二人が愛を確かめ合った数日後。
「ナルトならいなーいよ」
カカシはナルト宅の玄関前に立つ黒髪の女の背に声を掛けた。
「カカシ」
後ろ姿でもパッと見ただけで分かる、同僚の夕日紅だった。
「あら、いないの。そう、ふーん」
「何」
自分の顔をじっとみつめる女にカカシは無表情で聞き返した。その態度はナルト以外に見せる笑顔はないといった感じだ。
「ナルトがいないからカカシ寂しそうなんだと思って」
「嫌がらせか」
「あら、今までのカカシからしたら大きな変化じゃない!さすがナルトね。あんなろくでもない男がマシになったんだから!」
成長したわよ、と嫌味たっぷりに刺々しい言葉を吐きまくる紅はにっこり笑って、少し見直したわと言った。
「少しってなあ」
「だってそうじゃない?ナルトに感謝しなさいよ」
「はあ・・・結局褒めてるのはナルトなんだな」
カカシはポーチから合鍵を取り出して帰ろうとしている同僚を引き止めた。
「どうせ来たんだから上がってけば?茶くらい出すよ。」
「ふふっお邪魔するわ」
「どーぞ」
男が持つ銀色の鍵を見た紅は妙な笑いを零してナルトの部屋に入った。
「珈琲でいいよな?」
「ええ!牛乳以外なら何でもいいわよ」
カカシはナルトが恋人の為にと用意してくれた珈琲を淹れて椅子に座った紅に差し出す。
「ナルトに用があったんだろ?残念だったな、あいつ当分戻って来ないよ」
「苗を貰いに来たんだけど、今日じゃなくても構わないわ。それより・・・当分ってどういう事?」
「んー、通常任務に就いたらいきなり重要な任務に行かされちゃってね」
カカシは紅の向かいに座って軽く笑った。以前ならばこうして笑えはしなかっただろう。想いが通じ合った今でこその余裕だ。
「えっ!?結局長期任務に行っちゃったの?」
カカシは頷いて紅が知らない経緯を話し出した。
「ふぅ、そもそもあの五代目が無条件で協力してくれる筈がなかったんだよねー。ナルトを暗部から引き出す切っ掛けにはオレを使うのが丁度よかったってわけ。ったく抜け目ない人だよ」
「じゃあカカシは留守番ってわけ?」
よく付いて行かなかったわね。
「ははっ・・・正直付いて行こうかと思った」
紅の読み通り寸前までカカシは後を追うつもりでいた。しかしそうしなかったのは「じゃあオレを待っててくれる人がいなくなっちゃうじゃん」というナルトの言葉があったからだ。
「ナルトらしいわ」
カカシを抑えるには抜群の科白じゃない。ツボを心得てるわね。
「早く帰って来ないかな~」
ボーッと窓の外を眺めて呟いた男の言葉に紅は思わず笑ってしまった。
「よし、頑張るってばよ!」
ナルトは里の門の下で仲間が現れるのを待ち、拳を固めて気合を入れ直した。
さっき会ったサクラには祝暗部卒業と言われ、もう知っているのかと驚いた。この里で個人の秘密は守られているのか少し不安になる。
だがそれもサクラだからこそ知る情報なのだろうが。
ばあちゃん早速バラしたな。
「ナルトー通常任務に移るそうじゃないの!おめでとう!」
「おめでとうって、サクラちゃん」
目出度い事だってば?
「あら、だってこれでカカシ先生とまた一緒に任務行けるかもしれないでしょ?」
ああ、そうか。
言われて漸く実感が伴ってきた。
「オレってば、そんなに顔に出やすいのかなあ」
祝福されるのは嬉しいが、やはり胸に痛みも残る。
サスケ―――。
「ふん、カカシとくっついたからって俺は諦めないぜ。お前には俺が相応しい、そう信じてるからな」
任務前ナルトの自宅に現れそう言い残して面を付け闇に融けた後姿が忘れられない。
「ごめんなサスケ。オレには応えられないってばよ」
痛みが消えるまで少しかかるかもしれない。でも、もうこの幸せを離さないようにする。
己の道をカカシと共に生きて行く。
それが今の自分の全て。
「さあ、行きましょうナルト君!」
「おっ早ぇじゃねーか、ナルト」
「オレはいつも通り!ゲジ眉、キバ、ヒナタ、おせーってばよ」
「ナ、ナルト君、私がんばるから!」
「おうっ。じゃ、行こうぜ」
仲間達を見回してニシシッと笑った顔に以前の迷いはない。
これからだってばよ!
どこまでも続く晴れた空の下、望む未来を目指してナルトは再び駆け出した。
END