きっとあなたに巡り会う
彼女のことはよく見ていた。
回数は多くない。時々、パーティーで見ることができる、とても綺麗な女の子。
焦げ茶色のストレートロングの髪。ぴんと伸びた背すじ。抜けるような白い肌に優しげにたれた細い目。
ダンスが始まるといつも壁の花を決め込んでいて、よく男子に誘われている。けれど彼女が誘いを受け入れたのを見たことはなかった。
彼女のことをいつも見ていた。
見ながら、美しさの中に強さのある人なのだろうと感じていた。
そんな彼女に憧れと――そして、恋心に似た焦がれを、サツキはずっと抱いていた。
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タマムシシティのユリカ。所謂、貴族に近い彼女のことを知らない人間は少ない。
多彩な武道を極め、今年のポケモンリーグでは4位に食い込む実力者。
そんな武道派であることを感じさせない、たおやかな立ち振舞い。
サツキは彼女と少しでも近付いてみたいと思いながら――ずっと、できないでいる。
立場が、違いすぎるのだ。
せいぜいハナダの大地主の孫でしかないサツキは貴族であるユリカよりずっと立場が下だ。
きっと、サツキの存在など気付いてもいないだろう。何度も会っているのに。
その方が都合もいいが。
こんなに熱っぽい視線を向けているだなんて、彼女に知られたくはなかったから。
そう、思い続けていた。
「…………?」
それを覆そうと思ったのは、クリスマスパーティーでのユリカの様子がどこか違和感があったからだ。
いつものように背すじをぴんと伸ばして、美しく立つユリカ。気丈で揺らがないその美しさが、どうしてかいつもより希薄に思えたのだ。
だからだろう。
ベランダへと行く彼女を追いかけてしまったのは。
「…………」
「…………」
二人、見つめ合う。
ユリカの目が、サツキを映す。
冬のベランダだと言うのに、ぐんぐんと上がっていく体温をどうやって誤魔化したらいいだろうかと、思った。
「……あなたは…………」
「あ、あたし、サツキって言います」
「そう、わたしは――」
「知ってる――――ユリカ」
初めてその名を口にした。
その響きの甘美さにサツキの中でどろりと憧れがかき混ぜられる。
それを表に出さないように、言葉を続けた。
「気分でも、悪いんですか?」
「えっ?」
「顔色が、いつもより悪いように見えたから」
いつも抜けるような白い肌に張りがない。
美しく余裕を持った表情が若干の落ち込みを見せているように思える。
本当に、本当に微細な差だ。
ユリカは指摘に驚いたように、声を漏らして口を押さえる。
「どうして…………」
「なにか、力になれませんか。落ち込んでるように、見えて」
「落ち込んでる?」
指摘に、ユリカは首を傾げる。
的外れだっただろうか。そう思った矢先に、ユリカが若干不安そうな色を滲ませる。
「……どうして……そう、思うの?」
その言葉に、サツキは返事を窮した。
言ってしまっていいのか悩んだ。告白にしかならないから。
どくん、どくん。心臓が鳴っていくのにサツキは焦る。
どうか、どうか、引かないで。あなたの近くにいたいから。
祈るように、告白する。
「あなたをずっと、見てたから――――……」
言ってしまった。
思わず彼女の手を取ってしまって、後戻りはできない。
ユリカはサツキの目をじっと見つめる。けして逸らすことのできない圧力に冷や汗が背を滑った。
返事に、手が握り返される。
「……少し、一緒にいてくれない?」
甘えるような色の声に、リン、と胸が鳴る。
震える声を自覚しながら、ただ一択の言葉を返す。
「――――喜んで」