セキチクシティ 再び

メルのプリン、ぷぷりの記憶を見た後のメルは、ずっと切なくなにかに耽るような様子だった。

それをオーカにはどうすることもできず、ただ、セキチクジムへの挑戦に向けてバトルの調整をし、一夜。

オーカは再び、セキチクシティに立つ。

「わたしはグレンに行くって言ったのに」

「お前の面倒見ないとおばさんに怒られるんだよ」

「すみません、僕に付き合わせてしまって……」

飛行タイプを持たないオーカはカケルに送ってもらうしか手がなく、それについてこさせられたメルはどこか不機嫌そうだ。

その愛らしい顔が不機嫌に曇るのに、オーカは申し訳ないと思うばかりである。

「いいんだよ、ちゃんとここまでは面倒見るって決めてたんだから」

「ありがとうございます、カケルさん。本当になにからなにまで……」

「そういうことは、勝ってから言いな」

ドンと背中を突き飛ばされて、オーカは扉の目の前に来る。

ジム戦の見学は不可能ではない。だがカケルは来るつもりはないらしい。

ここから頼れるのは自分だけ。オーカは姿勢を正して、ゆっくりと扉を開ける。

中は広々とした空間があり、そして大量の、同じ服装をした人間がいた。

「よぉー、未来のチャンピオン! セキチクジムへようこそ!」

「おはようございます。予約していたオーカです」

「オーカちゃんねー。はい、大丈夫です。ここは、セキチクジム。みんながジムリーダーに変装しているんだ。きちんと見分けないとバトルになってしまうよ」

ジムには多くの仕掛けがある。

このジムでは変装を見抜くか、もしくは片端から勝負をするしかないらしい。上等だった。

「そして、もう一つ。この赤いスタートラインから、透明な壁によって迷路が作られているんだ。入り口はここだけだから安心してくれよ。でも、気をつけないとすぐに頭をぶつけるし、バトルも難しくなる。よく考えて進みたまえ」

変装とは別の仕掛けの説明に、オーカは少し苦い顔をした。ここまで面妖なジムもめずらしい。

ジムリーダーのアンズは忍者だというのは有名な話。だとすれば、さしずめ透明な忍者屋敷だとでも言うのだろうか。

「わかりました。……行きます」

スタートラインに立ち、オーカはそっと壁を探る。

透明なのに、たしかにすぐに右手が壁に触れた。それから少し歩いて逆の壁の位置も探る。オーカの足で三歩歩いたくらいだろうか、またそこに壁がある。

通路は大人が二人は余裕で通れるくらいだろうか。狭いが、バトルをすることはできる程度の幅だ。

そうして通路の幅を確認してから、やっとオーカは歩き出す。右手を壁に触れながら、ゆっくりと歩いていけばやがて曲がり角にさしかかる。

このフィールドの対策法を考えながら、ただひたすらに歩いているとようやく一人目に出会えた。

紫がかった暗い色の忍者のような衣装。

「あなたは……」

「よく来たな、わたしこそジムリーダーのアンズ――……ではなく!」

声をかけたとたん、大仰に女は服を脱ぎ捨て正体を現す。

十代後半ほどの若い女。ミニスカートがよく似合う。

「ミニスカートのサヤカ! さぁ、いざ尋常に勝負!」

「声をかけたら一発で勝負なんですね……。おいで、ディすけ!」

問答無用で繰り出されるドガースに、オーカもウインディを場に出す。

狭い通路にディすけはやや窮屈そうにしていて、少し申し訳なくなったが、この程度動かずにできないディすけでもない。

まずはこのフィールドでのバトルに慣れなければ。

+++

「ああ、負けたわ! あなたならアンズさんの相手になりそうね」

「ありがとうございます」

ミニスカートがさわやかにオーカの強さを讃えてくる。

こんなに小さいのに、という修飾語が非常に邪魔くさかったが、それを抗議するのは面倒だったのでやめる。

「この通路は右手と左手に分かれ道があるの。どちらか好きな方を選ぶといいわ」

「ジムリーダーも、こんな狭い通路にいるんですか?」

「いい質問ね、答えはノーよ。ジムリーダーのいるところだけは広間になっているわ」

つまり、通路にいるのは全て偽物。

それさえ知ってしまえばジムトレーナーとのバトルは避けられる――避ける気はないが。

ジムトレーナーとのバトルは、ジム側が挑戦者の力量を量るだけじゃなく、挑戦者側がジムの方針を読むこともできるのだ。

ジムトレーナーたちは、普段ジムリーダーにバトルの指導を受けている弟子たちだ。彼らに共通する癖やバトルの組み方は、そのままジムリーダーのバトルのスタイルに他ならない。

それを見てジムリーダーの対策を考えているオーカには、ジムトレーナーとのバトルを避ける理由はないのだ。

ジムトレーナーと戦うほど、ポケモンたちは疲弊していく。だからできるだけ避けたい者の方が多いだろう。

だがオーカには、そんな疲弊するほどのバトルをしないで済む自信があった。

能力を押さえられるようになった、今なら。

「検討を祈るわ」

「失礼します」

ミニスカートに礼をして、オーカは右手の通路を歩く。

しばらくして、数人とバトルをするごとにみんなそれぞれヒントをくれた。

一人は、床をよく見ると壁のあるところは白くなっていること。

一人は、ジムリーダーでさえ、壁の位置がわかっていてバトルをしているわけでもないこと。

有用なヒントを得て、オーカはジムの対策を考える。

透明な壁。普通なら見えるようにするんだろうか。

だがせっかくの透明な壁だ。見えるようにしてしまってはもったいない。

ポケモンと、それぞれの使える技を脳内で組み立てる。

使うなら――この構成かな。

ジムトレーナーと戦いながら、構成を微調整していく。やがて、何人目だろうか。

明らかに雰囲気の違う女と対峙する。

「よく来たな。わたしこそ、このセキチクジムのジムリーダー。アンズだ」

「挑戦者のオーキド・オーカです。よろしくおねがいします」

顔を隠していた布を取り、その顔を見せる。三十代後半ほどの女性。くの一めいた格好が、どうしてかよく似合っていた。

「それでは、ジムリーダーアンズ対挑戦者オーカの試合を開始します。使用ポケモンは三体。ポケモンの交代は挑戦者のみ認められます。内一体でも戦闘不能になった時点で終了です」

どこから現れたのか、審判がルールを宣言する。

――あそこが壁か。

オーカの位置。アンズの位置。審判の位置。その三点でこの部屋の大まかな大きさを把握する。バトルの技に巻き込まれないように位置を取る以上、それはどうしても部屋の壁に近くなる。

それを見れば、見えない壁などさっきの廊下より見えやすい。

オーカもアンズも、ボールを一つ手に取る。

ジムリーダーも挑戦者も、三体まで使用できる。しかしジムリーダーは交代しない。一匹だけでこちらを試す。

つまり、攻略すべきは一体だけ。

「はじめ!」

合図と共にポケモンを繰り出す。

アンズのポケモンはクロバット。対してオーカの先鋒はピカすけだ。

ジムトレーナーのポケモンから、いくつか候補は絞ってあった。しかし、まずは何が来るかわからないからと特攻隊長に任せたが、いい目が出た。

幸先はいい。

「ピカすけ、でんこうせっか!」

「クロバット、かげぶんしん!」

まずは一発、と突っ込むピカすけをクロバットは軽々と避ける。部屋いっぱいに分身を現し、ピカすけを取り囲んで惑わす。

対してピカすけは勢い余って透明な壁に激突していた。さすがに、日々この部屋でバトルし続けているポケモンじゃない。相手が壁にぶつかるようなへまはしなさそうだ。

「ちょうおんぱ!」

「くっ……」

多方向から来られると避けることもままならない。

ピカすけはまんまとちょうおんぱにハマり、直後にどくどくのキバの餌食となる。

「ピカすけ、そのままボルトチェンジ!」

離される前に、と指示をする。この近距離なら自分を攻撃しても巻き添えにすることができる。痛みにクロバットがピカすけを離した瞬間、ボールにピカすけが吸い込まれていく。

「おつかれピカすけ」

君のおかげで、あのクロバットの力量は測れた。

スピード特化のクロバット。透明な壁。

アンズの手法は、スピードによる攪乱と透明な壁による自爆の誘致。

どれも、想定通り。

ここで大切なのは、クロバットに追いつくスピードではない。それは敵の思うツボだ。

選ぶのは重量級。動かず、大きく攻撃のできるやつを。

「さぁ次はお前だ、フシすけ!」

ボールを高く上げれば二メートルの巨体、フシギバナが現れる。

それを取り囲む大量のクロバットの分身と合わせると、透明な部屋は飽和状態だ。

まずはこれをどうにかしていこうか。

「フシすけ、つるのムチ!」

「エアスラッシュ!」

そっと耳打ちしたあと、大量のつると、空気の刃が交錯する。分身を消しながらどんどんと切られていくつる。半分ほど消せたかと言うところで勢いが追い越され始めたので指示をやめた。

地面には、大量のつるの残骸。

目的はこの後――まだ、起こしはしない、伏線の方。

邪魔をされないためには、攻撃をどうにかして防がなければならないが。

「そのような攻撃では、このクロバットに当てることはできんが、さてどうするのかな?」

「ただ攻撃するだけでは芸がないですから――今は……」

「来ないならこちらから向かおう。クロバット、つばめがえし!」

重い打撃音と共にフシすけの痛がる声が上がる。

速いだけでなく攻撃力もそれなり――しかしカケルよりは怖くない。それが、ジムリーダーとしての加減のせいなのか、トレーナーとしての方針の違いなのかは読めないが。

「エアスラッシュ!」

「ひかりのかべ!」

フシすけの前に現れた透明な特殊壁。それがダメージを半減したおかげで弱点であるひこうタイプの技でも、今度は落ち着いて受けきることができる。

あとは、立てた方策が実際に使えるかどうかか。

数年前に見た、昔むかしのポケモンリーグの前座を思い出す。あれを応用できたなら、この勝負は勝ちだ。

「フシすけ、つるのムチを」

「その程度。エアカッターだ」

クロバットがエアカッターでつるを狩り、その勢いでさらにフシすけに攻撃しようとしたところで――なにかにぶつかり、戸惑う。

――勝利は見えた。

「どうした、クロバット?」

「フシすけ、交代だ。出てこいヤドすけ、トリックルーム!」

フシすけを下げ、姿を現すのはピンク色の巨体。シェルダーの冠を被ったヤドキング――ヤドすけが登場と共に、透明なバトルフィールドを特殊な部屋に閉じこめてしまう。

トリックルーム。素早いポケモンは遅くなり、鈍足なポケモンは速くなる。つまり、クロバットが遅くなり、ヤドすけが素早くなる。

そうなったところで、オーカは畳みかけていく。

「あまごい!」

雨を降らせた瞬間、床に落ちていた大量のつるを押し退けて、芽吹いたものが透明な部屋を縦横無尽に支配する。

つるのムチと同時に落としていた、やどりぎのタネが芽吹いたのだ。

それによりクロバットはやどりぎの枝葉に進路を遮られ、身動きが取れなくなる。それを切り取ろうとするよりも速く、オーカはヤドすけに指示をする。

「やどりぎに沿ってひかりのかべを展開。クロバットを包囲!」

ひかりのかべにより、クロバットは行動を制限され、どんどん透明な壁の隅に追いやられていく。

ここに来る前に、考えていた構築。

たとえ慣れていても、透明な壁というのは相手にとっても不利益な状況。そこをわざわざ見えるようにしてジムリーダーをさらに有利にする道理はない。

だからオーカは透明な壁を利用することにしたのだ。今回選出したのはフシすけとヤドすけという重量級。大きく動かない彼らにとって透明な壁なんて障害にならない。

特攻隊長のピカすけだけは犠牲にしてしまったのが申し訳ないが。

本来なら、素早いクロバットを追おうとする挑戦者を翻弄する型なのだろうが、この勝負、オーカに強くリーチがあったようだ。

「くっ、ひかりのかべに阻まれている……!?」

「やどりぎを切ろうとしたところで無駄ですよ。ひかりのかべは時間いっぱいまで展開されていますし……特殊攻撃の軽減は、僕たちの方から攻撃する分には効果は発揮されませんしね?」

クロバットの方から攻撃をしてもひかりのかべによってダメージは軽減されるが、オーカたちからのダメージは素通り。

さらに、クロバットはひかりのかべによって場所を制限されているうえに、得意の素早さは封印されてしまっている始末。

あとはきっちり落とすのみ。

「クロバットの急所は体の中心! 上方四○°狙い定めて――そう、そこだヤドすけ! パワージェム!」

ヤドすけの手のひらから、濃縮されたエネルギーによって作られた岩石が一挙に射出される。それは勢いを殺すことなく、吸い込まれるようにクロバットの体の中心にヒットする。

数弾当たったところでクロバットが飛行をやめるも、ひかりのかべによって大きく落下はしなかった。

ばちんっ! と音がして、ジムが、静まり返る。

「――クロバット、戦闘不能! 勝者、挑戦者オーカ!」

「よっし!」

拳を握る。

能力を押さえるために、バトルに集中できないようなことがなく。事前に組んだ方策がきっちりハマったこの爽快感。

もう大丈夫。もう大丈夫だ。

確信がいった。こんなに気持ちよくバトルをしたのは、いつぶりだろう。

勝利に笑ったのは、いつぶりだろう。

ヤドすけを見る。彼は相変わらず何を考えているのかわからない無表情をしているが、どこか満足げだった。

「おつかれヤドすけ。よくやってくれたね」

「ヤァン」

その大きな体に抱きついて、ヤドすけに礼をする。

事前の打ち合わせはなかったのだが、時々ずいぶんと賢いように思える彼の能力に賭けてみた。その結果の勝利なので、まったく感謝の限りである。

そういったところで、拍手が耳に届く。振り向けば、アンズが審判を連れてオーカのほど近くまで歩いてきていた。

「お見事だ。道中の話は色々聞いていたが……ここまで華麗に動きを封じられるとは思わなかった。噂通りの技術、流石でござる」

「ありがとうございます」

ジムリーダーからすれば、最上の賛辞。丁寧に礼をする。

「この仕掛けは、トレーナーの目を試すもの。それを利用してこちらの動きを封じるために“透明な壁”を作り上げる……良い作戦だ。これからも精進せよ」

「はい!」

差し出されたピンクバッジを受け取り、帽子につける。

もしも、オーカが能力の問題を克服しなければ、オーカはこのジムを攻略できなかっただろう。

オーカの見る力は、そんなに強くないのだ。相手の攻撃スタイルなどを分析する力はあっても、この透明な壁をどうにかしようとしていたら、おそらくは負けていた。

能力を押さえ込もうとして焦っていた頃とは、やりやすさも段違い。

「なにかに悩んでいるような話も聞いていたが、どうやらその心配もなさそうでござるな」

「えっ、なんで――……。はい、もう大丈夫です」

一瞬ぎょっとするも、落ち着いて返す。

タマムシで暴走しかけたのもあるし、それが伝わっているのかもしれない。

丁寧に礼をして、床に書かれた順路を通ってジムを出る。

晴れ上がった空が、オーカの心も映しているようだった。

+++

「短い間でしたが、本当にありがとうございました」

「いいよ。何度頭下げるんだ」

小さな麦わら帽子の女の子、オーカがさきほどからカケルに頭を下げ続けている。

それをメルはぼんやりと見届けていた。アニーのプリン――ぷぷりの話を聞けた以上、オーカにさほどの興味もない。

なので、記憶を読んでくれた礼にカケルを多少貸すことも、我慢できる。

「でもここでいいのか? グレンまで送るのに」

「いいんです。僕、空を飛べるポケモン持ってないので、これからヤマブキに戻るつもりですし。自分の旅なので、一人で行きます。ディすけに乗れば、わりと早く移動もできるので」

曰く、自転車で坂道を上りきる自信もないので海沿いを迂回して、シオンを経由してヤマブキまで戻ると。オーカの隣には黄金のウインディが鎮座している。

これからグレンまで行くつもりのメルとカケルとは、別れることになる。

カケルはせっかくだから、とメルに了解もなく誘おうとしていたが、一人で行く意志は堅いらしい。

彼女はウインディに跨って、再び一人の旅路に戻ろうとしていく。

「……そうか、気をつけろよ」

「ありがとうございます。カケルさん、メルさんも、お気をつけて」

「ん。がんばってね」

暑い太陽の下、ジム戦後にろくに休まず町を出ようとするのはメルには真似できない。小さな体なのに無理をする――と若干の尊敬を込めて送り出す。

すると、なにか言い忘れたのか、すぐにオーカが戻ってくる。

「メルさん!」

「なに?」

「たとえメルさんとリーグで当たっても、僕は遠慮しませんから!」

真正面から、熱くそう言われるとメルはきょとんとしてしまう。

そういえば、自分もリーグを目指していたか。そうしたら戦うことになるか。忘れていた。

「必ず、あなたにも勝ちます」

「……そう。がんばってね」

わたしのポケモンたちが、あなたに負けるかどうか知らないけど。

勝負ごとに対する意識の低いメルは、そう返すしかなく。

オーカは顔を真っ赤にして、それだけですっと大慌てでヤマブキへの道を走っていった。

「なんだったの?」

「お前に宣戦布告したところで、面白味もないのにな」

オーカを見送ったあと、カケルと共にセキチクの浜に移動する。長く足止めを食らったが、カケルがいるなら移動による時間ロスはしばらく考えなくても良さそうだった。

「しかし、一人で大丈夫かな、あいつ」

「心配?」

「そりゃあ。……あんなすぐに寝るんじゃ」

「多分、大丈夫だと思う」

オーカは小さいし、すぐに寝るし、心配性なカケルからしたら気にはなるだろう。

だが、代わりにポケモンの方が大人だから、おそらくは大丈夫だ。

同じようにポケモンに面倒を見られるメルは、そのあたりを心配していなかった。

なぜなら。

「だって、オーカのヤドキングすごく頭がいいもの」

「……そりゃあ、ヤドキングだからな?」

「あのヤドキング、喋るんだぞ」

「はぁ!?」

これは、オーカにも言っていない話だが。

昨日、ぷぷりの記憶を読んでもらった後オーカが数時間寝てしまい、カケルが晩ご飯の買い出しに行っている間メルが一人で留守番をしていた時。

手持ちぶさたにニドキングの体を洗っていたら、おもむろにヤドキングが出てきたのだ。

「…………」

「此度は大変感謝している。この者の悩みを暴いてくれてどうもありがとう」

「…………あなた、喋れるの?」

「我らはずっと話しているとも。人間には通じないだけで」

なんだろうと思っていたら、流暢に話し出すものだからぎょっとした。

ずっと話せるのに、オーカの前ではただのポケモンのフリをしていたのだろうか。

「こうして、力を否定せずに済んだのは、お主とあの男のおかげである」

「初めからわかっていたの?」

「私では気付かせることは難しかったのだ」

ヤドキングは、初めからオーカの心理に気付いていて、ずっと話さないでいたようだ。しかしどうして、今更になってメルに話しかけようと思ったのだろうか。

不思議に思っているうちに、ヤドキングは礼をして、また器用にボールへと戻ってしまった。

「って、ことがあってね」

「……また、面妖な」

カイリューの背に二人で乗って、セキチクを旅立つ準備に入る。

オーカと会うのは、もうリーグ以外ないだろう。ヤドキングはずっと話せることを秘匿していくのだろうか。

「話せるだけ賢いヤドキングがいるんだ。どうにでもしてくれるだろう」

「それは、確かに。……さて、ちゃんと捕まれよ」

「はーい」

オーカは、自分の旅に戻った。

ようやくメルも、自分の旅へと戻れそうだ。

――ポケモンリーグまで、あと一か月を切る。