三忍三様・恋模様
「楽しそうな話だね」
目の前に立った人の顔を見てナルトはパッと顔を明るくし、サクラは意外な登場に驚いたあと感慨深い表情を浮かべた。
「サイ、久し振りねー」
「おーっスッゲー懐かしいってばよ~元気だったってば?」
「勿論。それより今の話だけど」
ナルトが最後に彼を見たのは隣国の戦況が思わしくなく、その為に木ノ葉の忍が駆り出された頃だ。暗部所属のサイも戦地に赴く為独特の面と忍服を纏って里の門前に立った。本人は全く意に介さないだろうが、他者から見れば切ないその後姿をナルトは見たのだ。だがこうして無事二人の前に姿を現したという事はその戦争も決着がついたのだろう。ナルトは再び会えた事を嬉しく思う。
「ナルトは不満なんだ」
「不満も何も相手は男だってばよ!」
「それは今更」
「よねえ?」
サイとサクラは顔を見合わせて首を傾げる。サイはともかく、彼よりずっと常識者であるサクラも恋愛の事となれば別問題らしい。
「だーっもう!オレにその気はないんだっての!」
「ああ、つまりナルトはこう言いたいんだ。自分は何とも思ってないのに周りが勝手に騒ぐんだ、と」
「ナルト!それって凄い贅沢よ」
サクラは腕を組んで綱手仕込みの睨みを利かせる。ここ数年で彼女は本当に凄みを増したと思う。
「チンポの分際で我が儘だね」
「ぐあっなんだよ二人してっ」
いーってば!そうやって二人で盛り上がって好き勝手言ってろってば!
「あっナルトー」
「怒っちゃったみたいだね」
二人はまた顔を見合わせて小さく吹き出した。
夜は昼間に比べて幾らか過ごしやすいと言っても夏は夏。真夏夜に変わりは無い。中々眠りにつけず独りきりの散歩と洒落込み家を出たのは間違いだった。ここは静か過ぎる。
ナルトは額に滲む汗を袖口で拭いながら煌々と輝く月を背にして寂しい夜道を歩く。友人か誰か、人の口から例の女の子がまたサスケと同じ班だと聞いた。確か任務は今日。
「あちいってば」
べったり纏わり付く暑さに参って舌を出したナルトは無駄に独り言を呟き、ベストの前を開けアンダーの胸元を掴んで数回扇ぎ空気を取り込んで空を見上げなんとなく立ち止まった。側の壁を這う日陰の葛、別名「狐の襷」が蔓を伸ばしてナルトの顔を覗き込む。
「ビビッてる訳じゃねえってば。ビビッてんじゃ・・・ただ恋愛は懲り懲りなんだってばよ」
ナルトは葛の先を摘んでプチリと手折り軽く振った後ヒョイと道端に捨てた。
なんつって・・・・怖がってんの誤魔化してるだけだ。
「オレってば負けてるみてぇ」
急激に自分が惨めで情けなくなりその場に蹲って両肩を強く抱いた。
寂しいなんて、久し振りに思った。
仲間が寝静まった夜、見張り番の中忍には警戒を兼ねた散歩に出ると行って誤魔化し、人が来ない茂みに入ったカカシは行為に耽る不謹慎さに自嘲する。
皆再び駆ける明日に備えて体力温存しているというのに己は何をしているのか。
「くくくっ」
「なに・・・笑ってんの」
「ウルサイ。それよりその声も「らしく」してよ」
カカシは組み敷いている相手に口付けながらサラサラ流れる金髪に指を絡ませて、もう一方の空いている手でまだ傷が少ない綺麗な胸を撫でて下肢に触れた。彼は服を着込んでいるが相手は半裸状態だ。性欲処理では局部の開放で十分だった。
「あー、そうか・・・クスクス。本当のナルトはこんな事させてくれないもんねえ?」
「煩いって言ってるだろ」
図星を指されて不機嫌になったカカシはむしゃぶりついた口内を厚い肉で蹂躙し我武者羅に行為を進めた。
「トッ・・・ナルト、ナルト」
「っう・・・手、加減しろっ・・・て」
「無理だって分かってんだろ・・・ンッ、っく、マジ、キツ・・・・・」
「最近ここ使ってなかったからな・・・・て、オイ!中に出すなよ」
「分かってるって・・・なあ、カカシって呼んでよ」
「?」
「ナルトの声で呼んで」
「カカシ」
「うん」
「カカシ」
「ナルト」
「カカシ」
二人は呼び合いながら体をまさぐり益々情を深めていく。絡まる口端から零れる滴と足の間で厭らしい音を立てる粘液が月光に妖しく光った。
「カカシ」
「っは・・・ナルトッ・・・・ナルト」
「うわっちょ、待てって。まだキツッ・・・・ぐっ・・・あっ!アアアアッ」
「ナルト、ナルト、ナルト、ナルトォ」
狂ったように愛し子の名を連呼し、急速に意識が後方に遠のき白くなっていく頭の中で女の声が響く。
『カカシさんの好きなひとってどんな方なの?』
「あっあっあっ・・・・ん、カカシ、さん」
「んー、なあに?」
一本の蝋燭に火を灯しただけの仄暗い部屋で男に抱かれながら女が囁く。カカシはその耳に唇を寄せて遊郭らしくこの場限りの嘘の愛を紡ぐ。
「カカシさんの好きな子って、んっ・・・・どんな人なの?」
「キョーミ?」
途端、男の動きが激しくなり女は長い髪を左右に振って色香溢れる白い裸体で乱れた。
「アッ、んっんっ。だっていつも・・・愛おしそうにお話になるから。あっあん、あああっ」
「・・・・すごく、可愛い子だよ」
「アッアッ」
「時々ね・・・酷く、物凄く滅茶苦茶に壊してやりたくなるんだ」
「・・・カカシさんたら。ふふっ怖い事を。よっぽどその子がお気に入りなのね・・・あっああっ」
「好きなんてものじゃない。愛してるよ」
「あぁん」
「愛してるんだ」
ナルトが誰かと付き合っている間、何とも思わなかった訳ではない。カカシは自分以外の人間と歩いている姿を見る度忌々しく、歯痒さと激しい嫉妬を感じていた。
「ナルト・・・・ッ」
この夜中に聞いている者はなかろうと結界を張らなかった事を今更ながら後悔する。そろそろあの見張り番が戻らない上忍を怪訝に思ってこちらへ来るかもしれない。
「っく、ぃ・・・・っ」
イクと思った瞬間咄嗟に手で口を塞ぎそれを噛んで堪えたが、制御しきれなかった呻きが口の端から漏れた。
「くそっ我慢できねえ・・・イクッ」
彼は剛直を柔らかい肉砲から抜いて左手で擦り上げ性欲処理の為に生成されたタンパク質を吐き出した。
「く、くくっ」
男はテラテラと精液で濡れた左手を見て苦笑する。本当に自分は何をしているのかと笑いながら思う。
流石に独り遊びが過ぎた。そう思ったカカシは用意していた水筒の蓋を開けて汚れた左手にかけ、手拭いで手早く拭くと項垂れている分身をズボンに仕舞って立ち上がった。
「ナルト」
呼び掛けても答える筈が無い。心の底から欲している彼はここにはいないのだから。
ボフン。
背後で小さな破裂音がしてそれまでカカシを慰めていたものが消えた。振り返らずとも分かる無くなってしまった金の面影を追う事はせずに彼は静かに瞼を閉じる。
遠くから朝の光がカカシを責める様に強く輝き出していた。
続く