スオウ島 その2

バトルをしようとカケルに促されて歩いた先に、洞窟の中でも拓けた場所があった。

だが、拓けたと言うには、つららが迷路になっていて難しい場所でもあった。元は拓けていただろうが、大量のつららが突き刺さり迷路のようになっている。

誰かがここでバトルをした名残なのだろう。

「このままだとやりにくいな……少し待ってろ」

指示ともとれないほど小さく呟いた後、カケルはハクリューをボールから呼び出して、その大きなしっぽによるドラゴンテールでつららを一掃させる。

まるで消しゴムのかすを机から落とすような何気なさに、オーカはぎょっとする。大量のつららに対し重ささえ感じていないハクリューの力強さと技の重さを、一瞬にして見せつけられた気分だった。

こんな相手と、これから戦う。

カケルはリーグ優勝者。

オーカは胸の内に興奮が湧いてくるのを感じていた。ジムリーダーと違い、本気で戦ってくれる相手だ。どれだけのものを学べるだろう。

そんな高揚をよそに、オーカを襲うものがある。

「あ、あの……バトルの前に、少し昼寝させてもらっても駄目ですか……」

おずおずと、言ってみる。

時刻は既に二時。強い眠気に似たものがオーカの意識を押さえつけ始めていて、過去を話している途中から辛くなっていた。

いつもこの時間はそうなのだ。オーカは必ず二時から三時にかけて昼寝をしなければならない。体がそういうふうになっていて、それにあらがえたことはほぼない。

イワヤマトンネルでは昼寝のできる状況でなかったから気力で通り抜けたが、抜けてすぐに眠りに倒れていた。

そのくらい、オーカにとって眠気というのは逆らえないものだ。

しかし。

「バトルすれば目なんか醒める」

カケルはそう一蹴して、オーカと反対位置へと走ってしまう。

そんな、ただの眠気ではないのだが。そう言おうとしてもオーカにはこれを眠気としか表現しようがなく、言われたとおりにバトルの用意をするしかなかった。

「まずは一体だけでやってみるぞ。おいメル、審判を頼む」

「えー」

「開始の合図言うだけくらいできるだろ」

バトルから逃れるように、メルはニドキングとかなり距離を取った場所でものぐさにこちらを見ている。

リーグを目指していると言うわりに、バトルにさして興味がなさそうな態度なのがときどきひっかかる。

だが、そんなことを気にしている場合でもなかった。

「俺はハクリューで行こう。お前は?」

「……スピアーで」

戦わざるを得ない状況になって、ようやくオーカは相棒を出す。

もしもオーカが戦っている間に眠ってしまっても、スピアーのビーすけならば自力でなんとかしてくれるに違いない。

『オーカ、大丈夫?』

「大丈夫だよ、ビーすけ……でもごめん、眠いから、迷惑かけるかも」

『しかたないよ。そのときは僕に任せて』

かっこつけるように、ビーすけは槍を上に掲げる。

それを見て、メルは透き通るような甘い声で緩く宣言をする。

「それじゃあ……始めて」

+++

メルの合図で、オーカは動き出す。

場にはハクリューとスピアー。その体格差は歴然であり、ただでさえ小さなオーカは余計に小さく見えてくる。

カケルからは動かなかった。

目的はバトルではなく、オーカの制御しきれないトキワの力を見ることだったからだ。カケルはハクリューに待機だけを命じて、オーカの動きを見つめる。

トキワの力の効果は概ね三種類。

一つは、ポケモンの意思を読みとること。

一つは、ポケモンの傷を治すこと。

一つは、ポケモンに同調しその能力を引き上げること。

どれもカケルにはまともにできないが、それがバトルで使われたならすぐにわかる。

興奮すると漏れてしまう、というオーカの談を聞くならば、バトルをしたなら手っとり早いと踏んだのだ。

「さあ、どこからでも来い」

オーカは、真剣なというよりはどことなく苛立ったような表情で、スピアーに指示を始める。

「ビーすけ、ヘドロばくだん!」

ハクリューのしっぽに叩き切られたヘドロばくだんは周囲を大きく汚し、その陰から驚異的な速さでスピアーが飛んでくる。

彼はそのハクリューの眼前へと飛び出してきたと思うとその赤い水晶の瞳を強く輝かせハクリューの目をくらませた。

思わずカケルまで腕で目を守ると、スピアーの槍がハクリューの眉間――ハクリューの急所――を狙って大きく振りかぶられたのを見て、カケルもようやく指示を出す。

「ハクリュー、たたきつける!」

バン! と弾丸のように黄色いものが地面へと打ちつけられる。ハクリューの頭突きに避けられる距離ではなかったせいで、手加減するように命じたはずだが強いダメージを与えてしまう。

カケルのバトルは、高火力が特徴だ。

技を撃つ回数はさほど多くないが、代わりに技を威力を最大限にまで引き上げられるように日々修行をしている。

こうして無人島であるスオウ島を好んで使うのもそのためだ。ただでさえ強く扱いの難しいドラゴンポケモンを育てるのに、町中では狭すぎるのだ。

だからできるだけ、攻撃もさせず避けさせながら様子を見ようと思っていたのに思わず反撃してしまった。これで倒してしまったら様子もなにもない――ただでさえ、虫ポケモンは体力も多くないと言うのに。

「!」

そんなカケルの心配を大きく裏切って、スピアーが弾丸のように飛び起きハクリューの喉元を刺す。

叩きつけられてついたはずの傷は一つもなく、さきほどよりも攻撃力やスピードが上がっていることにすぐに気がついた。

トレーナーの方を見ると、あの小さな麦わら帽子の子供は大きく息を荒らげて、余裕なさそうにスピアーをただ見つめている。その金髪はかすかに輝き、風もないのに揺れているように見える。

能力を使っているのだろう、無意識に。

予想通り、バトルによる高揚感で歯止めが効かなくなっているらしい。あんなに余裕がないのは、スピアーの能力を上げているせいだろうか。

「! ハクリュー、たつまきだ!」

指示なく放たれるミサイルばりに、カケルも応戦する。先ほどからスピアーは丁寧に急所を狙ってくるせいで油断ならない。

指示なくスピアーが動けるのはそれだけの訓練を重ねているのか、それともトキワの力の影響か。カケルは図りかねたがまったく影響がないとは言えなかった。

意図的に急所を狙うのは難しい。

それは技のコントロールだけの話ではない。全てのポケモンの急所をトレーナーが記憶し、それを指示する必要があるのは至極困難なことだ。

位置を指示などすれば相手のトレーナーに気付かれてしまう。もちろん、事前に教え込むことも直前にそこを狙うよう指示しておくことも可能だが、それだけでバトルができるほど予測可能なバトルなど存在しない。

それなのに的確に急所だけを狙うオーカのバトルを可能にするものは、なにか。

――トキワの力に他ならない。

カケルはその力の強さに戦慄する。

もしもカケルの推測が正しいなら、オーカの今までの戦いを全て否定しなければならなくなる。

力が制御できない、無意識のうちに漏れだしてしまう。その力を忌み嫌い不正だと言い切った彼女に、その事実を伝えるのはあまりにも辛い。

だが、バトルを続けるなら、直してやらなければ彼女はきっと。

「……っ?」

ふと、そこまで考えてフィールドに意識を戻すと強い違和感に襲われる。

スピアーの強さが途切れた。そのことにハクリューは戸惑い、スピアーはトレーナーに意識を向けながらなおも戦っている。

そんな違和感の中心である、オーカにもう一度目を向ける。

「ぅぅ……ひっぅ……」

「!?」

オーカは、泣いていた。

バトルは、依然カケルがいなしているばかりで進んでいない。

だからと言って泣く人間がいるだろうか。バトルに負けて泣く者はいるが、勝てなくてバトル中に泣くトレーナーがいるだろうか。

オーカがそんな甘ったれた神経をしているとはとても思えなかったが、その涙の真意がわからない。

オーカは酷く不機嫌そうに涙を流し、その量をどんどんと増やしていって、しまいには目を閉じてごしごしと手で拭い始めてしまう。

もはやバトルどころではなく、ハクリューたちに手を止めさせて近くに寄ったところで、爆発した。

「うわぁああぁぁあああぁぁぁぁぁあああん!!」

子供の甲高い悲鳴にも似た鳴き声は鍾乳洞の中を響き渡り、カケルもメルも耳を塞ぐ。

スピアーはそれをあやすようにオーカの周囲を飛び回るが、オーカは見向きもせずただ泣き叫ぶ。

「お、おい、どうしたんだっ? なにが気に入らなかったっ?」

優しく聞いてみても、届いているのかもわからない。

反響する泣き声にほとほと困り果てていると、その声が急に止まる。

「お、オーカ……?」

泣く声をやめ、一瞬ぼんやりと天井を見つめたかと思うと、その小さな体はぷっつりと力を抜かして後ろへと倒れていく。

ぎょっとしながらオーカの体を受け止めると、その顔は疲れ切ったような寝顔。

「…………な、なんだったんだ……?」

「……眠かった、とか?」

オーカが眠ったのをうけて、メルもついに近寄ってきてそう言う。

「昼寝させてって言ってたし」

「まさか。…………まさか……」

バトル前に、確かに昼寝させてほしいとは言われた。

だからと言って、眠いからと言って、泣くだろうか。たしかに見た目は八歳ほどだが、カケルとの年齢差を考えると彼女は十歳のはずだ。そんな大きな子供が、眠いからと言ってぐずるだろうか。

カケルの知っている子供は感情の起伏の薄いメルとぽやぽやしたその弟のアニーくらいだが、メルがほとんどぐずらなかったのは言うまでもなく、弟のアニーだって二歳になる頃には大分落ち着いてきていた。

「とりあえず、今は寝かせてあげたらいいんじゃないか」

「また泣かれるのは嫌だからな……」

大きくため息をついて、オーカの小さな体を床に置く。彼女のリュックを枕代わりにして、カケルのライダースーツを上からかける。

「まったく、飛んでもないもの連れて来やがって」

「仕方ないだろう。カケルさんじゃ役に立たないんだから」

「悪かったな」

「オーカにはちゃんと、力を使いこなしてもらわなきゃいけない」

オーカが眠ったことで、遠慮なく甘やかな声に似合わない本来の口調で話し出すメルにカケルは大きくまたため息をつく。

この自由すぎる小娘といい、眠くて泣き出す子供といい、どうして自分の周りには手の掛かる子供ばかりがいるのだろうと嘆きたくなった。

「それで、説教の方だが」

「その話まだ生きてたのか」

すっかり忘れていた、とメルが信じられないという顔をする。むしろどうして今まで説教されないと思っていたのかがカケルには不思議でならない。

「まずどうして勝手に家を出たんだ。おばさん半狂乱だったぞ」

「別に黙って出ていくつもりはなかったんだぞ。オーキド博士から話を通してもらおうと思ったけど留守だったから仕方なくそのまま出ていくしかなかったんだ。お母さんが素直に許してくれるわけがないだろう」

「だからって書き置きもなく出ていかなくてもいいだろう。俺のところにも何度も電話が入ってて何事かと思ったんだぞ」

「だって、書き置きなんかしたらすぐに連れて帰られるじゃないか」

ああ言えばこう言うメルに反省の色はない。

別に、カケルも彼女の目的を知っているから責めるつもりはないが、失踪するような消え方をしたらさすがに怒らざるを得ない。

ただでさえ、メルは誘拐だのなんだのと危険な目に遭いやすいから親の方も過保護にならざるを得ないのだ。カケルも修行の合間にあちこち回って探すのを手伝っていた。

まさか、メルの方から接触してくるとは思っていなかったが。

「言っておくが、おばさんはお前がどこにいるか知っていたし、俺と一緒にいることも教えたからな」

「な……っ、どういうことだ! 裏切り者!」

「うるさい、オーカが起きる」

ずるずるとオーカから遠ざけて、動揺を隠せないメルの口を塞ぐ。

普段全てがどうでもよさそうにしているのに、本当に母親にだけは勝てない娘だ。

「オーキド研究所の監視カメラにお前が映ってて、リーグに行ったんじゃないかって話になったんだと。そこで、ジムリーダーたちに話を通して、来たら連絡してくれって言ってたんだそうだ。お前みたいなのそうそういないからな」

「な、なんでお母さんがジムリーダーと知り合いなんだっ? なんでお母さんはわたしを連れ戻しに来ないんだっ? か、帰ったらなにさせられるだろうどうしよう、カケルさん助けて」

「自業自得だろう」

散々怖い目に遭っておきながら、一番怯えるのが母の叱責と言うあたりがどうしようもなく子供で、人形のような可愛らしさが人間らしくなる。

「無事にジムを巡っているなら、無理に連れて帰る必要もないと思ったんじゃないか?」

「お母さんがそんなことを思うのか……?」

「電話したとき、ちゃっかりお目付け役を頼まれたしな」

「結局は監視付きじゃないか!」

「うるせぇ、旅は続けられるんだから我慢しろ」

せっかく自由になれたのに、と悲鳴を上げるメルを叩いて黙らせる。

お目付け役がカケルくらいで済んだことを感謝してほしいくらいだ。下手をすれば自分がついていきそうな母親だということはメルもよく知っているのだから。

「とにかく、あと三つのジムは俺もついていく。それよりも先に、オーカの方をなんとかするぞ」

「はぁい……」

やや不満気に、メルが返事をする。

どちらにせよ、オーカがなんとかならないかぎりメルもスオウ島からは動けないのだ。

カケルは懇々と眠る小さなオーカに目を向ける。

起きたとき、どう告げたらいいのかを考えながら。

+++

ぱちん、と目が開いた。

その事実にオーカはついていけないまま、ぼんやりと目の前を見る。

岩がある。

ビーすけがいる。

あとはなにもない。

『オーカ、おはよう』

「…………」

声をかけてくるビーすけに返事もできないまま、されるがままに起こされる。

おはよう。

おはよう。

その言葉を反芻させて、ようやくオーカは自分が寝ていたのだと言うことを理解する。

意識が途切れる前に、なにをしていたのかが思い出せない。こういうことは稀にあった。ゴースを捕まえたときもそうだ。

こういうときは大抵、眠りに体を支配されたときなので、きっと今回もそうなのだろう。

「ビーすけ、ぼくなにしてたの?」

『バトルしてたの覚えてない?』

「んー……しようって話になったところまでは覚えてる」

覚めきらない目をこすりながら、ビーすけに眠る前の話を聞く。

カケルとバトルをして、トキワの力を見てみようという話になったのは覚えている。そのあと、実際にバトルをしたらしいが、もうそのあたりは記憶がない。

『オーカ、大泣きした後倒れちゃったんだよ』

「えっ!? なにそれ!!」

思わずぎゃあと声を上げてしまう。

眠かったのは覚えている。だが大泣きしたとはどういうことだ。言われてみれば目が痛い。

大泣きだなんて、ここ数年した覚えがないのだが。そんなことをカケルとメルの前でしたのか。

まったく身に覚えがないだけに恥ずかしさも倍増で、一体寝る前の状態がどんなものだったのか考えたくもない。

「か……カケルさんたちはどこに行ったの?」

まずは謝らなければ、と思いいたっても、オーカにかけられたライダースーツの主は見当たらない。あの臙脂色の髪の美少女もだ。

人もなにもないここで見落とすはずはなく、人気がないのはすぐにわかった。

『オーカが寝てるからご飯買いに行ったよ』

「えっ、今何時!? どのくらい寝てた!?」

『えーわかんないよー』

慌てて時計を引っ張り出すと、現在時刻は五時。

バトルをしようと言ったのが二時過ぎ頃のはずだから、三時間眠っていたのか。

「あああ、メルさんにどんな顔して会えばいいんだろう」

『気にされてないよきっと』

「うるさいビーすけ、人の気も知らないでっ」

出会ったばかりでこんな醜態を晒すなんて、これからしばらく一緒にいるのにどんな顔をしたらいいのかわからない。

「……ビーすけ、ごめんね。バトル、ちゃんとできなくて」

『大丈夫、僕はオーカのやり方ちゃんとわかってるから。それに、指示は聞こえてたよ?』

心配しないで、と言ってくれるのが申し訳なくなる。

眠気でバトル中に倒れるとは、このままではリーグもまともにできるのかわからない。つくづく、この力は自分の足しか引っ張らないと憎らしくなる。

「僕、ほんとにちゃんとできるかな……」

「あれ、起きてたのか」

静かな鍾乳洞に、低い男の声が響く。

その方向を見ると、どこかのスーパーの袋を持ったカケルとその後を着いて歩く手ぶらのメルがいた。買い物から帰ったらしい、その袋にはパンやらおにぎりやらが雑多に詰められている。

「お、おかえりなさい! あの、ごめんなさい、さっきは……」

「ああ、いい。大体見当はついた。さっきは寝かせてやらなくて悪かったな」

座れ、と指示されるままにもう一度座り、カケルがつけた火を三人で囲む。

どれがいい、と袋の中身を見せられて言われるままに好きなものを取る。晩ご飯にはまだ早いと思って、封までは開けない。

「お前は、寝るときどんな感じがする?」

「寝るとき……ですか?」

「そうだ」

唐突な質問に戸惑いながら、ただ答える。

「なんて……言うんでしょうね。ぶっつりと切れる直前なことが多いです」

「今回みたいにか」

「はい。本当は、バトルの前に眠れたら一時間くらいで起きれたんですけど、……酷いときは、本当に何かが断たれる感じです。大体、その前後って記憶がないことが多いんですけど」

その答えを聞いて、カケルが目を細める。

これがなんの意味なのかわからないまま、カケルがなにやら解説を始め出す。

「お前は、トキワの森の力の副作用を知っているか?」

「副作用……?」

「主に強い睡眠欲だ。心あたりはあるだろう」

オーカは昔からよく寝る子供だ。

毎日必ず昼寝をするし、夜も八時には寝てしまう。もっと小さな頃は、本当に一日の大半を睡眠に費やしていて、友達と遊ぶ時間も少なかった。

心あたりは、存分にある。

「大体は力を使った後に来る。それと別に、力があるせいで体に疲弊をもたらすのか、大抵の能力者は遅くまで起きていられない特性がある」

「カケルさんもですか?」

「いや……俺は、力を使った後くらいにしか影響はないな。だが他の能力者に話を聞いて回ってると、大体そんな話だった」

昔、トキワの森の能力について調べてまわったというカケルはその特性を語る。

「そしてその最終形態が、お前を襲う強烈な眠気だ。体が能力に耐えきれなくなり、意識がブラックアウトする。毎日そんな繰り返しをしているんだろう」

自分の眠気の正体は、トキワの力の副作用。

そう告げられると、酷く心が不安定になる。どれだけこの力は、自分のことを蝕んでいるのだろう。

毎日二回もブラックアウトに襲われる、自分の力はどれだけ使われ続けているんだろう。

「お前の力が制御できない原因は、おそらくポケモンとの繋がりすぎだ」

「つながりすぎ……」

「お前は、起きている間中、ずっとポケモンと繋がっているんだろう。その証拠に手を介さずにポケモンと話し、回復し、能力値を上げてみせる。そして、最終的に体力を失って睡魔に倒れる。……お前、いつも何時間寝てる」

「え、えっと……。夜八時から朝の八時までと、昼の二時から三時までだから……」

「きっかり五時間ずつしか起きてない。計十時間しか動いてない奴を見るのはお前が初めてだ」

通常、トキワの能力者は手でポケモンに触れて力を使う。それなのにオーカはその必要なく力を使い続けているのだ。

そのせいでオーカは力を使い果たし、必ず日中に睡眠を挟まなければならない。そういう原理らしかった。

「お前は手を介さずに能力が行使できてしまう。触れなくてもポケモンと話せるな、回復できるな、能力が上げられるな。はっきりと言うぞ、お前はその能力をバトル中フルで使っている可能性がある」

「……――――!?」

ぞっとするような可能性を、カケルは口にする。

「そうでなければ、急所だけを狙ってバトルするなんて不可能なんだ。どれだけ綿密に作戦を練って、ポケモンに急所を覚えさせたって、急所だけを的確に狙おうとするのは指示がなければ難しい。

だが、お前はバトル中どこを狙うか指示をほとんどしていない。これを可能にするにはどうしたらいいか。トキワの力によって強く結び付けられているお前とポケモンは、バトル中どう動きたいか、どう動いてほしいか、感覚でわかってしまうんじゃないか?

お前、どのくらいそのスタイルで行っている」

「僕は……ずっとこう……」

オーカのバトルは、急所を狙って最小限の傷で終わらせるスタイルだ。そのために、どうやって相手の動きを封じて、どこが急所かを覚えて、ポケモンたちと相談しながら今までやっていた――――と、思っていたのは、嘘だったのか。

回復も、能力を上げることも、少なくともバトル中意識して使ったことはないし、無意識に使ったこともないはずだった。

だけど、その二つを使わないだけじゃいけないのか。

ポケモンの声が聞こえてくると思う、ポケモンと心が繋がっていると思う、この感覚そのものが既に不正だったのか。

――今までの全てのバトルで、僕は不正をし続けていた?

考えたくない、最悪の想像に、オーカはぽろぽろと涙をこぼす。

どうしてこの力は、どこまでも自分を追いつめてくれるんだろう。

どうしてこの力が、僕のところにあるんだろう。

「こんな力、欲しくなかった……――――!!」

声を押し殺して泣くオーカに、カケルは優しく肩を抱く。

もうそれ以上能力について言及はせず、メルもじっと見つめているばかり。

オーカの泣き声ばかりが響く鍾乳洞。

隣で心配そうにするビーすけの声も届かないくらい、ただただ泣いた。

この力が、憎らしくてたまらなかった。なによりも不正を嫌って、それを直そうとずっと努力していたはずだったのに、オーカはずっと、ずっと、不正をし続けていたのだ。

そんな事実に気が付いて、涙が止まらなかった。

そんな事実に、気が付いてしまいたくなかった。