Gniechwitz2007

Gniechwitz D, Reichardt N, Blaut M, Steinhart H, Bunzel M.

Dietary Fiber from Coffee Beverage: Degradation by Human Fecal Microbiota.

J Agric Food Chem: 2007 Aug 22;55(17):6989-96.

コーヒー中の食物繊維と、それがヒト腸内細菌に与える影響を調べた論文。コーヒー一杯(150ml)に0.5gの食物繊維が含まれており、ヒト腸内細菌の増殖に対する影響を見たところ、バクテロイデス属Bacteroidesやプレボテラ属Prevotellaの増殖促進が認められたが、ビフィドバクテリウムや乳酸桿菌の増殖は見られなかった。

コーヒーにはもともとアラビノガラクタンやガラクトマンナンなど、ヘミセルロースと呼ばれる多糖類(食物繊維)が含まれていることが知られている。これらは焙煎過程で一部分解されて、褐色色素(メラノイジン)の元になったり、いわゆるコーヒーオリゴ糖に変化したりする。これらの多糖類やオリゴ糖類の中には、ヒトがそのまま利用することができないものがあるが、腸内細菌の中にはこれらの糖類を利用して増殖するものがあることが知られている。コーヒーについては、このような腸内細菌への影響(プレバイオティクス作用)はあまり研究されておらず、網羅的なものとしてはこれが最初のものと言えるだろう(とは言え、AGF絡みの、コーヒーオリゴ糖の腸内細菌への影響を見た昭和大のグループの研究がある。実は何を隠そう、僕自身も2000年頃に学会発表したことがあったりする:諸般の事情でそのテーマの実験を続けられなくなったのだけど)。これまでの報告では、いわゆるビフィズス菌の仲間(Bifidobacterium)に対する増殖促進効果が見られていたが、今回の報告では差がなかった点は興味深いところの一つである。

「腸内細菌に働く」というと、いろいろな健康効果を思い浮かべる人も多いだろうが、実はまだ本当にどの程度の意味があるのかそれほどよく判っていない、というのが現状である。あまりにも雑多な細菌の集団からなることと、生きているヒトの腸内で実際に何が起こっているかを検出できない、ということによる。ただしコーヒーの効果として報告されているものの一部、大腸がんリスク低下や、糖尿病リスクの低下、腸管運動の亢進などがどのようにして起こっているかを知るために重要な知見につながると考えられる。

食物学/細菌学:分析化学、細菌学的手法:コーヒーの食物繊維は一部のヒト腸内細菌の増殖を促進する(重要度★★★★)