誕生日、ガレージにて
寒い冬のガレージで、カケルはバイクの手入れをする。電気ストーブとカイロで誤魔化してはいるが、それでも寒い。しかし、大切なバイクのためなら我慢できた。
ネイキッド型の愛車は中古だが、それでももう五年乗ってきたかけがえのない相棒だ。こいつでカントーのあらゆるところを回ってきた。ポケモンを持っていながらこうしてバイクに乗るカケルは往々にして変人扱いされたが、ポケモンで走るのとは全く別の快感があってカケルは好きだった。
「こんなところに居たのか」
「ああ親父、おかえり」
バイクの手入れもほとんどが終わった頃、父がやってきた。ダサいマントを身にまとって、今日もチャンピオンの仕事をしてきたようだ。
「誕生日おめでとう。寒いだろう、早く中に入ったらどうだ」
「ありがとう。あとちょっとで戻る」
「お前は本当にそれが好きだな」
父は呆れたように言うが、それでも家には戻らない。
こうして父とガレージにいると、十五歳の時のクリスマスを思い出す。ちょうどこんな時間にガレージへ連れてこられて、このバイクを見せられた。あの反抗期から五年が経った。今や懐かしいが、まだ恥ずかしい記憶でもあった。
「今年のプレゼントは何がいい。ツアラーだったか?」
「いいよ自分で買うから……二十歳だぜ、俺」
成人年齢を迎えたカケルは、十二分に体も大きくなった。もう子供とは言えない年齢なのに、父は律儀にプレゼントを聞いてくる。恥ずかしいからやめてくれとは、言えないままでいる。
大型免許は実費で取ったが、新しい大型バイクのツアラーを買うだけの貯金があと少し足りない。だがそれを親に頼るのは、十五歳のクリスマスを思い出してしまって嫌だった。もう少し自立したいのだ。
父はその返事に少し残念そうにしながら、カケルの作業が終わるのを待っていた。仕方ないから早めに切り上げて立ち上がる。続きはまた明日にしよう。
「あー腹減った、中入ろ」
「終わったか。今日は寿司だったぞ」
「やった」
誕生日のご馳走に浮かれながら家に入る。父から生まれ年の酒をプレゼントされることは、カケルはまだ知らない。