過度の酸味

一般的にはコーヒーの酸味は弱い部類のものであり、通常のコーヒーを焙煎・抽出したものが「酸っぱすぎる」ということは、どちらかと言うと稀です。

しかし抽出した後のコーヒーを保存しているときや、焙煎豆を長期間保存している場合などには、通常よりも多くの酸を生じ、その結果「過度の酸味」を生じることがあります。一般にはこのような、過度な酸味を「コーヒーの酸味」であると誤解している人も多く見受けられます。

抽出した後のコーヒー液を長時間保存しているうちに酸っぱくなることがありますが、これは主として、抽出液中のキナ酸ラクトンがキナ酸に変化することで酸性度が増すためだと考えられています。キナ酸ラクトンは、クロロゲン酸類が分解されて生じたキナ酸から、水分子が一つ抜けた(脱水反応)した構造を持っていますが、これが抽出液中で再び水分子を獲得(分子内加水分解反応)した形となって、再びキナ酸に戻り、それとともに酸として働くのだと考えられています。この他、キナ酸ラクトンと同様にクロロゲン酸ラクトンの一部が分子内加水分解によって、クロロゲン酸に戻ったり、エステル類の加水分解によって、酢酸やギ酸などの酸味物質が生じることも知られています。これらの反応は、抽出液ではなく、焙煎したコーヒー豆が空気中の水分と反応することによっても進行します。一般に「保存しておいた焙煎豆が酸っぱくなる」というのは、主にこのためだと考えられています。従って、焙煎豆を保存しておくときには、水分を避けておくことが一つのポイントになります。

また焙煎豆の成分のうち、油脂分(脂肪酸)は酸化されやすく、室温でも自動的に酸化されて、脂肪酸の酸化物や過酸化物を生じます。この反応は「酸敗」とよばれ、これらの脂肪酸過酸化物は、しばしば「酸敗臭 rancid」と呼ばれる特有の異臭を持ち、コーヒーの香味に悪影響を与えますが、さらにこれが酸化されていくと、最終的にはより小さないくつかの脂肪酸に分解されていき、全体としての酸度が上昇していきます。こちらの反応は上述のものに比べると進行が遅いと考えられており、どちらかというと長期保存のときに考えなければならない問題だと言えるでしょう。ただし、同時に異臭の発生を伴うため、焙煎豆の品質低下という観点からは大きな問題になりえます。