Cornelis2006

Cornelis MC, El-Sohemy A, Kabagambe EK, Campos H.

Coffee, CYP1A2 genotype, and risk of myocardial infarction

JAMA: 295:1135-1141(2006 Mar 8)

カフェイン分解酵素であるCYP1A2(チトクロムP450のタイプ1A2)の酵素活性が低いヒトでは、コーヒー飲用によって非致死性心筋梗塞のリスクが上昇するということを報告した論文。

コーヒー飲用と心疾患リスク上昇との関係は古くから議論が続けられてきたものの一つである。以前はカフェイン摂取によっ心筋梗塞などの心疾患リスクが上昇するという考えがなされていたが、1995年までに相次いで行われたメタアナリシスの結果から、この考えは否定され、コーヒー飲用と心疾患には相関がないという考えが主流になっている。しかしカフェインによる一過性の血圧上昇などやコーヒー飲用による血中ホモシステイン濃度の上昇などを考慮し、他の要因によって心疾患リスクが高くなっている人は飲用に注意が必要である、とするのが現在の考え方である。

これに対して、この著者らはカフェインと心疾患リスクの関係に着目し、カフェイン分解酵素であるCYP1A2の遺伝子多型を因子に加えた症例対照研究解析を行っている。CYP1A2の遺伝子多型にはいくつか知られているが、このうちCYP1A2*1C(日本人喫煙者に見られる多型の一種)や CYP1A2*1Fではカフェインを分解する酵素活性が低下し、体内のカフェイン消失時間が延長することが知られている。この論文ではCYP1A2*1Fを持つヒトの場合、コーヒーを1日2杯以上飲むヒトでは非致死性心筋梗塞の発生リスクが上昇(オッズ比1.3以上)することを見いだした。

カフェイン代謝酵素の遺伝子多型という個体側の要因を加えた興味深い知見である。私事ながら「コーヒーと健康」についての文書にも書いたことでもあるのだが、「どのようなヒトにとって」という前提なしにコーヒーと健康との関わりを議論することはそもそもできない。この点では、このような個体側の要因を明らかにする研究が増えることは望ましい。ただし、まだ最初の一報が出た段階にすぎないため、この段階で何らかの結論に結びつけるのは時期尚早、今後の追試の結果に注目するべきである。なおCYP1A2の活性については、宿主による差や酵素誘導による影響によって大きく変動しうる。しばしば「自分はカフェインに弱い」と感じている人も見かけられるが、その自己評価と代謝酵素活性は関係がないことの方がはるかに多いことをあらかじめ指摘しておく(その自己評価の基準は中枢神経興奮作用を指標としていることが多く、それには代謝より中枢への効き方そのものの影響が大きい)

医学/疫学:症例対照研究:カフェイン代謝能力が低い人でコーヒー飲用により心疾患リスクが上昇(重要度★★★★)