幸せの鍵
二ヶ月前、押し倒しかけたカカシに『元気になったら』と言ったナルトは約束通り里に帰って来た。
御預けは殊の外長くなってしまったが、危険や不安はここにはない。少なくとも当分は安泰。
忍び稼業風情が『安泰』とは笑ってしまうが、人並みの幸せを願う事まで禁じられてはいない。現に夫婦で忍はざらだ。
カカシは微かに笑って窓のブラインドを下げ月明かりを遮った。
固より部屋の光源は落としてある。
それは彼が望んだから。
「なあ、カカシ先生ー」
「うん?」
その夜カカシは初めてナルトの深い部分に触れた気がした。
薄暗い部屋で衣擦れの音がする。
移り住んだばかりの部屋で初めての秘め事。少し、いやかなり色っぽい出来事。色事。
ナルトは衣服を脱がし脱がされながら周りを見た。
ここには以前可愛がっていた植物達もちゃんと移動されて、前と同じ様に窓際と部屋の隅に鎮座している。
ナルトにとって何もかもが新しく新鮮なのに、よく見ると肝心な所はしっかりと前のまま、彼好み使い易い様にされている。
それはカカシらしい気配りだったが、植物に関しては、親しんできた彼らの前で及ぶ行為に少し後ろめたさを感じて天井を見上げた。
「んはっ・・・」
されるのは初めてにも拘らず、自分のものとは思えない息が漏れて恥ずかしさにシーツに顔を埋める。
「我慢しないで、もっと」
意地悪なつもりはないのだろうが、耳元で囁かれると、胸が高鳴り破裂しそうになる。
好きな人の事を想像しただけで赤面し、床を転がりそうになる乙女の様な感覚に陥ったナルトは戸惑いつつ空気を求めて口を開いた。
なのにそこへカカシは舌を潜り込ませてナルトの意識を奪う。
密着した体、下の方で熱を感じる。
ナルトは必死に息をしながら、昼間、その鼻は何の為に付いているんだと揶揄されたのを思い出した。
「ンーーーッ」
急に下肢を割られて焦って振り返ろうとするが、やはりカカシ、普段はヘタレて見えても男に変わりなく、存外強い力で阻まれた。
「だいじょーぶ。ゆっくりやるから。・・・と、言ってもオアズケが長過ぎたからな」
「っつ、」
箇所を卑猥に触られて、ナルトは思わずエロ上忍!と叫びそうになるが、さっきから感じているカカシの熱に動きが止まる。
「それともこっちを先に可愛がった方が良いか」
長い指が前に絡んで息が止まる。
「はっ、は・・・」
「んー、ナルトって子犬みたいね」
バカ!変態!エロ上忍!
思い付く限りの雑言を心の中で浴びせるが勿論当人には届かない。
「ト、にっ・・・」
「ん?」
「ヤマト、たいちょ・・・に、チクってやる・・・ぅっ」
「あぁ、うん。それは無理でしょ」
ナルトとて本気ではないが、カカシはあっさり流して笑う。
そしてナルトの首の後ろを唇でなぞりつつ、小さな声で教える。
「テンゾウは向こう一年、オレの命令に逆らえない事になってるから」
「ん・・・え・・・?」
「ま、お前を止められる奴なんて、そうそういないと思うケド?」
約束は約束だし。
何の話か分からないが、ぼうっとした頭でも、どうやらヤマトが理不尽な扱いをされているのは分かった。
可哀相なヤマト隊長。
もしかして、
『悪くなくてもね。君はカカシ先輩というものを分かってないなあの人は・・・』
なんだそれっつって、オレってばちゃんとカカシ先生の事分かってるって、言いたかったけど。
上忍のくせ遅刻魔でエロで極度のイチャイチャシリーズファンで、かと思えば急にカッコいーとこ見せたりとか、時々、ヘマすっけど。(チャクラ切れで入院とか)
ほら、オレってば分かってんじゃん、とか。
思って・・たけど・・・。
「―――つ、あァッ!」
これ程のエロとは!!
「こら、余所見しなーいの」
「あっあっ」
既にあちこち触られて耐性も免疫もなく小刻みに震えるナルトを、背後から攻めるカカシは一種の優越感と快楽を味わっていた。
「ぁーーー」
執拗に追い上げると、はふはふと息を上げたり、堪え切れない声をそれでも抑えようとする、その健気さに(彼のご両親への背徳とすまない気持ちはあったが)却って笑みが深まる。
「っ、ク―――」
「あー惜しい、イっちゃった?」
「だ・・・アホッ!惜しいとかゆーな!カカシ先生が手加減しねーからだってのにっ」
「惜しいってね、そーいうイミじゃなくて」
口でしてあげたかったなあ、とか。
「ギャッやだっ恥ずかしいっ」
「・・・・色気半減」
カカシは呆れて目を細め手に残ったナルトの残滓を見た。
「ま、いいか。これからがお楽しみなんだし」
「え、ちょ、カカシ先生?」
ぐい、と引っ張られた脚の元、中心に濡れた指が触れてナルトの心臓が跳ね上がる。
幾ら覚悟を決め、自身でもこの夜を期待して今まで幾日も独りの夜を過ごして来たとはいえ。とはいえ!
「ちょっ、やっ、ま」
「待たない」
無情な一言にナルトは焦った。
この期に及んでナンだが、一緒に添い寝するだけで、幸せなような気がしてしまうのはオレだけってば!?
「最初はちょっと痛いけどね。すぐヨクなるよ」
語尾にハートマークが付いているように思えたのは気のせいか?
「優しくするから」
またしても耳元で囁く低音が強烈だった。
「うあぁあぁ・・・」
『嫌』よりも『気持ち好さ』の方で震えながら、寧ろ優しくされないんじゃないか?と思いながらナルトはカカシの手管に堕ちていった。
「ひ、あぁっんふっ」
熱に煽られ昇り詰めてなお繰り返す熱。
「やっ、んぁ、あんっ!」
「っく・・・ナルト、」
どちらがどちらの熱に煽られているのか、最早分からない程に二人は交ざり合い溶け合い、月の光が届かない場所で劣情の吐息と嬌声が谺(こだま)していた。
「か、カカシ先生―――」
いつまでも『先生』と呼ぶ癖の抜けないナルトが、抱き合って奥を突くカカシの手をぎゅっと握って長い間言えなかった気持ちを伝えた。
「あっ、す、好きだっ・・・た・・・ずっと、ァ!」
「ナルト」
あのテントでも『好き』とは言わなかった。
「オレもずっと・・・ずっと前から、好きだったよ」
カカシは何度目かの解放を迎えた瞬間ナルトを強く抱き締めた。
「アッ、アッ、せんせぇ」
全てを吐き出した後も離さずに、どうか、どうか、この子を。と何に願っているのか神なのか仏なのか、それとも四代目にか、分からないままカカシは心の中で繰り返した。
そしてナルトも何かを祈るように目を閉じた。
ささやかな願いと余韻が静かな部屋に残り、夜はそっと流れていった。
また陽は昇る。
幸せの鍵を手にした二人は畏れのない夜を共に越えていく。
それがどんな苦境でも二人一緒なら。
END