三忍三様・恋模様
「オレより報酬貰ってんだろ?」
なぜこの男と夕食を共にせねばならんのか。
悲しい。悲し過ぎる。今頃サスケとあの女の子は気取った食事処にでも行っているだろうに、オレは喋りたくもない男を目の前にして質素な食事を淡々と飲み込むなんて・・・最悪だ。
ナルトは大根の皮を器用にするする剥きながら、狭い台所で隣に立つカカシに向けて嫌味を一つ吐いた。
言った所でこんなのは屁でもないのだろうけど。
「じゃあ金さえ払えばオレの世話をしてくれるのか?」
「ばっ・・・」
馬鹿じゃねぇの!?
「んな、訳、」
ナルトはしゃりしゃり剥いていた手を無意識に止めて、まじまじカカシを見つめいやにドキドキしている胸に焦った。
「なんてな、嘘だよ。お前を金で買おうなんて思わないから」
安心しなさい。
「ぐ、」
何だよ。マジかと思ったじゃん。
「あれ、どうした?」
「んでもねー」
少し顔を赤くして再び手を動かし始めた彼をカカシが不思議そうに覗き込む。
「ナルト」
「・・・何だよ」
「付き合ってくれ」
「今それを言うのかよ」
「オレってかなりいいよ?高給取りの上忍だし、大人だし、顔もいいし、頭も最高にいい」
スラスラ美辞麗句を連ねる相手に一番大切な事を忘れていないかと思う。
「しかも男だってば」
「それは今更だ」
お前の付き合いは男女関係ないだろ。比率は女子の方が多かっただろうけどね。それとも、もしかして男はアイツだけ?
「もう恋愛しねーの!」
「一生?」
「わかんねえけど」
恋愛に臆病になっているのかもしれないとナルトは思う。それは先日別れた相手の所為ではなくて、元来幼い時分から相手の好意を素直に受け取れなかった自分の責任だ。そうなった経緯がどうであれ・・・。
「オレ人気あるよ~?結婚したい女一杯いるんだぞ?」
「ならその女達と結婚すれば?あ、全員とは無理だからちゃんと一人を選べよな!カカシ先生女に対して優柔不断な所あっからさ」
「・・・・」
自分から話題を振り、ものの数分で撃沈された男は台所の床に蹲って呻く。その姿を見下ろしたナルトは大いに呆れたが、丸まった背中を眺める内顔から表情が消えた。
「あんたも・・・アイツみたいに」
「なあに?」
「・・・・・・」
言えない。付き合った途端、これだけ求めてくる相手から飽きたと言われたら―――怖いだなんて。
「ナルト」
「カカシ先生の考えてる事訳わっかんねー」
態と明るく振る舞って只管皮を剥く。もうカカシも呼び掛けない。
二人の間に野菜を剥く音だけが流れる。
「なんでオレなんだよ」
飲み物を取りに席を立ったナルトは、結局リクエストで煮魚になったおかずに箸を付けている男へのぼやきをこっそり吐いて、食べ終わったらさっさと追い出してやろうと思う。
『あーあ、サクラちゃんだったら即オッケーなのにな』
とは流石に口に出して言えず心に秘める。
だが幾日も経たない内にナルトはそのサクラに会う事になる。
その日ナルトは参考資料として借りた巻物を返却する為にアカデミーに足を向けていた。ついでに次の任務受付を済ませようという魂胆だ。
さて任務も決まったし、どうせ今日は特別な用事も無い。家に帰って立派に蔓を伸ばす朝顔の世話でもするかと外に出た所で綺麗な桃色を見つけた。
「ナルトー」
「サクラちゃん。久し振り!元気だったってば?」
「元気よ。あんたもね。そ・れ・よ・り!ナルト~この間の任務サスケ君と一緒だったらしいじゃないの!教えなさいよ」
「えーと、それは」
好きな女の子に会えたのは嬉しいが、先日公園で見たサスケ達の姿がチラつき非常に気まずい。サクラが知る由はないのだが顔を合わせているだけで罪悪感が湧く。
「ナルト?」
「あっ、や、サスケは相変わらずだったってばよ」
「うんうん。やっぱりカッコいいでしょうサスケ君は」
日陰を歩きながらサクラは満足げに頷く。そしてあんたはどうなのよと返してきた。
「どうって、オレってば今恋愛してる場合じゃねえし」
「ふうん、ナルトを好きな女の子結構いるわよー?」
「相手が女の子ならよかったってば」
「え?なに、ええ?・・・・・アンタもしかして、男から告白されたの!?」
流石は恋愛事に詳しいサクラ。有り得ない可能性にもすぐに気付いた。
「もしかしてだってばよ。しかもカカシ先生」
「えっ、うそっ。キャーッやるじゃないカカシ先生!最高っ」
「最悪」
「どうして!いいじゃな~いっ大人の彼氏。カカシ先生あんなだけどよく考えたら容姿から財力までパーフェクトだし、カッコイイわよ。オッケーオッケー、付き合っちゃいなさいよー」
「・・・無理だってばよ」
「今時同性だからってなんてことないわよ。あんたならアリ!いいわいいわ、素敵~」
「サクラちゃ~ん」
勝手に盛り上がる彼女にナルトは心底参った声を上げる。だが彼女の夢を制止したのは彼の呼び掛けではなかった。
「二人共楽しそうな話だね」
いつから見ていたのか、人の影がスッと二人の前に現れた。
続く