クロロゲン酸ラクトン類

クロロゲン酸ラクトン(カフェオイルキノラクトン、カフェオイルキニド、カフェオイルキナ酸ラクトン:caffeoylqunic lactone, CQL)類は、クロロゲン酸類のキナ酸残基の一部に、環状の構造ができた形をした化合物の総称です。これらの化合物の存在自体は以前から知られていましたが、2006年、ドイツ・ミュンスター大学のFrankらは、カフェインレスコーヒーに含まれている苦味成分の一グループが、このクロロゲン酸ラクトン類であることを突き止めました7

クロロゲン酸類にも多くの種類がありますが、クロロゲン酸ラクトン類ではさらに、キナ酸のところで作られる環状構造(ラクトン)の部分のバリエーションが3パターン(γキニド型、epi-γ-キニド型、muco-γ-キニド型)あるため、クロロゲン酸類以上にいろいろな構造を持った種類が生じます。右図にそのうちの代表的なものを示しました9。いずれにしても分子全体でみると、対応するクロロゲン酸類からちょうど水分子一つぶん(水素原子2つと酸素原子1つ)が失われたかたちになっています10。このような変化を起こす化学反応は一般に「脱水反応」と呼ばれ、水分の少ない状態で加熱するときには比較的起こりやすい化学反応の一つです。クロロゲン酸ラクトン類はいずれも強い苦味を呈します。その閾値は分子の種類によって変わりますが、概ね10 mg/L前後(5-60 mg/L)で、カフェインの10倍から20倍近い苦さを示します。クロロゲン酸ラクトン類は生豆の状態ではほとんど含まれておらず、焙煎によってクロロゲン酸類から生成します。浅煎り〜中煎りの段階で焙煎豆中の含量が約0.4-0.5%にまで増加しますが、その後、加熱を続けると分解されていき、深煎りの段階ではその半分程度にまで減少します11。カフェインレスコーヒーでもその量は殆ど変わりません。抽出したコーヒー液中の詳細な濃度についての報告はまだありませんが、インスタントコーヒー末の約2.8%(うち3-カフェオイルキノラクトンが最多で1.5%)含まれているという報告12から計算すると、一杯あたり約400 mg/L(閾値の40倍濃度)という、苦味を感じさせるのに十分な量が含まれていると考えられます。閾値と含有量から換算すると、コーヒー全体の苦味に占める割合はカフェインよりも高いことが伺えます。

Frankらの報告7より作成。—は検出限界以下。空欄部分はまだ報告がない。

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