友への祈り

ドレスを脱ぎ捨てて、サツキ・マーマレディアは旅の身支度をする。

豊満な胸をブラトップに包み、ホットパンツを履いて筋肉質な足を惜しげもなく晒す。そんな下着同然の格好の上から申し訳程度に鎧を身に付けると、腰に剣と盾を下げた。髪には月神シーンの聖印、月を象った髪飾りが光る。

マーマレディア伯爵家の跡取り娘とも、シーンの聖職者とも思えぬ身軽な姿。見るものが見ればはしたないと罵られるかもしれない。しかし、ドレスよりも修道服よりも自分らしいと感じられる格好だった。

サツキの信奉する女神シーンは、争いを嫌い夜を司る、おおらかな神だ。時には娼婦に信仰されることもある愛する神がこうして自分を曝け出すサツキを嫌うはずはない。

サツキは今日、旅に出る。幼馴染のドワーフと、美貌のエルフと共に。幼馴染の修行に付き合うだけだが、それでも楽しみが勝る。貴族として振る舞わなくていいという、その解放感も素晴らしかった。

――せめて、カルミンにも一言言えたらよかったんだけどな。

シーン教会で仲良くなった、ナイトメアの少年を思い出す。いつからだろう、彼に会えなくなってしまって、ついに旅立つことを言えなかった。サツキが気にしていなくとも、忌み子として育った彼は貴族のサツキを避けたくなるのも仕方ないのだろう。

部屋に飾られた、女神シーンの小さな石像の前に跪く。毎日捧げていた祈りも、今日が最後だ。

「行って参ります、シーン様。どうか私に夜の安寧を。私の友の、……カルミンの、平和を等しくお守りください」

小さな頃、貴族と忌み子の境などなかった頃。サツキをサツキたらしめてくれていた彼を思う。

ああ、身分など夜に消え彼と再び出会えたなら。

そんな叶わぬ願いをしてしまう。振り払うように石像に背を向けて、サツキは荷物を掴んだ。