平成二十六年十二月二十日 東洋大学白山キャンパス 五三〇五教室
南方上座部仏教の世界観
チャイトンディー・プラマハチャッポン 奨励研究員
〔発表要旨〕釈迦入滅後、紀元前四世紀頃の第二結集において、仏教が上座部と大衆部に分裂するという根本分裂が起きたが、南方上座部仏教は上座部の一つの部門として成立した。須弥山を中心とした世界観あるいは歴史的宇宙論については、仏教サンスクリット文献や仏教漢訳聖典などの北伝アビダルマ仏教文献の中に体系的な記述が見られる。一方、南方上座部では、五世紀頃の諸註釈文献の中に、宇宙の構造と、それらが成立して破壊するまでの経過に関する記述が見られるが、世界観を主題とする文献の成立までには至らなかった。十二世紀頃になると、世界観記述を体系化したパーリ文献がようやく現れ始めた。それ以降、十五世紀頃までに、数多くの同種の文献が続々と編纂されていった。そして、これらの文献群は、スリランカ・ミャンマー・タイ・ラオスなどの南方上座仏教圏の国々に広く伝承された。
本発表では、南方上座部仏教の世界観について紹介し、善趣・悪趣、五道輪廻(地獄、餓鬼、動物、人間、天)、三界(欲界、色界、無色界)について説明した。人間には善根により善業を行い、楽を受け、悪根あるいは煩悩によって悪業を行い、苦しむという循環があり、悪業を行った者は地獄に陥るが、南方上座部仏教の地獄は、まず八大地獄があり、周りには十六の小地獄があり、それぞれ四方に閻魔界が十カ所あって、それぞれの地獄には寿命が定められている。
三界についていえば、欲界には地獄、餓鬼、動物の世界が含まれている。色界というのは、瞑想を行い、禅定という段階に達した者の生まれ先である。もっと上にはより高い禅定の段階としての無色界がある。南方上座部仏教の宇宙観は、中央に須弥山があり、それを四つの州、東勝神州、ジャンブ州(人間のいるところ)、西牛貨州、北クル州があり、その州の外側に輪囲山がある。
また世界は火により、水により、風により滅びるが、その破滅の循環は六十四転大劫によって示される。世界の破滅の原因については、人々が怒りに満ちている場合は、火によって世界が滅びる。人々が欲望におぼれている場合は、水によって世界が滅びる。人々の心の中に愚痴というようなものがたくさんある場合は、世界は風によって滅びる。世界が滅びるには範囲があって、火によって世界が滅びる場合は色界の第二禅定のところまで滅びる。水によって世界が滅びる場合は第三禅定のところまで、風によって世界が滅びる場合は、第四禅定のところまでで、聖者の段階にまで達すると生まれ変わるといわれている浄居天は、滅びず、ずっと存在することになる。