コーヒーの甘味成分候補

コーヒーの甘味の本体については、実はよくわかっていません。一つの説としては、焙煎豆に含まれている単糖類や二糖類などの低分子の糖類によるものと考えられています。ただし、そのコーヒー中の濃度は低く、実際にそれらが甘味を感じさせるほどの効果を持つのかについては疑問もあります。

コーヒー中の低分子の糖類は生豆に元から低分子の糖類がそのままの形で含まれていた分と、焙煎の過程で新たに生じる分から成り立っています。

生豆にもとから含まれている低分子糖類の量はそれほど多くはありません。この低分子糖類の組成はコーヒーノキの種の違い、すなわちアラビカとロブスタで大きく異なり、アラビカでは特にショ糖の量が多いことが知られています。ショ糖に代表される甘味の強い低分子の糖類は、コーヒーの実の部分で作られるもので、実が熟するにしたがって果肉にも蓄積していきますが、それに比例して、種子にあたる生豆の部分での濃度も上がります。つまりアラビカ種で、熟した生豆ほど糖度は高くなるわけです。これが「良質なコーヒーには甘味がある」と言われている理由の一つだと考えられます。

また生豆には低分子の糖類のほか、これらがさらに多数結合して出来た多糖類が多く含まれています。コーヒーの生豆中にはアラビノガラクタンやアラビノマンナン、アラビノキシランなどの多糖類が多いことが知られています。これらはアラビノース、ガラクトース、マンノース、キシロースなどの単糖類が重合したものです。植物の細胞壁を構成する成分としては、グルコースが重合した多糖類であるセルロースがもっとも有名ですが、これらのセルロース以外の多糖類も細胞壁の一部を構成しており「ヘミセルロース」と呼ばれています。またこれらは水に溶けにくく、食品中の、いわゆる「食物繊維」と呼ばれるものの正体でもあります。

多糖類は水分の存在下で加熱することなどによって、より小さな糖に分解(加水分解)されるという性質があります。このため、コーヒーの焙煎の過程でも多糖類が分解されて、オリゴ糖(数個の糖分子が結合したもの)や、二糖類、単糖類などが生成し、これらも焙煎によって生成する甘味成分になるのではないかと考えられています。