Ashihara1999

Ashihara H, Crozier A

Biosynthesis and catabolism of caffeine in low-caffeine-containing species of Coffea.

J Agric Food Chem: 47, 3425-3431 (1999)

Coffea(コーヒーノキ)属のうちカフェイン含量の少ない、C. salvatrix, C. eugenioides, C. bengalensis (現在はPsilanthus bengalensisと呼ばれることも多い) について、それぞれのカフェイン生合成/代謝経路の解析を行った論文。14C標識アデニンを用いたトレーサー実験の結果から、通常のC. arabicaと比べて、この三種では若葉におけるカフェインの生合成速度が遅いことが示唆された。また同様に14C標識カフェインを用いたトレーサー実験から、C. eugenioidesではC. arabicaと比べてカフェインの代謝分解が亢進していることが判った。一方、C. salvatrix, C. bengalensisにおいては分解促進は見られなかった。

世界で初めてカフェイン合成酵素をチャから分離した、お茶水大の芦原教授による研究成果の一つである。芦原教授はカフェインを含む様々な植物におけるカフェイン代謝経路の研究を行っており世界的にもこの分野の第一人者である。近年の研究結果から、コーヒーやチャなどカフェインを含む植物では、アデニンを原料として、一連のN-メチルトランスフェラーゼ (NMT)という酵素によって、7-メチルキサントシン、テオブロミンを経て、カフェインが生合成されることが明らかになっている。一方、生合成されたカフェインはN-デメチラーゼ(NDM)という脱メチル化酵素によって代謝され、コーヒーノキでは最終的に二酸化炭素とアンモニアにまで分解される。コーヒーノキにおけるカフェインの含量は、このNMTとNDMという2グループの酵素の活性の強弱によって大部分がコントロールされていることが明らかになった。特にC. eugenioidesではNDMの活性が高いという特徴があることが示唆されており、この形質をC. arabicaに導入することが出来れば、他の物質(キサントシンやテオブロミンなど)の蓄積がない低カフェインのコーヒーノキの作出につながることが期待される。

カフェイン含量が少ないコーヒーノキの作出は、世界的にみるとマーケットが大きく、需要の見込める分野だと考えられるが、育種レベルでの成功例というのはほとんど見られないのが現状である。あまり世間一般には知られてはいないが、この世界的に関して遺伝子工学の手法を活用してリードしているのが、芦原教授や佐野教授ら、日本の研究グループである(佐野教授はストックホルム大に移られたそうですが)。

なお、このC. eugenioidesとの交配については現在、芦原教授の協力のもとでUCCが進めており、低カフェインCGAコーヒー豆という名称で作出に成功していることが報告されている。早ければ2010年に日本市場での製品化を目指しているとのことであり、興味が持たれるところである。