しあわせのとき
「とうっ!」
元気な掛け声と共に小さな掌から手裏剣が放たれ、幾つかは目標の丸太に突き刺さり幾つかは地面に落ちた。それでも熱心に修行をするナルトの表情は実に満足気だ。
「へへへっオレってば巧くなってるってばよ」
自分の両手を見て技術向上を実感したナルトは溢れ出す純粋な喜びに、額の汗を拭って軽快に飛び跳ねた。素直に歓喜するその姿は金の子狐のようで愛らしい。
しかしそんな子供を草の陰から怪しい一つ目がじいっと見つめていた。茂った緑の隙間、丁度綺麗に円く開いた穴から覗くそれは少しも見逃すまいと機敏にオレンジ色の動きを捉えている。
「ほ~んと、後を尾けて来てよかったねえ。こーんな姿が見れた上に、独りとはこれまた好都合、好都合」
一つ目が喋った!?いやいや、これは片目しか曝していない男の呟きなのだ。
「ムフッ、ハアハア・・・可愛いなあ」
この小さなお子様の姿を見て鼻息を荒くしている男、上忍(26歳)は教師でありながら十四も年下の生徒に懸想しているのである。
「よおーし、次っ」
そうと気付かないナルトは独自の修行メニューをこなそうと気合を入れ直す。けれどその時何の気配も感じられなかった彼の背後で草木が揺れた。
ガサガサガサッ。
「うおっなんだなんだ!?」
吃驚して飛び退いたが現れたのはよく知る上忍。ビックリさせんなってば・・・と息を吐こうとすれば、なんとその相手が襲って来た。
「カカシせんせい!」
荒い息、据わった瞳、伸ばされる長い腕。ナルトは直感的に身の危険を感じて逃げたが呆気なくカカシの腕に囚われてしまった。
「うあっ」
押し付けられた地面のぷうんと香る土の匂い、仰いだ先は気持ちいい位澄んだ青空だった。
「ギャー!何すんだってば~!」
思わず気を逸らしたナルトはカカシの動きに遅れを取った。気付けばジャケットのファスナーは下ろされ、きっちり着込んでいた下着が見え隠れして、ズボンの前に大人の手が忍び込んでいる。
「ムフフ、ナルトのおちんちん可愛い~ね」
「そこっ!触んな、握るな、離せってばっ」
「ん~嫌がる顔もか~わい~!ネ、後で一楽奢ってあげるからサ、センセイとあっちで気持ちイイことしよ?」
にやけた男は草叢を指してナルトを引き摺り込もうとする。するとナルトは顔を蒼白にして首を激しく左右に振った。
「さあ、行こうねえ」
もう駄目だ。ナルトが諦め掛けた時伸し掛かるカカシの背後で黒い物体が動いた。
「何やってんだてめえ!ウスラトンカチッ!」
「ぐあっ!・・・・ってて何すんのサスケー」
背後から襲撃されたカカシは両手で頭を押さえてもんどり打つ。
「はえ?サスケ?助かったってばよー!」
黒い影はサスケだったのだ。ナルトは涙目でサスケを見返し、せっかくの秘め事を邪魔された腹立たしさに舌打ちする上忍から逃れた。
「フンッ自業自得だ!」
変態発言を繰り返す男の脳天に痛恨の一撃、踵落としを見舞ったサスケはナルトの手を取って引き寄せる。
「怪しい奴がいるかと思えば・・・・キサマ、教師が汚い手使ってんじゃねえ!行くぞ、ウスラトンカチ」
「サスケ?」
ぐいぐい引っ張られながら何処に行くのかと問えば黒髪の少年は短く「家だ」と答える。
「家って・・・」
「ウスラトンカチ、お前ん家じゃまた奴が来るかもしれねーだろ。今日は俺の所で匿ってやる」
「サスケ・・・・」
「な、何だよ」
じいっと見つめていると何故かサスケは頬を紅くして繋いでいる手を離そうとする。しかしナルトはその手をギュッと握り返して、ヘヘッと笑う。
「お前ってば、いい奴だな。サンキューッ」
「ふん」
サスケは照れ隠しに顔を逸らして追って来る気配が無い上忍を振り返った。すると何処へ行ったのかカカシは忽然と姿を消していた。
「上がれよ」
「うおーすっげー!サスケんちでっかいってばよー!」
サスケが案内した家は里でもかなりの広さを誇る屋敷だった。目の前に来るまでナルトはまさかこの家じゃないだろうなと思っていたが、どうやらこの大きな家にサスケは独りで住んでいるらしい。ネジとヒナタの家も大きいが、あそこは独りでいる訳じゃない。そう考えてナルトは物悲しくなってしまった。
オレの部屋は狭いし汚いけど丁度いい。だってこんな所じゃ寂しいってばよ。
「お邪魔しますってばよ」
広い玄関を上がるとしんと静まり返った部屋が二人を迎えた。
コイツ寂しくないのかな?
心の内で問いかけながらナルトはサスケの気持ちに気付いていた。
この世界で、里で、たった独りで寂しくない筈が無い。家族がいない悲しさはよく分かっている。だからこそ大事な仲間を得た今はとても幸せだと思うのだ。
「何してんだ、こっちだドベ」
廊下の真ん中で立ち止まってぼうっとしているナルトをサスケが意地悪く笑って手招く。
「んだと~サスケーッ」
掴み掛かるナルトを躱してサスケは奥の部屋へと消える。うちはを描いた背が障子の向こう側に消える瞬間、振り向いた表情が今まで見た事が無い位とても楽しそうで、追い掛けるナルトも思わず笑ってしまった。
それから二人はとても近い距離に身を置いて巻物を読んだり、最近やった任務の事を話した。それは広い部屋に反比例する行動だったけれど、二人には幸せな時間だった。
「サスケは最高のライバルだってばよ」
畳の上に寝転んだナルトは窓から見える夜空の星を眺める。サスケは喉が渇いただろうと言って、ジュースを取りに台所に行っている。
「あの星なんて名前かなあ」
一際輝いている星を指差してう~んと唸る。暫くそうしていると何かが窓を叩く音が聞こえてきた。
「んー?・・・カカシ先生!」
担当上忍の顔が逆様に眼に映り慌てて飛び起き窓を開ける。
「やっ!」
「どうしたってば!?先生よくオレがここにいるって分かったじゃん」
「ま、愛しいナルトの事だし?」
「その割には追い掛けてくんの遅いってばよ」
「はは・・・・まあ、なんだ、任務が入っちゃってたからねえ」
「ふ~ん」
カカシは人の家だというのに平然と窓から侵入してナルトの前に立った。
「サスケとすっげえいっぱい話して楽しかったってばよ」
「そう」
カカシのポーカーフェイス、けれどこういう時彼が不機嫌になっている事をナルトは知っている。
「でも、一番はやっぱりカカシせんせーだってばよーーーー!」
ナルトはぴょんっとカカシに抱き付いてベストに頭をぐりぐりと押し付けた。
「あらら」
目尻を下げたカカシは両腕をナルトの脇の下から回して抱き上げ部屋を出た。
「じゃあ、オレの家に行こうかねえ」
「うんっ」
ナルトもカカシを抱き締め返して大きく頷く。
跳躍する大人の影とそれにしがみ付く子供の影が夜の空に舞った。
END
緋色さま44444キリリクお待たせいたしました~。
「1部ナルトのカカナルで、ナルトが可愛くて、センセーとらぶらぶしぃお話」という事でしたのに、なんでしょうサスナルチックなこれは・・・・(汗)平伏。謝っても謝りきれません。こんな話ですがフリーとさせて頂きますので、煮るなり焼くなりして下さいませ。
ホント・・・散々お待たせした上にリクエストに応え切れてないっちゅう。
なので「おまけ」なるものも用意しました。溜飲が下がるかどうか分かりませんが、こちらもフリーですので良かったらお持ち帰りして下さい。
緋色さまキリ番リクエストありがとうございました!!