褐色色素群(コーヒーメラノイジン)

焙煎によってコーヒーに生じる変化のうち、もっともわかりやすいのはその色の変化でしょう。これは焙煎によって褐色色素が生成することによります。コーヒーの褐色色素は、生豆中の成分が、その成分単独で変化したものではなく、複数の成分同士が化学反応することに出来たものが主体になっていると考えられています。

一般に、いろいろな食物を加熱していくと「焦げ色」が生じますが、このときの「焦げ」の大部分は、メラノイジン(melanoidin)と呼ばれる高分子の混合物で、食品中に存在するタンパク質(とその構成分子であるアミノ酸)と糖類の化学反応によって生まれるものです。また糖類については、単独でも黒褐色の高分子であるカラメルを生成します。これに対してコーヒーの場合、通常のメラノイジンやカラメルども一部生成しますが、クロロゲン酸類と糖類の化学反応から生じる褐色色素群が存在するという特徴があります。つまりコーヒーでは褐色色素の生成に、通常の食品に見られるような、糖類、タンパク質からの生成だけでなく加えて、クロロゲン酸類もその生成に関与しているというわけです。これらの、コーヒーに特徴的な褐色色素群まで含めたものは「コーヒーメラノイジン」と総称されます20。コーヒーメラノイジンのうち、クロロゲン酸類と糖類から生成される高分子のグループは、その色調と分子量の大きさから三種類に分類されています2褐色色素A:黒褐色で平均分子量は大きい。焙煎過程ではB、Cの後に生成される。

褐色色素B:赤褐色で平均分子量はAより小さい。焙煎過程ではCに遅れて生成され、Aの生成にしたがって減少する。

褐色色素C:黄褐色で平均分子量はBより小さい。焙煎過程の初期から生成され、AやBの生成にしたがって減少する。

これらの褐色色素は、焙煎の進行に伴ってC→B→Aの順に変化していきます。これによってコーヒーの色調も、明るい褐色から黒褐色に変化していくわけです。またこれらの色素の生成過程には、カラメルやメラノイジンなど、他の分子から生成する色素群も関与することが明らかになっており、その生成過程は複雑です 。

コーヒーの褐色色素群は、いずれも苦味物質としての役割も果たしていると考えられます。褐色色素A、B、Cは弱い苦味を示すことが報告されており、A>B>Cの順番で、すなわち生成される順番が遅いものほど、重厚な味わいになると言われています2,21。また糖類から出来るカラメルも、糖類とアミノ酸から出来るメラノイジンも、いずれも高分子の苦味物質であると考えられています。ただし、高分子であるためにその構造の同定が難しいことや、これらがさらに分解されて生じる低分子にも苦味を呈するものが多いことなどから、具体的にどのような化学構造で、どの程度の苦味を持つのかについてはまだよくわかっていないというのが現状です。ただしコーヒーのコクを生み出す上で重要なものであることが予想されます。

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