水の硬度 (Hardness)

硬水(ミズ)と軟水(みず)の詳しい説明。

水に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量を炭酸カルシウム(ドイツ式なら酸化カルシウム)に換算した値が水の硬度の定義です。

まず試験に使う水を、硬度試験法と呼ばれる方法に沿って試験しますが、最初にこの方法で求められるものは「水の中に含まれる二価の金属イオンのモル濃度」です。普通、天然に存在する水でしたら、この「二価の金属イオン」はカルシウムイオン(Ca2+)かマグネシウムイオン(Mg2+)だと思って構わないでしょう。さらに普通ならばカルシウムの方の量が多いので、この「二価の金属イオン」がすべてカルシウムイオンだと仮定してしまいます。

ここでちょっと考えてみてください。

一体、何で水にカルシウムなんかが溶け込んでくるんでしょう?

水が地球を循環していることは、僕が言うまでもなく皆さんご存じでしょう。海や川から水が蒸発するとき、蒸発する水は純度が高く、イオンや他の物質が溶けてはいません。これが雨として地表に降り注ぎ、川や湖に流れ込み、一部は地下水として貯えられます。このときに、川底や水が流れ込んでくる地表、それに地下の地層などからカルシウムを含めたミネラルが溶けだしてくるわけです。

日本は陸地が狭いので、水の循環がヨーロッパなどに比べると早く、そのため全体的に水の硬度は低い傾向にあります(河川水の平均硬度:日本 1.2°ヨーロッパ 5.7°)

ただし、石灰岩地形などでは比較的硬度の高い水質になります。

アメリカ式硬度とドイツ硬度

硬度を表すにはアメリカ式とドイツ式の二つの方式がありますが、両者はカルシウムがどんな形で地中に含まれているかという考え方と単位が異なります。

アメリカ式

カルシウムが地中に炭酸塩(炭酸カルシウム CaCO3)として存在し溶け込んできたと仮定した場合、水中に含まれるカルシウム(二価の金属)イオンはどれだけの炭酸カルシウムに由来するか。硬度はもとの炭酸カルシウムの濃度(ppm, この場合mg/Lに等しい)で表す。

ドイツ式

カルシウムが地中に酸化物(酸化カルシウム CaO)として存在し溶け込んできたと仮定した場合、水中に含まれるカルシウム(二価の金属)イオンはどれだけの酸化カルシウムに由来するか。硬度はドイツ硬度とよばれ、水1立方メートルに10グラム(すなわち10mg/L)の酸化カルシウムが含まれる場合を1°として表す。

古い文献では、硬水とはドイツ硬度で20°以上のものを、軟水とは10°以下のものを指すとされています。ですが、現在ではアメリカ式の表示が一般的であること、日本とヨーロッパでは基本となる河川水の硬度に約5倍ほどの差があることから、 日本では 100ppm以下を軟水、200ppm以上を硬水として定義し、 ヨーロッパでは500ppm以下を軟水、1000ppm以上を硬水として定義しているそうです。

CaOの分子量が56、CaCO3の分子量が 100 ですから

1°=17.85 ppm

の関係が成り立ちます。

簡単な硬度の求め方-1-

市販のミネラルウォーターなどで、硬度の表示がない場合、もしカルシウムとマグネシウムイオンの濃度がそれぞれ mg/L 単位で書いてありましたら、Ca2+ =40、Mg2+ =24.3ですから、CaCO3=100に換算して

2.5×(カルシウムイオン濃度)+4×(マグネシウムイオン濃度)

で、おおよその硬度が求められます。

簡単な硬度の求め方-2-

ミネラル含量表示のないものや、井戸水などの硬度を簡単に調べようと思いましたら、次のような方法があります。

まず、硬度表示のあるミネラルウォーターを何種類か、それぞれ硬度の異なるものを用意します。よく濯いだ空のペットボトルにミネラルウォーター400ccと、洗濯用の粉せっけん1gを加えて蓋をし、10回振り混ぜます。

これを泡立ちの多い順に並べると硬度の低いものほど泡立ちやすく、硬度が高くなるにつれて泡が減っていくのが見られます。硬度を知りたい水の泡立ち具合がどこに当たるかで、その水の硬度がどの範囲にあるかをおおよそ求めることが出来ます。

正確な硬度の求め方

正確に全硬度を測定するにはEDTA法という方法が用いられます。EDTAとはエチレンジアミン四酢酸(EthyleneDiamineTetra-Acetic acid)という化合物のことで、生化学などではおなじみのものです。

この化合物は二価の陽イオンと特異的によく結合して、安定な(壊れにくい)キレートと呼ばれるものを作ります。カルシウム、マグネシウムは水溶液中では二価の陽イオンになるため、EDTAと反応してキレートを形成します。

この反応は言わば二価の陽イオン(カルシウム、マグネシウムイオン)に特異的な中和反応だと思ってください。

全硬度(カルシウム硬度+マグネシウム硬度)だけを求めるのであれば、試験する水に一定量の過剰のEDTAを加え、pHを10付近にした後、エリオクロムブラックTという色素(指示薬)を加え、濃度の判っている塩化マグネシウム水溶液で滴定します。すると、最初青色だった溶液がある量の塩化マグネシウムを加えた時点で赤く変化しますので、

(もとの水のカルシウムイオンとマグネシウムイオンの合計)+(滴定したマグネシウムイオン)=(EDTAの量)

を利用して、もとの水のカルシウムイオンとマグネシウムイオンの合計を求め、炭酸カルシウム(or酸化カルシウム)に換算して全硬度を求めます。

直接、元の水をEDTAで滴定するのも可能ですが、この方法がより誤差が少なく正確です。