味覚器 〜舌と味蕾と味細胞

多くの脊椎動物とヒトにおいて、味覚の感知には「舌」が最も重要な役割を担っています。

舌上面(舌背)の表面には、舌乳頭(ぜつにゅうとう)と呼ばれるざらざらした小さな突起が多数存在します。実際に味を感知する器官である味蕾(みらい)は、この舌乳頭の部分に集まっています。

舌乳頭には、以下の4種類のタイプが存在します。有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)

周囲が凹んだ溝に囲まれ、ちょうどお堀に囲まれた城郭のような形の円台状の舌乳頭で、舌の付け根(舌根)付近だけに、〜10個程度存在します。有郭乳頭の突起の側面には、一個の突起あたり数百から千個という、多数の味蕾が存在しており、溝の部分に溜まった液(唾液などの分泌液や食餌由来の液体)に溶け込んだ味覚物質を感知します。溝にはエブネル腺という分泌腺が存在しており、そこからの分泌液によって溝の中身は洗い流され、味覚物質がいつまでも留まりつづけることがないようになっています。

葉状乳頭(ようじょう—)

ひだ状の形態を持つ舌乳頭で、舌のふちの部分(舌縁)のうち、付け根に近い部分にだけ存在します。葉状乳頭も突起の側面に味蕾を持ちますが、その数は有郭乳頭より遥かに少なく、一個の突起あたり十数個です。葉状乳頭のひだの底にもエブネル腺が存在し、そこからの分泌液で洗い流されています。

糸状乳頭(しじょう—)

細くて角質化した先端を持つ舌乳頭で、肉眼で舌を見たときに白いポツポツとして見える突起です。舌上面の全体にわたって存在します。糸状乳頭には味蕾は存在せず、基本的な味の感知には関係しません。糸状乳頭は、舌の「ざらざら」の正体で、食べ物を舐めたとき、ヤスリのようにこそぎ取る役割を担っています。

茸状乳頭(じょうじょう—)

糸状乳頭に似ていますが、角質化しておらず、肉眼では血管が透けて、先端が赤く見えます。糸状乳頭と同様に舌上面の全体にわたって存在しますが、特に舌先側の表面に集中しています。茸状乳頭の先端には通常、1〜数個の味蕾が存在しますが、これが失われた、味蕾を持たないものもしばしば見られます。

これらの舌乳頭の種類ごとの分布の違いによって、舌における味蕾の分布には偏りが生じます。舌のなかでも、付け根付近(約2,200個:有郭乳頭による)、奥側の舌縁部(約1,300個:葉状乳頭による)、舌先側の舌上面(約1,100個:茸状乳頭による)に、味蕾が存在するため、これらの部位が味覚の感知に大きく寄与しています。また味蕾は、舌以外の口腔内(軟口蓋、喉頭蓋、咽頭など)にも約2,300個存在しており、これも味覚の感知に関与していると言われます。

舌の表面は舌上皮細胞が折り重なり、上皮組織を形成していますが、味蕾の部分ではこの上皮層がなく味孔とよばれる孔が空いた状態になっています。この味孔 の下に、複数の味細胞が集まって、一つの味蕾を形成します。それぞれの味細胞は味神経につながっていて、味細胞上端の微絨毛の部分に味物質が作用すると、 味神経を介して脳にシグナルが送られ、味が認識されるのです。それぞれの味神経が属している神経系は、味蕾のある部位によって異なります。茸状乳頭のある舌の前側3分の1は顔面神経(第VII脳神経)、葉状乳頭や有郭乳頭のある舌の後側3分の2は舌咽神経(第IX脳神経)、喉頭蓋や咽頭などノドの大部分は迷走神経(第X脳神経)に、それぞれ支配されています。これらの神経は、延髄にある弧束核と呼ばれる部分につながり、そこから脳に情報を伝えています。このうち味覚の感知には、舌咽神経がもっとも大きな役割を担っていると言われており、味蕾の数の多さと合わせて、舌後〜舌奥にかけての領域がもっとも「味に敏感な」部分だといえるでしょう。前(味を感じる仕組み)< >次(5つの味質を区別する仕組み