ハナダの岬
「わぁ、ガーディだ!」
「約束通り、金のガーディ用意しといたで。連れていき」
金の毛並みを持つガーディを、オーカはめいっぱい抱きしめる。
昔、マサミが約束してくれた、「旅に出たら色違いのガーディをあげる」という言葉通り、今日のために探し出してくれたのだ。
ガーディは人なつこいのかぺろぺろと顔をなめてきてくすぐったい。あはは、と思わず声が漏れてしまう。
「人からもらったポケモンは育てにくいから気ぃつけるんやで、オーカ」
「大丈夫だよ、兄さん。僕の力、知ってるでしょう?」
言うと、マサミの表情が曇る。
「……なあ、オーカ。お前、まさかまだ……」
その言葉に返すことができなくて、オーカは苦しげに笑った。
+++
ハナダシティの北、川を跨ぐ大橋ゴールデンボールブリッジを渡った先に、ハナダの岬はある。ハナダの岬とは、川と海の混じりあう、夕焼けの綺麗な場所だと聞いたことがある。その風景は有名で、恋人たちの定番デートコースだとも。
カルミンと別れたあと、サツキはそこに向かっていた。
本当はわざわざ行く必要はないのだが、散々ハナダに遊びに来ていたのに一度も行ったことがなかったから、と旅に出たときから来るつもりだった。
それに、考えごとをするのにも、カルミンと別れたことは好都合だったかもしれない。
――本気のバトルができるように。
それが、サツキが旅の中で答えを見つけなければならない命題だった。
リーグでカルミンに勝ち、そしてオーカと戦う。
ポケモンリーグで誓った二つの約束。それを達成するためにも、直さなければならないものだった。
それまで、周りに言われてばかりで不本意だったものが、自覚してからはきちんと向き合う気になった。
もう逃げないと誓ったのだ。そのためには、やはり同行者はいらないのだ。
「でも、無意識のものって、直せるのかなあ……?」
自覚しながら、サツキは悩む。理由も原因もわかっている。だけど、バトルの最中はただ必死で、無我夢中で、そんなことに気付けない。
曰く、遊びのバトルや野生とのバトルではなにも問題がないらしいから、そっちで直すわけにもいかない。
カスミからは、ジムリーダーとのバトルも問題ないと言われた。
つまり。
破ることが目的であり、破られることが仕事のジムリーダーやジムトレーナーとのバトルは全力を出せている。遊びのバトルも、野生とのバトルも、気兼ねするものがないから大丈夫。
問題はどうしても、プライドのぶつかり合う本気のバトルだと言うことだった。
そんな風に戦える相手は、そうそういない。道中、バトルを挑まれて野良試合をすることもあったが、困ったことに全勝で、問題点を探すきっかけにもできなさそうだった。
リーグを目指す人間を見つけて戦った方がいいか。そんなに簡単に見つかるものだろうか。
うぅん、唸るサツキの前に岬の端が見えてくる。
「わぁ、綺麗な海……!」
思わずかけだして柵を掴む。
余計なものはなにもない、静かな地平線。ポケモンたちがのどかに泳いでいるのが見えて、サツキは混ざりたくなる。観光に来ただけだから、そんなに長居はできないとわかっていても。
「なんだか泳ぎたくなっちゃうね、メーちゃん」
いつも通り、好奇心を満たすために外に出していたメーちゃんに語りかける。水タイプの彼女も、海にときめきを覚えるのかいつも以上にテンションが高い。みゃーみゃーと鳴きながらジャンプして、その喜びを全身で伝えようとしてくる。
カルミンと一緒に、カラと別れて少し寂しそうにしていたがそんなものも吹き飛んでしまったようだ。
「でもまぁ、岬はこんなものかな……ハナダに戻ろっか」
「……じゃあ、兄さん、行ってくるね」
「おう、気ぃつけてな」
振り返った先、岬にぽつんと建った一軒家。
そこから小さな麦わら帽子の女の子が出てきた。
「オーカ……?」
「? え……っ、サツキさん!?」
「うん? オーカ、友達?」
ぎょっとした様子で立ちすくむオーカ。その後ろにはずいぶんと背の高い、サツキより幾分か年上の男性が立っている。
目つきは悪いが人なつこそうな雰囲気を持った、整った顔を持つ男性。紫のポロシャツにズボンと、服装はずぼらでもかっこよさは隠れない。
あまりに背が高いので、並ぶとオーカの小ささが際だっている。
「なんで、ここに!」
「あたしは、観光に……オーカ、そっちの人は?」
「あ、えと、その」
兄さんと言っていたから、身内だろうか。挙動不審になるオーカには、どうも説明は難しそうだった。
男性が、愛想のいい笑顔でサツキに話しかけてくる。
「君、オーカの友達なん?」
「あ、えーと……」
「俺はマサミ。オーカの従兄や」
君の名前は? と聞かれて、名を名乗る。
友達だとは言えなくて、でもライバルとも言いづらくて、名前しか名乗れなかった。
「女の人みたいな名前……」
「ちょっと、なんてこと言うんですか!」
「ひどいわー、気にしてんのにー。……なーんてなっ」
にこにことコガネ弁で話すマサミに、サツキはだんだん警戒心が薄れてくる。
つい、目つきでオーキド博士を思い出してしまって一瞬だけ怖かったのだが、そんなこともなさそうだった。顔つきはよく似てるが、オーキド博士とは似ても似つかない。
「いやー、オーカの友達とか久々に見たわー。君、ちょっと寄ってかん? おもしろいもん見せたるで」
「に、兄さん! 別にこの人は友達じゃないし! 見せなくっていいよ!」
「ええやん、友達だろうと友達じゃなかろうと。なんか急いでるとかあるん?」
「と、特には」
なんとも、気さくすぎる人なのかろくに知らないはずのサツキを家に招こうとする。それを引き留めるオーカが敬語を話していないことに、違和感と年相応さを感じた。そうか、オーカは身内には敬語で話さないのか。
自分に対しては厳しい態度ばかりとっていたオーカだから、別の一面が見られたのはいい偶然だったかもしれない。
「んじゃ寄っていき。どうせなら昼も食べてけばええわ。オーカももうちょっといるやろ?」
「え、あ、……サツキさん、いるんです?」
「オーカがいるなら……」
さすがのサツキも、初対面の人の家に二人きりは気が引ける。オーカは迷っているようだった。しきりにマサミとサツキを見比べて、難しそうな顔で考え込んでいる。
サツキとしては、オーカがどちらの選択をしようとかまわないのだが。オーカが身内に見せる素顔を、もう少し見てみたい気もした。
「……じゃあ、いる」
「んじゃ決まりやな。お入り」
「お、おじゃましまーす……」
おずおずとマサミのあとを着いていく。
初めて会った人の家に突然行くことになるのは、ものすごく気分が落ち着かない。今更ながら祖父の家にカルミンがいたときの気持ちを考えて、改めて申し訳なくなる。岬にある普通の家でこんなに居たたまれないのだから、あんな豪邸じゃもっと気分が苦しかっただろうに。
しかし、ふつうの家とはいえ、マサミの家は妙に広い。マサラは田舎らしい少し広めの家も多いが、それ以上にマサミの家は広い。
岬にぽつんと建った、やや大きめの家。少し別荘ぽいとサツキは思った。掃除は、少し行き届いていないらしく、普段使っていないんだろう方の廊下には埃が溜まってみえた。
「あの……マサミさん、お父さんとか、お母さんとかはいないんですか?」
それから気になったのは、人気のなさ。普通、子供なら両親と一緒に住んでいるはずで、それだったらこんなに簡単に人を招き入れることなんてできないはずで。マサミは男性らしさがあったが、それでも大人には見えなかったから親がいるはずであると、思うのだが。
あまり聞いてはいけないことだっただろうか。カルミンのようなことだったらどうしよう、と聞いてから不安になる。
だがマサミは気安く、
「おらんよ。ここは俺が買った家やからな」
「はえっ?」
「親父たちは別んとこに移ったん。せやから親から家買ったんやわ、もったいなくて」
「な、なにそれ……」
なにそれ。
言われた言葉に頭が追いつかない。なにそれ。
「マサミさん、何歳ですか?」
「十五歳やで」
「へ、へー……」
十五歳で、持ち家?
現実離れしすぎていて理解できない。親にもらったのではなく、買ったという言い回しが気にかかる。
サツキが頭を混乱させているうちに、ある一室の扉が開かれる。
「お入り。これが俺の自慢の、コレクションルームや」
「――――!?」
開かれた先には、何十匹かのポケモン。
コラッタ、ピッピ、ナゾノクサ、コイキング、トサキント、カモネギ…………。
なんの変哲もないはずの、ポケモンたち。
だがおかしい。
どれもこれも、色がおかしい。
「こ、こ、これは、ポケモンなの……!?」
思わず図鑑をかざしてみる。画面に映し出されるポケモンの姿は、サツキもよく知っている紫と白の毛のコラッタ。かわいらしいあのねずみだ。
だがどういうことだろう。目の前にいるコラッタは金色の光を放っているではないか。
「すごいでしょう、兄さんのポケモン。兄さんは色違いポケモンのコレクターなんです」
「いろちがい」
色違い。都市伝説的には知っている。普通の個体とは違う色のポケモンが存在すること。
それはアルビノみたいな病気ではなく、純粋な突然変異で現れる、不思議なポケモンだとテレビでやっていた。
でもまさか、実在するだなんて。
実在して、こんな少し広いだけの部屋に、何十匹も暮らしているだなんて。
「これ、全部マサミさんが捕まえたの?」
「うんにゃ、ほとんど知り合いの捕獲屋に売ってもらったもん。あとはトレードとか。俺バトル苦手やし」
ポケモンとは売ってもらうものなのか。
マサミが気軽に言った言葉が引っかかる。でも、バトルが苦手で捕まえるのが苦手な人は、そういった人たちに代わりにやってもらうものらしい。
サツキは両親にポケモンを与えてもらったから、そんなものかと納得する。
「俺が捕まえたんは、こいつだけ。おいで、ロコっち」
「……!!」
マサミがボールから呼びだした、一匹のキュウコン。
美しかった。
ただその一言しか言えなかった。
絹のようになめらかな毛並みは銀色の光を放ち、赤い眼は宝石のように世界を映しだしている。キュウコンは通常の個体でさえ金の毛並みを持つ美しいポケモンだ。
だがこれは、まるで幻影の世界でも見ているかのような気分になる。
「すごい……」
「こいつを見つけたときから、俺は色違いを集めることに決めたんや」
キュウコンを愛おしそうに撫でるマサミは、本当に可愛がっている様子だった。
コレクターというのは、もっとポケモンを物みたいに扱っているのかと思っていた。だがマサミのポケモンたちはどれも綺麗で美しく、丁寧に飼育されている。こんなポケモンとの関係もあるのだと、サツキは初めて知った。
「にしても、君が叔父さんから図鑑もらったっちゅー子やったん? なんや、オーカ。ちゃんと友達なんやないの」
「ちがう、違うってば」
「な、なんなの……」
開いた口が塞がらない状態のサツキを見て、満足げに笑っていたマサミが、図鑑を見てまた笑う。
「すごいやろ、俺の自慢のポケモンたちや。図鑑にもちゃんと記録されんねんで、色違いと普通の色のと見比べられるやろ?」
言われたとおり操作をしてみると、たしかに、普通の色のポケモンと色違いのポケモンが同時に表示される。こんな機能があったとは。色違いを見なければ出てこないのだから気付きようがないが。
「ほんとだ……。図鑑、詳しいんですね」
「そりゃあそうやわ。だって俺が作ったんだから」
「へっ!?」
意味のわからないことに、再三口が開く。
さっきからずっとこんな調子だった。
十五歳の少年が家を買い、色違いのポケモンを集め、ポケモン図鑑を作っただなんて、無茶苦茶だ。
「マサミさんは、……一体、何者なんですか!?」
「兄さん、ちゃんと教えてあげないと。ただでさえ意味分からないんだからサツキさん混乱してるよ」
「んー、あー」
マサミは面倒くさそうに唸る。
どこから言えばいいかな、と頭を書いてから、彼はつらつらと肩書きを並べ始めた。
「あー、ソネザキ・マサミ、十五歳。ポケモン預かりシステムの開発者ソネザキ・マサキの息子でオーキド博士の甥。趣味は色違いポケモンのコレクションで、株とかで適当にお金増やしながら片手間に色違いポケモンについての論文書いたりポケモン預かりシステムの管理もしてます、どうも」
「い、意味わかんない……」
ポケモン預かりシステムは、今や当たり前になったがそんな大体的なシステムを立ち上げた開発者が、マサミの親で。あのオーキド博士はマサミの母の弟で。
つまり、マサミは、いわゆるエリート家系の人らしい。
ぶっとびすぎていて、頭が追いついていかない。ほんとにいるんだ、こんな絵に描いたようなエリート。
「マサミ兄さんはすごいんですよ、十三歳のときにタマムシ大学に入って、一年で、主席で卒業しちゃうくらい頭がいいんです!」
「学校かったるかっただけやんなあ」
「え、あの、それでポケモン図鑑作ったって」
しかしまだ全容が見えない。それとどうポケモン図鑑作成が結びつくのか。
「ああ、叔父さん……博士は機械作ったりとかできひんから。始めは親父にヘルプ来てたんやけど、親父忙しゅうてなあ。そのくらいやったら俺でもできるやろーってやらされたんや。ブルーさんもおったんやけどな」
「ブルーさん?」
「んー。オーキド博士のお友達さん」
ポケモン図鑑の開発を、父親に任されるくらいの機械技師としての実力が、あると。
サツキの頭はパンクしそうだった。とにかく、すごくてすごくて、すごい人なのだ。
これでかっこよくて背が高くて気さくないい人だなんて、こんな完璧な人いていいのか。くらくらしてきた。
「あ、じゃあ、聞きたかったことがあるんですけど。前に、親密度の画面で青いバーが出たことがあるんです。あれって、なんですか?」
思い切って聞いてみる。
今、サツキの図鑑の親密度は全部ピンクだ。ミーちゃんは初めから端まで伸びていて、メーちゃんはゆっくりと伸びて画面真ん中ほどまできている。前に、青いバーが伸びていたように見えたピーちゃんのアイコンの隣には、ピンクのバーが小指の爪ほどだが出てきていた。
オーキド博士に連絡するのはどうしても怖くて、ずっと聞けていなかったのだ。
「ああ、あれはな。実は二種類あんねん。一つは、ピンク色の親密度バー。これは手持ちポケモンとの指数や。もう一つが、今サツキの言った青いバー」
「兄さん、僕それ見たことない……」
「あんまり見る機会は少ないやろな。これは野生のポケモンがどれだけ自分を信頼しているかを測る、信頼度バーなんや」
信頼度バー。保護した野生ポケモンがどれだけ自分のことを信頼しているかを測るもの。長ければ長いほど、捕まえやすさも高い。
あの日、大人たちから逃げていたとき、自分は攻撃しようとしなかったのは、サツキのことを信頼してくれていたからなのか。
そうなの、ピーちゃん?
ボールを覗きこんでもそっぽを向かれてしまって、いまいち本当なのかわからなかった。
「親密度は、ポケモンがトレーナーをどれだけ家族とか友達とか、そういった方面で好きでいてくれているかを見るもの。信頼度は、さっき言ったように野生のポケモンがどれだけ信頼してくれてるか、ってのもあるけど、家族としては好きやないけど、トレーナーとしては信頼してやってんでーってポケモンが思ってるときにも出るねんで。まあ、こっちはあまり出んやろうけど」
「それ、どうやって調べるんですか?」
聞くと、マサミはまたつらつらと話し出す。
ずっと気になっていたのだ。どんな仕組みでこんなものが調べられるのか。
曰く、図鑑には初代から手持ちを察知して記録する機能があるらしい。腰につけられるのは六個のボールだけだからだ。今のはそれを改良して、手持ちを察知するだけではなく、ボールに触れたときやボールから出したときの距離間を測って数値化するらしい。
一番正確に測るなら、図鑑の定位置にボールを接触させ、トレーナーとポケモンそれぞれの身体数値を診てしまった方がいいという。
「オーキド博士は、なんも説明してくれへんかったんやなあ。ちゃんと説明書まで作ったんに……まあいつも言葉足りんからなあの人」
「そんな機能あったんだ……」
「ちなみに、図鑑に指紋認証させると自分以外の人の記録されへんからやっておき」
言われたとおりやってみる。右下にサツキの文字が出た。ほう、と一気になだれ込んできた情報に一息ついたとき、部屋の片隅にあったパソコンからアラームが鳴った。
慌てて飛んでいくマサミを横目に、サツキはオーカに話しかける。
「マサミさん、すごい人だねえ……」
「そうでしょう、兄さんはすごく頭がいいんですよ。頭がいいだけじゃなくて物知りなんです。なんでも教えてくれるんですよ!」
従兄が褒められて嬉しいのか、オーカがうきうきした表情でマサミの自慢をしてくれる。
いつのときはなんだったと、語るオーカの表情は見たことのない笑顔で、これが普段自分に向けられたらなあと思う。
「オーカ、マサミさんのこと大好きだねえ」
「! ……えへへ」
胸がきゅんとする。
照れくさそうに笑う顔があまりにも可愛らしくて、マサミが羨ましくなる。いつも、少し不機嫌そうな怒った顔ばかりで可愛らしい顔立ちが台無しだと思っていた分、破壊力がすさまじい。
こんな風に笑うんだ。
この相手があたしだったらなあ。
サツキは、まだオーカの笑顔を向けられるだけの資格がない。まだ二人は友達でもない。ライバルにもなれない。でも知り合いだけじゃ収まらない、そんな言いづらい関係だ。
それがちゃんと、昇華したなら。
サツキがリーグで、きちんとオーカと戦えたなら。
オーカはサツキに笑ってくれるだろうか。こんな幼げな笑顔で。
「すまんオーカ、ちょっとコラッタ連れてあの部屋行ってくれん? 俺ちょっと準備しとるから」
「ポケモン交換? うん、わかった」
「なに? なにするの?」
パソコンになにやら打っていたマサミが急に振り返って、オーカに指示をする。慣れた二人の会話がサツキには理解できなくて、金のコラッタを抱き上げるオーカのあとを着いていく。
「多分、ポケモンの交換を申し込まれたんです。兄さんたちコレクターは、ポケモンの交換を繰り返して目当てのポケモンを引き当てるから」
「金のコラッタ、出していいの? もったいないよ」
「向こうから来るのも色違いのポケモンですから」
色違いのポケモンは入手が難しい。だから、普通のポケモンコレクター以上に人脈を使った交換が多いのだという。
「色違いコレクターの世界は狭いですから……。僕のガーディも、兄さんが他のコレクターから譲ってもらったものなんです」
「すごい……もらったの?」
ほら、と言われて差し出されたボールの中には、金色の毛並みを持ったガーディが入っている。通常のガーディはオレンジ色。紛れもない色違いのガーディだ。
今日はずいぶんと態度が軟化していると思えば、このガーディのおかげで機嫌がいいのかもしれない。きっと誰かに見せたくてしかたなかったのだろう。オーカは満足そうに笑っている。
「うわ、なにこの部屋」
「あ、触っちゃだめですからね」
辿りついた部屋は、異様な場所だった。特大のモニターがいくつも壁に貼られ、さらに少し小さなディスプレイが三つ、キーボードを囲うように立っている。その隣にはやたらに大きな鉄製のカプセルが二つ。古めかしい機械だが、サツキにはなにをするものなのかわからない。
腰のボールががたがたと揺れる。家に入る前にボールに戻したメーちゃんが、再び出せと暴れているのだ。こんな設備を見たら、好奇心旺盛なメーちゃんは我慢できないことだろう。だが出したらなにをするかわからない。こんなもの壊してしまったら最後どうなってしまうのか。恐ろしくてとてもメーちゃんを出すことはできなかった。
「やー、悪い悪い、こんなときに。オーカ、コラッタを左のカプセルに入れといて」
「ここ、なんの部屋なんですか?」
「預かりシステムの管理場。ここに入ったってのは内緒にしてな、企業秘密やねん」
バレたら親父にどやされるわー、と気軽に言うマサミのせいで、この部屋の重要度がいまいち通じてこない。しかし、こんなシステムの中心なんてとんでもないものを、マサミ一人が管理しているとは。
そんなところに気軽に入れてしまう、マサミの鷹揚さが心配になってしまうほどだ。
「全部、マサミさんがやってるんですか?」
「まさか、俺はカントーだけやわ。各地方に親父の仲間がおってな、そん人らがみんなで管理しとる。親父、忙しすぎて管理に手回んなくなったから俺に押しつけていきよるん」
父ができるときは父もやるが、今はもうほとんどマサミがやっているという。だから、好き勝手自宅で交換したり、ポケモンの世話をしたりできるように家を譲ってもらったんだという。
たった十五歳で、こんなに自立した生活をしているのはそんな特別すぎる親子関係のせいだったのだ。
「さて、準備できたしコラッタ向こう送ってー……」
「待って兄さん、右のカプセルになにか……」
「ぽちっと……え、オーカ!?」
オーカが右のカプセルに入った瞬間、マサミが送信ボタンを押してしまう。
カッ!! とカプセルが光ったと思うと収束して、カプセルの窓から見えていたオーカの姿が消えた。
送られてしまったのか? 向こう側に?
そもそも、右のカプセルは受信専用のはず。ポケモンセンターにある機械と同じ構造なら。
では、両方が埋まっているときに送信したら、どうなるのか?
「しまった……オーカ!」
「マサミさん、窓になにか!」
マサミが大急ぎでオーカの救出をしようとしたとき、窓の外から何者かが急襲をかけてきた。ガンガンとくちばしで窓の一点をつつき、獰猛な目をした鳥ポケモンだった。
「な、あの暴れ鳥なんでこんなときに……! サツキ、窓絶対開けさせんな!」
「えっ、えっ、どうすれば……!?」
重なる緊急事態にサツキは頭が働かない。そうこうしている間に、とうとう窓が破裂した。ガラスを被らないように背を向けているうちに、その鳥ポケモンはあっと言う間に去っていってしまう。
なにか、金に光るものをひっさげて。
「オーカ!」
「えっ!?」
去っていく鳥ポケモンの足下に吊されている金色のコラッタらしきなにか。
よく見れば麦わら帽子を被っているように見える。
いやまさか、そんな。
「にいさーん!」
「うそーッ!?」
「待ってろオーカ、すぐ助けるから!」
コラッタがオーカの声で鳴くのだ。
いやしゃべった。うそだ、こんなの。
ぎょっとするばかりのサツキを置いて、マサミが窓から飛び出していく。慌ててサツキも追うが、マサミも鳥ポケモンも速すぎて追いつけそうにない。
「頼む、ロコっち! オーカを助けてくれ!」
追いつけないのはマサミも同じ。
苦し紛れにマサミが出したのは、銀色の毛並みを持つキュウコンだった。
「かなしばりや!」
「ポケモンが速すぎて技があたらない……っ!」
マサミはバトルが苦手だと言った。その言葉通り、キュウコンは美しいばかりで技の練度も低そうだ。戦い慣れていないキュウコンは技の指示への対応も遅く、これではあのポケモンには太刀打ちできない。
「マサミさん、あのポケモンが止まるのを待ちましょう!」
「あかん、オニドリルは一日中飛び回れるくらいの体力があるんや、追ってるかぎりあいつはいつまでも飛んで行くで!」
「そんな、じゃあやっぱり止めるしかないの!?」
鳥ポケモン――オニドリルと言うらしい、そのポケモンはちらちらとこちらを見てはそわそわしている。
まるで、早く攻撃してこないかと誘っているように。
「サツキさん、こいつはバトルがしたいだけです! 兄さんじゃだめだ、サツキさん、戦って!」
「なんで、そんなこといえるの!?」
「戦って、早く、僕はただの人質です!」
オニドリルの不審な動作の理由をオーカが暴露する。とにかく戦えと、それだけがしたいのだと。
飲み込み切れないが、やるしかない。サツキはポケモンを出して臨戦態勢を取る。
どちらにせよ、マサミではなにもできない。
「行くよ、ピーちゃん! でんじは!」
「あかん、そんな技撃ったらオーカにあたるやろ!」
「じゃあどうすればいいの!」
とにかくオーカを取り戻さなければバトルだって思うようにできない。
それなのに止められて、サツキはすこしかちんときた。
「とにかくオーカに怪我させんで落とせればええねん。鳥ポケモンと戦うときは翼を狙うんや。下から撃ったらオーカにも当たってまう。飛べるポケモンは」
「ヒトデマンなら」
「ならそれでいけ」
言われたとおり、ミーちゃんを出す。その背中にピーちゃんを乗せて、一気に飛びあがってもらう。
主力は、相性もよく素早いピーちゃんで行く。ミーちゃんでもいいが、スピード戦になると遠距離型のミーちゃんには少し不利なのだ。
「ピーちゃんはオニドリルの上に乗って! ミーちゃんはオーカを連れ戻してきて!」
ミーちゃんはこうそくスピンの要領でくるくると手裏剣のように飛んでいくと、オニドリルの真上を通り過ぎていく。通り過ぎる頃にはピーちゃんはもう乗っていない。
戻ってくるミーちゃんがオニドリルの足を切りつけて、削ぎ取るようにオーカをオニドリルの足から切り離す。
「オーカ!」
「ピーちゃん、でんじは!」
落下してくるオーカをマサミがキャッチしたのを見計らって、サツキはオニドリルを初めて見た。でんじはで麻痺させられたにも関わらず、オニドリルは眼孔の鋭さをなくさない。むしろ楽しそうにも見える。
ずっとこうしたかったと言わんばかりに高らかに鳴いたかと思うと、オニドリルは急激に降下してきて、サツキの方に向かってきた。
サツキを攻撃するつもりは、ない。
「ピーちゃん、降りて!」
振り落とそうとしたのだ。それを逆手に取ってピーちゃんを手元に置く。
人質をなくして身軽になったオニドリルはようやく逃げるのをやめて、サツキの前に対面した。
ケ――――ン!!
またオニドリルが高らかに鳴いた。これは、きっと開戦の合図だ。
ぐるり、体を横に旋回させたかと思うと、オニドリルはこちらに向かってぎゅるんぎゅるんと音をたてながらつっこんでくる。サツキとピーちゃんがオニドリルに道を譲るように避けると、今度は翼を硬化させてラリアットでもするように落ちてくる。
まるで隙がない。麻痺しているはずなのに、こんなに機敏に動いてくるなんて、まるで痛みを感じないかのようだ。
「ユリカみたいなポケモンだな……」
思わずつぶやいてしまう。こんな、間を置かずに技を撃ち込んでくるバトルスタイルは幼なじみにそっくりだった。
そう、バトルに本気な、幼なじみにそっくりだった。
「行くよ、ピーちゃん。あたしは逃げない」
本気の相手に、本気のバトルができるように。
今こそ、それを意識するときだとサツキは悟った。バトルが好きなオニドリルに失礼のないバトルをしなければならない。
ピーちゃんは頷くと、オニドリルの戦意に震えないように四肢に力を入れた。
二人は臆病者同士。ここが分かれ目だと、悟ったのだ。
「ピーちゃん、十万ボルト!」
今度はこちらから挑んでいく。ピーちゃんの放つ雷の弓がオニドリルの腕を貫く。翼を狙え、マサミが言った言葉の通りに。
痛みに耐えるようにまたオニドリルが高らかに鳴いて、痛みの怒りをぶつけるようにつっこんできた。
「向かえ撃つよ、アイアンテール!」
オニドリルを引きつけて、その長く鋭いくちばしに向かってしっぽを叩きつける。
キィン! と金属板を叩いたような音がして、とうとうオニドリルが落下する。地に落ちたオニドリルは、まだ戦意を失っていない。苦しそうに、でも楽しそうに、立ち上がって戦おうとしている。
本当に、戦うのが好きなのだ。このオニドリルは。
まるでバトルのあるべき姿を見せられているような気持ちで、サツキは胸が熱くなる。
本当のバトルは、勝つとか負けるとかに付随する感情なんて、どうでもいいのかもしれない。
「君は、本当にバトルが好きなんだね」
そんなオニドリルの熱意が、ほしいと思った。
こうあるために、影響されたいと願った。リーグに行く、誓いを守るために。
サツキは空のボールを取り出す。
「それならあたしが、もっと高みに連れていってあげる。一緒に行こう、オニドリル!」
大きく振りかぶって、ボールをオニドリルの額に当てる。
ぱんっ、とモンスターボールに吸い込まれたオニドリルは、ばたばたと中で暴れる。ぐらぐらぐらぐら、ボールが揺れるのをサツキは祈るように見守っていた。
一緒に行こう、リーグへ。もっとたくさんのバトルをしよう。
そうして君の楽しさに、あたしも巻き込んでほしい。
きっと、このオニドリルはサツキの迷いなど無視してくれるから。そしたらオニドリルについていくために、サツキはきっと夢中になれる。
そうしているうちに、サツキはきっと取り戻せる。そう信じた。
点滅していた、開閉ボタンが落ち着く。
中で、疲れきったオニドリルがぐったりとしている。
「……やった……オニドリル、ゲット!」
わあっ、とピーちゃんと抱き合って喜んだ。
四体目のポケモン。新しい仲間。
新しい兆し。オニドリルを捕まえたのだ。
「サツキ! ……捕まえてもうたん!?」
「そのオニドリル……連れていくんですか?」
「もっちろん! ……にしてもオーカ、なにそのカッコ?」
バトルが終わって駆け寄ってくるマサミたちが、サツキの行動にぎょっとした顔を見せる。
しかし驚きたいのはサツキの方だ。どさくさで驚く暇もなかったが、オーカの姿が金のコラッタになってしまっているではないか。
顔と麦わら帽子はそのままに、体が金のコラッタそのものになっている。いつもはない出っ歯もついている。なんて不出来なコラのようだろう、サツキはずっとつっこみたかったのだ。
言われたオーカは気分の悪そうにそっぽを向いてしまう。いつものオーカに戻ってしまって、少し寂しい。
「あー、まあ、これは後で説明するわ。はよ家もどろ」
いろいろとありすぎて疲れたと、マサミが大きくため息をついた。
+++
「いやー、正直助かったわサツキちゃん。あの暴れ鳥、しょっちゅうこの辺で喧嘩売りまくってて迷惑してたんやわ」
「そうだったんですか」
ガラスが破られめちゃくちゃだった家を片づけ、コラッタと融合したオーカを戻し、ようやくありつけた昼食。
あれだけいろいろなことがあったが、きっかり十二時に昼ご飯が食べられて予定は大きく変わらなさそうだった。ありがたい。
結局、あの謎のポケモンとの融合は開発初期からあるバグらしかった。人の入れる大きなカプセルである初号機くらいでしか起きないらしい。送信側と受信側、両方が埋まってしまうと、何故か融合してしまうバグ。開発者のマサキも、かつてなったことがあるとマサミは言った。
今はオーカも元に戻り、コラッタも相手方に送られた。こちらに来たのは桃色のミニリューだった。
マサミは疲れ切ったように、オニドリルのことを話す。
「そ。もー、片っ端から喧嘩売って荒らすし、俺をトレーナーだと思ってしょっちゅう襲ってくるし、困ってたんや。連れてってくれるならありがたいわ……けど、かなり扱いは難しいと思うで?」
「大丈夫です。扱いが難しいポケモンならもう一匹いるし……ねー、ピーちゃん?」
話を振ったピーちゃんはこちらを睨むだけで食事の手は止めない。だいぶ言うことを聞いたり、意志の疎通はしてくれるようになったが、サツキを睨んだりするのはやめてくれない。
最近わかったのは、ピーちゃんはかなりいじっぱりの強がりで、ああしないときっと生きていけないということだ。
「ん、まあ、そう言うならいいんやけど。オーカ、体調とかは平気?」
「うん。大丈夫」
「そういえばオーカ、なんでオーちゃんがバトルしたいだけなんてわかったの?」
オーちゃん。オニドリルのことだ。
今はバトルで疲れたのか大人しくご飯を食べている。
回復させたあと、ボールから出すのを恐々としていたのを横から奪い取って取り出したのはオーカだった。
オーカの言うとおり、本当にバトルがしたかっただけで、満足するバトルのできたオニドリルは普通に言うことを聞いてくれた。
血の気が盛んなだけで、割合いい子らしいと、どうしてオーカは見抜けたのだろう。オーカは不機嫌な顔で、「内緒です」と答えた限り教えてはくれなかった。
「サツキちゃん、これやるわ」
「えっ、これ、月の石……!?」
「オーカを助けてくれたお礼」
食後、マサミがぽんと投げてよこした石。よく見ると月の石でサツキはぎょっとする。
月の石は特殊な石で、ポケモンを進化させるのに必要な道具だ。
似たものに水の石や炎の石、リーフの石なんかもあるが、これはもっと稀少な石で、デパードで買える水の石なんかよりずっと高いのだ。
「こ、こんなの貰えません!」
「ほんとは水の石あげれたらよかったんやけどなー。今切らしてんねん。ついでに金の玉も持ってく?」
当たり前のように次々引き出しから出される高級品にサツキは目が回る。
曰く、トレード相手から送られてきて溜まっていくらしい。トレーナーではないマサミでは機会もなく、いらないのでしまいこんでしまうのだという。
「こ、これだけでいいです……」
「そう? もっとバトルに役立つもんいっぱいあるで?」
「いい、いいです!」
ひいいと悲鳴でも上げそうなサツキの様子に、マサミはようやく物を与えるのを諦めた。
こっそりオーカが、マサミの悪い癖なのだと教えてくれて諫めてくれたのも助かった。
「んじゃ、次はクチバやっけ? 今から出れば夜までにはつけると思うわ。気ぃつけて行ってな」
「はい、ありがとうございました、マサミさん」
「行ってくるね、兄さん」
玄関から送り出してくれるマサミに挨拶して、サツキとオーカは共に立つ。
出る直前、やたら昼寝していかなくていいのかとオーカが聞かれていたが、その理由をオーカに聞くのは最後までできなかった。
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幼い従妹と、その友人が旅だったのを見送って、マサミはまた部屋に戻る。
最低限の物と機械しかない家にはポケモンの声しか響かず、寂しくはないが侘びしくなる。わいわいしたのは好きなのに、マサミの生活ではそういったことができない。
だから少女たちがいた二時間は本当に楽しかった。トラブルもあって疲れもしたが。
オーカの教えてくれた、サツキという少女。
活発そうな女の子だった。そのわりにはどこかゆったりとしていて、オーカの言う気持ち悪いがなんとなく理解できた。しかし、オーカの嫌悪するほどバトルが悪かったかと思うと、そうでもなかったなあとマサミは思う。
マサミはバトルはできないが、見る目くらいはある方だ。だからサツキが妙なバトルをすれば、すぐに見抜ける自信があった。野生相手のバトルだったから、とオーカは辛辣なコメントを寄せていたが、マサミは違うと思っていた。
多分、彼女は変わろうとしているのではないかと。
以前のサツキを知らないから、断言はできないが。たしかに芯の弱そうなところがありそうだったサツキに、バトルへの決意だけは見えた気がしたのだ。
そうすると、マサミはオーカの方が問題だと思ってしまう。
誰かに頼れないからこそ、オーカの問題は単調ながら難しいと。
「あの二人。どうなるんやろうなあ」
呟いた瞬間、マサミのポケギアが鳴る。
画面には『ベリル』とだけ表示され、ピピピピピと耳障りな音を立てていた。
「もしもし?」
『あ、マサミ? わたし、ベリルだけど』
出れば、不遜な態度の子供の声。
甲高い幼女の声が、マサミの耳を貫く。電話の背景はやけに騒がしく、しかもマサミの国ではない声がする。
「今、どこいるん? 外国語聞こえる」
『イッシュ』
「九歳児が行くとこかい、それ」
『しかたないでしょ、仕事なんだから』
電話の主、ベリルはまだ九歳の女の子だ。
だがマサミは彼女がどれだけ強いかを知っている。
ベリルはマサミが贔屓している捕獲屋だ。まだ歴は浅いが仕事が確実で、捕獲だけでなく基礎的なしつけや体調管理までしっかりやってから依頼主に引き渡す、かなり丁寧な仕事をしてくれる捕獲屋なのだ。その分、額はかなり高いが。
だがマサミがベリルを利用するのは、別にそんなサービスのためではない。
彼女には他の捕獲屋にない特徴があるのだ。
「で、電話してきたってことは、色違いポケモンが手にはいったん?」
『入ったけど、別の依頼主が指定してたポケモンだったから引き渡しちゃったわよ。あんたには別の用事』
「なんやー、つまらん」
彼女は、色違いポケモンに遭遇しやすいという不思議な能力があった。
ベリルに仕事を頼んだ三ヶ月で、既に三体のポケモンが送られてきている。マサミはいくつもの捕獲屋に色違いが手に入ったら譲ってくれと頼んでいるが、こんなスピードは異例だった。普通なら一年どころか五年音沙汰なくてもおかしくないのだ。
しかし今日はその連絡ではないらしい。
『でも色違いの話よ。ディグダの穴ってあるでしょ』
「ああ……クチバとニビの通路?」
『そう。そこのボスが色違いのダグトリオなんですって。わたしは行けないけど、あんた行ってみたら?』
「俺にバトルしろと? 無茶言うない」
『知らないわよ、捕獲屋雇うなりなんとかして。情報料は取らないであげるから』
それだけ。と言ってベリルは遠慮なく通話を切ってしまう。
マサミは途方に暮れるしかない。まともなバトルもできないのに、群れのボスと戦えなど無茶でしかない。
「……どうしようなあ、キュウコン」
幼なじみの銀のキュウコンに語りかけてみても、同じように困った顔をするばかりだった。