Lashermes1999

Lashermes P, Combes MC, Robert J, Trouslot P, D'Hont A, Anthony F, Charrier A.

Molecular characterisation and origin of the Coffea arabica L. genome.

Mol Gen Genet: 261: 259-266 (1999)

アラビカコーヒーノキの起源を分子生物学的な手法で明らかにした論文。コーヒーノキ属(Coffea属)には、2006年の分類で103種が含まれているが、このうちコーヒーの原料として利用されているものは、アラビカ種(アラビカコーヒーノキ C. arabica)とカネフォーラ種(いわゆるロブスタ、C. canephora)の二種である。特にアラビカ種(あるいはその交配種)が世界の70%を占めているが、アラビカ種は植物学的に見ると他のコーヒーノキ属と比べて特殊な点がある。(1) 他はすべて染色体数が22 (2n=22)であるが、アラビカ種のみがその倍の44 (2n=44) である。(2) ほとんどのコーヒーノキ属は自家不和合性(自分自身の雌しべと花粉で交配ができない、自家受粉できない)だが、アラビカ種は可能である(その他はC. heterocalyxC. anthonyiが自家和合性)。これらの特徴から、アラビカコーヒーノキは他のいずれかのコーヒーノキの倍数体に由来するものと考えられてきたが、そのルーツは明らかではなかった。この論文では、各種コーヒーノキ属の遺伝子をRFLP法およびGISH法によって解析を行い、またそれらの地理的分布と合わせて、その起源を明らかにした。

野生のコーヒーノキ属はすべてアフリカ大陸およびマダガスカル島に分布しており、その地理的分布から、以下の4つの系統(クレード)に大別されている。(1)中央及び西アフリカ(WCクレード)、(2)東アフリカ(Eクレード)、(3)中央アフリカ(Cクレード)、(4)マダガスカル(Mクレード)。このうち、アラビカやカネフォーラはWCクレードに属する。遺伝子解析の結果からアラビカ種の染色体には、カネフォーラ種と類似するものと、Cクレードに属するユーゲニオイデス種(C. eugenioides)と類似するものが含まれていることが明らかになった。このことからアラビカ種は、カネフォーラ種とユーゲニオイデス種、もしくはそれぞれに近縁のコーヒーノキの交配過程で生じた、複二倍体に由来する可能性が示唆された。

複二倍体:カネフォーラ種の遺伝型をXX、ユーゲニオイデス種をYYとしたとき、XXYYとなるような四倍体(異質四倍体)様の「合いの子」。通常の交雑種の場合は(減数分裂したもの同士の交配のため)XYとなる。

またそれぞれの地理的分布から見ると、カネフォーラ種はコンゴで発見されたもので西〜中央アフリカの低地の森林に広く分布し、ユーゲニオイデス種は涼しく乾燥した高地、特にビクトリア湖周辺のタンザニア〜ウガンダ〜ケニア西部にかけて分布している。ビクトリア湖北西に位置する、アルバート湖周辺はこの両者の生息域が重なっている地帯であり、そこから北東のスーダン〜エチオピアに向けて移動すると、アラビカの分布域に到達する。これらのことから、このアルバート湖の周辺にアラビカコーヒーのルーツがあるのではないかということが示唆された。