クロロゲン酸類とその分解物

クロロゲン酸類(chlorogenic acids, CGAs)は、コーヒーの他にもさまざまな植物の根や葉、果実などに含まれる成分です。クロロゲン酸の「クロロ」は、クロロフィル(葉緑体)と同様、「緑色」を意味する接頭語で、もともとは、コーヒーに三価の鉄イオン(Fe3+)を含む溶液を入れたときに、コーヒーが緑色を帯びた色調に変化する現象が見つかり、後にこの緑変を引き起こす原因物質として発見されました。

    1. クロロゲン酸「類」とは、キナ酸(quinic acid)とコーヒー酸(カフェー酸, caffeic acid)が結合して出来た化合物群(カフェオイルキナ酸: caffeoylqunic acid, CQA)の総称です。このうち、キナ酸の5位の水酸基(-OH)の部分にコーヒー酸が結合した、5-カフェオイルキナ酸(5-caffeoylqunic acid, 5-CQA)が「クロロゲン酸」と呼ばれます。この他、コーヒー酸の結合部位や結合する数が異なるものが複数あり、これらをすべて引っくるめたものが「クロロゲン酸類」です。またコーヒー酸の代わりに、これと良く似たフェルラ酸やp-クマル酸がキナ酸と結合したもの(フェルロイルキナ酸およびp-クマロイルキナ酸: FQA, CoQA)も存在し、これらも同様にクロロゲン酸類の一種として扱われています。クロロゲン酸類は、酸味とわずかな渋味を示すと言われており、それ自体は苦味物質としては働かないと考えられています。ただし例外的に、コーヒー酸が2つ以上結合したもの(イソクロロゲン酸)は渋味が比較的強く、弱い苦味を感じさせるとも言われています。クロロゲン酸類はいずれも焙煎によってキナ酸とコーヒー酸などに分解され、コーヒー抽出液中の濃度はわずかになるため、これらの分子自体がコーヒーの苦味に対して与える影響は、ほとんど無視できる程度だと言っていいでしょう。しかし、それにも関わらず、クロロゲン酸類はコーヒーの苦味に対して、おそらくもっとも影響の大きい成分です。焙煎時に加熱によって生じるさまざまな化学反応(焙焦反応)によって、クロロゲン酸類から、数多くの苦味物質が作り出されていることが、ごく最近になって明らかになってきたからです。クロロゲン酸類のみから生じる苦味物質は、大きく分けて3つのグループに分類できます。クロロゲン酸類そのものから生じるクロロゲン酸ラクトン

    2. コーヒー酸から生じるビニルカテコールオリゴマー

  1. キナ酸関連化合物

このうち(1)と(2)のグループが、コーヒーの苦味の中核をなしているものだという説が最近発表されています7,8。 この他、クロロゲン酸類単独ではなく、糖類やタンパク質などとの焙焦反応によって生じるコーヒーメラノイジン(褐色色素群)も、柔らかい苦味の要因として重要だと考えられます。またクロロゲン酸の焙焦反応は、苦味の生成だけでなくさまざまな香り物質の生成にも重要ですが、これらについては後述します。

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