三忍三様・恋模様
「ナルトどこ行ってんの?」
カカシの呟きは待機所にポトリ虚しく落ちて誰に拾われる事なく消えた。
「どうしたカカシ」
丁度入って来たライドウがボーッとしているカカシを捉まえて空虚な瞳の前で手を振る。
「大丈夫か?」
「ナルトがいない」
答えになっていない返答をするカカシに、しかし害した様子もないライドウは「ああ」と手を打った。
「あいつなら任務で暫く砂行ってるぞ」
「砂・・・ああ?なんで砂よ」
「知るかそんなの。任務だろ」
文句なら火影様に言え。
「・・・・・」
「おいカカシ?」
カカシはフイと顔を背けてどっかり長椅子に座り込んだ。
「どうしたんだよ」
「よく分からんがカカシの奴・・・」
ヒソヒソ話す仲間の声を鬱陶しく追い遣りカカシは腕を組んで目を瞑る。
ナルトの顔が見れないだけで心が荒ぶ。安寧を得るにはあの笑顔が必要だがその表情は久しく見ていない。カカシの手を離れてからナルトは全く心から笑わなくなってしまった。本人は気付いていないだろうその事実に自惚れを抱くが、見向きもされないでは虚しいばかりだと気付く。
「くそっ」
何の用事であれ今日明日は戻らないだろう。
「砂か」
かの地は今のカカシにはとても遠い。
灼熱の赤砂の上を走るナルトは突き刺す陽射しに目を細めた。
あと三日くらいだってばよ。
久し振りに会った我愛羅は相変わらず読めない表情をしていたが、付き合いの深いナルトから見ればとても元気そうで安心した。
「久し振りだなうずまきナルト・・・会いたかった・・・」
「我愛羅、ははっ。オレもだってばよ!」
彼にしては珍しい、余りにも純粋な言い様に一瞬目を見開いたナルトだがすぐに気を取り戻し差し出された手を握り返して安堵の笑みを深くした。
「オレも、ずっと我愛羅ん事考えてたってばよ」
「ここだ」
分隊長シカマルの声に気付いて回想から意識を戻したナルトは示された要塞を睨む。―砂の城―だが堅固な造りはその形容詞を覆している。中も素晴らしい仕掛けがわんさかあるのだろう。攻めるならば潜入後内からかそれとも堂々と外側からか、どちらが有利だろうか。
「叛乱分子の館ってあれだってば?」
「あの、意外と簡素なんだね」
「ヒナター、上忍としてその感想はどうなんだよ?」
仲間の突っ込みに対し彼女はさっと顔を赤らめて俯く。
「ははっ。キバに言われたくねーってばよな。な!ヒナタ?」
「ナルト、てめっ」
「ナルト君・・・」
「おいお前ら上忍か?ヒナタ、白眼で頼む」
「わ、分かった」
「シカマル~何ぶってんだよー」
ナルトの文句に目を細めた隊長は吐息を漏らすだけで何も言わない。
その態度が同里の誰かに似ている気がしたキバは次のナルトの科白に目を開いた。
「うがっ何だよその態度っ。ネジみてえ!」
確かに!けどな、これから突入するんだぜ?お前大丈夫かよ。しっかり頼むぜ。
「煩え、静かにしろよ」
「ああっ?キバまで言うかよ」
「今はそれどころじゃねーだろ!」
「・・・ムッ」
ナルトは不貞腐れた顔で再び敵側を睨んだ。
「で、どうすんだってばよシカマル?」
敵地の目と鼻の先に到着してから十分は経過している。問われた隊長は腕を組んで目を瞑り何やら思案する様子。焦れたナルトはぶん、と腕を振って隠れている岩陰から立ち上がろうとする。
「うしっ正面突破か!?」
隣にいるキバは慌てて腕を引っ掴み、その目立つ頭を早く隠せ!と押さえ込んで無理やりしゃがませた。
「バカッ、危険過ぎんだろ」
「イテテッいてーってばよ」
それを横目にシカマルは白眼使いに囁く。
「どうだ?ヒナタ」
「情報よりも敵の数が多い。多分・・・砂の里も把握しきれなかったんだと思う。二階に十人、三階・・・それから最上階に沢山いる」
「よっしゃ!最上階が重要って訳だな」
「てめーはすぐそれだ。黙ってろ。なあ隊長どうするんだよ」
飛び出しそうなナルトを押さえて視線をシカマルに向ける。この班の分隊長はシカマルだ。キバは全て彼の考えに従うつもりだった。
「ナルトの意見も尤もだが、一階が手薄過ぎんのが気に掛かる」
何時に無くやけに慎重なブレーンにキバも眉を顰める。
「あっ」
「どうしたヒナタ」
「急に動きが活発になった。もしかして・・・」
「チッこっちの居場所がバレたか。失敗だが仕方ねえ、ナルト跳べっ!援護する!」
「っしゃー!待ってましたってばよ!」
「クソッやっぱ正面からかよっ!ヒナタ、行くぞ赤丸っ!」
「ワンッ」
「ナルト君私も援護するから!」
四人は一斉に岩陰から飛び出し要塞目指して真っ直ぐ走って行く。放たれた矢が頭上に降り注ぎそれをヒナタは八卦六四掌で跳ね返した。キバは赤丸との連係技でナルトの針路を護る。
「任せたナルト!」
「オッケー行くってばよーーーっ」
ナルトは影分身を使って彼らを踏み台に二階の出っ張った屋根に足を掛け勢いそのまま屋上に上がった。
ここにボスがいる筈だ。
ざっと見た限り二十人はいるだろうか。ナルトはさっと目を走らせ、ジリジリ寄ってくる敵を睨んで彼らの纏め役を探す。
だが見つけ出す前に一人の忍が飛び掛かって来た。ナルトはすかさず右に跳んで手裏剣で応酬する。けれど相手も素早かった。鋭いクナイがナルトの左頬を掠めて柔らかな皮膚を破り赤い血を流す。これで毒が塗られていれば終わりだ。
「クソッ」
ナルトは悪態を吐いたが却って闘志は燃えたようだ。互いに退かぬ応戦を繰り返しながらそれでも着実に相手方の数を減らしている。
「見てろってばよ。ぜってー全員倒してやるからな!」
ナルトは高らかに宣言をしてまた一人ターゲットの前に突き進む。
だが次の瞬間全てが静止した。
「よし!そこまで!」
その声で周りの人間がピタリと動きを止めた。ナルトも相手を睨み付け、その額に拳を突き付けた体勢のまま止まっている。
掛け声から数秒経ち彼はゆるゆる手を下ろしてフッと笑った。
「あんたツイてるってばよ」
もう少しナルトの動きが速ければこの忍は盛大に飛ばされていた。それがサクラの威力ほどでないにしろ。
「うずまきナルト相変わらずスゲーじゃん」
「カンクロウ!」
「ナルト、やったか?・・・おっ!半分ってとこか。砂も大健闘だな」
「ナルト君・・・凄い」
「だが実戦ではサポートがかなり重要になってくる突入方法だ。改良の余地あり・・・ッスね。そもそもこんなやり方普通じゃ考えられねえよ」
シカマルは横目で原因を示し溜め息を吐く。
「あ?なんでオレを見るんだってばよ」
「バーカ。もとはと言やお前が騒いだからだろーがっ」
「ああっ?キバッ」
木ノ葉のリーダーはカンクロウを見て苦笑いを零す。しかしカンクロウは首を振って親指で背後を指した。
「それはこっちも同じじゃん」
すると陰から一人の上忍が進み出て頷いた。
「だが木ノ葉との合同演習でみな大分鍛えられている」
「その意見には賛成じゃん。今までは一方的な見方しか出来なかったのが、多方面からの可能性を考えられるようになったじゃん」
「カンクロウの言う通り、木ノ葉と合同訓練を始めて以来実戦での段取りが格段に良くなっている。このカリキュラムに賛同し協力してくれた木ノ葉には感謝している」
「あっははは!ダッセーってば」
快活な笑い声を耳にして真面目に話していた三人が同時に振り返った。彼らの背後では楽しげな会話がまだ続いている。
「しっかしナルトの演技も堂に入ってたよなー!」
「そう言うキバだって楽しんでたってばよ」
「ヒナタも割とノッてたしな」
「えっ、わ、私は・・・」
「まーいーじゃん?楽しいのが一番だってばよ」
ナルトは仲間に曇りの無い瞳を向ける。その心に鬱積した悩みや怒りは見られず実際彼は明るかった。その久し振りに見る様子にキバとヒナタは顔を見合わせたがナルトはどこまでも晴れやかだった。
続く