返したことにより、だいぶ時間を消費していた。少し心配だったのは瓦小屋山への縦走路が荒れていないかということだが、途中までは歩きやすい道だった。ザックを下ろし、ここでパンを食べ、ホットレモンを飲んだと思う。もう人に会いそうもないので、前日夜に充電したウォークマンを鳴らす。この日はヒューホッパー。ややアバンギャルド風なサウンド、もの悲しいアコーディオン、リサ・クロスナーのサビた歌。

縦走路に入り、三角点峰の南西200mほどのところにあるP5・690mは夕日岳と同じ標高だが、いたってやさしい山容で、灌木の尾根道を緩やかに辿って到着。次のP6・680mも頂上までは同じ調子だったが、南西端に岩峰があり、登山道はその脇を通り、瓦小屋山との間のコルに向かってぐんぐん下っていく。岩場、ロープ場も出現。やっぱり楽ではない。背後には岩肌むきだしの夕日岳、行く手にはピークを連ねた瓦小屋。やや憂鬱。P6から300mほどの下りは歩きやすい尾根だったと思うが、コルから登り返していくと行く手に大きな岩(瓦小屋山・北峰610m)が現われ、その脇を通ってごつごつした岩と木々の中を登っていく。背後にはP6の岩峰がもう遠く見えている。瓦小屋山・北峰の大岩直下をトラバースしていくと、背後に歩いてきた縦走尾根と三倉岳・東面を見る。それは三つ並んだピークで、右から豪快に岩峰をちりばめた夕日岳、穏やかな三角点峰、そして岩峰のあるP6。これもまた素晴らしい景観。だけど中央の三角点峰が一番標高が高いようには見えないなあ。よく見ると、夕日岳の右斜面に中ノ岳と朝日岳の頂上も見えているようだが、この角度では目立たない。再び樹間に入り、到着したのは瓦小屋山・東峰で、瓦小屋山・本峰とはほぼ同じ標高だが、頂上には何もなし。そこからは急な下りと急な登り。

瓦小屋山頂上は狭く、四等三角点と頂上標識がある。そして南側に広い岩のテラスがあり、周囲に緑に覆われた山腹、その先に穏やかな田園風景と集落が広がっていた。北東には歩いてきた瓦小屋山・東峰と三倉岳・東面の三峰(P6、三角点峰、夕日岳)、海は見えなかったが、東のかなたに宮島の弥山らしき山、行く手に瓦小屋山・南峰、反対側の北西にはレーダードームの羅漢山が見えていた。その間には低いながら、見渡す限り山また山。西の眼下には巨大な小瀬川ダムも見えている。頂上標識のところに戻り休憩。ポカリを飲み、ナッツを食べたと思う。ここの灌木に張り付けてあった縦走記念標識の「美美」と女の子の顔のイラストは見覚えがある。5年前に十方山で見たものだろう。頂上標識に、「下山路はこの先左」という表示があったが、南側のテラスではなかろうと思い、北側を探るが、下山路は見当たらない。念のために南テラスのところに行くが、その左側は断崖だ。ところが、テラス中央のくぼみのところにロープがあるのに気づく。これか!!そのロープは南側真正面の瓦小屋山・南峰に向かう尾根に、ほぼ垂直に下る壁に付けられていた。新旧二つのロープを掴み、後ろ向きになって十数メートル下の尾根に下る。こうして、岩登りの好きな人なら楽しくてたまらないルートになってきたが、私はもっと楽な方がよかったな。

少し登り返し、瓦小屋山・南峰に登っていくが、頂上には至らず、手前で東に下っていく。急傾斜を下って背後を見上げると、頭上に巨大な岩。そこからは延々と斜面のつづら折りを下る。北の斜面に積み重なっている白い岩。デルタ・フローラのラストのトキタイは、けだるいエレクトリック・ピアノのリフを響かせる。ところどころシダが繁茂している道はところどころ崩れていて歩きにくかったが、送電線をくぐった先あたりで作業道(鉄塔点検路だったらしい)に出て、そこからはぐっと歩きやすくなる。点検路の先に家屋が見えてきて、車道も見えてくるが、最後は民家の中を通過して車道に出る。犬がワンワン吠えたのには恐縮。車道の途中で靴に入った小石を取り除き、スティックをしまう。瓦小屋山登山口から駐車場に向かって歩いていると、車道の右手(北東)に見える頂上に大岩を抱いたのは燕山、左手(北西)に緑の峰に白い岩をまぶした尾根は瓦小屋山(南峰から本峰?)だろうか。赤いベゴニアの花。深緑の厚い葉に大きな赤い寒ツバキ。次いで、左手(北西)に三つ並んだ見事な岩峰が見えてきて、だいぶ経ってからそれが三倉岳・三峰(夕日岳、中ノ岳、朝日岳)だと気づく。なるほど、これはすごい。麓から見えるこの景観こそが三倉岳の神髄だろう。高さの違う三つのピークが幾何学的正確さで斜めに並び、縦に垂直の白い尾根を平行に走らせ、紅葉の混じる緑の中に決然と聳えている。

朝来たときは真っ暗だった車道を歩くと、道端に木枯し紋次郎スタイルのかっぱの石像とアステカの神の石像、その先にAコース登山口。林が切れ、三倉岳が正面に見えるところに「三倉苑」と彫られた石板が立ててあり、そこまで登ってみる。そしてようやく駐車場に着く。駐車している車は増えていたようで、ちょうど降りてきたパーティも数組。車で下っていくと背後に三倉岳が見えている。何度か停車して撮影するが、電線が邪魔だ。県道289まで下り、分岐点にあった駐車場に停め、郵便局のあたりまで歩いて三倉岳を撮影。これでもう思い残すことはないだろう。

登山コース見取図(日の出後に撮影したもの)

この日は3時起床、4時に宮島SAを出る。高速には大型トラックが多かったが、山に向かうとやがて車はいなくなる。だが、曲がりくねった道で時間がかかる。だいぶ手前から三倉岳の標識が出ていて、キャンプ場の建物に到着。登山口よりだいぶ手前だが、キャンプ場の大きな駐車場に停める。10台弱が駐車していた。ヘッドランプを灯して歩き始める。車両進入禁止の舗装路を歩いて登山口に着くと、そこの案内表示に、Bコースから中ノ岳と朝日岳、Aコースから夕日岳に登れるが、中ノ岳から夕日岳への縦走路は通行できないとある。こいつは困った。一番高い夕日岳だけに登る手もあるが、それではつまらない。しんどいが両方に登ろうと決め、まずBコースに向かう。暗いがよく整備された道なので歩きやすい。しかし急坂をぐんぐん登っていく階段は延々と続き、しんどい。Aコースへの分岐を過ぎ、4合目小屋への分岐を過ぎ、夜が明け始める。周囲がだいぶ明るくなった頃、ようやく中ノ岳と朝日岳の間の東コルに到達。まず朝日岳に向かう。

登山道Bコース

夜明け

朝日岳頂上と太いロープ

東テラス

30mほど先の朝日岳頂上は大岩で、頂上標識は見当たらない。これだけ整備されているのに意外。だいぶ前に入力したGPSルートを見ると、朝日岳頂上から更に東に向かえとあるので行ってみる。太い綱に掴まって大岩を下り、回り込んで下ったところはテラスのように林から抜け出ており、右手を見上げると三倉岳の岩峰がしらみはじめた空にそびえていた。

三倉岳(東テラスより)

あまたの白い岩峰でできている三倉岳は朝日に薄く染まっており、縦に連なる岩峰が眼下の麓に向かって鋭角の斜面をなし、その岩峰の間を緑の樹木が覆っている。その麓の緑の林の中にぽっかり見える空き地はキャンプ場に違いない。まだ夜明け前で地平線には朝焼け。素晴らしい景観。何度か周囲を撮影し、東コルに戻る。

東テラスから東の景観: 日の出前の朝焼け

 東テラスから南と西の景観: 夕日岳、中ノ岳

天狗の遊び場

日の出

日の出が見えたのは中ノ岳に登っているときだった。中ノ岳へは垂直に近いルンゼをロープと岩に打ち込まれた足場を使って登る。ルンゼの上に上がると、まず天狗の遊び場という大きな岩のテラスがある。そこからは北側の景観。北東方向に大峯山、北西方向に羅漢山が見えていたはずだが、ちょうどそのとき日の出となり、遠景は全て黒いシルエットと化す。その上に広がる金色の帯。

中ノ岳へのルート

中ノ岳頂上と朝日

中ノ岳に登る途中に夕日岳への分岐があるが、中ノ岳に向かう。少し登ると、夕日岳への分岐の先が黄色いテープで通行禁止にされているのが見えた。ここまで封鎖しているのでは通れまい。中ノ岳の頂上は巨大な岩で、見上げる夕日岳は朝日を浴びて金色にに輝き、中ノ岳の岩場はモノクロの世界。頂上手前には鉄棒が何本か打ち込まれていて、それも利用しながら頂上大岩の最高地点に向かうと、ちょうど中ノ岳頂上の向こう側から朝日が射す。

朝日岳(中ノ岳より)

足元はしっかりしていて不安はないが、ぐるぐる回って四周を撮影しているときにバランスを崩さないように気を付ける。さっき立っていた朝日岳のテラスははるか左下に小さく見えており、更に眼下にはキャンプ場。右手には夕日岳がこちらよりもはるかに高くそびえている。通行禁止になっているあたりは木々に覆われていて見えない。頂上大岩の上に立ち四周を見渡せば、左右に朝日岳と夕日岳を従え、東の地平線には日の出の光。夕日岳は神々しく金色に輝き、見下ろせば朝の光に染まりはじめようとしている大地。この中ノ岳頂上は、思い出に残る屈指の山岳景観であった。

 中ノ岳からの景観: 金色に輝く夕日岳と三角点峰

三倉岳の岸壁

ハーケン

夕日岳への縦走路が通行できないため、いったん東コル分岐から下ると、登っているときには見えなかった周囲の景観を初めて見る。中ノ岳の真下の岩壁にはハーケンが撃ち込まれており、クライミングのゲレンデになっているのだろう。朝日岳の真下も岩壁で、その二つの岩壁の間を細かなつづら折りで登山道の階段が付けられている。

長い石段

途中、登山道から分岐した先の小ピークに東屋があり、そこに寄ってレインウェアを脱ぎ、スティックを出す。ここも登っているときには暗くて気づかなかった。胴乱岩の由来*の説明があったが、どれが胴乱岩なのかよくわからず。

*胴乱岩の由来: むかしお坊さんが三倉の山中で道に迷いずいぶん苦しまれた末に頂近くの隠坊池で水死されたことから三倉大地震が起きたという伝説があり、お坊さんの苦しみは体が張り裂けんばかりだったことから、平な一枚岩であったものが形を変えたといわれております。

西コル

スティックを使うと、格段に楽になる。ラチェット式のスティックをポクポクいわせながら快調に下る。途中、四合目小屋分岐があり、そこがAコースへの近道だったのだが、Aコースに繋がっていることは分からなかったので更に下り、Aコース分岐まで下ってから夕日岳に登り返す。このあたりで誰かに会うと思ったが、誰にも会わず。まだ時間が早いのだろうか。

大峯山

四合目小屋というのは片側が開けた東屋風の小屋で、休憩所の感じ。その先にかまどと思われる穴や大岩の下の岩室らしき場所を見る。スティックは登りでも有効で、最短にして、腕で体を持ち上げる支点にし、足への負担をだいぶ少なくできる。そしてようやく西コルに到達し、夕日岳に向かう。大石の窪みを穿って付けられた階段。夕日岳の頂上直下に中ノ岳への分岐があり、ここは分岐に通行止め表示。そのすぐ先の登山道脇にナギがあり、ナギ崩落が通行止めの原因なのだろう。そこから北に見えていた二等辺三角形の優美な山は大峯山だろうか。

夕日岳頂上

夕日岳の頂上は広く、大きな岩がいくつか並び、木々も生えている。その中央の一番高い岩の上にある木の枝に「三倉岳」の標識がかかっていた。派手さはなく、落ち着いた雰囲気の頂上だが、狭い視界から眼下の岩壁や麓の集落が見えており、はるかな高みにいることが実感できる。南には緑に包まれた瓦小屋山、だが、その緑の中には岩峰が隠されていた。北西に見えるレーダードームは羅漢山、その右奥に見えている稜線とピークは寂地山と安芸冠山ではなかろうか。落ちていたのは大竹山の会の会員募集の紙。

夕日岳(「三倉岳」)の頂上標識

安芸冠山

 夕日岳から南と西の景観: 瓦小屋山、羅漢山、寂地山?安芸冠山

瓦小屋山

三角点峰頂上

西コルに戻って三角点峰に向かい、振り返ると夕日岳の鋭鋒。三角点峰は三倉岳・三峰の背後にあり、麓からは目立たないピークのようだが、標高は一番高い。よって、登山者にも注目されているらしく、その頂上には「三倉岳701m」の頂上標識がいくつか設置されていた。ただし、その山容は三峰に比べるとやや平凡で、頂上は林の中。樹間に見える夕日岳よりも高いということも実感しにくい。派手な三峰を背後で見守る地味な長兄というところか。

三角点峰(「三倉岳」)の頂上標識

さて、本日のプランはここから瓦小屋山への縦走だが、中ノ岳から夕日岳への尾根道が通行不可で、いったん下って登り返したことにより、だいぶ時間を消費していた。少し心配だったのは瓦小屋山への縦走路が荒れていないかということだが、途中までは歩きやすい道だった。ザックを下ろし、ここでパンを食べ、ホットレモンを飲んだと思う。もう人に会いそうもないので、前日夜に充電したウォークマンを鳴らす。この日はヒューホッパー。ややアバンギャルド風なサウンド、もの悲しいアコーディオン、リサ・クロスナーのサビた歌。

夕日岳(P6付近より)

瓦小屋山

縦走路に入り、三角点峰の南西200mほどのところにあるP5・690mは夕日岳と同じ標高だが、いたってやさしい山容で、灌木の尾根道を緩やかに辿って到着。次のP6・680mも頂上までは同じ調子だったが、南西端に岩峰があり、登山道はその脇を通り、瓦小屋山との間のコルに向かってぐんぐん下っていく。岩場、ロープ場も出現。やっぱり楽ではない。背後には岩肌むきだしの夕日岳、行く手にはピークを連ねた瓦小屋。やや憂鬱。

瓦小屋山・北峰の岩峰

P6から300mほどの下りは歩きやすい尾根だったと思うが、コルから登り返していくと行く手に大きな岩(瓦小屋山・北峰610m)が現われ、その脇を通ってごつごつした岩と木々の中を登っていく。背後にはP6の岩峰がもう遠く見えている。

三倉山の東半分(P6、三角点峰、夕日岳)

瓦小屋山・北峰の大岩直下をトラバースしていくと、背後に歩いてきた縦走尾根と三倉岳・東面を見る。それは三つ並んだピークで、右から豪快に岩峰をちりばめた夕日岳、穏やかな三角点峰、そして岩峰のあるP6。これもまた素晴らしい景観。だけど中央の三角点峰が一番標高が高いようには見えないなあ。よく見ると、夕日岳の右斜面に中ノ岳と朝日岳の頂上も見えているようだが、この角度では目立たない。

瓦小屋山頂上

再び樹間に入り、到着したのは瓦小屋山・東峰で、瓦小屋山・本峰とはほぼ同じ標高だが、頂上には何もなし。そこからは急な下りと急な登り。瓦小屋山頂上は狭く、四等三角点と頂上標識がある。

瓦小屋山頂上標識

そして南側に広い岩のテラスがあり、周囲に緑に覆われた山腹、その先に穏やかな田園風景と集落が広がっていた。北東には歩いてきた瓦小屋山・東峰と三倉岳・東面の三峰(P6、三角点峰、夕日岳)、海は見えなかったが、東のかなたに宮島の弥山らしき山、行く手に瓦小屋山・南峰、反対側の北西にはレーダードームの羅漢山が見えていた。その間には低いながら、見渡す限り山また山。西の眼下には巨大な小瀬川ダムも見えている。

縦走記念標識

頂上標識のところに戻り休憩。ポカリを飲み、ナッツを食べたと思う。ここの灌木に張り付けてあった縦走記念標識の「美美」と女の子の顔のイラストは見覚えがある。5年前に十方山で見たものだろう。


瓦小屋山から東の景観: P6、三角点峰、夕日岳、瓦小屋山・東峰、宮島・弥山?経小屋山、

 瓦小屋山から南と西の景観: 瓦小屋山・南峰、小瀬川ダム、羅漢山

瓦小屋山からの下降

頂上標識に、「下山路はこの先左」という表示があったが、南側のテラスではなかろうと思い、北側を探るが、下山路は見当たらない。念のために南テラスのところに行くが、その左側は断崖だ。ところが、テラス中央のくぼみのところにロープがあるのに気づく。これか!!そのロープは南側真正面の瓦小屋山・南峰に向かう尾根に、ほぼ垂直に下る壁に付けられていた。新旧二つのロープを掴み、後ろ向きになって十数メートル下の尾根に下る。こうして、岩登りの好きな人なら楽しくてたまらないルートになってきたが、私はもっと楽な方がよかったな。

シダのトラバース路

少し登り返し、瓦小屋山・南峰に登っていくが、頂上には至らず、手前で東に下っていく。急傾斜を下って背後を見上げると、頭上に巨大な岩。そこからは延々と斜面のつづら折りを下る。北の斜面に積み重なっている白い岩。デルタ・フローラのラストのトキタイは、けだるいエレクトリック・ピアノのリフを響かせる。

瓦小屋山・南峰

鉄塔点検路出会い

民家の中を通って登山口

ところどころシダが繁茂している道はところどころ崩れていて歩きにくかったが、送電線をくぐった先あたりで作業道(鉄塔点検路だったらしい)に出て、そこからはぐっと歩きやすくなる。点検路の先に家屋が見えてきて、車道も見えてくるが、最後は民家の中を通過して車道に出る。犬がワンワン吠えたのには恐縮。車道の途中で靴に入った小石を取り除き、スティックをしまう。

瓦小屋山への道標

燕山

瓦小屋山登山口から駐車場に向かって歩いていると、車道の右手(北東)に見える頂上に大岩を抱いたのは燕山、左手(北西)に緑の峰に白い岩をまぶした尾根は瓦小屋山(南峰から本峰?)だろうか。赤いベゴニアの花。深緑の厚い葉に大きな赤い寒ツバキ。

サザンカ

三倉岳(夕日岳、中ノ岳、朝日岳)

次いで、左手(北西)に三つ並んだ見事な岩峰が見えてきて、だいぶ経ってからそれが三倉岳・三峰(夕日岳、中ノ岳、朝日岳)だと気づく。なるほど、これはすごい。麓から見えるこの景観こそが三倉岳の神髄だろう。高さの違う三つのピークが幾何学的正確さで斜めに並び、縦に垂直の白い尾根を平行に走らせ、紅葉の混じる緑の中に決然と聳えている。

サザンカ

渡世人カッパ

朝来たときは真っ暗だった車道を歩くと、道端に木枯し紋次郎スタイルのかっぱの石像とアステカの神の石像、その先にAコース登山口。林が切れ、三倉岳が正面に見えるところに「三倉苑」と彫られた石板が立ててあり、そこまで登ってみる。

三倉岳と三倉苑の石標

駐車場

三倉岳(夕日岳、中ノ岳、朝日岳)

そしてようやく駐車場に着く。駐車している車は増えていたようで、ちょうど降りてきたパーティも数組。車で下っていくと背後に三倉岳が見えている。何度か停車して撮影するが、電線が邪魔だ。県道289まで下り、分岐点にあった駐車場に停め、郵便局のあたりまで歩いて三倉岳を撮影。これでもう思い残すことはないだろう。