ポケモンリーグ 予選

ポケモンリーグ。それは一年に一度の祭典。

かつて四年に一度行われていたそれは、四天王の設定によって開催回数を増やすようになった。ポケモンリーグが終わった後、優勝者と四天王、そしてチャンピオンたちによるチャンピオンリーグが開催される。

チャンピオンリーグへの挑戦権は優勝してから五年間。五回だけ、挑戦することが許される。

ポケモンリーグは、入り口。

ここに集う者たちは、その挑戦権を得るために戦う。

最強の座が欲しい者。優勝金が欲しい者。ポケモンリーグに大志を賭ける者。目的は様々な中で、最もポケモンバトルとリーグに真摯であった者が勝つ。

ここはそういう場所だった。

そして、サツキは。

『勝者、サツキ――――! 本戦への切符を手にしたのは、サツキだ――――!!』

ただ、限界まで勝利を追い求めるためにここにいた。

予選への挑戦資格に制限はない。カントー地方の各地から、気まぐれに、戯れに参加した者から本気で頂点を取ろうと言う者まで様々な人間が予選に参加する。

そのため、予選は三日間かけて行われていた。今日はその最終日。全十六のトーナメントに振り分けられ、それぞれで優勝した者が本戦へと進む。

今回予選シード権を持っているのは三人。つまり、合計十九人が優勝を争って本戦に参加することになる。

サツキはたった今、その本戦への参加資格を手に入れた。ここまでは予定通り。あとは、オーカと決勝まで出会わない運と、決勝までに負けない技術が必要だった。

「……ふぅ」

「おつかれさまです」

「! オーカ」

「来ましたね」

予選トーナメントも終了し、リングを降りた先でオーカが待っていた。小さな体で大きな存在感を放つ彼女は、その大きなつり目できちんとサツキを見ていてくれたらしい。

それが嬉しくて笑顔になる。どうやら彼女のお眼鏡に適うバトルが出来たようだ。彼女の表情にかつてあったような侮蔑はなかった。

「予選からだとは思いませんでした。この程度で負けるとは思っていませんでしたが」

「パパに勝てなかったの。でもちょうどいいんじゃない? 君と戦うなら、これくらい出来なきゃ」

「当然です」

オーカは予選シード組だ。優秀な彼女に相対するなら、これくらいの誠意は見せたかった。

――人を馬鹿にした戦い方をする。

かつてオーカに言われた言葉を忘れたことはない。それを払拭し、オーカと戦うだけの条件を整えたと見せるならば、予選を容易に勝ち抜くくらいのことをしなければならなかった。

オーカの射抜くような深緑の目を、誤魔化すようなことはしたくなかったのだ。

「あなたと明後日に会えるのを楽しみにしています」

「うん、あたしも」

誠実な彼女に、誠実な姿を見せる。

これがこのリーグに来た第一の目的だ。

「じゃあ、僕はこれで……」

「いたいた、サツキ!」

「!」

「あ、カルミン!」

「予選突破おめでとー!」

オーカが立ち去ろうとした時、人混みをかき分けてカルミンが話しかけてくる。蜂蜜色の髪に赤いジャケットの彼はこの人混みでも色あせないでいた。

景気よくハイタッチをしたあと、カルミンは一緒にいたオーカに目を向けて、そして。

「あ、オーキド博士の娘さん!」

「あの時の変な人!?」

二人一緒に声を上げる。

知り合いだったことに驚いたが、以前カルミンはオーキド博士を訪ねたことがあると言っていたから、その時だろうか。

オーカがあからさまに引いた顔をして距離を取ったのに、なにがあったのかは何となく察しがついた。

「サツキさん、知り合いですか……?」

「あはは……友達のカルミンだよ。大丈夫、悪い子じゃないから……」

「どういう意味だよ」

「そういう意味だよ。この子はオーカ。ほら……前に話した」

「……ああ、リーグで戦いたいっていう。……よろしく、オーカ」

「……よろしくお願いします」

カルミンが求めた握手に、オーカはお辞儀で返す。きっと睨み上げたその表情からは、はっきりと敵と認識しているのがわかった。ここにいるからには、彼もライバル。オーカがそう示したのに、カルミンもまた表情を引き締めた。

「なあ知ってるかサツキ。ポケモンリーグにあるジンクス」

「え?」

「ポケモンリーグの優勝者は、マサラタウンの出身者というあれですね」

「そうだ、数少ない例外を除いて、歴代優勝者はマサラタウン出身だ。レッドさんをはじめとしてな」

唐突にカルミンの言うジンクスに、オーカが続く。サツキだけがぽかんとして――そして、言わんとしていることに気付く。

優勝するのは、この中の誰か。

「マサラとは白。汚れなき白。世界で一番ポケモンが汚されていない場所だからこそ、そこで育ったトレーナーはポケモンとの結びつきが強いのだと……そんな言い伝えがあるんです」

「詳しいな」

「僕はマサラタウンのトレーナーですから」

カルミンのポケモン蘊蓄についてくるとは。関心したあとに知らないサツキがおかしいような気持ちになってくる。

ずっとマサラに住んでたのに、知らなかったそんな話。半分ハナダの人間だからだろうか。

「二人とも、よく知ってるねそんなこと……」

「サツキが知らなすぎるんだよ」

「そうですよ、もう少しポケモンに関する知識をつけるべきです。大体、ジムの仕組みさえあなたは――――……」

「た、助けてっ!!」

オーカの言葉を遮って、赤く小さなものが飛び込んでくる。サツキの後ろに隠れ、オーカとカルミンを盾にするように回り込むそれ。

ぎょっとして振り返ると、臙脂色の髪に大きく丸い銀の目の美少女。走ったからか頬が紅潮し、愛らしくも警戒した様子の彼女――メルは、サツキと目が合うと、しー、と黙るようにジェスチャーをしてきた。

「メルー、どこに行ったのー!?」

「……誰か、呼んでるよ」

「普通にしてて。見つかるでしょ」

メルの名を呼んでいるのは、三十代ほどの美女。焦げ茶の癖毛がどことなくメルに似ている。スタイルのいい体を黒のシンプルな服が強調していた。母親だろうか。

オーカとカルミンは驚きで声も出せないらしく、ぽかんとしている。サツキはというと、メルにくっつかれているという緊張で体が全身こわばっていた。

そうして全員が静かに身を固めていると、メルを探していた女性はサツキたちの周りをきょろきょろと見回したあと別の場所へと去っていく。それを見届けたメルが、ゆっくりとサツキの背後から出てきた。

「ありがとう、助かったわ」

「ど、どういたしまして……。なにかあったの?」

「まだ見つかるわけにはいかないの。……誰この人」

「あ、えっと、友達……」

「ど、どうも……」

「ふぅん」

メルは初対面のカルミンに目をやった後、興味なさそうに鼻を鳴らす。対するカルミンはというと、メルの美貌に惚けた様子で言葉も出ないようだった。仕方がない、誰だってそうなるものなのだ。

メルの腕には、リーグ出場者用――それも予選シード権持ちのリングがつけられている。オーカ、そしてカルミンがつけているものと同じだった。

三人の予選シード者が、ここに集まったことになる。

それを見たオーカとカルミンも、少しだけ顔を引き締めた。

「メルも、本戦に出るんだね」

「ええ、一応ね。サツキも出るんでしょう」

「うん、当たったらよろしくね」

メルの実力は、未知数だ。一度戦ったとき、彼女は指示をしなかった。

そのスタイルは今も変わっていないのだろうか。バトルとリーグへの誠実さが時には勝負を左右するこの場で、彼女のスタンスがどう影響するのか。上手く想像ができない。

「僕も。よろしくおねがいします、メルさん」

「そう、がんばってね」

「…………」

「いた、メル!」

「! まだ捕まれるか、ジバコイル!」

「あ、メル!?」

女性の声がメルを呼ぶと、彼女は素早くポケモンを出す。大きな金属の円盤へ軽やかに飛び乗ったかと思うと、人混みの上に浮遊する。

「お説教はリーグが終わったら聞く!」

「今聞きなさい、今ー! もー!」

怒る女性を置いて、飛び去っていくメルを三人は口を開けて見ているしかできなかった。

どうやっても捕まる気がないと判断したらしい、女性は大きくため息をついた。近くで見るとやはり美しく、メルに似ているような気がした。

「ごめんね、うちの娘が。サツキちゃんと、オーカちゃんよね?」

「えっ?」

「何故僕たちの名前を……」

「知ってるわよ、だって」

「レッドさんとグリーンさんと一緒にリーグに出てた、ブルーさんですよね?!」

「えっ!?」

カルミンがブルーと呼んだ女性は、ぎょっとした顔をする。サツキとオーカまでぽかんと口を開けて、彼を見た。キラキラとした目をするカルミンの、この状態をサツキはよく知っている。

慌てた動作でサイン帳を出すと、カルミンはずいとブルーに差し出す。

「あれ以降大きな大会に出たりするの見なかったから、きっと会えることなんてないと思ってました! サインください!」

「お、おほほほ……まさかこんなところにファンがいるなんて思わなかったわ」

「当時もかわいかったですけど、実際に会うとやっぱりお綺麗ですね!」

「いい子ね~僕!」

カルミンにおだてられた彼女は嬉しそうにサインをする。何故か妙に慣れた手つきで、モデルかなにかでもしているのだろうかと思った。それほどまでに彼女は美しかった。

しかし、他意はないだろうとは思っても目の前で友達が女の人を口説くのを見るのはなかなか面白くない。

「ほほ、じゃ、みんながんばってね。お姉さんも応援してるからね~」

「ありがとうございましたー!」

「……」

「いやー、綺麗な人だったなぁ。さっきのすごいかわいい子のお母さん? なのも納得だわ」

「そだねー。よかったねえ、サイン貰えて」

「ああ! ブルーさんだけは一生会えないだろうと思ってたから嬉しいよ!」

美人に鼻の下を伸ばしているのを白い目で見てあげても、カルミンは気付きもしない。

なんとなくそうだろうとは思っていたが、ここまで軽々と口説き文句を言える男だとは。まったく男の子って。

「……あ、じゃあ、僕はこれで……。このあと家族でご飯なので……」

「あ、うん。また明日」

「はい、また明日」

そんなサツキの不機嫌を感じ取ったからか、オーカがおそるおそる去っていく。よく見ると遠くにオーキド博士やマサミが見えた。一緒に立っている金髪の小さな女性がオーカの母だろうことはすぐにわかる。

小走りに駆け寄って、マサミと手をつないで雑踏に紛れていくのを見送った。サツキも今夜は両親と、それからユリカの一家と食事だ。みんなきっと、家族で明日の健闘を祈るのだろう。

続々と試合は終わっていき、周囲に人も増えてきた。そろそろ両親と合流した方がいいかもしれない。

「じゃあ、あたしもそろそろ……」

「こんにちは、コガネテレビです!」

「予選通過おめでとうございます、お話伺ってもよろしいですか!?」

「!?」

カルミンと向き合おうとした瞬間、ずいとマイクが向けられる。それは目の前の少年少女の持つものだけではなく、背後の大人たちが持つ大きなものまであった。巨大なカメラを向けられ、一瞬遅れて思考が追いつく。

――テレビ!?

カルミンと二人顔を見合わせ、体を硬直させる。そんな二人の緊張をやわらげようと、インタビュアーの二人はかわいらしい笑顔を見せた。

「こんにちは、お姉さん。先月以来ですね!」

「あの時はどうも! うちら、お姉さんのこと探しとったんですよ!」

「え、え?」

「あれ、覚えてません? トキワの森で助けてくれはったじゃないですか」

「……あ!」

二人に言われて、ようやく彼らの顔を見る。

以前にも見たことがある、その幼い顔。黒い髪は外側にくるりと跳ね、長いまつげがぱっちりと上を向いている少女と。かわいらしさを大いに残した整った顔立ちに、鮮やかなピンク色の髪にチョーカーをしている少年。二人とも、爛々と輝くピンク色の目をしているのが、よく記憶に残っている。

間違いない。眼鏡こそかけていないが、トキワの森で助けた美貌の二人だった。

どこかで見たことがあると思ったら。

あまりテレビを見ないサツキでさえ知っている。ジョウトでとても有名な、子役のアオイとアイドルのセイだった。あの時は名前が出てこなかったが、通りで見たことがあると思った。

ポケモンリーグを見に行くと言っていたが、こういうことだったのか。

「あの時の……!」

「思い出してくれました? 改めまして、アオイです!」

「セイです! 予選の感想、聞いてもいいですか?」

ずい、とマイクが差し出される。

セイと名乗る少年があの時と違いコガネ弁でないことに違和感を持ちながら、おずおずとそれを握った。不安に隣を見ると、カルミンも緊張した様子で、じっとサツキを見ている。

カメラに注視されている。これを通して、カントー中、ジョウト中の人がサツキを見ている。人の目は怖い。どっどっ、と嫌な心臓の音がサツキの中を響きわたり、冷や汗が湧いてくる。

予選の間はよかった。人が多くてサツキに注目している人間なんてあまりいなかったからだ。だが、こう明らかに注目されると具合が悪くなるほど恐ろしく感じる。

それでもサツキは、息を吸い込んだ。

勝ちに来たのだ。この程度で負けるわけにはいかないのだ。

「予選は、予定通り突破できました。全ての試合を、最初の一体で終わらせられたので、明日のポケモンたちの体調に響くこともないと思います。――あたしは、ただ、優勝を取りに来ました」

口の中がカラカラだった。それでも一言一言を丁寧に、宣言する。

後には引けなくなる。そうやって退路を絶ってしまった方が、今の自分にはいい薬だと思った。

どくどくと心臓の音に飲まれていると、するりと横からマイクが奪われる。たん、と肩を拳で叩かれたことで、意識が浮上した。

「俺は本戦からなんですけど、今からサツキと戦うのが楽しみです。必ず、お前と戦って、それで――勝ってみせる」

「……あたしは、あの時の約束忘れてないよ」

「ああ、俺から破りに行くんだ」

カルミンからの宣戦布告に、背筋が伸びる。

ハナダシティでした約束。

――リーグで、俺と戦って勝ってほしい。

あの約束を、サツキは守りに来た。破るべく立ち向かってくるカルミンを、ねじ伏せてでも。それを望まれた約束だ。

もう、勝利を恐れようとは思っていない。

「さすがお姉さん、かっこいいです! ところで~、お隣のお兄さんはお姉さんのお友達? 彼氏?」

「と、友達です!」

「あれー、ペアルックだからでっきり彼氏だと思ってましたよ」

「偶然です!」

ぱっと二人で距離を取る。

おかしなからかわれ方をしたせいで顔が熱い。そういえばジャケットが色違いだった。大体全部カルミンのせいだ。

アオイはくすくすと笑い、くるりとカメラに向き直る。それに合わせてセイがマイクを口に当てた。

「以上、優勝候補のサツキさんと、予選シード組のカルミンさんでした!」

「それでは、会場にお返ししまーす!」

おっけーでーす、という男性の声で二人がマイクを切る。

さらりと優勝候補とすごいことを言われたような気がする。

「お姉さん、突然だったのにありがとうございました。うちらずっとお姉さんの活躍見てたんですよ!」

「あ、ありがとう……。来るって言ってたの、お仕事だったんだね……」

「今回のポケモンリーグのメインキャスターとして、一昨日から生中継をしてるんです。今年のテーマソング歌ってるの僕なんですよ!」

「は、はぇぇ」

そういえば、会場で何度も流れている少年の歌声。これはセイの曲だったのか。意識して聞いてみると、さわやかな少年の歌声の後、今度は力強い女の子の声が聞こえてくる。

強く耳に残る声だった。感情が揺さぶられるような、臨場感のある女の子の声。存在感が強く、少年の声がそれを引き立たせるような。

「アホ、歌のメインはうちやんか!」

「ええやんか僕も歌っとるんやから」

「よくない、主役はう・ち!」

「二人とも、いつまでも遊んでないで、そろそろ戻るよ」

「はーい!」

二人の漫才のようなやりとりを眺めていると、大人たちが撤退を始める。実況ブースに戻るようだ。アオイとセイは仲良く返事をすると、こちらをくるりと振り返った。

「それじゃあ、僕たちはこれで」

「応援してますよ、お姉さん!」

そうしてぱたぱたと帰っていくのを見送りながら、サツキはカルミンと顔を見合わせる。

嵐のような二人だった。以前も一緒にいたから、仲がいいのだろう。そういえば不思議と共演も多い二人だったはずだ。

「なつかれてたな」

「なんかね。たまたま助けただけだったんだけど。……それじゃあカルミン」

「ああ。また明日」

「健闘を祈るよ」

一度堅く握手を交わし、カルミンと別れる。

この後サツキは運営本部に行かなければならない。本戦出場者にはホテルと控え室が用意されるので、部屋番号を聞く必要があるのだ。

雑踏の中、小さく息を吐く。

予選を勝ち抜いた程度では終われない、この緊張感にほんの少しだけ疲れていた。

++++

「それでは、サツキの健闘を祈って!」

「かんぱーい!」

かちゃん、とグラスがぶつかる音が響き、それぞれが好きに話し始める。

ポケモンリーグの観戦のために集まった、サツキの両親、そしてユリカとその両親で食事会に来ていた。

ポケモンリーグが毎年開催される、セキエイ高原には比較的高級なレストランも多い。ここで食事をするのは二回目だった。

前回はユリカの健闘を祈って。今回はサツキの健闘を祈って。

口に含んだぶどうジュースは、普段飲むようなものとは違って、ほんの少し渋みがある。この味と、レストランのために持ってきたよそ行きの服が揃うと、ちょっぴり大人な気分になれた。

「まずは予選突破、おめでとう」

「ありがとう。ちょっと緊張するな……」

「大丈夫よ、あなたなら」

隣に座るユリカが勝ち気に笑う。

去年はサツキがこの台詞を言っていた。まさか、自分がリーグに出るとは思っていなかったから、少し変な感じがする。

「でも予選から出ると五日連続で大会なんだよね。最後まで持つかなぁ」

「そこを乗り越えられるか、バッジを集めきるか。どっちかが出来なければ優勝の道はまずないからな。リーグってのはそういうところも大変なんだ」

「でも意外とバッジ集められてる人っていないよね」

「旅をするって時点で、結構過酷だからな。だからサツキ、自信を持て」

ばしばしと肩を叩いてくる父の手を払う。

父の言うとおりで、リーグを優勝するには五日連続の大会を耐え抜くか、時間をかけてカントーを巡りバッジを集めきり余裕を持って二日間に臨むかしかない。

バッジを集めきれはしなかったものの、サツキはカントーを巡り、三日間の予選を突破した。これだけできたという事実は、間違いなく誇っていいのだ。

旅を乗り越え、予選を突破してきた。その事実がサツキを支えてくれていた。

「……そうだね。とりあえず明日は前哨戦だから、気楽に行くよ」

「あら、サツキの口からそんな強気な言葉が聞けるとは思わなかったわ」

「だって、準決勝、三位決定戦、決勝は五日目でしょ。明日は前哨戦にしなくっちゃ。あたしはそのつもりで来たよ」

「……ええ、その通りよ。よく言ったわ」

サツキは勝つために来た。

その宣言を、ここに来てから何度もしている。全て意識的にだ。そうでもしないと、プレッシャーに負けてしまいそうだったから。

そんな臆病なサツキの心を、理解しているユリカは合格と言うように笑いかけてくれる。そうだ、これで間違ってはいないのだ。

リーグに出ることで初めて、ユリカがいつも試合の前に、強気な言葉を吐き続けている意味がわかった。自分は勝てると言い聞かせないと、押しつぶされてしまいそうになるのだ。

そしてその言葉を実現させようとしないと、きっと本当に負けてしまうからだ。

「まずは、明日。必ず勝つから、見ててね」

「もちろん。信じているわ」

だからサツキは何度も宣言する。勝つと。