焙煎と苦味

コーヒーの苦味は焙煎によって変動し、浅煎りや中煎りの豆では弱く、深煎り豆になるほど強くなります。苦味物質のうち、生豆の段階から既に含まれているものはごく限られたものであり、大部分は焙煎の過程に起きる化学反応(焙焦反応)によって新たに生じるものです。また、生豆には含まれているが焙煎の過程で分解されるもの、一度生成した後に分解されるもの、コーヒー抽出後の保温の過程で過熱によって生じるものもあります。

焙煎初期から浅煎り、中煎りにかけては、焙焦反応によって新たに苦味物質が生成することで、種類と量の両方が増加していきます。ところがそこからさらに焙 煎を続けていくと、それまでよりも強い苦味の元となる成分が生成されることで、全体的な苦味の強さは上がっていくのですが、その一方で、一旦生成された苦 味物質の分解が起きることによって、苦味物質の種類は減少していきます。言い換えると、初めのうちは「弱めの苦味を持った多種類の苦味物質」が徐々に増え て行き、後期にはそれが「強い苦味を持った少ない種類の苦味物質」に変化していきます。苦味物質の種類の多さは、味の複雑さを増しコクを増やす要因になります。特に浅煎りから中煎りにかけては、高分子で柔らかい苦味を持った褐色色素群が徐々に生成されていきますが、これらはコクのベースになりやすいものだと考えられます。したがって、この時期には、柔らかくすっきりとした苦味から徐々にコクのある苦味が増していく方向に推移していくと考えられます。さらに焙煎が進むと、褐色色素群の化学変化や、一旦生じた苦味物質が分解されていくことで、その種類は減少に転じます。また、後期に生成される「強い苦味成分」には褐色色素群などの高分子の分解によって生じた低分子が含まれており、苦味物質の種類が減ることで、やがてキレのある苦味が優勢になっていくと考えられます。一般的には、この段階までで焙煎を中止することが多いですが、さらに焙煎を進めると、この傾向がどんどん進み、最終的には味の広がりや豊かさに欠けた、「ただ単に苦い」だけの単調な苦味になってしまいます。前(コーヒーの苦味の特徴)< >次(コーヒーの苦味成分)