コーヒーの苦味の特徴

前章で述べたように、苦味を呈する物質は多種多様であり、自然界に存在するさまざまな化学物質が苦味物質になります。コーヒーには数百種類の成分が含まれていると言われますが、その中の何が苦味を呈する物質か、というのは古くから興味の対象でした。

コーヒーの苦味には、以下のような特徴があります2,3

    1. 生豆の段階では苦味は少なく、その大部分は焙煎によって生じる。

    2. 浅煎りよりも深煎りの方が苦味が強い。

    3. カフェインレス処理によっても苦味が完全になくなることはない。

当初は、カフェインがもっとも主要な苦味物質として考えられてきましたが、この1-3のどの特徴も、カフェインだけから説明することは困難であり、コーヒーの苦味物質が何であるかについては議論が続いています。少なくとも現在の知見からは、コーヒーの苦味物質は単一ではなく、おそらく数十種類以上が存在すると考えられます。コーヒーの苦味は、これら複数の苦味物質が複雑に組み合わさって生み出されています。

このような苦味成分の複雑さに対して、我々がそれを知覚するための機構は、むしろシンプルなものだと考えられます。何らかの苦味を味わったとき、我々は「これはカフェインの苦味」「にがりの苦味」「キニーネの苦味」などのように、その苦味物質の種類を細かく区別することはありません。我々は多数の苦味物質に対して、それぞれ個々に識別することなく、全部ひっくるめて「苦味」として知覚していることが多いと言えるでしょう。

しかし一方で、我々はコーヒーの苦味には「強い苦味」「弱い苦味」という強弱、すなわち「量的な違い」があるだけでなく、何らかの「質的な差」が存在することを知覚しています。例えば「コクのある苦味」「キレのある苦味」などの表現がこれにあたります。これについては、いずれ説明できる日が来るでしょう。

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