幸せの鍵
ナルトが発信した直後の火影邸。
周りに宥められて漸く休み始めた五代目の許にシズネが駆け込んできた。
やっと休んだ彼女を起こすのは本意ではなかったが、どんな怒鳴り声が幾ら飛んでこようとも、伝えねばならない情報だった。
当然うずまきナルトの事である。
案の定綱手は目を剥いて怒った。すぐさま暗部を呼び寄せうずまきナルト捕獲を命じ、(既に現場は停戦していたが)それによって接触を図ろうとする草の忍への警戒作戦が広く展開された。
だが一方で当人の意思が固い事も長年の付き合いから解っていた。
暗部とシズネが下がってから暫くして綱手は迷いを感じた。 どちらが正解か。
一人きりの部屋で答えられる者はない。
誰にも分からない問いだった。
ナルトがテントを出ると数人の上忍が事の次第を説明するよう詰め寄った。
取り囲まれたナルトは視線を逸らさずはっきりと伝えた。
「言った通りだってばよ」
しかしそれでは彼らは納得しない。
参った頃、後ろからサイが来て、にこやかな笑みで、火影がナルトを呼び寄せていると伝えた。
ナルトは僅かに抵抗を見せたが、次に現れた補佐候補シカマルに腕を引っ張られて輪から抜け出した。
「ナルト!このまま草まで走るぞ」
「へっ!?だってばあちゃんが」
「ありゃハッタリだ上忍連中、いや今は皆が賛否両論で騒いでる」
「ヘヘッ」
ナルトは友人の機転に笑った。
「笑ってる場合じゃねーだろっ!」
大きな赤丸に乗って後から追い付いたキバが怒った口調で言う。
「サイもサイだ!」
「何でサイだってばよ?」
「この言い出しっぺがコイツなんだよ!へらへらした顔しやがって」
「ありがとう」
「誉めてねーッ。いいとこ持っていきすぎなんだよ!」
「文句そこかってばよ!」
「お前ら国境過ぎたら真面目にやれよ」
シカマルは呆れ気味に言って、けれど己も己だと舌打ちした。
あの放送を聞いた時、第一に出たのは『あいつ、やりやがった』という苦い思いだった。まさかそう出るとは。思いも寄らぬ、流石はうずまきナルトの戦法だ。
だがどの方向へ進んでもサポートすると里を出た時に自分の胸に刻んでいた。
考えは時折四方へ飛ぶが体が動く方向に迷いはない。
ナルト、シカマル、キバ、サイは破壊された森や草原、消えてしまった村、崩れかける家屋の群を走り抜けて草の大地に立った。
「第三者交えてっつったけど、来ちまったってばよ」
「平気だろ。なんかありゃ俺達で食い止める。な?シカマル」
「全員の力でな・・・・ただ」
「なんだよ。お前まさか今更っ」
「じゃなくて、シノ。忘れてきたな」
「あっ・・・マジだ」
このタイミングで思い出すシカマルの頭も天才的だが、忘れられるシノの影の薄さもある意味能力だ。
三人はハッと目を開き後の始末を考えて疲れた吐息を漏らした。
「あいつ、また恨むな」
ぽつり溢す前方に草の陣が見えた。
しかし遠目に観察してもそこはひっそりと鎮まっている。
「罠かもしれないよ」
サイが言う脇でキバが腕を鳴らす。
「ここまで来たらそんなの問題じゃねーよ」
「だな」
シカマルは先陣を切ってナルトを庇う様に前に立った。
「お前はすぐ突っ走るからな。絶対に俺より前には出るなよ」
「じゃ、後ろは俺達で」
キバは笑ってサイの肩を掴んだ。
隊列を決めそうこうしていると、フッと見知らぬ気配が現れた。
「やはり来て頂けたのですね」
あの草の忍だった。
「知り合いかぁ?」
「ああ、ちょっと前に・・・」
「ナルトを迎えに来た方ですね」
サイお前そんな丁寧に悠長な。
キバが呆れた眼差しを送るも当人は気付かず、草の忍がまた口を開いた。
「皆様をお迎えに上がりました。どうぞ我が里へ」
それは懇願に近くあの時纏っていた剣呑なチャクラはどこにもない。
「分かった」
「俺達もそのつもりで来たしな」
ナルトの応えにシカマルも同意して四人は草の忍の後を付いて行った。しかし依然として気は緩めず、シカマルもナルトを前には出さなかった。
まあ本当の所、仙人モードになれば誰の力も及ばず、助けも必要ないかもしれないが。
里の一番奥の建物の吹き抜けの廊下両側に大勢の忍が行儀良く控えている。
ナルトは既視感を覚えて、少ししてああ、と合点した。
大名が通りをゆく時の風景に似ていた。
彼らの中にはくノ一も交じっていて、決まった並びではないようだがどれも落ち着いた顔をしている。殺気立った者はない。
「みな、うずまき様を待ち侘びておりました」
その言葉にキバが怒鳴り掛けたがサイが止める。
「こちらから仕掛けた事は、大変遺憾な愚策でした」
「分かってるぜ、でもな後は里同士の事だ。あんた達の大将に聞く」
珍しくシカマルが挑戦的に言い放った時広い部屋の扉が開いた。
ここが到着、行き止まりだ。
「ひれぇー座敷だな」
四十畳は軽く越える部屋を覗き込んだキバは声を上げて広々とした空間を眺めた。
中央奥に主人の席が見える。
そっと扉が閉まり、部屋の中には例の忍とナルト達だけになった。
草の忍は彼らを促し、シカマルは先に前へ歩を進めた。
するすると垂れていた御簾が上がる。
ナルトはどんな人物と対面するのかと緊張していた。
もうすぐ姿が現れる。彼はシカマルと並び立ち椅子を睨んだ。サイもキバも同じく。
不意に四人の表情が変わった。
「えっ・・・なんで?」
ここまで来たのは里長と話をするため。
しかし玉座には、誰も居なかった。
続く