Kurahashi2008

Kurahashi N, Inoue M, Iwasaki M, Sasazuki S, Tsugane S; for the Japan Public Health Center (JPHC) Study Group.

Coffee, green tea, and caffeine consumption and subsequent risk of bladder cancer in relation to smoking status: a prospective study in Japan.

Cancer Sci.: Epub:-(2008)

JPHC study(厚労省多目的コホート)による、コーヒーと膀胱がん発生リスクの関係について検討した結果の報告である。コーヒーを 1日1杯以上飲用する男性では、有意差は認められなかったが、膀胱がんの発生リスクが上昇する傾向が見られた。女性ではこの傾向は認められなかったが、緑茶を1日5杯以上飲む女性ではリスクの上昇(有意差あり)が認められ、男女ともに、カフェイン摂取と膀胱がんの発生に弱い相関がある可能性(有意差なし)が示された。また喫煙は膀胱がんのリスク因子であることが知られているが、コーヒー飲用と膀胱がんの発生の関係は喫煙者では差が認められず、非喫煙者もしくは以前喫煙していた人にのみ傾向が見られた(1cup/dayを最大摂取グループとする調査でHR 2以上)

1970年代から提唱されてきた「コーヒーが癌の原因になる」という考えは、1980年代後半以降の疫学調査によってその大部分が否定されつつあり、また大腸がんや肝がんでは逆にコーヒー飲用と癌の発生に負の相関が認められている。こういった状況の中で唯一、その関係がこれまで十分に否定されているとは言えないのが膀胱がんであり、このために未だにIARC(国際がん研究機関)の発がん性リスト2B(発がん性の疑いがある)の項目にはコーヒーの名前が残っている。コーヒーと健康の関係に注目する上では重要な疾患であると言える。近年は、大量飲用の場合にのみリスク上昇が見られるという報告が増えてきたこともあり、JPHCでの結果報告についても個人的には大いに注目してきたものの一つである。ただし膀胱がんは日本人のがんの中ではややマイナーな部類のものでもあり(年間罹患率は10万人に対し7-8人程度)、数十万人規模、15年という長期の大規模コホートでも解析に十分な症例が得られるかどうかは、少し危ぶんでいた。実際今回の調査ではほとんどの結果で有意差が付くほどの差が認められておらず、「可能性はあるかもしれない」というこれまでの考えをどちらかに改めるまでの結果には至らなかったなぁ、というのが率直な評価である。ただし喫煙のステータスによって、結果に差が出る可能性を示したことは、今後同様の疫学調査を行う上で重要な知見と言えるだろう。

医学/がん:疫学(コホート):コーヒー・カフェインの摂取は膀胱がんのリスクを上げる可能性がある(重要度★★★★★)