幸せの鍵
カカシが無茶をしないよう願ったナルトは第一声後、マイクの前で緊張の吐息を零した。
次の言葉を言えば、仲間は驚くだろう。反対するだろう。
けれどここまで来て胸の叫びは止められなかった。
「いま草と木ノ葉は信頼を失っちまってる。なんでこんな事になったのか、最初はぜんっぜん、分からなかった・・・正直今でも信じられない事がある。だけど、こうなった原因は理解してる。戦闘の発端とかそーいう事じゃねェ。盗んだとか盗まれたとか関係ねー」
感情が先走って上手く言えない。
ナルトは想いが伝わる事を願って続きを紡いだ。
「オレは草が欲しい物を渡しに行く。他に方法はねーって、思ってるから。けどそれはこの戦闘をやめさせる為だ。草への条件はその時言う。木ノ葉への条件は・・・・オレを信じてくれって事と、この時を以て今後一切草を攻撃しない事。また草にも同じ内容を要求する」
火影と違い、一介の忍の言葉に強制力がない事は承知だ。
だがナルトは一介の、でも“一介以上”の忍だ。
発した言葉に対して相当の動揺が生まれるだろう。裏切りと受け取られる可能性は大きい。
けれど彼自身は信じて欲しいと強く思った。
「一緒に来てくれた仲間にはありがとう、あとゴメンも言っとかなきゃな・・・それから、カカシ先生・・・オレは木ノ葉の食卓に―――」
そこで通信は途絶えた。
タイムリミットが訪れたのだ。近付く気配にナルトは急いで飛び出した。迫り来るチャクラは六つ。
暗部となれば無傷では済ませられない。
一刻も早く!
電波ジャックだけでも幾つかの罪に問われそうだが、それ以上に通信した内容が危うい。
良い悪い含め、ナルトは双方から狙われる立場になってしまった。
己のチャクラを最小限に抑え、追っ手から逃れ走っていると不意に一つの気配が現れた。
「うずまきナルト様でございますね?草の里までご案内致します」
だが、ナルトは頷けなかった。
『渡しに行く』とは言ったが、やはり一人では危険だ。
ふわり舞い降りた忍はその表現とは反対に隙の無い剣呑なチャクラを持っていた。
声の調子からはまだ若い。
が、忍に老い若いは関係ない。血継限界がいい例で、能力と才能はそこに左右されないからだ。
「賢明な判断だよナルト」
突然降ってきた声にハッと顔を上げる。
木の陰から二つの頼りが進み出た。
「サイ!ヤマト隊長!」
「すぐに走って来て良かったよ。たまにはキバの失言も役に立つね」
サイの科白は短くも全てを語っていた。
「やれやれ・・・伝言はちゃんと伝えた筈だけどね」
「ごめんってば。ヤマト隊長は悪くねーからさ」
「悪くなくてもね。君はカカシ先輩というものを分かってないなあの人は・・・」
「?」
「とにかく悪者にされるのはごめんだよ」
「ははっ」
和やかな空気が僅かに流れた所ですっと前に出たヤマトが草の忍を睨んだ。
「ここで彼を連れて行かれる訳にはいかないんだ」
「我々の許にお越し頂けると伺ったのですが」
「彼の独断では決められないのでね」
チラとナルトを見てきっぱり断る。しかし草の使者はヤマトではなくナルトに求めた。
「ご自身のお考えは」
「オレは草の里と話がしたい。思惑を抜きにしてちゃんと話し合いたい」
「ならば」
「けど、どっちかじゃ駄目だってばよ。それじゃ偏っちまう。第三者交えて、こんな事が二度と起きねーようにしたいんだ」
ナルトの言葉に込められた想いは強かった。
ヤマトは賛同し兼ねる様子だったが、後ろで聞いていたサイが口を挟んだ。
「それは改めて後日という事で。それよりも先に行くべき場所がある」
サイは草の忍を見据えたまま、ナルトに示した。
続く