味の持続性や広がりに関わる要素

上述してきた「味覚」の用語とは別に、日本語にはさまざまな意味合いで「味」を表す言葉があります。例えば、「コク(こく、こく味)のある味」「キレのある味」などが、コーヒーの味を表す場合にもしばしば用いられます。また、「後味」や「のどごし」のように、実際に舌で味わった後から感じられる味わいも存在します。この他、「まろやかさ」や「深みのある味」、「豊かな味」など、味の広がりや奥行きと言った言葉で伝えられるニュアンスもあります。これらはいずれも、単純な「味」そのものを表す言葉というよりは、「風味」や「味わい」という方がよりマッチした、より複雑な「おいしさ」の概念に関わる考え方だと考えられます。

これらの「味わい」はなんとなく自分の舌でわかっているという人は数多いのに対して、いざそれを口に出して説明しようとするとなかなか難しく、その実体が何なのか、どのようなメカニズムで感じられているものなのかについては、これまで科学的な観点からはほとんど研究されていませんでした。しかし近年、一部の味覚研究者によって、コクやキレを科学的に説明しようという試みが始まっており24、新しい味覚の領域として、まさに現在注目されているところです。しかし、まだ統一的な見解というものは存在していません。

また、我々が一口に「コク」「キレ」と表現している内容も決して一様ではありません。「だしのコク」「味噌のコク」「生クリームのコク」「ビールのコク」「コーヒーのコク」、あるいは「ビールのキレ」「日本酒のキレ」「コーヒーのキレ」などは、おそらくそれぞれ別々の要因から成り立つ、別々の「味わい」だと考えた方がよく、すべてを統合して考えるのには無理があると考えられます。ここでの最大の関心は「コーヒーのコク」「コーヒーのキレ」の謎にどれだけ迫れるか、ということですが、ここではまず「コク」と「キレ」「のどごし」に関する一般的な考え方を説明します。

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