壊れた愛
「ごめんね~ナルト、任務でどうしても今日は無理なの」
楽しみにしていたデートが突然一羽の鳥に因って台無しになってしまった。可愛いナルトに「うざい」「寄るな」と足蹴にされながらも、めげずに纏わり付いていたカカシは窓から入って来た鳥を見て蒼白になった。
その鳥は自分の家にいないカカシを探し回り疲れ果てたのだろう、ナルト宅の窓際で羽を畳んで一休みしている。
そうっとナルトの横顔を見てみれば、ギロリと睨む不機嫌な瞳が己を見下ろしている。
「悪い、聞いてなかったってばよ。で?何だってばよ」
「あ、あのね、ナルト・・・・」
カカシは頬を膨らませてそっぽを向いてしまったナルトの機嫌を取ろうと諂い、へらへらした笑いを向ける。
「ごめ~んね?明日は必ず空けとくから、ネ?」
三十の男がやっても少しも可愛くない首を傾げたポーズで手を合わせたカカシは聞く耳持たん、と背を向け黙り込んでしまったナルトにひたすら謝る。
けれど、ナルトはカカシを見ようともしない。それどころか可愛い口からはとんでもない言葉が飛び出した。
「もう、いいってばよ!カカシ先生ってばいっつも約束破るし!オレの言う事なんでも聞いてくれて便利だと思ってたけど、もう終わり。オレの事一番に考えてくれねえ先生なんかいらねーってば。今日はイルカ先生と一楽行くから帰ってくれってば」
「ナ、ナルト・・・?」
え・・・・?今、なんて言った、の?
カカシの顔は更に青くなり手は震えだした。
「う、嘘。嘘だよね?オレと別れるなんて言わないよね?」
「もう、煩いってばー。別れるって言ったら別れんの!カカシ先生はもういらないんだって。分かったらあっち行けってば」
ナルトは犬を追い払うようにシッシッと手を振った。
「飽きたってこと?」
ナルトの中でカカシはもうどうでもいい存在になっている。その為震えるカカシを振り返ろうとも思わなかった。
だからカカシの表情の変化に気付けなかった。
さっきまでナルトの機嫌を取ろうとにこやかに笑っていたカカシは何処にもいない。彼の心には真っ黒な渦が広がり、それは今にも溢れ出そうだ。
「そう取って貰って結構だってばよ。大体カカシ先生しつこいし、面倒臭いってば」
替わりなら幾らでもいるし。
そう呟くナルトの声が耳に入りカカシは恐慌状態に陥った。
可愛さ余って憎さ百倍。
嘘、嘘だよ。あのナルトがオレを捨てるなんて有り得ないでしょ?
冗談だよね?嘘だよね?いつもの意地悪だよね?
嘘だって、早く言ってよナルト。
オレはナルトがいなきゃ駄目なんだよ?なのにお前はオレがいなくても平気だって言うの?
でないと・・・・・。
ナルトを失うのだと分かり、プッツリ神経が切れたカカシは我を忘れた。
「るさない・・・・許さない!お前がオレから離れていくなんて!!」
カカシは振り上げた拳でナルトを殴り気絶させてしまった。
「っはあ、っはあ。はは・・・・あはは、倒れちゃった」
カカシは壊れた人形のように笑って、ナルトを担ぎ上げると瞬身の術で姿を消した。
後には疲れて眠る一羽の鳥だけが残された。
ジャラリと耳障りな音が聞こえ、ナルトは首を傾げる。
ん・・・・?オレ、どうしたんだっけ。
今まで寝ていたのか、カカシと会ってからどうしたのか全く分からない。ただ頭の後ろがズキズキと痛むのだ。
ナルトは首を回そうとして違和感を覚えた。
首に何か巻きついてるってばよ。しかも何で目の前が真っ暗なんだってば?何で声が出ない?何で身体が動かないんだってばよ!
「ああ、ナルト起きた?」
不意に頭上から聞こえてきた声にビクッと身体を震わせる。
ベッドで横たわるナルトに覆い被さったカカシはその姿を見て満足げにクククッと笑う。そしてナルトの口に巻いていた猿轡を外した。
「・・・・・・」
何だってばよ、今の笑い声は。
不気味な笑い声にナルトは例えようもない得体の知れぬ恐怖を感じた。
今までナルトはカカシをいい様に使ってきたが、カカシはいつも困った顔をしながら嬉しそうに何でも聞いてくれた。
怒った顔は何度も見たが、それは恐怖を感じるようなものじゃなかった。
優しいカカシ。
自分を甘やかしてくれるカカシ。
それがナルトが知っているカカシの全てだった。
けれど目の前にいるのは知らない男のようだ。カカシの声をした別の誰か。
「だ、誰だってば?こんな、こんな事して許されると思ってるってばっ?」
ナルトは震え上擦った声で姿の見えぬ相手に向かって叫んだ。
「クスクス、ナルト可愛いー。誰ってオレに決まってるじゃない」
カカシは耳元で囁き、まろい頬を手の甲で撫で上げた。
「ナルトが大好きなカカシ先生に決まってるデショ?」
ゾクリ。
ナルトは恐ろしさに叫び声を上げそうになった。けれどすぐにカカシが再び猿轡を噛ませた事で、助けを呼ぶ声はナルトの口に飲み込まれた。
「いいねえ、ホーント可愛い。クスクスクス。お前ね、自分がどんな格好してるか分かる?」
そう言うとカカシはナルトの首に巻かれたものから繋がる鎖を引っ張った。
「ううっ」
くぐもった呻き声が猿轡から漏れてくる。
「コレね、犬の首輪だよ。黒いやつ。ベッドに繋いでんの。それから目が見えないのはマスクをしてるからね。あと体は弛緩薬打ってるけど、念の為に鎖でぐるぐる巻きになってるから」
な、んだよ、それ。
ナルトはカカシが愉快に話す異常な行動に絶句する。
「オレねナルトが別れるなんて言うからびっくりしちゃった。思わず殴っちゃったけど大丈夫?どこか痛くない?」
痛えって・・・・・コイツが殴ったのかよ。最悪。騙された。カカシ先生がこんな奴だなんて知ってたら付き合わなかったってばよ。
「ああ!そうか、答えられる訳ないよね。クスクスッ」
早く・・・・うちに帰りたいってばよぉ・・・・・誰か気付けってば。
「う~ん、でも反応が無いとイマイチ面白くないなあ」
だから、これ外せってば。
「口とか自由にしたらお前騒ぎそうだしね」
当然・・・・あ、なんか朦朧としてきた。
「じゃあ、身体に聞いてみればいいか!」
は!?な・・・なに、何言ってんだってば?・・・・・・。
「ナルトが可哀相だから任務の事考えて、遠慮して日にち空けて抱いてたけど、もうずっと一緒にいるんだからその必要もないよな」
いっしょ?一緒って何だ?何だってばよ!?
最早ナルトにはカカシの言葉が理解できない。
カカシは鼻歌を歌いながらナルトに巻いた鎖をジャジャラと外していく。
「ムフフフ」
やだ、やだってばよ・・・・・カカシ先生怖いってば。
ナルトはうつ伏せにさせられ背後から圧し掛かる上忍に恐れを抱いた。
絶対変だってば・・・・きっと頭がおかしいんだってばよ。
「服も脱ごうね」
カカシはナルトを全裸に剥き始め首輪で支えて脱がせられないシャツはクナイで裂いた。そして全て脱がし終わると自分のズボンを寛げた。
ナルトは悔しさにマスクに隠れた瞳から涙を流す。
だからってこんな事許される訳ねえってば。
「ああ、もっと早くこうしてれば良かったんだ」
カカシはどこかの螺子が外れてしまったのか、嬉しそうににっこり笑う。
「外にはお前に色々吹き込む奴がいるんでしょ?だからあんな事言ったんだよね?ここなら嫌な事や面倒な事を言われずに済むし、傷付かないよ。可哀相に可愛いナルトはオレが護ってやらないと」
護る・・・・護るって何・・・・・・。
ナルトは逃げる為に必死に思考を巡らせるが、臀部に熱く硬い物を感じて息を詰まらせた。
「んんっ」
これって、これってアレだよな?やめろってば!オレはもうカカシ先生とはしたくないんだってばよ!
「ナルト・・・・お前を愛してるのはオレだけなんだよ?」
耳元に熱い吐息が流し込まれると同時に、ナルトは下半身が裂ける痛みと焼けるような熱さを感じた。
「んーーーーーー!んっんんっ」
「ん、さすがにキツッ」
いくら何度もカカシを受け入れてきた蕾とはいえ、慣らされずに衝き入れられれば当然裂ける。筋肉が弛緩しているからまだマシかもしれないが、逆に力が入らないのは簡単に屈伏させられそうで恐ろしかった。実際この行為を止めてくれるというのならば、何でもしてやるとナルトは思う。
「んっんっんっ」
声を上げられないのはとても辛い。叫ぶ事で少しでも痛みは軽減できるかもしれないのに、それができないのはかなり辛かった。
「はっはっ・・・・・久しぶりっ、だから・・・・気持ちイイー・・・・」
カカシは音が響くほどナルトの尻に腰を打ち付けてうっとりと囁いた。
痛い、痛いってばよ。しかも何か、訳わかんなくなってき・・・・・・。
突き上げられる度に己を見失いそうになる感覚は高い所から落ちる瞬間に似ていた。それが更にナルトを恐怖の底に陥れる。
「んーーーー!」
ナルトは裂けた皮膚からとろりと血が滴り、カカシの体液と混じるのを感じた。
せんせいの我慢汁出ちゃってる・・・・・・・。オレの身体ん中に、出てる・・・・・・。
「!」
不意にカカシの手がナルトの前に伸びてきて、曝された一物を長い指が握り込んだ。
「はっ、はっ・・・・・オレばっかり、気持ちよくちゃ駄目でしょっ・・・・・・」
カカシの手がスライドすると、痛みばかりの中で身体は本能から悦びを拾い上げた。
「あは、なんだ・・・・勃ちあがりかけてるじゃない・・・・・」
「んぅっ・・・・」
笑いを含んだ声に腹を立てても男の本能には抗えず、しかもカカシの雄を覚えている蕾は確かに喜びを感じ始め、肉壁は誘うようにカカシを包み込む。
「はあっ・・・・あああ、いい感じ、ナルトの中ってホント最高だよ、ね・・・・」
それからナルトはいつ終わるとも知れぬ屈辱の時間をカカシへの憎しみと恐怖だけで過ごした。
気付いた時にはナルトは射精し尽くしていた。
「ナルト、出すよ。いいよねっ」
カカシは既に意識を飛ばしかけているナルトに囁くとズシンと重い突き上げの後、溜まっていた精液を放った。
ぐったりと眠りに沈むナルトをカカシはうっとりとした色違いの目で見下ろす。
「オレから離れるなんて、間違いだって分かるよね?」
すっかり暗くなった部屋でカカシはナルトの髪を梳いた。
「ナルトの目が見たいなあ」
カカシはナルトの両目に掛かったマスクを外してやる。
「泣いてるの?何で泣くのナルト」
カカシにはナルトが泣いている理由が分からない。
涙の跡が残る頬をカカシは指でなぞり、きつく閉じられた瞼に眉を寄せる。
「ナルト、起きてるんでしょ?目を開けて美しい蒼い瞳を見せてよ」
けれどナルトからの反応はない。
ぜってえ、開けねえんだってば!オレ、カカシ先生なんか、大嫌いだってば!顔も見たくねえ!!
薬が切れてからナルトの身体は動くようになったが、さっきの酷い暴行で身体は起き上がる事すらできない。
「ナルト!」
癇癪を起こしたカカシは無理やり瞼を開こうとする。
「んっ!」
痛い、痛いってば!
ついにナルトは目を開き抵抗できない身体の代わりに力を込めてカカシを睨んだ。
「っつ・・・・・・なに、な、んで、そんな顔するの?嫌だ・・・そんな目で見るな!」
カカシは自分を睨み付けるナルトの瞳を見たくなくて、辛そうに再びマスクを掛けた。
どうして、どうしてそんな目をするんだ!?
オレはナルトを野蛮な世界から救ってやったのに!
オレだけがナルトを理解してやれるのに!
カカシは怒り荒い息を吐く。
「っく・・・はあっはあっ」
暫くしてカカシはクククッと低く暗い笑い声を漏らした。
その声にナルトの身体は緊張する。今更ながらにカカシを挑発した事を悔やんだ。
「ナルトの瞳、オレだけの・・・・・・」
ぶつぶつ呟くとカカシはベッドから降りて棚の中から一本の注射器を取り出した。
「だいじょーぶ、痛くないよ。これで綺麗に取り出してあげるから」
意味不明な、けれど不穏な言葉にナルトの緊張は高まる。身体を捩るが、逃げる術などない。
嫌だ、嫌だってば!!誰か、助けてくれってばよ!ばあちゃん!イルカ先生!エロ仙人でもいいからっ!!!
「クククッ」
最早身体のだるさなど問題ではなかった。ナルトは無我夢中でベッドの上を這いずる。
「ちょっとチクッってするからね~」
カカシは容易くナルトを捕らえて細い腕に針を挿入する。
「んーーーーー!!!!」
「これ最近暗部用に開発された即効性の薬だって。すぐに感覚無くなるから。モニターに貰ったんだけど、まさか役に立つとはなあ」
そ、そんな薬・・・・・・使ったんだってば?
感覚なくして、どうするつもり、なんだってばよ・・・・。
「さあ、綺麗なお目めを見せてね~」
カカシはクナイを握りナルトのマスクを剥ぎ取った。
「んんんっ!?」
ナルトの蒼い瞳に鋭く光るクナイの切っ先が映った。
「クスクス・・・・綺麗な目」
それはゆっくりと振り下ろされ・・・・・・・。
うああああああ!!!!
「!!!!!」
ぐちゃ、と嫌な音がナルトの耳に聞こえた。
ナルトはもう一方の目を見開き取り出された血の滴る自分の瞳を見た。
「くふふふ、あはははっナルトの目、オレだけのナルトの瞳」
カカシは恍惚の表情を浮かべて抉り取った片目を愛おしげに舐め、液体が入っている瓶の中へ滑らせた。
「ふ、ふ・・・・・ふ・・・・・」
ナルトは自分の身に起こった衝撃の光景に息すらまともにできないまま気を失った。
「可哀相にびっくりしちゃったね・・・・クスクス」
そしてカカシはもう片方の目にクナイを振り下ろした。
「ねえ、ナルトどうして泣いてるの?」
カカシは鎖でベッドに繋がれ両の瞼から涙のように血を流すナルトを見て悲しそうに髪を撫でた。
「・・・・・・・」
「笑って?」
カカシはにっこり笑ってナルトの唇にキスをする。
「笑ってよ、ね?」
それでもナルトは笑わない。
カカシには理由が分からず首を傾げてもう一度笑うように言う。
「どうして笑ってくれないの?ねえ、ナルト、もう悲しむ事はないんだよ?」
するとナルトは唇だけを笑みの形に変えて二度と開く事のない瞼から赤い涙を流した。
END